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星たちの行方 2

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 もう隠す必要もないから、アルファルドの部屋を出て使用人達も居たけど、堂々とエスコートされながら馬車まで向かった。
 会う使用人達も驚きながら私とアルファルドを見てて、一応止まって頭下げて見送ってくれてるけど、通り過ぎた後にすぐ顔上げてこっちを凝視してた。
 ま、当然の反応だよねぇ。もちろんこの中に密偵スパイもいるって把握してる。
 マタルの情報ギルドを甘く見ちゃいけないよ?公爵家ここの人達は気づいてないけど、私の目を欺くのは無理だからさ。
 とりあえず餌は撒いたし…帰って来たら使用人全員、破門にさせないと…。
 
 帝国新聞でも大体的にシリウスがアカデミアの男子生徒で、平民の特待生だったって、でかでか一面飾ってたし…。
 そんなヤツが当主と一緒に格好は男物だけど、女の姿で出てきたなら困惑を隠せないよね~。

「アート…かい!?随分見違えたよ…、女っぷりが上がってるねっ!…これから、頑張って来るんだよっ!」

「えぇ。旦那様、アートさん、良くお似合いですよ。それでは、健闘をお祈りしております」

 立派に様変わりした公爵邸の玄関で、リタさんとベッテルさんが並んで励ましの言葉を掛けてくれる。

「…あぁ、行ってくる」

「お二人共、ありがとうございます!今日はご馳走にして下さいねっ!」

 リタさんにパチっとウインクして、心配いらないことを伝えた。

「もちろんさっ。腕によりをかけて沢山の料理を作っとくよっ!」
「わぁっ!嬉しいっ!!じゃあ俺、張り切って行ってくるね~!」
「あぁ、頑張んなよっ!」
「うんっ!ありがとう、リタさん!」

 手を振ってから外に出て玄関前に待機してた馬車にアルファルドと一緒に乗り込んだ。

「…アトリクス。…本当に大丈夫なのか?」

 腕組んで落ち着かない様子で馬車に揺られてるアルファルド。
 対面に座ってる私は緊張を解すように、いつも通りアルファルドに向かってニコッと笑った。

「ハハッ、心配いらないよ。言っただろ?俺に任せとけって」

「……」

「準備はしてきたから安心しろよ。…ま、最悪の場合…」

「…帝国を、滅ぼすのか?」

「いや、滅ぼさないしっ」

 また同じ事言ってるアルファルドを笑いながら見た。アルファルドってどうしても私が帝国滅ぼすって思ってるみたいだよね。
 
「最悪の場合、非難される立場になるかもしれないってこと。大丈夫だとは思うけど、こればっかりは予測不能だな」

「………俺は、それでも構わない」

 落ちつかない様子だったのに、私をしっかり見て真剣に言ってくれてる。

「アルファルド」

「…今さらどうなろうと、俺は気にしない。…これまで、散々辛酸を嘗めて暮らして来たんだ。…お前が側に居てくれるなら…何を言われようとも、何も思うものはない」

 座ってた席から身を乗り出して、いつも通り私の頬に手を添えてくれる。
 
「─ッ」

「…だから、無用な心配などするな。…お前はお前の好きなようにすればいい…」

 座ったまま真っ直ぐに私を見てるオッドアイが本当に綺麗で…、ほんの少しあった不安さえも消し飛んじゃった。
 私はスッと立ち上がって、反対側にいたアルファルドの膝の上に腰を降ろした。

「…アトリクス?」

 一応外には御者もいるし、公爵家から出たらアトリクスって呼んでって言ってあったから仕方ないんだけど、やっぱりアルファルドにはミラって呼ばれたいな…。

「アルファルド…お前が好きだ。…大好きッ」

 アルファルドの膝に腰を降ろすと私の方が視線が少し上になる。アルファルドの首に腕を回して、じっとアルファルド見たままそっと唇を寄せた。

「ん…」

 アルファルドも私の腰に手を回して、体を抱き寄せてくれてる。またお互い貪るようなキスを交わして、ゆっくり唇を離した。

「はぁ…」

 もうこのまま部屋に戻って、アルファルドとイチャイチャしてたい。でも、そうもいかないからもどかしいなぁ。
 
 アルファルドの首に腕を回したまま口を尖らせた。

「戻って来たら覚悟しろよ…」

「…覚悟?」

「あぁ。散々悶えさせて、ひぃひぃ言わせてやるからっ」

「……」

 間近で私を眺めてたアルファルドはサッと頬を染めて、そっぽを向いちゃった。
 横向いたアルファルドの耳朶に唇を寄せて、カプッと甘噛みした。

「ッ…、お前は…」
「ん…?」
「…お前は、清楚な見た目と違い…淫らで、…享楽的で、破廉恥だ…」

 噛んだまま耳朶を舐めてたら、赤い顔したアルファルドが急にポツリと呟き出してる。突然言われた意外な言葉に、目を丸くしてから堪えきれずに笑っちゃった。

「ハハッ、最っ高の褒め言葉だなっ。…でも、そんな俺も好きだろ?」

 耳から唇を離して、そっぽを向いてたアルファルドの顎を人差し指でクイッと私の方に向けさせて、笑いながらそう囁いた。

「……」

 真っ赤な顔して無言で頷いてるアルファルドが尊すぎるぅぅッ~~!!なんでこういうトコは素直なんだよっ!
 こんな超絶イケメンなのに、顔真っ赤にして恥じらうとか、もう、もうっ、もおッッ~~!!このまま押し倒しちゃいたいよぉ!!!

「くそっ!…ここが馬車じゃなきゃ、身ぐるみ剥がして速攻で犯してるのにぃッ!」

「っ!…アトリクスっ、いい加減にしろッ!」

 苛立ちながら叫ぶように言った私を咎めるみたいに、アルファルドが真っ赤になりながら怒って名前呼んでた。


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