冬来りなば、春遠からじ ~親友になった悪役公爵が俺(私)に求愛してくるけど、どうしたらいい…?

ウリ坊

文字の大きさ
上 下
317 / 392

始動 4

しおりを挟む


 ムーリフからドラコニス公爵邸まで戻って来た途中、公爵家の前の人集りを確認したけど、夕暮れなのにまだ結構人がいた。

 半分くらいには減ったみたいだけど、シリウスを心配で見に来る人とかお礼を言いたい人、後はわざわざ食べ物とか御礼の品とかプレゼント持って来る人もかなりいるらしくて…。
 皆んなだって怪我とかしたり、家が倒壊したりして自分達の生活でいっぱいいっぱいなのに、私に助けられたからって集まって来てくれてるのが嬉しくて感動しちゃったよ。
 今はまだ公に外には出れないけど、もう少ししたら自由になれるから、その時は私もちゃんとお礼がしたいな。

 問前の人集りを横目に、木の枝から公爵邸の部屋のベランダに飛び移って、自分の部屋まで戻ってきた。

 タウリと話してたらすっかり遅くなっちゃったよ。
 アルファルドが帰って来る前に急いで部屋に戻らないと。

 フードを脱いでベランダの窓から部屋に入ろうとしてハッとする。
 中から人の気配がする。原則使用人は私の部屋に立ち入り禁止だから、考えられるとしたら……。

 そ~っと窓の外から部屋の中を覗くと、めちゃくちゃ不機嫌そうなアルファルドが机の側で腕組んで待ち構えてた。

 うわぁ…、これはかなりキテる感じだね…。

 イヤぁな汗が背中を伝っていくけど、このままベランダにいる訳にもいかないし、とりあえず素知らぬ顔して窓から入った。

「あれ?アルファルド!もう…、帰って来てたの…?」

 わざとらしく演技するけど、アルファルドは腕組んだまま動かなくて、神秘的なオッドアイを釣り上げて鋭く私を見てる。

「…っ」

 こ、怖い…。
 これは相当怒ってる?

「…ミラ…。…お前、どこへ行ってた…」

 ゆっくりアルファルドの元へ近づく私をまだ不機嫌そうに鋭い瞳を向けてて、声もいつもよりもっと低くて…やっぱり怒ってる。
 
 腕組んでるアルファルドの手前で止まって、おずおずと上を見上げた。

「え…っと、ちょっと…、所用で…」

 誤魔化すつもりもなかったけど、目線逸してしどろもどろに答えてたらアルファルドが組んでた腕外して、私の顎を掴んで強引に自分の方へ向けた。

「…ぁ!」

「…どこへ行ってたんだッ!……答えろッ、ミラっ!」

 背を屈めたアルファルドのオッドアイが間近に迫って、そのまま射竦められて体に緊張が走った。
 
「た、タウリに会いに…ムーリフまで行ってた、だけだよ。私を心配してるから、顔見せに行って報告して来たの…」

 疚しい事なんて一つもないのに、アルファルドは私が他の男…いや、他の人間と会う事を極端に嫌がってる。

「…タウリ…、冒険者のタウリか…」

 アルファルドも冒険者だったからタウリの事は知ってる。タウリって冒険者の間では結構有名で名も通ってる。しかも、シリウスと一緒に行動してたから、アルファルドもその辺りは分かってる筈なんだよ。

「うん、そうだよ。全然連絡出来なかったから…、報告ついでにちょっと話してきただけッ」

「……」

 訴えるように眉根を下げてアルファルドに説明するのに、アルファルドの機嫌はまだ直らない。

 え?待って?タウリだよ??
 厳つい顔した、あのタウリなんだよぉ?!アルファルドはあんなのに嫉妬してるの!??

 私としてはそう思うんだけど、アルファルドは納得出来ないみたいで表情は変わらなかった。

「黙って出掛けてごめんなさい。アルファルドが心配すると思って、すぐ帰ってくるつもりだったんだけど…」
 
「……」

 やっぱりアルファルドは無言のままだった。
 うぅ…、どうしよう。このままじゃアルファルドの束縛が強すぎて、どこへも出掛けられないよ…。
 タウリと会う事すら嫌がられるなんて、どうしたもんかなぁ。
 
「ごめん、アルファルド。何でもするから…許して?」

 アルファルドの頬をそっと両手で挟んで、チュッと軽く薄い唇にキスした。

「……匂い」

 唇離したらアルファルドが急にポツリと呟いてる。

「へ…?」
「…お前の体から…僅かだが、違う匂いがする…」
「あ?あぁ…、タウリの匂いだと思うよ?タウリに抱きついた時に…」

 あっ…、と思った時には遅かった。マズい…口が滑ってとんでもない事言っちゃった…。

「…ッ、抱きついた、だとッ!」

 ブワっとアルファルドの体から明らかな殺気とドス黒い闇属性の魔力が漏れ出して、私はかなり焦って落ち着かせようとアルファルドに抱きついた。

「や、あっ、違うんだっ!再会を喜んだだけで、家族の抱擁とかと一緒だからさっ!」

 あぁ、もうっ!私のバカぁーー!!
 どうして火に油注ぐようなことばっか言っちゃうんだよッ!!
 言えば言うほど、言い訳にしか聞こえなくて、どんどん収拾がつかなくなってく!

「あっ!ちょっと…!?」

 アルファルドが私を抱え上げて、すたすたベッドまで速足で歩いてく。
 その勢いのままベッドにドサッと降ろされた。

 仰向けで重なって体重かけてきて…、間近に迫ってるアルファルドの美貌が怖い。

「っ…、あ、アル…ファルド…」

「…ミラ、俺は…お前が思っている以上に、嫉妬深いんだ…」

 私の上に乗ってるアルファルドの背後からまだドス黒いオーラが出てて、声も地を這うみたいに低くて…私は、アルファルドを見つめながら、ゴクッと唾を飲み込んだ。

 アルファルドはいったん起き上がってベッドの側にある、あの鎖を持ち出した。

「…な…に?」

 アルファルドが手に持ってたのは何度か使ってる手枷と、見た事もない真新しい首輪が握られてた。

「え…?あれ?何か…増えてるけど…?」
 
 その首輪は皮で出来てるのか、宝石みたいなのも付いてて綺麗なんだけど…でも、イヤな予感しかしない。

 そうやって言ってる間に、アルファルドは黙々と慣れた手付きで私の手首に手枷を付けて、ついでに首輪も装着してる。
 アルファルドが首元に皮のベルトみたいな首輪を通してて、長くて綺麗な指先が首筋に触れるたびにゾクッとしちゃう。

「ん…」

 絶妙な加減で締められた首輪を見下ろして、不機嫌そうだったアルファルドの表情が少し和らいだ。

「…あぁ、いいな…」

 拘束された私を見下ろして、アルファルドは何だか満足そうに笑って呟いてる。

「え…っと、アルファルド?これって」

「…お前がこうして繋がれているの見ると、安心する…」

 ベッドに広がってる私の亜麻色の髪を一房掬って、自分の唇に当ててる。

「ッ…」

 アルファルドだって分かってるはず…。
 私をこんな風に拘束しても無駄だって事。
 それでもアルファルドは、こうして目に見えて私を縛り付けておかないと不安で仕方ないのかな…。

 もちろん私は逃げ出さないし、アルファルドの気の済むようにさせるつもりだよ。

「ねぇ、アルファルド。これだけ取って…」

 手枷をアルファルドの前に掲げると、ジャラっと音を出しながら目の前の鎖が揺れてた。
 とりあえず外して欲しい意志をみせてみる。

「…何故だっ」
「お前から逃げたりしないからっ!…私も、アルファルドにぎゅってしたい…」

 アルファルドを不安にさせちゃった分、思いっ切り抱きしめてあげたいのに。
 アルファルドは私を見たまま考えてる。

「……」
「だめ?」

 拘束されたまま眉根を下げてアルファルドを見上げながら懇願してみる。

「……っ、…駄目だっ」
「どうして?私もアルファルドに触りたいよっ」
「…これは戒めだ。…お前から触るのは許さないッ」

 アルファルドの心は頑なで、まだ怒ってるせいもあるのか、頷いてくれなかった。

「そんな…、ひどいよッ…アルファルド」

 うるうるしながらアルファルドに訴えるけど、アルファルドの決意は固いみたいで絆されてくれなかった。

「…嫌なら、今後は俺に黙って行動するな」
「もうしないよ!だから、お願いっ」
「…今日は…駄目だ」

 そう言ってアルファルドが私に覆い被さって乗っかりながら、綺麗な顔を近づけて耳に舌を這わせてく。
 
「ぁ…んッ」

「…ミラ。…お前は…俺のだ…」

 アルファルドの唇が耳に触れる度にビクビク身体が跳ねて、服の上から大きな手が私の身体を弄ってる。

「あ…ぁッ」
 
 執着系の束縛男って私としてはアウトなんだけど…。それもアルファルドだと、こうも嬉しく感じちゃうんだ。

「ん…、んんっ」

 アルファルドの唇が重なって、息もできないくらい激しく奪われて、濡れた音が部屋に響いてる。
 
 私も相当アルファルドに毒されてるなぁ。嫉妬される事も束縛されるのも、こんなに心地良く感じるなんて…私って意外とMっ気あるんだ。

 思いもよらなかった自分の性癖に驚きながら…悪い気なんて全くしないでアルファルドにされるがまま、甘くて苦い時間を堪能した。



 
しおりを挟む
感想 21

あなたにおすすめの小説

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

侍女から第2夫人、そして……

しゃーりん
恋愛
公爵家の2歳のお嬢様の侍女をしているルイーズは、酔って夢だと思い込んでお嬢様の父親であるガレントと関係を持ってしまう。 翌朝、現実だったと知った2人は親たちの話し合いの結果、ガレントの第2夫人になることに決まった。 ガレントの正妻セルフィが病弱でもう子供を望めないからだった。 一日で侍女から第2夫人になってしまったルイーズ。 正妻セルフィからは、娘を義母として可愛がり、夫を好きになってほしいと頼まれる。 セルフィの残り時間は少なく、ルイーズがやがて正妻になるというお話です。

子持ちの私は、夫に駆け落ちされました

月山 歩
恋愛
産まれたばかりの赤子を抱いた私は、砦に働きに行ったきり、帰って来ない夫を心配して、鍛錬場を訪れた。すると、夫の上司は夫が仕事中に駆け落ちしていなくなったことを教えてくれた。食べる物がなく、フラフラだった私は、その場で意識を失った。赤子を抱いた私を気の毒に思った公爵家でお世話になることに。

王様の恥かきっ娘

青の雀
恋愛
恥かきっ子とは、親が年老いてから子供ができること。 本当は、元気でおめでたいことだけど、照れ隠しで、その年齢まで夫婦の営みがあったことを物語り世間様に向けての恥をいう。 孫と同い年の王女殿下が生まれたことで巻き起こる騒動を書きます 物語は、卒業記念パーティで婚約者から婚約破棄されたところから始まります これもショートショートで書く予定です。

【完結】アラサー喪女が転生したら悪役令嬢だった件。断罪からはじまる悪役令嬢は、回避不能なヤンデレ様に溺愛を確約されても困ります!

美杉。祝、サレ妻コミカライズ化
恋愛
『ルド様……あなたが愛した人は私ですか? それともこの体のアーシエなのですか?』  そんな風に簡単に聞くことが出来たら、どれだけ良かっただろう。  目が覚めた瞬間、私は今置かれた現状に絶望した。  なにせ牢屋に繋がれた金髪縦ロールの令嬢になっていたのだから。  元々は社畜で喪女。挙句にオタクで、恋をすることもないままの死亡エンドだったようで、この世界に転生をしてきてしあったらしい。  ただまったく転生前のこの令嬢の記憶がなく、ただ状況から断罪シーンと私は推測した。  いきなり生き返って死亡エンドはないでしょう。さすがにこれは神様恨みますとばかりに、私はその場で断罪を行おうとする王太子ルドと対峙する。  なんとしても回避したい。そう思い行動をした私は、なぜか回避するどころか王太子であるルドとのヤンデレルートに突入してしまう。  このままヤンデレルートでの死亡エンドなんて絶対に嫌だ。なんとしても、ヤンデレルートを溺愛ルートへ移行させようと模索する。  悪役令嬢は誰なのか。私は誰なのか。  ルドの溺愛が加速するごとに、彼の愛する人が本当は誰なのかと、だんだん苦しくなっていく――

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

宮廷外交官の天才令嬢、王子に愛想をつかれて婚約破棄されたあげく、実家まで追放されてケダモノ男爵に読み書きを教えることになりました

悠木真帆
恋愛
子爵令嬢のシャルティナ・ルーリックは宮廷外交官として日々忙しくはたらく毎日。 クールな見た目と頭の回転の速さからついたあだ名は氷の令嬢。 婚約者である王子カイル・ドルトラードを長らくほったらかしてしまうほど仕事に没頭していた。 そんなある日の夜会でシャルティナは王子から婚約破棄を宣言されてしまう。 そしてそのとなりには見知らぬ令嬢が⋯⋯ 王子の婚約者ではなくなった途端、シャルティナは宮廷外交官の立場まで失い、見かねた父の強引な勧めで冒険者あがりの男爵のところへ行くことになる。 シャルティナは宮廷外交官の実績を活かして辣腕を振るおうと張り切るが、男爵から命じられた任務は男爵に文字の読み書きを教えることだった⋯⋯

廃妃の再婚

束原ミヤコ
恋愛
伯爵家の令嬢としてうまれたフィアナは、母を亡くしてからというもの 父にも第二夫人にも、そして腹違いの妹にも邪険に扱われていた。 ある日フィアナは、川で倒れている青年を助ける。 それから四年後、フィアナの元に国王から結婚の申し込みがくる。 身分差を気にしながらも断ることができず、フィアナは王妃となった。 あの時助けた青年は、国王になっていたのである。 「君を永遠に愛する」と約束をした国王カトル・エスタニアは 結婚してすぐに辺境にて部族の反乱が起こり、平定戦に向かう。 帰還したカトルは、族長の娘であり『精霊の愛し子』と呼ばれている美しい女性イルサナを連れていた。 カトルはイルサナを寵愛しはじめる。 王城にて居場所を失ったフィアナは、聖騎士ユリシアスに下賜されることになる。 ユリシアスは先の戦いで怪我を負い、顔の半分を包帯で覆っている寡黙な男だった。 引け目を感じながらフィアナはユリシアスと過ごすことになる。 ユリシアスと過ごすうち、フィアナは彼と惹かれ合っていく。 だがユリシアスは何かを隠しているようだ。 それはカトルの抱える、真実だった──。

処理中です...