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エルナト先生との旅路 4

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 ようやく馬車が現れて要塞みたいな検問所から、豪華絢爛な馬車へと乗り移る。
 さっき話しかけてきた若い門番も最敬礼して私達を見送ってる。

「ハァ…エルナト先生、俺をからかうのはやめてくれませんか?」

 馬車の中はフッカフカの座椅子がついてて座り心地も最高。凱旋授与式に乗った馬車みたいにかなり高級なものだった。

「ふふ、申し訳御座いません。スタンピードの英雄シリウスが、まさか隣国でまで有名になっていようとは…」

 先生は優雅に足を組んでゆったりと対面で座ってる。優美な笑顔で私を見ながらまたまた面白そうに話してるし。

「そうですね。俺には関係ないですが…」

 エルナト先生って意外と茶目っ気あるんだよね…。普段生徒の前とかでは絶対見せないけどさ。
 私も先生と付き合い長いから、本性出してくれるのは嬉しいよね。

「あぁ、そうでした!これから向かう迎賓館はアウリガル王国の国王陛下も滞在されております。あなたなら問題ないと思いますが、失礼のないようお願い致しますね」
「え!?聞いてませんよ!」
「元々石碑の解読も友好国であるアウリガルの国王陛下から、直々に依頼されたものなのです。アウリガル国中の考古学者を集めたらしいのですが、解読には至らなかったようですね」

 今度は真面目に語りだしたエルナト先生。
 それにしても王国の考古学者でわからない古代文字を、魔法アカデミアの教授がわざわざ国王陛下に依頼されて呼ばれるなんて凄くない?
 やっぱりエルナト先生って只者じゃないよね…。知名度高すぎだよ。

「エルナト先生ってどこに行っても有名人なんですね」
「……あなたほどじゃないですがね」

 シレッと言ってるけど、この場合はシリウスの事言ってるんだよね。
 私としてはシリウスがどれだけ活躍しても、別の人物の話みたいで他人事だよねー。別の人物でもアトリクスみたいに直接接してないからな。

「ま、どっちにしろ俺は古代文字の解読を手伝ったらさっさと帰りますよ。待ってる奴もいますしね」
「─それは、ドラコニス公爵のことですか?」
「へっ?アルファルドですか!?違いますよっ、オクタンの話ですって!」
 
 顔が赤くなってついムキになって言い返してしまう。
 この前の出来事を思い出して赤面が止まらないし。

 何となくあの後アルファルドと話すのが気まずくて、どう対応していいのかわからないのに本人は相変わらずだし…心なしかいつもより距離が近い気がしてドキドキしちゃうんだよ。私が意識し過ぎなのかなぁ。

 だからエルナト先生の話がありがたかったのもある。ちょっと離れて気持ちのクールダウンがしたかったから。
 
「……あなたがそこまで執着してる公爵が、羨ましく思います」
「え…?それは…どういう……」
「あっ、到着しましたよ」

 馬車が止まって迎賓館に着いたらしい。うまくはぐらかされたって感じだね。
 馬車から降りた先はこれまたお城のような造りの館だった。
 馬車の前で使用人が一斉にずらりと並び、まるで凱旋授与式みたいな待遇に驚かされる。

「アルタイル帝国のインテルクルース准子爵御一行様、遠路遥々ご訪問頂き誠に感謝致します。それではゲストルームまで御案内させて頂きます」
 
 案内の人に通されて中へと入っていく。
 過ぎ行く人達…もちろん貴族だけど。やっぱりエルナト先生にめちゃくちゃ注目してて、頬を染めて見てる貴婦人やご令嬢なんかも沢山いて、それでも涼しい顔してるんだから肝が据わってるよね。

 今気づいたけど、エルナト先生って国賓並みの扱いみたいだね。
 案内してくれてる人が国王陛下付きの従者だし。アウリガルの王族の国章を胸に付けてたから一発でわかる。
 
 ワインレッドのカーペットが続く廊下をひたすら進んで行くと、かなり高い造りの金縁に真っ白な扉の前までやってきて、その前でエルナト先生の名前が呼ばれる。

 うわあ…緊張する。

 こういう場ってシリウスでしか体験してないからな。シリウスってその点では喋らなくていいから楽なんだよね。

 扉が開かれて、まるで舞踏会の会場のような光景が広がってる。
 玉座みたいな椅子にはアウリガルの国王陛下と正妃様が隣あって座ってる。
 もう結構いい年なのか王冠の脇から白髪が目立つ。
 隣の正妃様は見事なブロンドヘアーに、青い瞳が印象的で若くてすごく綺麗!優雅に微笑んでるのが見える。

 周りには家臣なのか、貴族とか文官の姿もあって学者っぽい身なりの人達も周りを囲んでいた。

「アルタイル帝国の准子爵エルナト・バスグ・インテルクルースが国王陛下にご挨拶申し上げます」
  
 国王陛下の前で頭を下げ膝を折って左胸に手を添える。帝国式の最敬礼。私も後ろからついて行ってエルナト先生と同じく最敬礼で国王陛下の前に跪いた。

「エルナト准子爵よ、よく来てくれたな。堅苦しいのは好きじゃない。姿勢を楽にしてくれ」

 アウリガルの国王陛下は笑いながら話してくれてる。
 アルタイル帝国の皇帝とはまた違う優しげなオーラがある。あの皇帝は結構威圧感が凄かったからね。

 エルナト先生が立ち上がり、国王陛下に向かって話しかける。

「お言葉に甘えて失礼致します」

 ここから長くなるからちょっと割愛で、まぁ要するにこのアウリガル王国の南部にある森の奥から今まで見たこともないような歴史的建造物が見つかったと。で、そこを今探査研究してるんだけど大きな石碑も出てきて、ズラーッと文字が書いてあるるしいんだけど、さっぱりわからないんだって。
 古代文字も何種類かあるみたいで、一般的なものじゃなくてもっと複雑な古代文字らしく行き詰まってるみたい。
 それをエルナト先生に是非とも解読してもらいたいってことだよね。

「魔法アカデミアの教授である其方にこの様な頼みをするのは気が引けるが、准子爵の博識さは魔法学に留まらないと聞いている。是非協力をお願いしたい」

 アウリガルの国王陛下がここまで頼んでるのに断れないよね。でもエルナト先生自体大好きな分野だから全く問題ないと思うけど。

「国王陛下にそのようなお言葉を頂けるとは大変光栄です。ご期待に添えられるよう努めさせて頂きます」

 にっこり笑った先生はまた左胸に手を添えて綺麗にお辞儀をする。

「つきましては、こちらに優秀な助手を同行させましたので共に参りたい所存です」
「ほう、其方が申すならさぞ優秀な人材なのだろう」
「えぇ、彼なしでは今回の古代文字解読は難しいでしょう」

 エルナト先生と喋ってた国王陛下がいきなりこっちに視線を送ってきて、慌てて頭を下げる。
 私の話題には触れないでほしいな!そこはそっとしといて。

「見たところかなり若いな。名はなんと申す」

 うわあー…やっぱりきたよ。
 聞かれたからには答えないとなぁ。

「はっ、サジタリア魔法アカデミア二学年、アトリクスと申します。この度エルナト教授と共に同行させて頂き、微力ながらお力添えをさせて頂ければと思っております」

 膝を折って左胸に手を添えて挨拶をする。

「ふむ。顔を上げよ」
「失礼致します」

 顔を上げた私を国王陛下がジッと見てくる。隣の正妃殿下も同時に眺めていて、生きた心地がしないよ。

「アトリクスか…名だけか?」
「えぇ、彼は平民です」
「平民か…とすると昨年の魔法アカデミアで騒いでいたのは此奴か」
「ご明察の通りです。入試試験でアカデミア史上異例の点数を叩き上げたのが彼です」
「ほぅ…」

 何で隣国の国王陛下がアカデミアの事まで知ってるの…。私って意外と有名人?だから嫌だったんだよ筆記試験で頑張るの!アルファルドと同室にもなれなかったし、散々な事しかないや…。

 もう冷や汗ダラダラで跪いた態勢から動けないよ。

「ですので頭脳や知識に関しては保証いたします。早速明日から移動させてもらい、遺跡へと潜りたいのですが宜しいでしょうか?」

 エルナト先生が国王陛下へと話を振ってくれた私からの視線が途絶えた。途端にホッとする。

「もう行くか。明日以降でも構わんぞ?」
「お心遣い感謝致します。私自身早く新たな遺跡に触れたいのです。そして一刻も早く国王陛下に吉報をお届け出来るよう尽力致します」
「頼もしい言葉だ。期待しておるぞ!今日は旅の疲れをゆっくり労って明日に備えてくれ!」
 
 こうして国王陛下との謁見も無事に終わった。


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