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アルファルド編

アルファルド視点 4(出会い)

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 この日は魔法アカデミアの授業初日。

 普段ならギルドに行く時間だが、アカデミアが始まるせいで、午後からでしかギルドへ行けなくなってしまった。
 冒険者ギルドは午後からだと、あまり良い依頼は残っていない。
 ギリッと歯軋りしながら、窮屈な制服に袖を通した。

『旦那様、行ってらっしゃいませ…』

『気をつけて行ってきなよっ!旦那様っ』

 公爵家の入口で見送る二人は、心配そうにいつまでも俺を見ていた。
 これから毎日、アカデミアまでの道を歩かなくてはならない。
 それに、あの胸くそ悪い貴族どもの顔を、毎日拝まなくてはならない。
 それを考えるだけで、憂鬱で気が重くなる。皇太子のレグルスとも、もう何年も話していない。
 あんな奴っ、顔も見たくないッ…。




 まだ授業が始まる前にアカデミアへ着いた。

 講堂の場所もよく分からず、彷徨っていると背後から視線を感じ、後ろを向いた。

「…嘘だろ……」

 そこにいたのは見た事もないヤツで、俺を驚いた顔で見ていた。
 アカデミアの制服を着ているからここの生徒なのだろう。

「…アルファルド?」

 いきなり名前を呼ばれ、なぜ俺を知っているのかという疑問に言葉が漏れた。

「──…誰だ…」
 
 遠く離れた場所にいたそいつは、ゆっくり俺の元へと近づいてきた。

「…俺は、アトリクスって言うんだ!同じ一年だ。これからよろしくな!」

 近づいてきたそいつは俺に向かって笑いかけ、何がしたいのかわからないが、手まで出してきた。

 俺の名を呼んだ…?人違いではないのか。だが、こんな奴と面識などない。

 しばらく考えた後、その場を何も言わずに去った。
 これで俺に話しかけてこないだろう…。
 そう思っていた。

 
「隣いいか?アルファルド」

 講義の初日でそいつはまた話しかけてきた。他の奴らはわざわざ席を空け、俺を避けるよう遠巻きにしていた。
 
 その日から、このよくわからない奴が、俺に話しかけて来るようになる。

「へぇ~、アルファルドってそういう本読むんだなっ。今度俺も借りてみるよ!」

「アルファルドっ、おはよ!」

「なぁ、アルファルド。サークルってまだ決めてないだろ?俺と一緒にやろうぜ!」

「ありがとな!アルファルド!」

「すっげぇ、嬉しい!」

「じゃあな、アルファルドっ。また明日っ!」

 どうやらこのよく喋る面倒くさい奴は、平民のようだ。平民だから俺の事を知りもしないで、いつも笑いながら近づいている。これで納得した。

 書庫で本を借りようと移動していたら、偶然またそいつと会った。

『おいっ、平民!目障りだっ、早く消えろ!』
『まだいるのか?さっさとやめろよ!』
『あの公爵に馬鹿みたいにつきまとって、どういうつもりだっ!』
『はんっ、コイツは平民だから知らないんだろ?薄汚い者同士、お似合いだっ』

 どこの貴族の子息どもかわからないが、こいつはこうして呼び出され、嫌がらせを受けていた。

『何とか言えよっ!』
『ビビって何も言えないんだろ?』
『ははっ、女みたいな顔して…、泣いてみろよっ』
 
 人気のない場所に呼び出し、一対多数で囲み、文句を言う。…反吐が出るっ…バカバカしい…。
 嫌な記憶が蘇り、俺のドス黒い感情がふつふつと沸き上がる。

「ホントっ、くだらねぇ…。小学生のイジメかよ」
 
『はっ?なに言ってるんだ?』
『こいつ…平民のくせに、俺達に反論してるのか?!』
『平民の分際で馬鹿にしやがってっ!!』
 
 キレた貴族の子息どもがそいつに飛びかかったが、なぜか殴られる事もなく、いつの間にか別の場所まで移動していた。

『なっ!?』
『なぜだ!?』
『え?…なんで、あんなとこにっ?!』

「お前ら…、俺に感謝しろよ?もし俺に手を出してたら、お前らが後で後悔するんだからな…」

『な、何を~!』
『おい、戻れっ!』
『くそっ!』

 こいつは見た目と違い、随分偉そうで図々しい奴だった。その後もこんな場面に、何度か遭遇した。
 
 高慢で憂さ晴らしをしたい貴族どもには、平民というだけで、恰好の餌じきだ。
 加えて、訳はわからないが俺につきまとっている。
 そのせいでこうした嫌がらせを受ける事に、こいつは気づいていない。

 だが、どれだけ無視し続けても…、なぜかこいつはやめない。
 
 こいつが勝手にやっているだけで、俺には関係ない…。


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