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帝国重臣会議 3

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 肉眼でも見えそうなくらい濃度の濃い殺気に、ごちゃごちゃうるさく話してた重役のおっさん達がぶるぶる震えてる。
 
「ヒィッ!!」 
「う…あ…殺っ、殺される…」
「おた、お助けをっ…」

 ツカツカとゆっくり殺気を纏わせながら中央のテーブルに近づいて、這いつくばってる重役達の前に立った。
 苛立つように乱雑に書いた紙を、冷淡に見下ろしながらおっさん達のいる床にパラッと紙を落とした。

『イマ、ソレがヒツヨウか?』

 重役のおっさん達はもう、恐怖で書いた紙なんて見れないよね。
 床に尻もちつくみたいにして頭を抱えて震えてる。

「皇帝陛下の御前だぞっ!殺気を抑えよっ、シリウス!」

 直ぐ近くにいた皇嗣殿下のポルックス公爵が、冷や汗掻きながら剣を向けて私に向かって叫んでる。
 この人も久々見たけど相変わらず若いね。散々私に感謝してたから、こうして剣を向けてる表情もどこか戸惑いが見えてる。

『コレはアソビじゃない』

 殺気を放ったままおっさん達の空いた席の場所に、更に太字で乱雑に書いた紙を静かにテーブルへ置いてく。

『フザケてるならオレはすぐヌケる』

 立ち上がってた他の面々が私の書いた紙を見て複雑そうな顔してる。

 悪いけどさぁ…、流石の私も堪忍袋の緒が切れちゃったよ!

 こんな場所でアルファルド責め立てるのも本当に許せないし、この危機的状況の中でまだこんな馬鹿げた事して他人を貶めようとしてるなんていい加減にしてほしい!
 
 激しい怒りと呆れを通り越してテーブルに紙を置いて、くるっと踵を返して扉に向かった。

 どの道、帝国お上が動かなくても私は自分のやるべき事をするだけだし。
 こんな馬鹿馬鹿しい事に付き合ってるのは時間の無駄。
 一人で行動してたほうがよっぽどマシだよ!

「待て、シリウスっ」

 扉の前の騎士達がその声に反応して、槍をクロスして私の行く手を阻んだ。
 この声は皇帝陛下だ。
 
 あのさー…、止めないでこのまま立ち去らせてほしいんだけど。

「そなたの怒りも最もだ。この状況下で話す事ではなかった」
 
 静かだけど威厳のある言葉。
 騒がしかった会議場が一気にシーンと静まった。

「其奴らには後で余から言い聞かせよう。だが、そなたにも非はある。これだけ派手に皇宮を壊したのだから、勝手に会議から抜ける事は許さん!」

 背を向けてた私もその声は無視できなくて仕方なしに振り返った。確かに壁の一部は完全に壊れてて、向こう側の廊下が丸見えになってる。
 上座で座ってる皇帝陛下はさっきとは違って、弱々しさも見せずに圧をかけてる。

 ブチ切れてた私はその声に従うのが嫌で、殺気もそのままにしばらく離れた距離で私と皇帝が見合ってて、膠着状態が続いてた。

「戻れ。シリウス准伯爵…そなたも帝国に準ずる者だ。一介の冒険者ではないのだぞ」
 
 周りの人達もとりあえず傍観してて、あのおっさん達はまだ恐怖に震えながら床で尻もちついてこっちを見てる。
 
 ハァ……これで面倒事から抜けられると思ったのに。ホントさ、爵位とか邪魔だし…いらないよ。

 でもこの中でアルファルドを一人にするのも心配だから、今は仕方ないか…。

 とりあえずため息吐いて身に纏わせてた殺気を解いてから、そのまま元いた場所に戻ってまた腕組んで壁に凭れた。
 皇帝陛下の前で謝りもしないでこんな態度はめちゃくちゃ失礼だけど、このままこの場から消えなかっただけ偉いと思ってほしいよ!

 周りの人間も牽制するみたいに身構えてたけど、私が定位置に戻ったからかひとまず席に着いてる。

「興も削がれたな。本日はこれにて終わりだ。明日同時刻に改めて会議を執り行う」
  
 皇帝もこれ以上拗らせたくなかったのか、あえて私の態度について追及しなかった。

「そこのお前達は残れ!…後は解散だ」

 仕切り直すように話し出した皇帝が、その後ジロッと床に這いつくばってる重役たちを一瞥してる。

「ひっ!」
「う…ぅ…、はい…」
「悪夢だ…」

 睨まれた重役のおっさん達は、まだぶるぶる震えてる。
 これはかなりお叱りを受けそうだね。ざまぁみろだよっ!
 とりあえずアルファルドまで残されなくて良かった…。

「これにて本日の会議を終了致します!陛下の仰られた通り、明日の同時刻にて会議を行います。遅れずに集合して下さい!」
 
 近くにいた宰相が声を張り上げて話してる。

 ハァ…、これでようやく茶番が終わったよ。
 あのままアルファルドがおっさん達と言い合いの喧嘩してたら、今頃絶対飛ばっちり受けてただろうからね。
 あんなバカな奴らの口車に乗って、アルファルドまで皇帝に言及されて弱み握られなくて良かったよ。

 さっ、もう帰ろう。

 


 さっさと帰ろうと開いた扉から一番先に廊下に出た。

 しばらく歩いてたら後ろから声をかけられた。声聞いただけでわかる。声の主はアルファルドだった。

「…シリウス卿!」

 振り返った私の元に駆けてくる長身で美形なアルファルドを見た。あの一悶着からずっと私を見てたから、絶対に声掛けて来るって思ってた。

「…あの…シリウス卿…、俺の思い過ごしでなければ、先ほど卿は…わざとあの様に叱責して下さったのですよね?」

 立ち止まったアルファルドはやっぱりシリウスに敬意を示す動作をしてる。左胸に手を当てて姿勢も低くして頭を下げてる。
 アルファルドの方が私より爵位も地位も高いのに、わたしシリウスに会うといつもこうして恭しく挨拶してくるんだよね。

 懐から紙とペン取り出してさらさらっとその場で殴り書きして、まだ頭下げてるアルファルドの前に出した。
 
 手を出した私に気付いたのか、アルファルドが顔を上げて両手で出した紙を受け取ってる。

「──ッ、シリウス…卿…、ありがとう御座いますっ」

 『キにするな。オマエはわるくない』って書かれた紙を見たアルファルドのオッドアイが、見る間にうるうるしてる。
 受け取った紙を大事そうに胸に当てて、泣き顔を見られたくないのか俯かせてた。

 ポンッとアルファルドの肩に手を当ててから、そのまま廊下の窓から外に飛び降りた。

 アルファルド…こんなふうにしか庇ってあげられなくてごめんね。


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