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旅路のオマケ 1

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 半日移動を繰り返して、帝都の手前までやってきた。
 通行許可証を出して無事、帝都に到着!
 今ちょうど夕方頃かな。
 移動中に太陽が夕日に変わるのが見えてたし……


 王国でもらった貴族服そのまま着て平民街を歩いてるから妙に目立つ。
 借りてた深緑色のフードを羽織って少しは落ち着いた格好になったかな。
 
 貴族街も通り過ぎて、ちょうどアカデミアの正門に差し掛かった時、偶然にもあの濡羽色の黒髪と長身の姿が目に入った。

 ん……? あっ、アルファルドだ!

 私が休学中はサークルもお休みで、もう夕方だからとっくに帰ったと思ってたのに、こんな時間までまだいたんだ。

 アルファルドの姿を見ただけで胸がドキドキして、一気に
 一週間ぶりか……そんなに長い期間でもないのに、何年も離れてたくらい長く感じるな。

 アルファルドもちょうど帰るところだったのか、こっちに向かって歩いて来た。

「よっ、アルファルド!」
 
 気付く前に声をかけた。
 もう帰って早々アルファルドに会えたってだけでもの凄く嬉しくて、ニコニコしながら駆け寄って行っていく。

「…ッ! アト……リクス?」

 酷く驚いた感じのアルファルド。
 まさか私が現れると思ってなかったのか戸惑ってるのかわからないけど、教材片手に持ったまま立ち尽くしてた。

「久しぶりだなっ! 今、帰りか? ちょうど良かった! お前に渡したいものがあったんだ…」

 正門を潜って、アルファルドの立ってる直ぐ近くまで走って駆け寄って背中に担いでた荷物を降ろす。

「…お前……、どこまで、行ってたんだ?」

 ポツリと呟いたアルファルド。
 なぜか私を不思議そうに見下ろしてる。

「ん? ……あぁ、ちょっと隣国まで行ってたんだ。エルナト先生の助手としてな。でも早めに用事も済んだから、俺だけ先に戻って来たんだ」
「…隣、国……」

 なんだかこうして他愛もない会話してるだけで幸せな気分!
 本当はもっと再会を喜びたいし、嬉しさのまま抱きつきたい気分だけど、それをしちゃったら離れてた意味がないよね。
 
「帰ってすぐお前に会えて、すっげぇ嬉しい!」
「――!」

 もう嬉しさが抑えきれなくてとにかく笑顔で、思った事そのまま言いながらアルファルドを見上げる。

 直ぐ側にいるアルファルドに触れたくて仕方ないんだけど、普通の友達ならそんなことしないし。

 ふぅ……、このまま一緒にいるのはダメだな。
 会えなかった分、抑えが効かなさそう……でも、我慢しなくちゃ。
 気を取り直して、荷物から取り出した四角い小さめの箱をアルファルドの前に出した。

「えっ……と、これ……隣国のお土産なんだ」
「…土産?」

 ドキドキしながら差し出した箱をアルファルドはジッと見てたけど、でも手を出してちゃんと受け取ってくれた。

 うぅ……、渡しちゃったけど、めちゃくちゃ緊張する!!
 
 教材を脇に挟んで両手で箱を開けたアルファルド。
 開けてしばらくジッと中身を見て止まってる。

「…カフスか」
「う、うん……」

 小さな箱の真ん中に、四角い形の銀縁に緑色に光るペリドットが付いたカフスボタン。
 エメラルドよりペリドットの方が自分に近い色だったからそっちを選んだ。

 勢いで渡したけど、これは想像以上に勇気のいる行為だな……
 普通に考えたらないからさ。
 友達に自分の瞳の色の装飾品渡すなんて。

 本来ならこういったものは、婚約者とか恋人同士がやるような事だから。自分の色の宝石を相手に渡して、それを見て常に自分の事考えて欲しいっていう求愛行動の一つなんだよね。アルファルドがこの事を知ってるかはわからないけど。

 もう原石見た時からアルファルドの事しか思い浮かばなくて、思わず贈り物として作ってもらったけど……迷惑だったかな。

 箱を開けたまま、アルファルドの反応がわからなくて。あげたカフスボタンをジッと見てる。

 もうなんだか恥ずかしさと後悔と羞恥で訳がわからない。
 やっぱりあげなきゃ良かったなんて自責の念にかられて、赤くなった顔を下に向けた。

「その……、良かったら、使ってくれ。……いらなきゃ、売ってくれていいし……」

 ボソボソと呟いて、急いで荷物を背中に担ぐ。
 いつもならもっと強気で、大事に使えよってくらい平気で言うのに……、アルファルドの前だと変に臆病になっちゃう自分がいる。

「じゃあなっ、帰り際に引き止めて悪かった」

 もういたたまれない気持ちで、その場から逃げ出すように立ち去ろうとした。
 でもその前にアルファルドが箱を制服のポケットに仕舞って、私の腕を無言で掴む。

「――っ!? アルファルド? なっ……、なんだ?」

 私の腕を掴んだまま、また無言で歩き出してアカデミア内の人気のない建物の陰まで引っ張って連れてこられた。

「ど……した? こんなトコ……で、――っ!」

 振り返ったアルファルドに掴まれた腕をそのまま引かれて、次の瞬間に訳もわからず抱きしめられてた。

 驚きで力の抜けた手から背中に担いでた荷物が下にドサッと落ちて、アルファルドが持ってた教材も同じく地面に無造作に投げ出されてた。

 な、な、なに!? なんだかよくわからないのに、アルファルドに抱きしめられてるっ!!
 これはどういった行動なの?!

 背中に回された腕に力が込められて、私の肩にちょうどアルファルドの顔がある。
 久しぶりのアルファルドの匂いと身体の感触と間近に感じる息遣いに、心臓が破裂しそうなくらいバクバクと忙しなく動いてるのが良くわかる。

「なっ、……あ、……アル……ファルド……」

 今、こんなことされたらダメなのにっ!
 ドキドキしちゃっておかしくなりそう……

「…売ったりしない。…ちゃんと使う」

「っ」

 すぐ耳元で聞こえる心地良い低い声が鼓膜に響いて、より一層胸の鼓動が激しく動いてる。

「…アトリクス。……お前が、いない……間……」

 そう言いながらまた腕に力が込められる。

 身体ごと全部アルファルドに包まれて、それがまるで……自分にすごく会いたかったって言われてるみたいで……ひどく切なくて愛しくてたまらない気持ちになっちゃうよ。
 
 私も何も言わずにアルファルドの背中に腕を回して、思うまま抱きついて目を閉じてその感触を堪能してる。
 
 ハァ……、クールダウンしたいなんてやっぱり間違ってたな。
 離れてた分、さらにもっと気持ちが膨らんで募っちゃって……、もう自分の全身がアルファルドのこと好きだって訴えてる。
 
 離れてる間、アルファルドも私のこと少しは考えてくれてたのかな……
 最後まで言葉は聞けなかったけど、わざわざ人気のない場所まで連れてきてこんなふうに抱きしめられると、心のどこかで期待しちゃう自分がいるんだ。

 今は男で、友達で、アルファルドのこと、ずっと騙してるのに。
 そんなのどうでもいいって思うくらい、私の心がアルファルドを好きだって叫んでる。
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