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ドラコニス公爵家救済計画 20

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 ソファーから立ち上がって、アルファルドの部屋に置いてあった自分の荷物から魔法誓約書の写しを取り出した。

「ほら。お前も知ってた方がいいから、ちゃんと読んでおいてくれ」
 
 またアルファルドの隣に座って、私が渡した誓約書の写しを黙って読んでる。

「――…ちょっと待て、アトリクス! 一体どういうつもりだ!?」

 しばらく読んでたアルファルドが急に声を荒げて、ガシッと肩を掴まれて、隣りに座ってる私を問い詰めてる。

「なんのことだ?」
「ポーションの収益だ! 何故公爵家が受取人になる?! あれはお前が作ったものだっ!?」
「え? 何言ってるんだ?? あれはドラコニス公爵家の秘匿だろ? 俺はただ真似して作っただけだぞ。お前だってアヴィオール学長に散々言ってただろ? 全ての権限は公爵家にあるって……だから全て正式な公爵家の収益になるんだ」

 私がポーション販売するって時点で気付いてるのかと思ってた。あえて聞かないのかと思って、私もいちいち言わなかったし。

「…あれは、学長を説得するために言っただけであって、お前の努力を無視して言った訳じゃない……」
「ありがとな、アルファルド。でも、俺は全く気にしてないぞ? ポーション製造を実現できたのもアルファルドに借りた本のおかげだし、俺としてはなんの問題もない」
「問題は大いにある! この誓約だと、お前にはなんの利益もない!!」
 
 んー、確かにそうなんだけど……
 全ての収益がアルファルドの物になるって魔法誓約してあるから、私にはビタ一文入ってこない。
 私はもう使い切れないくらいお金あるし……、間接的にだけど私にもポーションの収益の一部が入るから本当に問題ないんだよ。説明できないのが歯痒いんだけどさ。

「前にも言ったけど俺、お金に興味がないんだ。それに俺の目的はポーションの常備化だから、収益とかはいらないし。だから公爵家が復興するくらい資金が貯まったら、もっとポーションの相場価格を落として、平民でも買えるくらい普及させてほしい……」

 アルファルドに向かって微笑んで、アルファルドは切羽詰まったみたいな声を上げて私を呼んでる。

「……アトリクスっ……」

 肩を掴んでたアルファルドはそのまま私を抱きしめて、苦しいくらい力を込めてくる。

「アルファルド……?」
「…俺は、何を返せばいい?」
「は?」
「…俺がお前に返せるものが、何もない。お前は……何をすれば納得するんだ……?」

 苦しいくらい抱きしめてた腕の力を緩めて、私の肩にアルファルドの顔を乗せてる。

「なに寝ぼけたこと言ってんだよ。俺はもうたくさんもらってるぞ?」
「…なんの話だ」
「お前と一緒にいる毎日がすごく楽しくて幸せで……、それだけで俺は十分満足なんだ。お前も知ってるだろ?」
「……そんなことで満足なのか?」
「お前、ふざけんなっ! 俺がどれだけ苦労してお前の親友の座を手に入れたと思ってんだよ!! それに比べたらポーション作りなんて苦労でもなんでもないわっ」

 私が怒って話してたら、アルファルドはまた力を入れて抱き寄せてきた。

「アルファルド……お前に受け取ってほしい。今まで辛い思いをしてきた対価だと思ってくれていい。お前は十分過ぎるくらい苦しんできただろ……?」

 フッと笑って私もアルファルドの背中に手を回した。

「…これまでの全ての出来事はお前のせいじゃない。……お前は被害者で……何も悪くないんだ」

 アルファルドの匂いと、抱きしめられてる腕の力強さと、耳元で肩越しに聞こえる息遣い……全部独り占めできてる感覚に密かな優越感を感じる。

「だからさ、何も考えずに受け取れよ。お前にはその権利がある。それに……幸せにするって約束しただろ?」
「――っ」
 
 アルファルドが震えながら、私にぎゅうっと抱きついてる。
 痛いくらい抱きしめたまま、私の腕をギュウっと手で掴まれて、その手も震えてて私の心が満足感で満たされた。

 ときたま嗚咽のようなすすり泣く声も聞こえて……私は何も言わずに、ただひたすら背中を擦りながらアルファルドを慰めてた。
 
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