上 下
222 / 392

ギルド依頼 15

しおりを挟む
'

「いや~、しかし驚いたよ。まさかアートと旦那様がねぇ……」
 
 リタさんがニヤニヤしながら私を見て朝食を出してくれてる。
 驚いたことにその辺はまだリタさんが作ってるみたいだね。お抱えのコックかシェフでも雇ってるのかと思った。

 私は瞬時にさっきのことを思い出して、カァーッと真っ赤になって縮こまった。
 ばっちりキスシーン見られちゃって、言い訳もできないし。
 
「…リタ、黙れっ」

 アルファルドは上座に座って鋭い瞳でリタさんを睨んでる。

「わたしゃ、悪いなんて言ってないよ? アートが公爵家に嫁に来るならさ、それなりに整えておかないとねっ!」

 真っ赤になってモグモグ朝食食べてる私に、リタさんはバチッとウインクしてる。

「え……や、そういうんじゃ……」
 
 モゴモゴと話すけど、どう躱していいのかわからない。
 さっきの事もあって、あんまり力いっぱい否定するのも憚られるし。
 なんでリタさんてこんなに順応性が高いの?
 普通、当主が男色なら止めるべきだと思うし、親代わりのリタさんなら反対してもおかしくないのに。
 しかも以前ならまだわかるけど、今は公爵家も盛り返して来てるのに……きっと冗談だよね?

「…アトリクス。寝不足は大丈夫か?」

 話し掛けられてアルファルドの方を向くと心配そうな顔してて、ニコッと笑って返事を返した。

「うん。お前のおかげで良く寝れた」

「…そうか」

 ロイヤルパープルと黄金色の両目を細めて、嬉しそうに口角上げてるアルファルドがめちゃくちゃカッコいい。
 
 はぁ……、アルファルドっていつ見ても美形だ。
 黙って無表情なのもカッコいいのに、こうやってたまに笑ったり微笑んだりするのが本当にたまんない……
 
「アート、旦那様をよろしく頼むよ。前から旦那様はアートにゾッコンだからね。やっと持て成せるようになったんだからさ、もっと遊びに来なよっ!」

「へ? は、ハハッ……、そう……だね?」

 う~ん、これもわざと言ってる?
 アルファルドが狙われてるから周りに牽制してるのかな?側で控えてる使用人達も多分聞き耳立ててるだろうし。

 ちょっと意図がわからないから返答に困るなぁ。
 とりあえず笑って誤魔化した。

 リタさんは侍女長になって取り仕切ってるらしいから、ホント公爵家も様変わりしたね。
 毎日莫大な資産が舞い込んでくるから、あんなに物がなかったのに、今じゃ公爵家に相応しい感じで色々な物が置かれてるし、人もスゴく増えて綺麗になった。


 ◇◆◇

 
「なぁ、なんでアルファルドの部屋はそんなに物が増えてないんだ?」

 食事も終えてアルファルドの部屋に戻って来た。

「…特に必要としてないからな。このくらいで十分だ」

 以前リタさんが購入してきた応接セットもそのままで、アルファルドの部屋はそんなに変わらない。

 そのソファーに二人で座って、お茶をもらって一緒に飲んでる。
 
「そっか。でも良かった。アルファルドが認められる日が来てさっ」

 ニコッと笑ってアルファルドを見ると、隣にいたアルファルドも私を見てる。

「…全てお前のおかげだ。アトリクス」

 ドキッとするくらい綺麗な笑顔を向けてくれて、またぽーっとアルファルドに見惚れちゃう。

 またアルファルドの顔が近づいてきて、ハッとする。さすがに何度もキスばっかしてちゃダメだよね。
 
「あ……と、アルファルド、俺そろそろ戻るな。お前も忙しいだろ?」

 話しかけて止めようとしたのに、アルファルドの顔はそのまま近づいてきて――

「…嫌だ」

 アルファルドが一言言って私の頭の後ろに手を回して、引き寄せるみたいにキスしてくる。

「んっ」

 親友だって言ってるのに……もう、言葉だけで意味を成してない。
 座ってアルファルドの胸元に両手を置いて、目を閉じてしっかりと唇を受け止めた。

 現実のアルファルドって……、意外とキス魔だよね。

 私の知ってるゲームのアルファルドは嫉妬と憎悪に燃えながらも、物陰でヒロインを眺めてるだけだった。

 だからこそ、こうして強引で積極的に迫って来てくれることがすごく嬉しくて……私をたまらない気持ちにさせるんだ。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

逃げて、追われて、捕まって

あみにあ
恋愛
平民に生まれた私には、なぜか生まれる前の記憶があった。 この世界で王妃として生きてきた記憶。 過去の私は貴族社会の頂点に立ち、さながら悪役令嬢のような存在だった。 人を蹴落とし、気に食わない女を断罪し、今思えばひどい令嬢だったと思うわ。 だから今度は平民としての幸せをつかみたい、そう願っていたはずなのに、一体全体どうしてこんな事になってしまたのかしら……。 2020年1月5日より 番外編:続編随時アップ 2020年1月28日より 続編となります第二章スタートです。 **********お知らせ*********** 2020年 1月末 レジーナブックス 様より書籍化します。 それに伴い短編で掲載している以外の話をレンタルと致します。 ご理解ご了承の程、宜しくお願い致します。

転生先が羞恥心的な意味で地獄なんだけどっ!!

高福あさひ
恋愛
とある日、自分が乙女ゲームの世界に転生したことを知ってしまったユーフェミア。そこは前世でハマっていたとはいえ、実際に生きるのにはとんでもなく痛々しい設定がモリモリな世界で羞恥心的な意味で地獄だった!!そんな世界で羞恥心さえ我慢すればモブとして平穏無事に生活できると思っていたのだけれど…?※カクヨム様、ムーンライトノベルズ様でも公開しています。不定期更新です。タイトル回収はだいぶ後半になると思います。前半はただのシリアスです。

ヤンチャな御曹司の恋愛事情

星野しずく
恋愛
桑原商事の次期社長である桑原俊介は元教育係で現在は秘書である佐竹優子と他人には言えない関係を続けていた。そんな未来のない関係を断ち切ろうとする優子だが、俊介は優子のことをどうしても諦められない。そんな折、優子のことを忘れられない元カレ伊波が海外から帰国する。禁断の恋の行方は果たして・・・。俊介は「好きな気持ちが止まらない」で岩崎和馬の同僚として登場。スピンオフのはずが、俊介のお話の方が長くなってしまいそうです。最後までお付き合いいただければ幸いです。

マイナー18禁乙女ゲームのヒロインになりました

東 万里央(あずま まりお)
恋愛
十六歳になったその日の朝、私は鏡の前で思い出した。この世界はなんちゃってルネサンス時代を舞台とした、18禁乙女ゲーム「愛欲のボルジア」だと言うことに……。私はそのヒロイン・ルクレツィアに転生していたのだ。 攻略対象のイケメンは五人。ヤンデレ鬼畜兄貴のチェーザレに男の娘のジョバンニ。フェロモン侍従のペドロに影の薄いアルフォンソ。大穴の変人両刀のレオナルド……。ハハッ、ロクなヤツがいやしねえ! こうなれば修道女ルートを目指してやる! そんな感じで涙目で爆走するルクレツィアたんのお話し。

死にかけて全部思い出しました!!

家具付
恋愛
本編完結しました。時折気が向いたら外伝が現れます。 森の中で怪物に襲われたその時、あたし……バーティミウスは思い出した。自分の前世を。そして気づいた。この世界が、前世で最後にプレイした乙女ゲームの世界だという事に。 自分はどうやらその乙女ゲームの中で一番嫌われ役の、主人公の双子の妹だ。それも王道ルートをたどっている現在、自分がこのまま怪物に殺されてしまうのだ。そんなのは絶対に嫌だ、まだ生きていたい。敵わない怪物に啖呵を切ったその時、救いの手は差し伸べられた。でも彼は、髭のおっさん、イケメンな乙女ゲームの攻略対象じゃなかった……。 王道ルート……つまりトゥルーエンドを捻じ曲げてしまった、死ぬはずだった少女の奮闘記、幕開け! ……たぶん。

男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。

カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。 今年のメインイベントは受験、 あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。 だがそんな彼は飛行機が苦手だった。 電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?! あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな? 急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。 さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?! 変なレアスキルや神具、 八百万(やおよろず)の神の加護。 レアチート盛りだくさん?! 半ばあたりシリアス 後半ざまぁ。 訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前 お腹がすいた時に食べたい食べ物など 思いついた名前とかをもじり、 なんとか、名前決めてます。     *** お名前使用してもいいよ💕っていう 心優しい方、教えて下さい🥺 悪役には使わないようにします、たぶん。 ちょっとオネェだったり、 アレ…だったりする程度です😁 すでに、使用オッケーしてくださった心優しい 皆様ありがとうございます😘 読んでくださる方や応援してくださる全てに めっちゃ感謝を込めて💕 ありがとうございます💞

【完結】転生したので悪役令嬢かと思ったらヒロインの妹でした

果実果音
恋愛
まあ、ラノベとかでよくある話、転生ですね。 そういう類のものは結構読んでたから嬉しいなーと思ったけど、 あれあれ??私ってもしかしても物語にあまり関係の無いというか、全くないモブでは??だって、一度もこんな子出てこなかったもの。 じゃあ、気楽にいきますか。 *『小説家になろう』様でも公開を始めましたが、修正してから公開しているため、こちらよりも遅いです。また、こちらでも、『小説家になろう』様の方で完結しましたら修正していこうと考えています。

悪役令嬢はお断りです

あみにあ
恋愛
あの日、初めて王子を見た瞬間、私は全てを思い出した。 この世界が前世で大好きだった小説と類似している事実を————。 その小説は王子と侍女との切ない恋物語。 そして私はというと……小説に登場する悪役令嬢だった。 侍女に執拗な虐めを繰り返し、最後は断罪されてしまう哀れな令嬢。 このまま進めば断罪コースは確定。 寒い牢屋で孤独に過ごすなんて、そんなの嫌だ。 何とかしないと。 でもせっかく大好きだった小説のストーリー……王子から離れ見られないのは悲しい。 そう思い飛び出した言葉が、王子の護衛騎士へ志願することだった。 剣も持ったことのない温室育ちの令嬢が 女の騎士がいないこの世界で、初の女騎士になるべく奮闘していきます。 そんな小説の世界に転生した令嬢の恋物語。 ●表紙イラスト:San+様(Twitterアカウント@San_plus_) ●毎日21時更新(サクサク進みます) ●全四部構成:133話完結+おまけ(2021年4月2日 21時完結)  (第一章16話完結/第二章44話完結/第三章78話完結/第四章133話で完結)。

処理中です...