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異変 9

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 馬車に揺られながらアルファルドが隣に座ってる。
 わざわざ並ばなくても席は広々してるのに、私を先に乗せてからアルファルドが横に座ってきたから。

「…アトリクス。あの教授とお前の関係は何だ…」

「え?」

 口を開いたアルファルドの顔が怒ってて、綺麗な顔で迫られると迫力あるなぁ。

「…お前はあの教授を恩師だと言っていたが、そんな感じには見えなかったっ…。もしかしてお前が女だと知っているのか?!」

 ギクッとしてアルファルド見てた表情が固くなっちゃう。
 うーん…、ここは誤魔化すべきか正直に言うべきか…。
 大声では話してないけど、私を見てるアルファルドの表情は不安に揺れてるみたいに怒ってる。
 そりゃそうだよね。
 私だってあんな風にされたら問い詰めたくなるよ。

「エルナト先生は俺の恩師だ。…昔からの知り合いだから、俺が女なのも勿論知ってる」

 私はアルファルドに嘘付きたくない。
 誤魔化す事もできたけど…、ちゃんと向き合うって決めたから。

 アルファルドはギリッと歯ぎしりして、私の顎を取ってすぐ目の前まで強引に引き寄せた。

「ッ、…アルファルド…」

「…本当に恩師なだけなのか?…あの教授がお前を見る時の目は、全然違ったぞっ」

 低く呻くように話してるアルファルドは明らかに嫉妬心丸出しで…。
 嬉しさもあるけど、それ以上に怖いな。

「…そんな奴の部屋に行き、こんな遅い時間まで二人きりでいたのか!」

 目の前で激高してるアルファルドは綺麗な顔を怒りで歪めてる。
 
「違うっ!俺とエルナト先生はそんな関係じゃない!俺にはお前だけだ!」

「…じゃあ何故お前ばかりがあの教授に呼ばれるんだ!手伝いなんて他の奴にやらせればいいだろっ!!」

 どうしよう…、アルファルドがめちゃくちゃ怒ってる。でも私がシリウスだってのは絶対バラしたくない。
 ただでさえアルファルドはシリウスの事を尊敬してるのに…。
 
「ごめんな、アルファルド。俺も本当は行きたくないんだ…」
 
「だったら行かなければいいだろ!」

 興奮してるアルファルドは私の言葉に反論してくるけど、こればっかりは聞けないんだ。

「でも、俺にしか出来ない事なんだ…。だからどうしても行かなきゃいけない」

 眉を下げてアルファルドに切実に訴えた。

 わかってもらえないのはわかるし、曖昧な理由しか言えないから納得出来ないよね。
 だけど駄目なんだ。

「…まだ…何かあるのか?」

 アルファルドは私の顎から手を身体も離して、俯きながらボソッと喋ってる。

「…お前はまだ…俺に何か隠してる…」

「─ッ」

「…あの教授が知ってて、俺が知らない事は何だ?」

 うぅ…、本当に困った。こんな喧嘩してる場合じゃないのに…。
 やっぱりSS級になんてなるんじゃなかったよ…厄介な事にしかならないし!
 できれば一生自分がシリウスだって事は知られたくない。
 元々卒業したら冒険者も辞めようとしてたし、シリウスも呪いが解けて人知れず旅立った事にでもしようとしてた。
 アルファルドはシリウスを神って崇めてるくらい熱狂的な信者だし、憧れを抱いたまま居なくなりたかったから。

「今は……まだ、言えない……」

「……」
 
 私の言葉にアルファルドは無言のまま顔だけ上げた。
 けど、今度は私がアルファルドから視線を背けた。

「それしか言えないんだ。ただ、エルナト先生は俺の協力者で、お前に顔向け出来ないような疚しい関係じゃない」

「……」

「お前が納得出来ないのは分かってる。でも…俺を信じてくれるなら、戻って来るまで待っててくれないか?」

 やっぱりアルファルドは黙って聞いてるだけで、複雑な表情してた。
 
「…お前が戻って来たら……全て話すのか…」

 アルファルドはまた苦しそうに左胸抑えてて、呟くように話してる。

「うん。その時は…お前が納得するまで質問に答えるよ」

 本当は言いたくない。
 でももう限界だよね。
 ただ私が無事に戻って来れるのかも、この世界がどうなるのかも分からない。
 
 両手を伸ばしてアルファルドの頬に手を添えた。
 アルファルドの頬もやっぱり冷たくて、温めるように撫でた。

「……っ、…くそっ!」

 アルファルドがガバっと私を抱き寄せてきて、苦しいくらい力を込めてくる。

「アルファルド?」

「…この温もりを知らなければ、何も感じず…ただ同じ毎日を繰り返して…こんな思いにもならなかった…」

 アルファルドは独り言みたいに話してる。
 
「…だが、もう駄目だ!手放す事なんてできないっ!お前は、俺のものなんだ!!」

「…っ」

 激しい独占欲と執着心にダメだと思いながら心が震えた。

 アルファルドは私を放したくなくて必死なのに…。
 その気持ちに嬉しさを隠しきれないよ。
 
 私もアルファルドの背中に手を回して抱き着いた。

「そんなの当たり前だろ?俺は初めからアルファルドのものだ。何があっても必ずお前の元に帰ってくる」

 抱きつきながら慰めるようにアルファルドの背中を優しくポンポン叩いた。

「だから心配するな。何度も言ってるだろ?お前以外、他の誰も俺の目には入らないんだからさ」

「……アトリクス」

 私も離れたくない…。
 ずっとずっとこうして、アルファルドの側にいたいよ。

 でも最終ステージのラスボスなんて、今のレベルのメインキャラ達が相手したらすぐに負けて世界が滅んじゃう。
 そのくらいラスボスは桁違いに強いし、魔法レベルも相手にならないくらい凄いから。

 しばらく抱き合ってたら馬車が止まった。
 公爵邸に着いたみたい。

「旦那様、到着致しました」

 御者の人が外からノックして声を掛けてきた。

「……あぁ」

 扉が開いて、ぱっと離れてアルファルドから馬車を降りてく。

 降りたあとにアルファルドが手を差し出してくれて、今は男なのにエスコートしてくれた。

「アルファルド…」

 私はアルファルドの手に自分の手を乗せて、荷物背負ってから地面に降りた。

「…今夜は絶対泊まっていけ。じゃないと逃げられないように手足を拘束して屋敷に閉じ込めるぞっ」

 その手を掴んだまま反対の手で腰も引き寄せて、アルファルドがめちゃくちゃ物騒なこと耳元で囁いてる。

「お…前っ!……ハァ……、わかったよ…」

 出迎えに来てるベッテルさんや使用人達が見てるのなんて全然気にしてないんだからホント困る。
 例え拘束されて監禁されても問題なく抜けられるんだけどさ…。
 マズい…、アルファルドがヤンデレ化しないように気を付けないとな。

「…ほら、行くぞ」

「うん」
 
 本当は今すぐにでも出発したいんだけど、色んな事考えちゃうと私もアルファルドと今夜くらいは一緒にいたい。

 今の返事で多少機嫌が直ったのか、表情が少し柔らかくなったかな。
 
 ハァ……アルファルドってやっぱり、ものすごぉ~く手強いや。

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