347 / 392
アルファルド編
アルファルド視点 4(出会い)
しおりを挟む
'
この日は魔法アカデミアの授業初日。
普段ならギルドに行く時間だが、アカデミアが始まるせいで、午後からでしかギルドへ行けなくなってしまった。
冒険者ギルドは午後からだと、あまり良い依頼は残っていない。
ギリッと歯軋りしながら、窮屈な制服に袖を通した。
『旦那様、行ってらっしゃいませ…』
『気をつけて行ってきなよっ!旦那様っ』
公爵家の入口で見送る二人は、心配そうにいつまでも俺を見ていた。
これから毎日、アカデミアまでの道を歩かなくてはならない。
それに、あの胸くそ悪い貴族どもの顔を、毎日拝まなくてはならない。
それを考えるだけで、憂鬱で気が重くなる。皇太子のレグルスとも、もう何年も話していない。
あんな奴っ、顔も見たくないッ…。
まだ授業が始まる前にアカデミアへ着いた。
講堂の場所もよく分からず、彷徨っていると背後から視線を感じ、後ろを向いた。
「…嘘だろ……」
そこにいたのは見た事もないヤツで、俺を驚いた顔で見ていた。
アカデミアの制服を着ているからここの生徒なのだろう。
「…アルファルド?」
いきなり名前を呼ばれ、なぜ俺を知っているのかという疑問に言葉が漏れた。
「──…誰だ…」
遠く離れた場所にいたそいつは、ゆっくり俺の元へと近づいてきた。
「…俺は、アトリクスって言うんだ!同じ一年だ。これからよろしくな!」
近づいてきたそいつは俺に向かって笑いかけ、何がしたいのかわからないが、手まで出してきた。
俺の名を呼んだ…?人違いではないのか。だが、こんな奴と面識などない。
しばらく考えた後、その場を何も言わずに去った。
これで俺に話しかけてこないだろう…。
そう思っていた。
「隣いいか?アルファルド」
講義の初日でそいつはまた話しかけてきた。他の奴らはわざわざ席を空け、俺を避けるよう遠巻きにしていた。
その日から、このよくわからない奴が、俺に話しかけて来るようになる。
「へぇ~、アルファルドってそういう本読むんだなっ。今度俺も借りてみるよ!」
「アルファルドっ、おはよ!」
「なぁ、アルファルド。サークルってまだ決めてないだろ?俺と一緒にやろうぜ!」
「ありがとな!アルファルド!」
「すっげぇ、嬉しい!」
「じゃあな、アルファルドっ。また明日っ!」
どうやらこのよく喋る面倒くさい奴は、平民のようだ。平民だから俺の事を知りもしないで、いつも笑いながら近づいている。これで納得した。
書庫で本を借りようと移動していたら、偶然またそいつと会った。
『おいっ、平民!目障りだっ、早く消えろ!』
『まだいるのか?さっさとやめろよ!』
『あの公爵に馬鹿みたいにつきまとって、どういうつもりだっ!』
『はんっ、コイツは平民だから知らないんだろ?薄汚い者同士、お似合いだっ』
どこの貴族の子息どもかわからないが、こいつはこうして呼び出され、嫌がらせを受けていた。
『何とか言えよっ!』
『ビビって何も言えないんだろ?』
『ははっ、女みたいな顔して…、泣いてみろよっ』
人気のない場所に呼び出し、一対多数で囲み、文句を言う。…反吐が出るっ…バカバカしい…。
嫌な記憶が蘇り、俺のドス黒い感情がふつふつと沸き上がる。
「ホントっ、くだらねぇ…。小学生のイジメかよ」
『はっ?なに言ってるんだ?』
『こいつ…平民のくせに、俺達に反論してるのか?!』
『平民の分際で馬鹿にしやがってっ!!』
キレた貴族の子息どもがそいつに飛びかかったが、なぜか殴られる事もなく、いつの間にか別の場所まで移動していた。
『なっ!?』
『なぜだ!?』
『え?…なんで、あんなとこにっ?!』
「お前ら…、俺に感謝しろよ?もし俺に手を出してたら、お前らが後で後悔するんだからな…」
『な、何を~!』
『おい、戻れっ!』
『くそっ!』
こいつは見た目と違い、随分偉そうで図々しい奴だった。その後もこんな場面に、何度か遭遇した。
高慢で憂さ晴らしをしたい貴族どもには、平民というだけで、恰好の餌じきだ。
加えて、訳はわからないが俺につきまとっている。
そのせいでこうした嫌がらせを受ける事に、こいつは気づいていない。
だが、どれだけ無視し続けても…、なぜかこいつはやめない。
こいつが勝手にやっているだけで、俺には関係ない…。
この日は魔法アカデミアの授業初日。
普段ならギルドに行く時間だが、アカデミアが始まるせいで、午後からでしかギルドへ行けなくなってしまった。
冒険者ギルドは午後からだと、あまり良い依頼は残っていない。
ギリッと歯軋りしながら、窮屈な制服に袖を通した。
『旦那様、行ってらっしゃいませ…』
『気をつけて行ってきなよっ!旦那様っ』
公爵家の入口で見送る二人は、心配そうにいつまでも俺を見ていた。
これから毎日、アカデミアまでの道を歩かなくてはならない。
それに、あの胸くそ悪い貴族どもの顔を、毎日拝まなくてはならない。
それを考えるだけで、憂鬱で気が重くなる。皇太子のレグルスとも、もう何年も話していない。
あんな奴っ、顔も見たくないッ…。
まだ授業が始まる前にアカデミアへ着いた。
講堂の場所もよく分からず、彷徨っていると背後から視線を感じ、後ろを向いた。
「…嘘だろ……」
そこにいたのは見た事もないヤツで、俺を驚いた顔で見ていた。
アカデミアの制服を着ているからここの生徒なのだろう。
「…アルファルド?」
いきなり名前を呼ばれ、なぜ俺を知っているのかという疑問に言葉が漏れた。
「──…誰だ…」
遠く離れた場所にいたそいつは、ゆっくり俺の元へと近づいてきた。
「…俺は、アトリクスって言うんだ!同じ一年だ。これからよろしくな!」
近づいてきたそいつは俺に向かって笑いかけ、何がしたいのかわからないが、手まで出してきた。
俺の名を呼んだ…?人違いではないのか。だが、こんな奴と面識などない。
しばらく考えた後、その場を何も言わずに去った。
これで俺に話しかけてこないだろう…。
そう思っていた。
「隣いいか?アルファルド」
講義の初日でそいつはまた話しかけてきた。他の奴らはわざわざ席を空け、俺を避けるよう遠巻きにしていた。
その日から、このよくわからない奴が、俺に話しかけて来るようになる。
「へぇ~、アルファルドってそういう本読むんだなっ。今度俺も借りてみるよ!」
「アルファルドっ、おはよ!」
「なぁ、アルファルド。サークルってまだ決めてないだろ?俺と一緒にやろうぜ!」
「ありがとな!アルファルド!」
「すっげぇ、嬉しい!」
「じゃあな、アルファルドっ。また明日っ!」
どうやらこのよく喋る面倒くさい奴は、平民のようだ。平民だから俺の事を知りもしないで、いつも笑いながら近づいている。これで納得した。
書庫で本を借りようと移動していたら、偶然またそいつと会った。
『おいっ、平民!目障りだっ、早く消えろ!』
『まだいるのか?さっさとやめろよ!』
『あの公爵に馬鹿みたいにつきまとって、どういうつもりだっ!』
『はんっ、コイツは平民だから知らないんだろ?薄汚い者同士、お似合いだっ』
どこの貴族の子息どもかわからないが、こいつはこうして呼び出され、嫌がらせを受けていた。
『何とか言えよっ!』
『ビビって何も言えないんだろ?』
『ははっ、女みたいな顔して…、泣いてみろよっ』
人気のない場所に呼び出し、一対多数で囲み、文句を言う。…反吐が出るっ…バカバカしい…。
嫌な記憶が蘇り、俺のドス黒い感情がふつふつと沸き上がる。
「ホントっ、くだらねぇ…。小学生のイジメかよ」
『はっ?なに言ってるんだ?』
『こいつ…平民のくせに、俺達に反論してるのか?!』
『平民の分際で馬鹿にしやがってっ!!』
キレた貴族の子息どもがそいつに飛びかかったが、なぜか殴られる事もなく、いつの間にか別の場所まで移動していた。
『なっ!?』
『なぜだ!?』
『え?…なんで、あんなとこにっ?!』
「お前ら…、俺に感謝しろよ?もし俺に手を出してたら、お前らが後で後悔するんだからな…」
『な、何を~!』
『おい、戻れっ!』
『くそっ!』
こいつは見た目と違い、随分偉そうで図々しい奴だった。その後もこんな場面に、何度か遭遇した。
高慢で憂さ晴らしをしたい貴族どもには、平民というだけで、恰好の餌じきだ。
加えて、訳はわからないが俺につきまとっている。
そのせいでこうした嫌がらせを受ける事に、こいつは気づいていない。
だが、どれだけ無視し続けても…、なぜかこいつはやめない。
こいつが勝手にやっているだけで、俺には関係ない…。
2
お気に入りに追加
323
あなたにおすすめの小説
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
淫らな蜜に狂わされ
歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。
全体的に性的表現・性行為あり。
他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。
全3話完結済みです。
悪役令嬢を拾ったら、可愛すぎたので妹として溺愛します!
平山和人
恋愛
転生者のクロエは諸国を巡りながら冒険者として自由気ままな一人旅を楽しんでいた。 そんなある日、クエストの途中で、トラブルに巻き込まれた一行を発見。助けに入ったクロエが目にしたのは――驚くほど美しい少女だった。
「わたくし、婚約破棄された上に、身に覚えのない罪で王都を追放されたのです」
その言葉に驚くクロエ。しかし、さらに驚いたのは、その少女が前世の記憶に見覚えのある存在だったこと。しかも、話してみるととても良い子で……?
「そういえば、私……前世でこんな妹が欲しかったって思ってたっけ」
美少女との出会いが、クロエの旅と人生を大きく変えることに!?
月の後宮~孤高の皇帝の寵姫~
真木
恋愛
新皇帝セルヴィウスが即位の日に閨に引きずり込んだのは、まだ十三歳の皇妹セシルだった。大好きだった兄皇帝の突然の行為に混乱し、心を閉ざすセシル。それから十年後、セシルの心が見えないまま、セルヴィウスはある決断をすることになるのだが……。
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。
婚約者から婚約破棄をされて喜んだのに、どうも様子がおかしい
棗
恋愛
婚約者には初恋の人がいる。
王太子リエトの婚約者ベルティーナ=アンナローロ公爵令嬢は、呼び出された先で婚約破棄を告げられた。婚約者の隣には、家族や婚約者が常に可愛いと口にする従妹がいて。次の婚約者は従妹になると。
待ちに待った婚約破棄を喜んでいると思われる訳にもいかず、冷静に、でも笑顔は忘れずに二人の幸せを願ってあっさりと従者と部屋を出た。
婚約破棄をされた件で父に勘当されるか、何処かの貴族の後妻にされるか待っていても一向に婚約破棄の話をされない。また、婚約破棄をしたのに何故か王太子から呼び出しの声が掛かる。
従者を連れてさっさと家を出たいべルティーナと従者のせいで拗らせまくったリエトの話。
※なろうさんにも公開しています。
※短編→長編に変更しました(2023.7.19)
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる