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エルナト先生との旅路 2

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「…まずあなたの言う、魔法付与と呼ばれるものは旧世界の産物です。本来ならば消滅したプレアデス帝国のプレアデス人しかできない技術。それをあなたができてしまった……これは、あるまじきことです」

 組んだ手を眉間に持っていき揉みながら、ふぅー…と息を吐いてまた椅子に座り直した先生。
 
「はい。それは俺も重々承知です。旧世界について未だに詳しいことは解明されていません。もしあの老人の言ってた事が本当なら…」

 自分で言ってて気づいた。
 『歴史は繰り返す、失われた時を取り戻せ』…この言葉だけははっきり耳に残ってる。
 失われた時って、旧世界での解明されていない歴史のこと?
 一番先に思い浮かんだのは、私が帝都図書館で読んだ聖魔大戦記録書。
 あれが本来の歴史的背景なら、またそれが繰り返される。じゃあ、デネボラが復活したのも過去に同じ事があったって事?裏ボスもその影響なの?天使と悪魔……。
 
 じゃあ最後に書かれてた超越者って──。



「アトリクス君?どうかしました?」

 エルナト先生の声にハッとする。先生にもあの本の事は話してない。確信に近いものもないし、あれ以降探しても同じ本は見つからなかった。
 誤魔化すように先生に笑顔を向ける。
 
「あ…いえ、わからないですね。とにかく今はまだこのことは内密にお願いします。エルナト先生だから話しましたが、周りに広まるのは面倒です。オクタンにも口止めしておきました」
「えぇ、賢明な判断です。一先ずこの話は保留にしましょう。あなたの魔法同様、世間に知られるには危険過ぎますから…」

 コクリと頷いて、ようやくテーブルのお茶を手に取って一口飲み込んだ。

「あ、そういえば…俺、新しい無属性魔法を覚えました」
  
 思い出したように先生に自分の魔法の話をする。
 
「新しい魔法?…それは、どのようなものですか?!」

 うんうん、先生はやっぱりこっちの方が興味あるよねー。
 落ち着いてゆったりと椅子に掛けてたのに、また前のめりになって目を輝かせて聞いてる。

「今度のは攻撃魔法ですね」
「攻撃魔法!無属性の攻撃魔法ならば、さぞ素晴らしい威力なのでしょう!」

 この少年みたいなキラキラ顔を女生徒達に見せてあげたいよ。
 みんなイチコロだよね。
 エルナト先生って普段知的でクールビューティーで通ってるから、余計にこのギャップにキュンときそうだよ。
 
「言葉では説明しづらいですね。肩慣らしにシリウスになって水竜退治してたんですが……発動した魔法で、水竜を一撃で飲み込んでました」

 結果だけ伝えるとエルナト先生があ然とした顔をしてる。
 
「…水竜を一撃で飲み込む…とは?」
「うーん、飲み込むっていうか…消し去るっていうか…表現が難しくて……」

 私は腕を組んでその時の光景を思い浮かべるけど、ブラックホールみたいな渦が現れて…なんて説明しても、ブラックホール自体がこの世界ではわからない単語だから、言葉を選ぶのがかなり厄介。

「……アトリクス君」

 あ然としてた先生が急に呟いた。

「少しの間、旅に出ましょう」
「…へ?旅、ですか??」

 突然の宣言に疑問が止まらない。どうして急にそんな話になるの??
 
「ちょうど長期の出張で隣国のアウリガルまで出向く予定でした。そこで新たな歴史的建造物が見つかったそうです」

 真剣な顔で話し始めた先生は、次第に顔がまたキラキラしたものに変わっていく。

「その中に遺跡もあり、そこに記されている石碑の古代文字の解読が難航しているそうで、私にも声がかかりました」
「……それで何故俺が?」
「あなたは複雑な古代文字の解読に成功したそうですので、私の助手として同行してもらいます。期間は20日間です」
「え!?20日も休学ですか?!出席日数落としちゃいますよ?」
「そこは心配いりません。私の助手ですから休学中も出席扱いです。外泊許可も特別申請してまとめて取りますから、その辺りは心配いりません」

 にっこり笑って足を組んでこっちを見てる先生。
 どうしてそんな話しに発展したのか謎なんだけどな。

「その期間に是非とも新しい魔法を見学させて下さい!それにあなたがいれば移動時間も短縮できますから、実際はもっと早めに帰って来れると思いますよ?」

 またまたにっこり笑うエルナト先生。
 うわあ…先生ってば私を車代わりに使って、しかも新しい魔法も見て、古代文字の解読までさせようって魂胆なんだね…。

 訝しげな顔でエルナト先生を見てると、先生は変わらずにっこりと私に笑顔を向ける。

「着いて来て下されば、度々外泊許可を取ってドラコニス公爵家で泊まっていることには目を瞑りましょう」

「──!!」

 ば、バレバレだよ!めちゃくちゃバレてるし!!
 もしかして発信源はオクタンなの?!あと、私の近状を知ってる人なんていないだろうし。

「一体誰から聞いたんですか?俺が公爵家に泊まってるって…」
「やはりそうなのですね」
「へ?」
「少しカマをかけさせて頂きました。まさか本当に私に黙って公爵家で泊まっていたのですね」
「っ!!」

 騙されたー!!
 ヒドイよ先生!
 約束破ってた私も悪いけどさー、こんな誘導尋問みたいなことするなんて!
 ジト~っとエルナト先生に見てると、足を組んでにっこりと笑ってる。

「ふふっ、お愛顧と言うことで…お互い言いたい事は飲み込みましょう」

 そう言われちゃうと反論もできないなぁ。確かに黙って泊まって約束破ったのも確かだし。

「ハァ…わかりました。それで、その旅とは何時からですか?」
「明日からです」
「はっ?」
「突然で申し訳御座いませんが、明日からの予定です。あなたの申請書もすでに提出済です。ご安心下さい」

 キラキラ笑顔のエルナト先生。
 始めっから連れてく気満々だったって訳ね。
 いやさ、ご安心も何も…私全く準備も何もしてないんだけど…。

「エルナト先生…俺の日程も気にしてくれませんかねぇ。意外と忙しいんですよ?」
「そちらは重々承知しております。ですから、この時期を選ばせてもらいました」

 うっ、確かにポーション事業も一段落ついてあとは交渉するだけだし、今は閑散期だから商品開発もそこまで力いれてなくて、冒険者としてもそんなに活動してないからなぁ。
 うーんさすがに良くわかってらっしゃる。

「先生には敵いませんね。とりあえずこれから帰って急いで準備しますよ」
「いえ…特に荷物は必要ありませんよ?」
「え?いや、でも着替えとか私物とか…」
「あなたの飛距離で移動すれば一日で隣国まで着くでしょうから、現地で招待されている迎賓館では様々な高待遇の接待を受けられますので、特に荷物は必要ありません」

 なるほど。隣国の迎賓館に招待されてるってことは、超特別待遇ってことだよね。何でも至れりつくせりだ。
 
 椅子の背凭れに背中をあずけて、用意周到な先生をじとっと見る。

「ハァ…了解です。とりあえず武器類だけは持参します。何が起こるかわかりませんからね」
「えぇ、それが良いでしょう」

 にこにこ微笑んでる先生。
 やっぱりこの人には勝てないなぁ。
 
 とりあえず明日からおよそ20日間。
 絶対短縮して帰って来てやるから!


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