上 下
319 / 392

星たちの行方 1

しおりを挟む


「よしっ、準備オッケー!」

 ドラコニス公爵家の自分の部屋の中で着替え終えた私は、鏡に映る姿を見て声を上げた。
 
 軍服を思わせる真っ黒な上下服の胸元には鎖を緩く垂らして、無理やり受け取らされたスタンピードで貰った英雄の証、双龍宝華勲章も取り付けた。付けたくないけど、もう仮面もないからこれがないとシリウスだって判らない。
 中も黒めのシャツにネクタイを首元で締めてピシッとキメてる。
 下もスカートなんか履かないでピッタリとしたズボンスタイルにブーツ。腰にはベルトを付けて身体の線を強調してる。とりあえず女だって一発で分かるようにね。
 肩から胸半分くらいにドラコニス公爵家の家紋が金色で刺繍された黒いマントを取り付けて、これも特別にあつえてもらった黒帽子被って、腰まで伸びた亜麻色の髪は気合入れてポニーテールにした。
 耳には紫色と黄金色のピアスを付けて、自分がアルファルドのモノだってアピールして、ついでにアルファルドがくれた首輪もそのまま着けてる。

 姿見の前でくるくる回って不備がないか確認してるけど、ちょっとアカデミアの制服を思わせるなぁ。アカデミアの制服も黒基調だから。
 全体を黒で纏めたのはもちろん、アルファルドの髪色に合わせてるってのと、シリウスは黒装束だったからそれを分かりやすくしてる狙いがある。
 この世界でこんな格好は男性でも珍しいんだよね。ネクタイってのも存在しないし、あっても騎士服くらいしか着ないからさ。
 前世で言うところの、軍の上級司令官みたいな格好してるのにも理由がある。
 この姿で人前に出るのは今回が初めてになるから、色んな牽制の意味も込めて女だからって侮られないように、服にもかなり気合を入れた。
 
 姿見の前で止まって、鏡を手で触れながら映ってる自分の姿に惚れ惚れしちゃう。
 女性でもこういう格好ってやっぱりカッコイイよね。黒軍服って憧れだったんだ。これで鞭とかあったらちょっと監獄の看守っぽい感じだよね。
 シリウスの時だったら背中に背負ってた愛刀のデュランダルも今回は腰に帯剣してるし、気合十分!

 これからアルファルドと一緒に皇宮に向かう。
 この日の為にアルファルドには無理言って療養中で通してもらったし、色んな事態を想定して準備してきたから。

 コンコンって扉の外から音がした。返事をする前にアルファルドが部屋の中に入ってきた。

「…準備は出来た…か……」
 
 部屋の扉を開けたまま、アルファルドが私を見て固まってる。

「うんっ、準備できたよ!」

 鏡の前から振り返って、アルファルドに駆け寄った。
 近づいたけどアルファルドはまだ固まってて、その状態のまま私を見下ろしてる。

「ん…?どうしたの?」
「………お前、その格好で行くのか?」
「うん。変かな?」
「…いや、…驚くほど…よく似合っている」
「本当?嬉しいッ!」

 アルファルドは貴公子が着るみたいな黒のフロックコートっぽい服装で全体を纏めてる。やっぱりお金の力って偉大だよね…。ただの白シャツと黒ズボンだけでも全然似合ってるけど、アルファルドってめちゃくちゃイケメンだからちゃんとした服着ると本当に皇子様みたい。
 濡羽色の黒髪を後ろに撫で付けてあってすごくカッコイイ!惚れ惚れしちゃう…シャツの袖には私があげたカフスボタン付けてくれてるのがすごく嬉しい!

「…似合っているが…、何というか…、威圧感が凄いな…」
「ん?あぁ、お前がそう感じるくらいなら、狙い通りだなっ!」
「…はっ…?」

 私をまじまじ見ながらアルファルドが口元に手を当てる。あの鈍感なアルファルドでも判るなら大丈夫だね。
 これから私の報告を込めて皇宮に挨拶に行く。即席の皇帝である、ポルックス公爵含む高位貴族達と対面する。
 その時に私の功績に対する処遇とか言われると思うんだけど、ただの話し合いで終わるとは思ってないからさ。

「時間だろ?そろそろ行こうぜ?」

 アルファルドに向かってニコッと笑って促した。でもアルファルドはまだ私をじっと見てる。

「……その首輪も、付けていくのか?」

 じっと見てたのは私の首元で、少し困惑気味に喋ってる。

「もっちろん!これって、アルファルドから初めて貰った物だしッ」
「…そう…だったか?」
「そうだよ。綺麗だし気に入ってるんだっ…それに、俺とお前がどんな関係か匂わせるには抜群のアイテムだろ?」

 ニッと笑ってアルファルド見てたら、まだ口元押さえてたアルファルドの頬が赤くなってる。

「……」

 ふふっ、アルファルドってやっぱり可愛いなぁ。こんな事で照れてるし。
 アルファルドの腕を取って部屋の外へと促した。

「さぁ…、いざ出陣だッ」

 

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。

カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。 今年のメインイベントは受験、 あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。 だがそんな彼は飛行機が苦手だった。 電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?! あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな? 急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。 さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?! 変なレアスキルや神具、 八百万(やおよろず)の神の加護。 レアチート盛りだくさん?! 半ばあたりシリアス 後半ざまぁ。 訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前 お腹がすいた時に食べたい食べ物など 思いついた名前とかをもじり、 なんとか、名前決めてます。     *** お名前使用してもいいよ💕っていう 心優しい方、教えて下さい🥺 悪役には使わないようにします、たぶん。 ちょっとオネェだったり、 アレ…だったりする程度です😁 すでに、使用オッケーしてくださった心優しい 皆様ありがとうございます😘 読んでくださる方や応援してくださる全てに めっちゃ感謝を込めて💕 ありがとうございます💞

【完結】身を引いたつもりが逆効果でした

風見ゆうみ
恋愛
6年前に別れの言葉もなく、あたしの前から姿を消した彼と再会したのは、王子の婚約パレードの時だった。 一緒に遊んでいた頃には知らなかったけれど、彼は実は王子だったらしい。しかもあたしの親友と彼の弟も幼い頃に将来の約束をしていたようで・・・・・。 平民と王族ではつりあわない、そう思い、身を引こうとしたのだけど、なぜか逃してくれません! というか、婚約者にされそうです!

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

幸せなのでお構いなく!

恋愛
侯爵令嬢ロリーナ=カラーには愛する婚約者グレン=シュタインがいる。だが、彼が愛しているのは天使と呼ばれる儚く美しい王女。 初対面の時からグレンに嫌われているロリーナは、このまま愛の無い結婚をして不幸な生活を送るよりも、最後に思い出を貰って婚約解消をすることにした。 ※なろうさんにも公開中

【完結】名ばかりの妻を押しつけられた公女は、人生のやり直しを求めます。2度目は絶対に飼殺し妃ルートの回避に全力をつくします。

yukiwa (旧PN 雪花)
恋愛
*タイトル変更しました。(旧題 黄金竜の花嫁~飼殺し妃は遡る~) パウラ・ヘルムダールは、竜の血を継ぐ名門大公家の跡継ぎ公女。 この世を支配する黄金竜オーディに望まれて側室にされるが、その実態は正室の仕事を丸投げされてこなすだけの、名のみの妻だった。 しかもその名のみの妻、側室なのに選抜試験などと御大層なものがあって。生真面目パウラは手を抜くことを知らず、ついつい頑張ってなりたくもなかった側室に見事当選。 もう一人の側室候補エリーヌは、イケメン試験官と恋をしてさっさと選抜試験から引き揚げていた。 「やられた!」と後悔しても、後の祭り。仕方ないからパウラは丸投げされた仕事をこなし、こなして一生を終える。そしてご褒美にやり直しの転生を願った。 「二度と絶対、飼殺しの妃はごめんです」 そうして始まった2度目の人生、なんだか周りが騒がしい。 竜の血を継ぐ4人の青年(後に試験官になる)たちは、なぜだかみんなパウラに甘い。 後半、シリアス風味のハピエン。 3章からルート分岐します。 小説家になろう、カクヨムにも掲載しています。 表紙画像はwaifulabsで作成していただきました。 https://waifulabs.com/

【完結】アラサー喪女が転生したら悪役令嬢だった件。断罪からはじまる悪役令嬢は、回避不能なヤンデレ様に溺愛を確約されても困ります!

美杉。節約令嬢、書籍化進行中
恋愛
『ルド様……あなたが愛した人は私ですか? それともこの体のアーシエなのですか?』  そんな風に簡単に聞くことが出来たら、どれだけ良かっただろう。  目が覚めた瞬間、私は今置かれた現状に絶望した。  なにせ牢屋に繋がれた金髪縦ロールの令嬢になっていたのだから。  元々は社畜で喪女。挙句にオタクで、恋をすることもないままの死亡エンドだったようで、この世界に転生をしてきてしあったらしい。  ただまったく転生前のこの令嬢の記憶がなく、ただ状況から断罪シーンと私は推測した。  いきなり生き返って死亡エンドはないでしょう。さすがにこれは神様恨みますとばかりに、私はその場で断罪を行おうとする王太子ルドと対峙する。  なんとしても回避したい。そう思い行動をした私は、なぜか回避するどころか王太子であるルドとのヤンデレルートに突入してしまう。  このままヤンデレルートでの死亡エンドなんて絶対に嫌だ。なんとしても、ヤンデレルートを溺愛ルートへ移行させようと模索する。  悪役令嬢は誰なのか。私は誰なのか。  ルドの溺愛が加速するごとに、彼の愛する人が本当は誰なのかと、だんだん苦しくなっていく――

ゲームの序盤に殺されるモブに転生してしまった

白雲八鈴
恋愛
「お前の様な奴が俺に近づくな!身の程を知れ!」 な····なんて、推しが尊いのでしょう。ぐふっ。わが人生に悔いなし! ここは乙女ゲームの世界。学園の七不思議を興味をもった主人公が7人の男子生徒と共に学園の七不思議を調べていたところに学園内で次々と事件が起こっていくのです。 ある女生徒が何者かに襲われることで、本格的に話が始まるゲーム【ラビリンスは人の夢を喰らう】の世界なのです。 その事件の開始の合図かのように襲われる一番目の犠牲者というのが、なんとこの私なのです。 内容的にはホラーゲームなのですが、それよりも私の推しがいる世界で推しを陰ながら愛でることを堪能したいと思います! *ホラーゲームとありますが、全くホラー要素はありません。 *モブ主人のよくあるお話です。さらりと読んでいただけたらと思っております。 *作者の目は節穴のため、誤字脱字は存在します。 *小説家になろう様にも投稿しております。

幼馴染と一緒にバイトすることになりました。〜再会してまた、君を好きになっていく〜

おみくじ
恋愛
 高校一年生の木下太一(きのしたたいち)は、夏休みの2週間、本屋でアルバイトをすることに。  そこにもう一人アルバイトの女の子が突然やって来た。太一が小学生のとき仲の良かった幼馴染、5年生の夏休み入る前に引っ越しってしまった、水瀬加奈(みなせかな)だった。  突然の再会と急接近。2人のぎこちないアルバイトと、恋がはじまる。

処理中です...