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星たちの行方 16

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 その次の日も、またその次の日も…デモは鎮圧できないままで、またドラコニス公爵家に早馬の伝令が届いた。
 部屋に入ってきたアルファルドが、机に向かって事務仕事してた私のとこへずんずん向かってきてる。

「…ミラ、もう限界だぞ」

 アルファルドが机の前に来て、その上に持ってきた紙を差し出してきた。

「ふーん。…ま、いつも通りだね」

 私はまた面倒くさそうに置かれた紙をサッと見て、そのまま丸めてその辺にポイッと捨てた。

「…ミラっ。…何故だ?…どうして、動かないっ?」

「気にしなくていいよ、みんなの気が済むまでほっとこ?」

「…しかしこのままじゃ…暴徒と化した民間人と、皇室との衝突は避けられないぞっ!」

 アルファルドの方が焦った顔してて、机に座った私を咎めるように見てる。

「ハァ…、わかったよ。アルファルドは、それでいいの?」

「…?…俺が、どうした?」

「何で私がこうしてるか、わかんない?」

「…どういう事だ…」

「今、まさに制裁を加えてるんだよ。お前を裏切ってきた奴らに…」 

「──なっ…」

 私の言葉がアルファルドにどんな衝撃を与えたのかわからないけど、アルファルドは驚いたみたいに目を見開いてる。

「関係ない人達が傷付くのは嫌だけど…今までお前をずっと苦しめて、見下してきた奴らが許せないから、こうして何もしないで放置してる」
 
 机の前で私の言葉を黙ったまま聞いてるアルファルドを、座ったままじっと見てる。
 
「……」

「お前が望むなら…集まった群衆をさらに焚きつけて、反旗を翻してもいい。そうすれば今の皇室に大打撃を与えて、失墜させることも可能だ」

「ッ─!!」

「アルファルドは皇位継承権第三位。現皇帝と皇太子が失脚すれば、お前が次の皇帝の座に就く。そうなれば、今まで酷い事してきた奴らをお前自ら裁く事ができる」
 
 淡々と真面目な顔して喋ってる私を、アルファルドは驚いた顔しながら見てて、その後に立ち尽くしたまま俯いてた。

 シー…ンと部屋が静まり返って、でもアルファルドはまだ俯いたままで、その場から動く事もしなかった。

「……アルファルド?」

 すっかり黙り込んじゃったアルファルドを、座ったまま下から見上げた。

「……」

 アルファルドは拳を握ったまま黙って俯いてて、私も椅子から立ち上がってアルファルドに近づいた。 
 でもアルファルドは私が近づいても、しばらく立ったままそうしてた。

「……て、いい」

「ん…?」

 ぽそっと呟かれた言葉は聞き取れなかった。
 アルファルドの真ん前まで来て、様子を伺うけど微動だにしない。

「…お前が、そんな事…しなくていい…」

 ようやく顔上げて、アルファルドはどこか泣きそうな顔で私を抱き寄せた。

「っ…」

 抱きしめられたアルファルドから石鹸の香りがふわっとして、力を込められた腕が僅かに震えてた。

「…お前は、シリウス卿は…、英雄なんだ。…俺の、憧れの…、世界を救った英雄なんだ…。…そんなお前を、俺の復讐の道具に使うつもりは、ないっ…」

「……アル…ファルド…」

 アルファルドのすすり泣く声が私のすぐ耳元で聞こえてる。

「…もう、いいんだ…ミラ。…すまない…、お前のその気持ちだけで、俺は十分救われた…。…そんな事、しなくとも…お前さえ居てくれれば…俺はどこまでも幸せだ…」

 屈んで私をぎゅっと抱きしめたアルファルドが少し体を離して、顔だけ上げて2色のオッドアイを涙で揺しながら、すごく綺麗で穏やかに微笑んでる。
 その声も、どこか吹っ切れた口調で話してた。

「──本当…に…?」

「…あぁ」

 アルファルドが見せた輝くような笑顔に、感極まって私もポロッと涙が出てきた。

「…ミラっ、…どうした…?」

 ゲームでは、あんなに激しい怒りと憎悪を込めて世の中を恨んでたアルファルド。

 前皇帝に理不尽に嫌われて、
 みんなから無視されて、
 周りの人間には見限られて、
 食べる物もなくて、
 借金地獄で、
 好きになった子は自分を裏切った親友に取られて、
 いつもいつも独りで…。

 ただひたすら…、不幸なだけの人生。

 だからアルファルドは自分の命と引き換えに、恨んでたこの世の全てを消そうとした。

 それなのに──……。


「う…っ、くぅ…、ヒック……」

 私の方が涙が溢れちゃって、アルファルドが心配そうに見てる。

「…ミラ…」
 
 そんなアルファルドが、これまでの色んな事に妥協して…私を利用する事もしないで…、こんなにも晴れやかで清々しい顔に変わってくれた。

「やっぱ…お前って……っ、誰よりも、立派で…気高くて…高潔な人間だ…。お前以上の男なんて、この世の中に、いないっ」

 涙が止まらなくてボロボロ泣いてたら、アルファルドがまた抱き寄せてくれた。

「ふっ、うぅ…、お前が…好きだ。…アルファルドが、大好きっ…」

「…ありがとう、ミラ。俺も…誰よりも…お前を愛してる…」


 私もアルファルドに抱きついて、二人で気が済むまで泣いた。
 



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