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アルファルド編

アルファルド視点 3(冒険者〜アカデミア入学)

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 それから僕は…、いや、俺は冒険者の道へと足を踏み入れた。
 剣も魔法も全く実戦経験のない俺は、毎日大なり小なり傷を作ってギルドから帰ってきた。

『坊っちゃん、いえ…旦那様!またこんなにお怪我を…』

『大丈夫かいっ?旦那様がここまでしなくてもいいんだよ?』

 ベッテルやリタは俺が帰ってくる度に心配していた。

『ほら、旦那様。またシリウス様が沢山食材を送ってくれたよ!お腹空いただろ?遠慮なく食べとくれよ』
『ほほっ、旦那様もずいぶんと背が伸びられましたね。これもシリウス様のおかげですな』

 この頃、毎日作る傷と共に、成長に伴う体の痛みにも悩まされていた。骨が軋むほどの苦痛は起き上がれないくらいで、一日中寝ている日もあった。

 体の痛みや、魔物と戦う日々。

 目まぐるしく過ぎる毎日だったが、ずっと屋敷に閉じ籠もっていたあの頃とは変わり、俺の中では充実していた。
 ただ…外に出るようになり、街でたまに見る手を繋いだ親子連れの姿。そんな時に少しだけ寂しさを感じる…。
 もう、今では遥か昔のように感じる。だが、確かに存在したんだ。
 俺は、この先も独りで生きて行く。
 リタやベッテルが先にいなくなっても…俺はずっとずっと、独りで、誰にも心を許す事も、生きている意味も目的もないまま…。
 これが俺に課せられた、逃れられない運命なんだ。


 




 
 それから月日も経ち、実力も上がりB級冒険者になった。
 周りの冒険者にチームを組まないかと、声を掛けられるようになる。
 だが俺は全て断った。シリウス卿もソロで冒険者を続けているからだ。
 あの人は常に冒険者のトップに立っていたが、スタンピード以降あまり姿を現さなくなった。
 シリウス卿に関する記事は全て集めた。
 英雄を讃えて作られたシリウス卿の仮面飾りも、ギルドで貰う報酬で少しずつ集めていった。
  
 そして、ドラコニス公爵家に一通の手紙が届く。

『だ…、旦那様……』
『これはっ、皇室からの……』
 
 手紙に押されていた皇室のマークに、ベッテルとリタが青ざめていた。
 内容は、サジタリア魔法アカデミアへ通えというものだ。俺は幼少期に魔法を発現していたから、皇室もここぞとばかりに要求してきた。
 多額の学費を理由に断ろうとしたが、わざわざ特待生という制度を使ってまで通えるよう嫌がらせをしてきた。

 幼稚な行為に反吐が出る。

『どこまで我々を苦しめれば気が済むのか…』
『ホントにさっ…卑劣な奴らだよっ!旦那様…、どうするんだい…?』

 二人は心配していたが、俺はアカデミアの試験を受けた。もちろん会場はアカデミアではなく、アカデミアの隅にある狭く薄汚い部屋だった。
 従兄弟のレグルスは特別室で試験を受けていると聞いた。
 思わず折りそうになったペンを机に置いた。

 試験も終わり、また冒険者として依頼をこなす日々を送っていた。
 そんな中、またシリウス卿の記事が出ていて、ギルド帰りの俺は、すぐさま記事を買ってドキドキしながら読んだ。

 スタンピードの英雄シリウス、行方不明事件を速やかに解決!
 行方不明事件は俺の耳にも入っていた。何者かに平民の魔法使いが狙われて攫われていた事件。
 冒険者には管轄外と思われる事件でもシリウス卿は、あっと言う間に解決してしまった。
 しかも平民の子供を救う為、わざわざその足でダンジョンにまで潜り、急いでハイポーションを入手してきたという。
 結果的には間に合わず、その子供は死んでしまったが…、彼の残したハイポーションでその妹が救われた。
 この事件でシリウス卿の平民達の支持が瞬く間に上昇した。
 俺は記事を読んで、その子供が羨ましく思った。

 …俺も、シリウス卿に、そこまで思われたい…。しかもこの子供は…死んだ事で、いつまでもシリウス卿の心に残れるんだ…。俺も同じように死ねば、シリウス卿は悲しんでくれるだろうか…。
 
 何も感じる事のない心に、少し波風がたつ。

 …でもあの人は、俺にも頻繁に食材を送ってくれて、俺の事も気にかけてくれている…。
 そう思う事で自分を納得させた。

 この記事を読んで俺も感動と尊敬をさらに募らせた。卿は本当に素晴らしい人だ。なぜ彼のような人間が呪われてしまったのか。俺の疑問は尽きなかった。

 
 それからまたしばらくしたある日。
 アカデミアの合格通知が届く。
 だが入学式の案内などは入っていない。もちろん寮生活の案内も来ていない。
 アカデミアの始まる日にちが書いてあるだけのものだった。

 ハッ…、こちらも寮生活などしたくないし、入学式になど出るつもりもないっ!

 制服も採寸もせずその場の大体の目安で測っていた。本来なら合格発表の場でするもの。
 それすら呼ばれはしなかった。
 別段、何も期待などしていない。
 
 俺はただ、居ないモノのように、ただそこにいればいいだけなんだ…。
 


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