上 下
316 / 392

始動 3

しおりを挟む

 
 私が倒れてから、2週間くらい経ったある日。

 この日はアルファルドが前皇帝の国葬に行ってた。私は相変わらずドラコニス公爵家にいて、たまに抜け出して秘密裏に活動してた。
 アルファルドには内緒だけど、その間にムーリフの家まで行ってタウリと会ってきた。家にいなかったら帰ろうかと思ってたけど、気配を感じたから一応ノックして家の中に入った。

「─ッ!!お、お嬢ぉっ!?」

 朝方行ったけどタウリは起きてて、朝食を食べようとしてたのか、ご飯の準備をしてる最中だった。

「久しぶり、タウリ!元気だった?」

 女の姿で来た私をまじまじと見てて、タウリは手に持ってたコップを落としてる。

「お嬢?!…本当に、お嬢ですかなっ!?」

 ドア閉めて家の中に入った私の側に急いで駆け寄ってきた。

「うん!ごめんね、本当はもっと早めに来たかったんだけどさ。なかなか抜け出せなくて」

 ニコッと笑ってタウリを見上げると、呆然と立ってたタウリの顔が見る間に歪んでる。

「う…うぅ…、お嬢……、ご無事で…何より…ですぞ……」

 タウリの目がうるうるして、慌てて顔を腕で覆ってた。私もタウリの顔見たらポロッと涙が出てきて、そのままタウリに抱きついた。

「うん、…うん…タウリ。また…心配かけちゃったね……」

「っ…、ぐっ……、お嬢に会ったら…今度こそ、叱ってやろうと…。じゃが…無事で良かった…ですぞ」

「ありがとう、タウリ…」

 タウリも私を抱きしめてくれて、二人でしばらくそうしてた。

「取り乱しましたなっ…。さ、お嬢。こちらに掛けて下され」

 気を取り直して離れたタウリが私に席に着くように進めてくれる。
 私も椅子に座ってタウリと向かい合って座った。

「体は大丈夫ですかな?あの戦いの後、そのまま倒れたと聞いたのじゃが…」

「うん、そうなんだ。でも、アルファルドが助けてくれたから…」

「アル…ファルド??」

 向かい合ったタウリが何のことか分からないような顔して私を見てるから、クスッと笑っちゃった。
 タウリにはアルファルドの事、全然説明してなかったからね。余計な心配かけたくなくて、全てが終わってから話そうと思ってたし。
 でももう話さないと駄目だよね。

 それからタウリにこれまでの事を大まかだけど説明した。アカデミアに入った理由、ポーションの製造、アルファルドとの関係…。
 
 タウリは驚いてたけど、珍しく静かに聞いてた。というより、驚いてて言葉が出なかったってのが正しいのかな?

「…お嬢と、あの…ドラコニス公爵が……」

「うん」

 テーブルの上で俯きながら頭抱えてて、ショックなのか驚きなのか、タウリはそれ以上言葉が出ない様子だった。

「とりあえず私はもう、男にもシリウスにも戻れないから。悪いけど、タラゼドにもシリウスは無事だって伝えてくれていいんだけど…状況によってはこのまま冒険者辞める事になると思う」

 タウリが放心状態だったから途中で自分とタウリのお茶淹れて、話し終えてからのど潤すのに一口飲んだ。
 長々話してたからちょっと疲れちゃったよ。

「冒険者…、そうじゃッ!お嬢はSSS級トリプルスターに昇格したのですぞっ!」

「んー、知ってるよ?しかも剣帝ソードエンペラーとかって称号までご丁寧にくれたんでしょ?」

 私が鬱陶しそうに話してたら、タウリがまた座ってまま驚いた顔してこっち見てる。

「知っておったのですか…」
「まぁね。帝国新聞も読んでたし、大体はアルファルドから聞いてたから」
「……ドラコニス…公爵。いやまさか…、お嬢とドラコニス公爵との関係が、そこまで深いものだとは…思いもよらなかったですぞ…」

 私がポーション作って小瓶届けてもらってた時にもタウリに聞かれてたけど、何となくうやむやにしてたし。
 友達だ、とは言ってたんだけど、タウリの中でそこまで深い仲だとは思わなかったんだろうね。エルナト先生みたく近くで見てた訳じゃないから。

「ま、そういう訳だから、ちょっとこれから皇宮に乗り込んで色々やらかすつもり。あの堅物達がどこまで私って存在を許容するのかわからないけど、騒いでられるのも今の内だと思うよ」

 机の上で頬杖ついて、タウリに向かってにっこり笑った。タウリは慌てた顔して、椅子から立ち上がった。

「しかし、それはあまりに危険じゃ!お嬢の身に何かあってはっ!」

「ハハッ、心配しすぎだよ。まぁ、何かあった時の事も色々考えてるからさっ」

 立ち上がったまま必死に心配してくれるタウリを落ち着かせるように笑いかけた。

 こうして心配してもらえるのが擽ったいな。タウリにはずっと心配かけてきたから、そろそろ私も落ちつかないとね。

「とりあえずそろそろ帰るよ。アルファルドもあんまり遅いと心配するし…」

 私も椅子から立ち上がって、フードをまた頭に被った。

「……ドラコニス公爵は、お嬢を…大事にしてくれてますかな…?」

 テーブルから離れてお暇しようとした私に、タウリは立ったまま真面目な顔してじっと見ながら喋った。

「もちろん!誰よりも私を大事にしてくれてるよ。私もアルファルドが大好きだからっ!」

 私もタウリの顔見ながら心から微笑んだ。

「…それを聞いて、安心しましたぞ。…お嬢、幸せそうで良かったですな…」

 私の笑顔を見てホッとしたのか、厳つい顔したタウリも穏やかな笑顔で微笑んでくれてる。
 
「うん…。ありがとう…タウリ。…もう行くね。また来るからっ!」

 また泣いちゃいそうだから扉まで急いで歩いた。

「いつでも、お待ちしておりますぞっ」

 タウリはテーブルの前で立ったまま、笑顔で見送ってくれた。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

転生先が羞恥心的な意味で地獄なんだけどっ!!

高福あさひ
恋愛
とある日、自分が乙女ゲームの世界に転生したことを知ってしまったユーフェミア。そこは前世でハマっていたとはいえ、実際に生きるのにはとんでもなく痛々しい設定がモリモリな世界で羞恥心的な意味で地獄だった!!そんな世界で羞恥心さえ我慢すればモブとして平穏無事に生活できると思っていたのだけれど…?※カクヨム様、ムーンライトノベルズ様でも公開しています。不定期更新です。タイトル回収はだいぶ後半になると思います。前半はただのシリアスです。

男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。

カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。 今年のメインイベントは受験、 あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。 だがそんな彼は飛行機が苦手だった。 電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?! あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな? 急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。 さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?! 変なレアスキルや神具、 八百万(やおよろず)の神の加護。 レアチート盛りだくさん?! 半ばあたりシリアス 後半ざまぁ。 訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前 お腹がすいた時に食べたい食べ物など 思いついた名前とかをもじり、 なんとか、名前決めてます。     *** お名前使用してもいいよ💕っていう 心優しい方、教えて下さい🥺 悪役には使わないようにします、たぶん。 ちょっとオネェだったり、 アレ…だったりする程度です😁 すでに、使用オッケーしてくださった心優しい 皆様ありがとうございます😘 読んでくださる方や応援してくださる全てに めっちゃ感謝を込めて💕 ありがとうございます💞

【完結】アラサー喪女が転生したら悪役令嬢だった件。断罪からはじまる悪役令嬢は、回避不能なヤンデレ様に溺愛を確約されても困ります!

美杉。節約令嬢、書籍化進行中
恋愛
『ルド様……あなたが愛した人は私ですか? それともこの体のアーシエなのですか?』  そんな風に簡単に聞くことが出来たら、どれだけ良かっただろう。  目が覚めた瞬間、私は今置かれた現状に絶望した。  なにせ牢屋に繋がれた金髪縦ロールの令嬢になっていたのだから。  元々は社畜で喪女。挙句にオタクで、恋をすることもないままの死亡エンドだったようで、この世界に転生をしてきてしあったらしい。  ただまったく転生前のこの令嬢の記憶がなく、ただ状況から断罪シーンと私は推測した。  いきなり生き返って死亡エンドはないでしょう。さすがにこれは神様恨みますとばかりに、私はその場で断罪を行おうとする王太子ルドと対峙する。  なんとしても回避したい。そう思い行動をした私は、なぜか回避するどころか王太子であるルドとのヤンデレルートに突入してしまう。  このままヤンデレルートでの死亡エンドなんて絶対に嫌だ。なんとしても、ヤンデレルートを溺愛ルートへ移行させようと模索する。  悪役令嬢は誰なのか。私は誰なのか。  ルドの溺愛が加速するごとに、彼の愛する人が本当は誰なのかと、だんだん苦しくなっていく――

【完結】名ばかりの妻を押しつけられた公女は、人生のやり直しを求めます。2度目は絶対に飼殺し妃ルートの回避に全力をつくします。

yukiwa (旧PN 雪花)
恋愛
*タイトル変更しました。(旧題 黄金竜の花嫁~飼殺し妃は遡る~) パウラ・ヘルムダールは、竜の血を継ぐ名門大公家の跡継ぎ公女。 この世を支配する黄金竜オーディに望まれて側室にされるが、その実態は正室の仕事を丸投げされてこなすだけの、名のみの妻だった。 しかもその名のみの妻、側室なのに選抜試験などと御大層なものがあって。生真面目パウラは手を抜くことを知らず、ついつい頑張ってなりたくもなかった側室に見事当選。 もう一人の側室候補エリーヌは、イケメン試験官と恋をしてさっさと選抜試験から引き揚げていた。 「やられた!」と後悔しても、後の祭り。仕方ないからパウラは丸投げされた仕事をこなし、こなして一生を終える。そしてご褒美にやり直しの転生を願った。 「二度と絶対、飼殺しの妃はごめんです」 そうして始まった2度目の人生、なんだか周りが騒がしい。 竜の血を継ぐ4人の青年(後に試験官になる)たちは、なぜだかみんなパウラに甘い。 後半、シリアス風味のハピエン。 3章からルート分岐します。 小説家になろう、カクヨムにも掲載しています。 表紙画像はwaifulabsで作成していただきました。 https://waifulabs.com/

【完結】身を引いたつもりが逆効果でした

風見ゆうみ
恋愛
6年前に別れの言葉もなく、あたしの前から姿を消した彼と再会したのは、王子の婚約パレードの時だった。 一緒に遊んでいた頃には知らなかったけれど、彼は実は王子だったらしい。しかもあたしの親友と彼の弟も幼い頃に将来の約束をしていたようで・・・・・。 平民と王族ではつりあわない、そう思い、身を引こうとしたのだけど、なぜか逃してくれません! というか、婚約者にされそうです!

この度、仮面夫婦の妊婦妻になりまして。

天織 みお
恋愛
「おめでとうございます。奥様はご懐妊されています」 目が覚めたらいきなり知らない老人に言われた私。どうやら私、妊娠していたらしい。 「だが!彼女と子供が出来るような心当たりは一度しかないんだぞ!!」 そして、子供を作ったイケメン王太子様との仲はあまり良くないようで――? そこに私の元婚約者らしい隣国の王太子様とそのお妃様まで新婚旅行でやって来た! っていうか、私ただの女子高生なんですけど、いつの間に結婚していたの?!ファーストキスすらまだなんだけど!! っていうか、ここどこ?! ※完結まで毎日2話更新予定でしたが、3話に変更しました ※他サイトにも掲載中

ゲームの序盤に殺されるモブに転生してしまった

白雲八鈴
恋愛
「お前の様な奴が俺に近づくな!身の程を知れ!」 な····なんて、推しが尊いのでしょう。ぐふっ。わが人生に悔いなし! ここは乙女ゲームの世界。学園の七不思議を興味をもった主人公が7人の男子生徒と共に学園の七不思議を調べていたところに学園内で次々と事件が起こっていくのです。 ある女生徒が何者かに襲われることで、本格的に話が始まるゲーム【ラビリンスは人の夢を喰らう】の世界なのです。 その事件の開始の合図かのように襲われる一番目の犠牲者というのが、なんとこの私なのです。 内容的にはホラーゲームなのですが、それよりも私の推しがいる世界で推しを陰ながら愛でることを堪能したいと思います! *ホラーゲームとありますが、全くホラー要素はありません。 *モブ主人のよくあるお話です。さらりと読んでいただけたらと思っております。 *作者の目は節穴のため、誤字脱字は存在します。 *小説家になろう様にも投稿しております。

【R-18】冬来たりなば春遠からじ外伝 〜朝まで愛して……、愛したい!

ウリ坊
恋愛
【冬来りなば、春遠からじ ~親友になった悪役公爵が俺(私)に求愛してくるけど、どうしたらいい…?】のR-18版、大人向けのお話です。(ミラとアルファルドのいちゃラブなやつです) そのため、本編とは分けて連載させてもらっております。ご了承下さいませm(_ _)m (注)本編をお読み頂いている方で、2人のイメージを壊したくない方、性的表現が苦手な方はご遠慮下さいますようお願い申し上げますm(_ _;)m ※ 筆者が読みたいだけで書いたお話です。本編を読んでいない方は二人の関係性や登場人物がわからないようになっております。もし気になった方がいらっしゃいましたら、本編を閲覧していただけますと嬉しいです!(恋愛ファンタジーで長編になってます)

処理中です...