冬来りなば、春遠からじ ~親友になった悪役公爵が俺(私)に求愛してくるけど、どうしたらいい…?

ウリ坊

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ドラコニス公爵家救済計画 22

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「……と、俺もう行くな」

 窓の外が段々茜色に染まってきた。
 長い時間二人でひたすら話し合ってたから、お昼も食べ損なってお腹も空いたし。
 ソファーから立ち上がって、ん~! と大きく伸びをした。
 いい加減座りっぱなしでお尻も痛いし、早めに帰らないと門限がきちゃうよ。

 アルファルドはまだソファーに座ったまま、私をジッと見上げて動いてない。
 
 置いてあった荷物を背負って、アルファルドに笑顔を向けた。

「じゃあなっ! アルファルド」
「…あ、あぁ……いや、そこまで送る……」
「いや、大丈夫だ。急いで帰るから、リタさんとベッテルさんにもよろしく言っといてくれ」

 ソファーに座ったアルファルドに手を振って、私はそのまま部屋の扉を閉めた。
 廊下の窓から外へ出て、身体強化と風魔法で一気に近くの木まで跳躍する。
 そこから屋根伝いに移動して、数分でアカデミアの門の前まで到着した。

 うん、到着~! 余裕だったね!

 木の上から辺りの気配を確かめてから、何食わぬで正門に降りて寮へと向かった。


 ◇


 次の日の休み。

 寮の部屋で一人。
 早く起きた私は、ミティストのメモ帳を見ながら机に向かってた。

 昨日はアルファルドと一日過ごせたし、ドラコニス公爵家の復興を手助けできたから大満足な日だった。
 
 ここまで来れば、私の計画の8割は進んだね!
 アルファルドに恋愛の気配はないし、借金も返済して公爵家も復興すれば闇堕ちは防げるはず。
 まだ油断はしてないけど、順調にいってる今の空気を変えたくないからなぁ。

 寮の部屋の窓からアカデミアの建物が見えてる。

 また夏になるのかー……
 
 今日の天気は曇り。
 ゲームだと、デネボラ復活まであと数ヶ月。

 最近はアルファルドとの接触が増えてきたせいか、緊張感ないんだよね。
 正直、私の役目はほぼ終わりなんだよ。
 あとはアルファルドが道に反れないか、反れたとしても正しい方向に導くだけの役割。
 だから友達……親友っていう立場がほしかったわけだし。
 
 もうこれ以上深入りはダメだよね。
 
 私は卒業後はいないし……、アルファルドの前からも適当な理由つけて消える予定。
 ポーションの製造法もすでにまとめて書いてあるから、私がいなくても造ることができる。

 卒業後は本来の自分に戻って、実業家として生きて行くんだ。
 冒険者としてのシリウスも同時に辞めるし。
 他人と接触しないのもそうだけど、そのために呪われた冒険者として今までやってきたんだもんね。
 極力他人と関わらないようにしてたのも、正体を隠したのも全部ゲーム後の自分の為だから。
 まさか国の英雄になるとは思わなかったけど、意外なとこでアルファルドを変える役に立ってたから、まぁそのへんは目を瞑るとこだよね。

 机のメモ帳をパタンと閉めた。
 椅子に寄りかかって、また窓の外にあるアカデミアの建物を見てる。

 まだまだゲームは進むし、イベントもこれから盛り沢山なのに、私の心はすっかり落ち着いちゃって……あとは傍観者になるだけかなって。

 そういえば最近、イベント観察もしてないなぁ。

 レグルス様とポラリスはもう恋人同士みたいになって、マイアもルリオン様と良い仲になってる。
 スピカとか存在も忘れてたけど、そもそもゲームでもそんなに登場してなかったからな。
 アケルナーとリゲルもこの前の実技演習で関わらなくなってるし。

 メモ帳を元に戻して、代わりにデュランダルとシリウスの黒装束を取り出した。

 なんとなく鬱々とした気分を変えたくて、剣と服を袋に包んで部屋から出た。
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