上 下
351 / 392
アルファルド編

アルファルド視点 8(アウリガル帰還まで)

しおりを挟む
'

 サークル活動に参加する一方、冒険者として働く機会が減り、また支払いが滞ると金貸しがうるさく催促に来た。
 
 本来なら、サークルなど無視して、冒険者活動をするべきなのだが…、何故か俺はサークル活動を優先していた。

「アルファルド、悪いっ。もう1回薬草の準備をしてくれるか?」

 こいつは飽きもせず、ずっとポーションを作り続けた。
 薬草を取っては作り、作ってはまた取り……。
 サークル活動の間、ずっとそれを繰り返している。

 ここまで必死に、ポーション作りをしている理由はわからないが、アトリクスの手伝いをする事は嫌じゃなかった。


 ──最近の俺は、おかしい…。


 こうして、アトリクスの近くにいると、なぜか無性に触れたくなる。
 こいつの笑顔を見ると…、胸の奥に、ひどい渇きを覚える。

 俺は一体、どうしてしまったんだ…?

 郊外実技演習の時も、アトリクスの活躍と言葉に、思わず後ろから抱きついてしまった。

 だがこいつも、俺が触れても嫌な顔一つしない。
 それどころか、嬉しそうに頬を染めている。

 この前、突然公爵家に現れた時も、俺をベッドへ押し倒していた。

 アトリクスが俺に触れても不快感はなく、寧ろ…、もっと…して欲しいとさえ思った。

 こいつは、男で…俺を友達だと言っている…。
 
 アトリクスが俺を見る時の目は、何と言うか…好意的だ。いや、違うな…他の表現が難しい。
 まるで取り憑かれたような…、憧れの類とは違う…また別のもの。

 熱が籠もったような…熱い眼差しを見ていると、また俺の心の奥が渇くような…、歯痒い…もどかしさを感じる。
 
 だが今は、この生温い感情を、不快感だとは感じなかった。

 これが何かわからないが、今はこいつの側にいるだけで、満足している。

 
 

 俺としては、思っていた学園生活とは、全く違う日々を送る中。

 ある日突然、アトリクスが講義に現れなくなった。

 1日、2日なら用事か具合が悪いのかと思ったが、4日、5日経っても姿を現さなかった。

 アトリクスといつも一緒にいる奴…オクタンスに問い詰めた。

「…おい、アトリクスはどうしたっ」

『えっ!あ、んと、んとっ…アート、君は…んと、エルナト教授の、手伝いに、行ってますっ…』

 エルナト、教授の手伝い?
 何故、平民のあいつが…?

 そういえば以前も、公爵家に泊まる時に…、その教授に怒られた話をしていた。

 講義も、郊外実技演習も…、それが当たり前だったはずだが…。
 アトリクスが居ないと、全てが上手く行かず…、どこか物足りない。

 攻撃も守りも、何もかもが揃わない。
 あいつの指示がないと、チームが機能しなかった。
 
『ねぇオクタンス君…、アトリクス君はまだ、帰って来ないんですか?』
『んと…、うん。結構かかるって、言ってたから…』

 アトリクスはまだ帰らない。
 すでに7日が経っていた。

 サークル活動は休止中だったが、ギルドに行かず、書庫で時間を潰していた。

 何故か、イライラする…。
 この苛立ちは、なんだ?
 何故、居ないはずのあいつの姿を…、どこまでも探してしまうんだ…。

 本を読んでいても、集中できていない。内容が全く入って来なかった。

 本を閉じて、アカデミアを出ようと正門まで向かった。

「よっ、アルファルドっ!」
 
 久しぶりに見るアトリクスの姿に、驚きを隠せなかった。
 
「帰ってすぐお前に会えてすげぇ嬉しい!」

 動揺している事を悟られないように、出来るだけ平静を装った。

 質の良さそうな異国の服を着ていると、こいつが平民には見えない。

「その…良かったら、使ってくれ。…いらなきゃ、売ってくれていいし…」

 俺に、土産…。
 いない間も、俺の事を忘れていなかったのか…。

 顔を赤く染め、俯いたアトリクスを見て…、また俺の体が勝手に動いた。
 
 人気のない場所で、アトリクスを抱きしめて、初めて気づいた…。


(あぁ…。俺は…、こいつに、会いたかったのか……)

  
 訳の分からない苛立ちが、いつの間にか消えて無くなっている。

 アトリクスも俺の体にしがみついていて…、俺の心が、何か温かいもので満たされるのを感じた。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

逃げて、追われて、捕まって

あみにあ
恋愛
平民に生まれた私には、なぜか生まれる前の記憶があった。 この世界で王妃として生きてきた記憶。 過去の私は貴族社会の頂点に立ち、さながら悪役令嬢のような存在だった。 人を蹴落とし、気に食わない女を断罪し、今思えばひどい令嬢だったと思うわ。 だから今度は平民としての幸せをつかみたい、そう願っていたはずなのに、一体全体どうしてこんな事になってしまたのかしら……。 2020年1月5日より 番外編:続編随時アップ 2020年1月28日より 続編となります第二章スタートです。 **********お知らせ*********** 2020年 1月末 レジーナブックス 様より書籍化します。 それに伴い短編で掲載している以外の話をレンタルと致します。 ご理解ご了承の程、宜しくお願い致します。

ヤンチャな御曹司の恋愛事情

星野しずく
恋愛
桑原商事の次期社長である桑原俊介は元教育係で現在は秘書である佐竹優子と他人には言えない関係を続けていた。そんな未来のない関係を断ち切ろうとする優子だが、俊介は優子のことをどうしても諦められない。そんな折、優子のことを忘れられない元カレ伊波が海外から帰国する。禁断の恋の行方は果たして・・・。俊介は「好きな気持ちが止まらない」で岩崎和馬の同僚として登場。スピンオフのはずが、俊介のお話の方が長くなってしまいそうです。最後までお付き合いいただければ幸いです。

マイナー18禁乙女ゲームのヒロインになりました

東 万里央(あずま まりお)
恋愛
十六歳になったその日の朝、私は鏡の前で思い出した。この世界はなんちゃってルネサンス時代を舞台とした、18禁乙女ゲーム「愛欲のボルジア」だと言うことに……。私はそのヒロイン・ルクレツィアに転生していたのだ。 攻略対象のイケメンは五人。ヤンデレ鬼畜兄貴のチェーザレに男の娘のジョバンニ。フェロモン侍従のペドロに影の薄いアルフォンソ。大穴の変人両刀のレオナルド……。ハハッ、ロクなヤツがいやしねえ! こうなれば修道女ルートを目指してやる! そんな感じで涙目で爆走するルクレツィアたんのお話し。

転生先が羞恥心的な意味で地獄なんだけどっ!!

高福あさひ
恋愛
とある日、自分が乙女ゲームの世界に転生したことを知ってしまったユーフェミア。そこは前世でハマっていたとはいえ、実際に生きるのにはとんでもなく痛々しい設定がモリモリな世界で羞恥心的な意味で地獄だった!!そんな世界で羞恥心さえ我慢すればモブとして平穏無事に生活できると思っていたのだけれど…?※カクヨム様、ムーンライトノベルズ様でも公開しています。不定期更新です。タイトル回収はだいぶ後半になると思います。前半はただのシリアスです。

死にかけて全部思い出しました!!

家具付
恋愛
本編完結しました。時折気が向いたら外伝が現れます。 森の中で怪物に襲われたその時、あたし……バーティミウスは思い出した。自分の前世を。そして気づいた。この世界が、前世で最後にプレイした乙女ゲームの世界だという事に。 自分はどうやらその乙女ゲームの中で一番嫌われ役の、主人公の双子の妹だ。それも王道ルートをたどっている現在、自分がこのまま怪物に殺されてしまうのだ。そんなのは絶対に嫌だ、まだ生きていたい。敵わない怪物に啖呵を切ったその時、救いの手は差し伸べられた。でも彼は、髭のおっさん、イケメンな乙女ゲームの攻略対象じゃなかった……。 王道ルート……つまりトゥルーエンドを捻じ曲げてしまった、死ぬはずだった少女の奮闘記、幕開け! ……たぶん。

男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。

カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。 今年のメインイベントは受験、 あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。 だがそんな彼は飛行機が苦手だった。 電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?! あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな? 急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。 さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?! 変なレアスキルや神具、 八百万(やおよろず)の神の加護。 レアチート盛りだくさん?! 半ばあたりシリアス 後半ざまぁ。 訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前 お腹がすいた時に食べたい食べ物など 思いついた名前とかをもじり、 なんとか、名前決めてます。     *** お名前使用してもいいよ💕っていう 心優しい方、教えて下さい🥺 悪役には使わないようにします、たぶん。 ちょっとオネェだったり、 アレ…だったりする程度です😁 すでに、使用オッケーしてくださった心優しい 皆様ありがとうございます😘 読んでくださる方や応援してくださる全てに めっちゃ感謝を込めて💕 ありがとうございます💞

不器用(元)聖女は(元)オネエ騎士さまに溺愛されている

柳葉うら
恋愛
「聖女をクビにされたぁ?よしきた。アタシが養うわ」 「……はい?」 ある日いきなり、聖女をクビにされてしまったティナ。理由は、若くてかわいい新人聖女が現れたから。ちょうどいいから王都を飛び出して自由で気ままなセカンドライフを送ってやろうと意気込んでいたら、なぜか元護衛騎士(オネエ)のサディアスが追いかけて来た。 「俺……アタシ以外の男にそんな可愛い顔見せるの禁止!」 「ティナ、一人でどこに行っていた? 俺から離れたらお仕置きだ」 日に日にオネエじゃなくなってきたサディアス。いじっぱりで強がりで人に頼るのが苦手なティナを護って世話を焼いて独占し始める。そんな二人がくっつくまでのお話をほのぼのと描いていきます。 ※他サイトでも掲載しております

悪役令嬢はお断りです

あみにあ
恋愛
あの日、初めて王子を見た瞬間、私は全てを思い出した。 この世界が前世で大好きだった小説と類似している事実を————。 その小説は王子と侍女との切ない恋物語。 そして私はというと……小説に登場する悪役令嬢だった。 侍女に執拗な虐めを繰り返し、最後は断罪されてしまう哀れな令嬢。 このまま進めば断罪コースは確定。 寒い牢屋で孤独に過ごすなんて、そんなの嫌だ。 何とかしないと。 でもせっかく大好きだった小説のストーリー……王子から離れ見られないのは悲しい。 そう思い飛び出した言葉が、王子の護衛騎士へ志願することだった。 剣も持ったことのない温室育ちの令嬢が 女の騎士がいないこの世界で、初の女騎士になるべく奮闘していきます。 そんな小説の世界に転生した令嬢の恋物語。 ●表紙イラスト:San+様(Twitterアカウント@San_plus_) ●毎日21時更新(サクサク進みます) ●全四部構成:133話完結+おまけ(2021年4月2日 21時完結)  (第一章16話完結/第二章44話完結/第三章78話完結/第四章133話で完結)。

処理中です...