上 下
189 / 392

ドラコニス公爵家救済計画 22

しおりを挟む
'

「……と、俺もう行くな」

 窓の外が段々茜色に染まってきた。
 長い時間二人でひたすら話し合ってたから、お昼も食べ損なってお腹も空いたし。
 ソファーから立ち上がって、ん~! と大きく伸びをした。
 いい加減座りっぱなしでお尻も痛いし、早めに帰らないと門限がきちゃうよ。

 アルファルドはまだソファーに座ったまま、私をジッと見上げて動いてない。
 
 置いてあった荷物を背負って、アルファルドに笑顔を向けた。

「じゃあなっ! アルファルド」
「…あ、あぁ……いや、そこまで送る……」
「いや、大丈夫だ。急いで帰るから、リタさんとベッテルさんにもよろしく言っといてくれ」

 ソファーに座ったアルファルドに手を振って、私はそのまま部屋の扉を閉めた。
 廊下の窓から外へ出て、身体強化と風魔法で一気に近くの木まで跳躍する。
 そこから屋根伝いに移動して、数分でアカデミアの門の前まで到着した。

 うん、到着~! 余裕だったね!

 木の上から辺りの気配を確かめてから、何食わぬで正門に降りて寮へと向かった。


 ◇


 次の日の休み。

 寮の部屋で一人。
 早く起きた私は、ミティストのメモ帳を見ながら机に向かってた。

 昨日はアルファルドと一日過ごせたし、ドラコニス公爵家の復興を手助けできたから大満足な日だった。
 
 ここまで来れば、私の計画の8割は進んだね!
 アルファルドに恋愛の気配はないし、借金も返済して公爵家も復興すれば闇堕ちは防げるはず。
 まだ油断はしてないけど、順調にいってる今の空気を変えたくないからなぁ。

 寮の部屋の窓からアカデミアの建物が見えてる。

 また夏になるのかー……
 
 今日の天気は曇り。
 ゲームだと、デネボラ復活まであと数ヶ月。

 最近はアルファルドとの接触が増えてきたせいか、緊張感ないんだよね。
 正直、私の役目はほぼ終わりなんだよ。
 あとはアルファルドが道に反れないか、反れたとしても正しい方向に導くだけの役割。
 だから友達……親友っていう立場がほしかったわけだし。
 
 もうこれ以上深入りはダメだよね。
 
 私は卒業後はいないし……、アルファルドの前からも適当な理由つけて消える予定。
 ポーションの製造法もすでにまとめて書いてあるから、私がいなくても造ることができる。

 卒業後は本来の自分に戻って、実業家として生きて行くんだ。
 冒険者としてのシリウスも同時に辞めるし。
 他人と接触しないのもそうだけど、そのために呪われた冒険者として今までやってきたんだもんね。
 極力他人と関わらないようにしてたのも、正体を隠したのも全部ゲーム後の自分の為だから。
 まさか国の英雄になるとは思わなかったけど、意外なとこでアルファルドを変える役に立ってたから、まぁそのへんは目を瞑るとこだよね。

 机のメモ帳をパタンと閉めた。
 椅子に寄りかかって、また窓の外にあるアカデミアの建物を見てる。

 まだまだゲームは進むし、イベントもこれから盛り沢山なのに、私の心はすっかり落ち着いちゃって……あとは傍観者になるだけかなって。

 そういえば最近、イベント観察もしてないなぁ。

 レグルス様とポラリスはもう恋人同士みたいになって、マイアもルリオン様と良い仲になってる。
 スピカとか存在も忘れてたけど、そもそもゲームでもそんなに登場してなかったからな。
 アケルナーとリゲルもこの前の実技演習で関わらなくなってるし。

 メモ帳を元に戻して、代わりにデュランダルとシリウスの黒装束を取り出した。

 なんとなく鬱々とした気分を変えたくて、剣と服を袋に包んで部屋から出た。
しおりを挟む
感想 21

あなたにおすすめの小説

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

淫らな蜜に狂わされ

歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。 全体的に性的表現・性行為あり。 他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。 全3話完結済みです。

悪役令嬢を拾ったら、可愛すぎたので妹として溺愛します!

平山和人
恋愛
転生者のクロエは諸国を巡りながら冒険者として自由気ままな一人旅を楽しんでいた。 そんなある日、クエストの途中で、トラブルに巻き込まれた一行を発見。助けに入ったクロエが目にしたのは――驚くほど美しい少女だった。 「わたくし、婚約破棄された上に、身に覚えのない罪で王都を追放されたのです」 その言葉に驚くクロエ。しかし、さらに驚いたのは、その少女が前世の記憶に見覚えのある存在だったこと。しかも、話してみるととても良い子で……? 「そういえば、私……前世でこんな妹が欲しかったって思ってたっけ」 美少女との出会いが、クロエの旅と人生を大きく変えることに!?

月の後宮~孤高の皇帝の寵姫~

真木
恋愛
新皇帝セルヴィウスが即位の日に閨に引きずり込んだのは、まだ十三歳の皇妹セシルだった。大好きだった兄皇帝の突然の行為に混乱し、心を閉ざすセシル。それから十年後、セシルの心が見えないまま、セルヴィウスはある決断をすることになるのだが……。

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

婚約者から婚約破棄をされて喜んだのに、どうも様子がおかしい

恋愛
婚約者には初恋の人がいる。 王太子リエトの婚約者ベルティーナ=アンナローロ公爵令嬢は、呼び出された先で婚約破棄を告げられた。婚約者の隣には、家族や婚約者が常に可愛いと口にする従妹がいて。次の婚約者は従妹になると。 待ちに待った婚約破棄を喜んでいると思われる訳にもいかず、冷静に、でも笑顔は忘れずに二人の幸せを願ってあっさりと従者と部屋を出た。 婚約破棄をされた件で父に勘当されるか、何処かの貴族の後妻にされるか待っていても一向に婚約破棄の話をされない。また、婚約破棄をしたのに何故か王太子から呼び出しの声が掛かる。 従者を連れてさっさと家を出たいべルティーナと従者のせいで拗らせまくったリエトの話。 ※なろうさんにも公開しています。 ※短編→長編に変更しました(2023.7.19)

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

処理中です...