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エルナト先生との旅路 5

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 次の日。
 
 
 前の日に歓迎会みたいなパーティ開いてもらったんだけど、もうそれで気疲れしちゃって案内されてた部屋に戻ってから速攻で寝た。
 お風呂とかも世話する女の人が何人もいたけど、全部断った。平民だから一人で入れますって言ったら驚いてたけど。変な色目で見られるのは嫌なんだよねー。
 このくらい牽制しとかないと、勘違いされても嫌だし。
 自分も女だしアルファルドにしか興味ない。
 平民だからって甘く見られても困る。付け入る隙きを与えないようにしないとね。
 この調子だとエルナト先生も大変だったんじゃ?
 いや、先生なら軽くあしらうくらいなのかな。
 
「おはよう御座います。アトリクス君」
「おはようございます、エルナト先生」

 着替えも用意されてて、これがまたピッタリでびっくりした。
 見た目は乗馬服っぽい感じの黒基調の服に白いパンツスタイルにブーツだけど、私にすごく似合ってて選んだ人のセンスが伺えた。

「動きやすい服装を、とお願いしておきましたが。あなたが着ると遺跡調査に行く格好には見えませんね」

 迎賓館の朝食の席で座りながら先生が感想を話してる。

「それを言うならエルナト先生も十分そう見えますよ。これから観劇でも行けそうなくらい良くお似合いです」

 食事を取りながらにっこり笑って反撃する。
 朝早いせいか私達しかいないけど、周りには給仕係やメイドも控えてて、頬を染めながら私達のやり取りを見ている。
 先生も同じ様な格好だけど、茶色系で纏められてて先生の色合いとすごく合ってて素敵だね!
 
「お褒め頂き、ありがとうございます。朝食を取り終えたら出発致しましょう。現地まで馬車で2時間ほどかかります」

 優雅に食事を口に運び、合間に淡々と話してる先生。
 本当なら行き同様私が身体強化使って移動した方が速いんだけど、さすがにここでそれやっちゃうと駄目だからね。

「わかりました」

 返事をして目の前のご馳走をモクモクと食べる。アウリガル王国のご飯も美味しいけど、やっぱり私はリタさんの作った料理の方が口に合うな~。
 
 とりあえず朝食を食べて、一旦部屋に戻ってロングソードとか装備してこの格好じゃ目立つからローブも貸してもらった。
 これならフードも被れるし、顔隠したい時にはもってこいだね。
 一応持って来たハイポーションも何本が専用のベルトに差して常備しておく。
 未知の遺跡だから念には念を入れておかないと。ゲームではなかったから、こんなイベント。
 準備を整えてエルナト先生の待つ下の階へと移動する。
 階段を降りてると女性達に囲まれてるエルナト先生を発見する。

 わぁ…スゴイな。さすが先生、モテモテだよね。そういえばエルナト先生もいい年だけど、未だに婚約者とかもいないし…特定の相手みたいな噂話も聞かないね。

 インテルクルース辺境伯家のご子息で、スタンピードで活躍した有名人で名誉爵位持ち、魔法アカデミアの教授で世界でも稀な2属性持ちの魔法。これ以上無いくらい超優良物件だよ!
 そして何よりイケメンだしね!!
 
 考えながら下まで降りていくと、気づいた先生が手を挙げてこっちを向いて笑顔を向けてる。

「こちらです、アトリクス君。皆様申し訳御座いません。残念ですが、そろそろ行かなくてはいけませんので…」
 
 全く残念そうな感じじゃないけど、笑顔を向けられた女性達は頬を染めて名残惜しそうに身を引いてる。

 何だか私が邪魔したみたいで悪いけど、遊びで来てるわけじゃないから仕方ないよね。
 
 エルナト先生のすぐ側まで歩いて行くと、今度は私の方に女性達のキラキラな視線が移動する。

「あの、そちらの方は」
「お名前はなんと仰るのですか?」
「どちらの家門のご令息ですの?」

 えぇー!!今度は私かい!?
 
 まさかエルナト先生の他に、私までターゲットになるとは思わなくて。
 あ、こんな格好してるから勘違いしちゃうよね。始めっから借りたローブ着てれば良かった。

「あー、俺はアトリクスと言います。エルナト先生の助手で、平民です」

 一応愛想笑いして言ったけど、平民って聞いた途端に皆の顔がスンッと真顔に変わった。

 いや~面白いな、いくらなんでも正直過ぎでしょ!

 興味を無くしたのかまたエルナト先生の方に注目してる。
 よしっ、平民最高!!本当にアトリクス選んで良かったよ~。平民てだけで色んな事を回避できる。

「時間も押してますし、急ぎましょう。では失礼致します」

 ようやく合流したエルナト先生と共に、外に待機していた王家の国章が入った馬車へと乗り込む。
 
 行く前からこれだと先が思いやられるよ。
 またまた広くて豪華な内装の馬車で、フカフカのクッションの効いた高級感溢れる座席。二人だけだと寝れちゃうくらい広いよ。

「ふぅ、…申し訳ありません。少し前に着いたのですが、待っていたらいつの間にかあんなことに…」

 先生もため息ついてるくらいだから、予想外だったのかな。
 対面に座ってすまなそうに言ってるけど、そりゃあエルナト先生クラスの人物があんなとこに立ってたら皆寄って来ちゃうよね。言い方悪いけどエサに群がるアリみたいな感じでさ。

「ハハッ、俺は全く気にしてません。エルナト先生は人気者ですから、仕方ないと思いますよ?」
「……毎回の事となると煩わしく思いますがね…」

 やっぱり嫌なんだ。
 反対側で座ってる先生の顔が疲れてて、今までの苦労がうかがえるなあ。

「そういえば先生って誰かと婚約しないんですか?エルナト先生なら相当な数の縁談が来てそうですけど…」

 下向いてた先生が顔上げて私を見ながら口を開く。

「そうですね。縁談自体は読み切れない程毎日の様に届いているそうですよ」
「え?他人事?」
「…そういった類の手紙は全て実家へと行きます。アカデミアに届くことは一切ありません」

 実家ってことは辺境伯家に行ってるんだ。
 エルナト先生ってとっくに成人してるし、ご実家からも出てるから…でもアカデミアには縁談みたいな手紙が送られないって事は、それも踏まえてアカデミアに入ったのかな?
 先生も今年で28歳。結婚適齢期としては男性だとまあ遅い方になるし。でもさ、いつまでも若いんだよね先生って。

「エルナト先生は結婚に興味ないんですね?勿体ないな~、先生程の優良物件だったら誰だって飛びつきますよ!」

「…では、あなたがしてくれますか?」

「──え?」

 言われた言葉が瞬時に理解できなくて、しばらく先生見たまま思考回路が止まった。

 は…?
 んん…?……ええぇ!?
 今、今なんて言ったぁ!?

 何このさり気ないプロポーズみたいな言葉!!さり気なさ過ぎて言われたことの意味が全っ然わかんなかったよ!
 嘘でしょ??…冗談だよね?

「あ…と、いやあ…先生がそんな冗談言うなんて…」

 ははは…と乾いた笑いをしながら言ってみたけど、先生の顔は至って真面目で、それにまた動揺してしまう。

「冗談ではありません、私は真面目にお話しさせてもらってます。…あなたはドラコニス公爵しか見えていないようなので、今の内に私のスペースも作って置こうと思いまして」

 緊張なのか何なのかわからない震えみたいなのが襲ってくる。まだ理解できない。
 先生は冗談でこんなこと言う人じゃないけど、私を好きとかって感じでも無さそうだったし…。だからやっぱり恋愛とかじゃなく、結婚相手としてって事だよね? 
 ちょっと深呼吸して、それとなく聞いてみる。

「え…っと、それは…ただパートナーとしてですか?」

「いえ…もちろんあなたの事は気に入っていますし、これ以上ないお相手だと思い申し込ませて貰っております。全ての面においてあなた以上の女性はいませんからね」

 私に向かってにっこりと優雅に微笑んでる先生。またまた訳のわからない震えが身体を襲う。

 うわあぁぁぁ!!!何この甘いセリフ!!エルナト先生の口から出たと思えないよ!!
 ていうか急なラブコメ展開に全く頭が追い付かないんだけど!?

 心臓がめちゃくちゃドキドキしてて顔がカーッと熱くなる。

「今すぐにとは言いません。ですが、私との将来も考えておいて下さい」
 
 ほ、本気なの!?
 エルナト先生との将来!?私と先生が結婚して夫婦になるってこと??
 いや、そんなの全く想像出来ないんですけど!!!


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