冬来りなば、春遠からじ ~親友になった悪役公爵が俺(私)に求愛してくるけど、どうしたらいい…?

ウリ坊

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星たちの行方 9

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「今の俺は准伯爵じゃない。一介の冒険者だ…冒険者は実力主義で、何より自由を重んじる。だからここで何をしようと、俺の勝手だ…」

 デュランダルを片手に静かに語り出した私を囲むように、魔界王戦メンバー達も周りに集まって来てる。

「早まるのはやめろっ!!シリウスよっ、粗奴らは相応の罪に問わせるッ!!だから今すぐ剣を引けぇッ!!」
「陛下の仰る通りだっ、シリウス卿っ!ここで殺戮を起こしても、貴殿が不利になるだけだぞッ!!」
「シリウス卿っ!やるならこの私と決闘致しましょうっ!!」

 ポルックス公爵とアンキロス公爵の言い分は分かるけど、アケルナー父のは何なんだろう…。とりあえず無視。

「き、き、き、貴様ぁっ!た、たかだか冒険者が我らのような高位貴族を切れば、きょ、極刑じゃ済まされんのだぞっ!!!」

 腰抜かして這いつくばってたあのタヌキ候爵が、私の殺気に当てられてもまだ虚勢張ってる。
 私をさらに怒らせた責任は取ってもらうからっ!!

 真っ二つになったテーブルの間から、這いつくばってるタヌキ候爵の前にツカツカと歩み寄った。
 デュランダルを首元に当てて、凍えるような冷たい視線と普通の人間には耐えられないほどの殺気を浴びせた。

「ひゃうッ…!!」

「ハッ…。お前は馬鹿か?これから死ぬヤツに、そんなの関係ないだろ?」

 タヌキ候爵は床を汚して失禁しちゃってる。もう面子も威厳もあったもんじゃないよね。

「それに…ここで俺に反発する全員を始末しても、誰も俺を裁く事は出来ないっ」

「ヒッ…ぐ……」

 同じようにギャーギャー言って這いつくばってる他の高位貴族にも、牽制するように視線をゆっくりと移した。

「あ、ああ、あ…ひっ」
「誰かっ…こ、コイツをっ…」
「か、か、金なら好きなだけ、や、やるっ!!ほ、宝石も、ど、ドレスもっ!!」

 恐怖に支配された人間て、大体皆んな一緒だよね。プライドが高かったり、苦労してこなかった奴ほど取り乱す姿が酷くて醜い。

「そんなものに興味はない。欲しいものは自分で手に入れる主義だ」

 何言われても引き下がるつもりはないね。
 この私を自分達の欲望のはけ口にして、上手いこと操ろうとするなんてっ!
 本当に許せないっ!!

「シリウスっ!!引けッ、引けと言うのがわからんのかぁぁ!!」
「卿よっ!いい加減にするんだッ!!」
「アトリクスッ!これ以上はやめてくれッ!」

 私がタヌキ候爵の首元に当ててたデュランダルを振り上げ出したら、ポルックス公爵とアンキロス公爵とレグルス様が焦って声を張り上げてる。

「誰かぁッ!!シリウスを止めろぉぉっ!!」
「で、ですがっ…あのシリウス准伯爵様を我らが止める事などっ…」
「しかしっ、命を助けていただいたお方に、刃を向けるなど…できませんっ…!」
「…えぇいっ!!くそっ…!このままではッ!!」

 もうちょっと色々好き勝手言われてブチ切れてる私の耳には何も聞こえない。

 周りで立ち上がって見てる面々も、駆け付けてきた騎士達も、私の放ってる殺気と覇気に圧されて近づく事も出来ないで戸惑ってる。

 勢いよく振り下ろされる剣。

 周りで私を止める声がそこらじゅうから聞こえてる。

 でも、私にはそんなの関係なくてやめることはしなかった。

 みんなが息を呑んでタヌキ候爵が絶叫する中、当たる直前で静かに声が響いた。
 

「…やめろ、アトリクス…」


 瞬間、私は手をピタッと止めた。

 周りの人間達は何が起こったのか訳も分からずに呆然としてる。

「…来い」

 アルファルドが片手を伸ばして私を呼んでる。すぐに放ってた殺気も覇気も全部解いた。

 静まり返ってた会議場内に、アルファルドの心地良い低音が響いてる。

「うんっ」

 元気良く返事を返して、即座にデュランダルを鞘に収めてから、長テーブルの反対側にいたアルファルドのすぐ側まで駆け寄った。

「…お前の怒りはわかるが…、俺の許可なく暴れるな」

「でも、アイツらがッ!」

 訴えるようにアルファルド見て言ったけど、首輪の中央に付いてた輪っかを長い指に引っ掛けてグッと引き寄せられてから、迫ってきたオッドアイで睨まれた。

「…アトリクスッ」

「う…、ごめんなさい…」

 間近で強めに言われて、シュンとしながら謝ってアルファルドを上目遣いで見た。

「…分かればいい」

 いつも通り私の頬に片手を添えて、目を細めて褒めるように撫でてくれる。
 私も嬉しくなって、笑顔でアルファルドの腰に腕を回して抱きついた。

 

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