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エルナト先生との旅路 11

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 遺跡を見張っていた騎士に怪我人を任せて、とりあえずまた茂みでシリウスからアトリクスに変身して、私達はアウリガル王国の迎賓館へと馬車で戻る。
 時間感覚もなかったけど、日も沈み日没を迎えようとしていた。
 
 馬車に揺られながら、私も先生も無言でお互い口を開く事はなかった。

 何だか気が抜けたっていうか…張り詰めていたものが緩んだ感じ。
 それ程危険な命のやり取りが続いてたから。

 窓の外から星空が見えて、その当たり前の景色にホッとする。

「…あなたに、謝らなければなりません」

 ずっと黙ってたエルナト先生が急に重い口を開いた。
 窓の外をひたすら眺めてた私は、その視線をエルナト先生へと移す。

「私の安易な考えであなたまで危険に晒してしまいました。…遺跡調査と言えど未知の領域に危険は付き物です。今回の出来事は明らかに私の欺瞞です…好奇心よりも先に最大限警戒し望むべき事柄でした」

 私を見ながら静かに、真摯に話してる先生。

 予期せぬ出来事で、私を危険に巻き込んだ事に対する謝罪だよね。

 好奇心もあったけど、先生もちゃんと警戒はしてた。    
 ダンジョン経験の長い私でも、さすがにあの状況は読めなかったし…仕方ない事だったと思うよ。

「あなたが居なければ、私は今ここで生きておりません。あなたには大変思いばかりさせてしまい申し訳ありませんでしたが、来て頂いて本当に助かりました。非常に感謝しております。ありがとう御座いました」

 座席に座りながら頭を下げてお礼を言われると、すごく居心地が悪いな…。
 エルナト先生にこんなふうに謝られたり、お礼を言われる事なんて滅多にないからさ。
 
「やめて下さいっ、先生。お礼だけで結構です。無事に生きて戻れたんですから、それ以上の言葉はいりません」
 
 気恥ずかしさもあって、ぶっきらぼうに言ってまた窓の外を見る。
 頭を上げた先生は微笑みながら私を見て口を開く。

「あなたのその態度も非常に好感が持てますよ」

 クスクスと笑われるけど、なんて返していいのかわからない。

「とにかく、俺は早く戻ってご馳走が食べたいです。沢山動いたからお腹が減りました!」
「ふふ…そうですね。これ以上ない程豪華な晩餐を用意してもらいましょう」

 お互いの無事を確認しつつ、馬車は迎賓館へと向かった。







 ◇








「先程調査チームの迎えの馬車を向かわせた。准子爵よ、心より礼を言うぞ!」

 また謁見の場を与えられて、国王陛下はエルナト先生に向かい感謝を伝えていた。

「とんでも御座いません。私ではなく、全てはシリウス准伯爵殿が解決して下さいました。突如現れた怪物を倒したのも、罠に嵌った調査チームの生き残りを救ったのも…全て彼の功績です。私も命を助けて頂きました」

 また対面の応接室で話をしてるんだけど、後ろで聞いてる私はあまり居心地がよろしくない。
 
「うむ…シリウス准伯爵に礼も兼ねて一度会って見たかったのだが、遺跡帰還後にそのまま帰ってしまったのだな…」

「えぇ、申し訳御座いません。止める間もなく飛んで行ってしまいました」

「そうか…残念だ。しかし、さすが帝国の英雄は実力が違うな。准子爵の話を聞いている限り、この世のものとは思えん化け物だ。冥府の王と石碑に書いてあったと?」

「仰る通りです。石碑自体はその怪物に破壊されてしまいましたが、恐らく書かれていた言葉が呪文となり、かの怪物を呼び起こす言霊のようなものだったのではないでしょうか…私が読み終えた途端、地面に円陣が現れました」

 淡々と説明してる先生だけど、あのときの事を思い出したのか、やっぱり口調が硬いように感じる。

「冥府の王か…一つ思い当たる節がある。アウリガルに実際起きた話だ。その昔、旧世界時代にまで遡る…」

 王様の話だとその昔、王国を突然襲った恐ろしい悪魔がいた…なんでも力の強い悪い魔法使いが喚び出したみたい。

 その悪魔が王国に降りてきて三日三晩暴れ回って、国中めちゃくちゃに荒らして沢山の人が亡くなったんだって。
 そこで王国中の魔法が集まって封印魔法を施して小さな箱に閉じ込めたらしい。
 でもある日、お城の奥に魔法結界まで張ってたその箱が何者かに盗まれた。王族しか近づけなかった場所なのに、突然消えてしまったんだって。
 おとぎ話みたいな話だけど、実際にあったことなんだって。

「准子爵が持ち帰ったその古き文献と箱…まさに王家に伝わっていた物だ。裏側にアウリガル王国の紋章も押してある」

 エルナト先生が持ち帰ってきた文献と箱を裏返すと確かにアウリガル王国の紋章が薄っすらと見えた。

「だからこそ信じられんのだ…その当時の魔法使いでも封印しか施せなかった古の化け物を、シリウス准伯爵が一人で倒してしまったという事実がな……下に恐ろしきは何方なのか…」

 場がシーンと静まり返る。

 王様が言いたい事はわかる。
 昔の魔法使いって今とは比べ物にならないくらい強かったし、まだロストマジックも存在していた時代だったからね。
 だからシリウスも同じく化け物だってことでしょ。
 色んな意味で散々言われてきたから今更感じる事もないけどさ。
 やっぱり、言われていい気分はしないよね。

「国王陛下、シリウス准伯爵殿は我が帝国が誇る英雄です。そして絶望的な状況を助けられた我らにとって、シリウス准伯爵は命の恩人でもあります。たとえ国王陛下と言えども、今の発言は許容できかねます」

 静かに言いながら鋭い視線を国王陛下に送ってる。

 うわぁ~エルナト先生って凄い!国王陛下に反論してくれるなんて…。
 私は気にしてないからいいのに…。でもその気持ちが嬉しいや。

「むぅ……いや、すまん…准子爵よ。助けてもらったシリウス准伯爵に対し礼儀を欠いた。許してくれ」

 王様も今の発言が失言だと気付いたのか、権力者としては珍しく謝ってる。

「私自身も身の危険の為、ハッキリと見てはおりませんでしたが、シリウス卿も相当苦戦を強いられておりました。ですが自らの命の危険も顧みず、必死に我らを救って下さいました。もしシリウス卿が倒さなければ、あの怪物が遺跡より下界へと降り、アウリガル王国は…はたまたこの世界がどうなっていたかは想像に難くありません」

 またまた謁見の場が静まり返ってる。

 近くに待機してる騎士も、その後ろで控えてる側近らしき人も固唾をのんで二人のやり取りを聞いてる。

 嬉しいけど、あんまり話を広げないでほしいな…。
 とりあえず倒したんだからもういいじゃん。
 私はそう思うのに、エルナト先生としては許せない発言だったんだよね。
 先生がここまで言うって事は帝国の英雄を侮辱した事に対する怒りみたいなのもあるのかな?
 
「……其方の言う通りだ。わしの認識が甘かったな。シリウス准伯爵には相応の褒美を与えねばならん。アウリガルを危機から救い出してくれた。ぜひ王国での爵位も継承しよう!」

 ヒィィィッ!!
 もう爵位はいらないよ!!王国の爵位なんてもらっても使い道もないし、もう来ないから大丈夫だよ!
 
 本人不在のまま、勝手に話が進んでいき…何故かシリウスがアウリガル王国でも爵位が授与され、アウリガル王国の領地まで与えられた。(その領地の中に鉱物を含んだ鉱山も沢山あるらしい…)

 そしてまたこの事実が帝国新聞でも取り上げられて、シリウスの名前が更に広く知れ渡ることとなる。



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