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リブラ星夜祭 7

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 そして場所を移動して、これから宴へと入るみたい。

 重役の老人達数名と割と若めの家臣ぽい人達数名、公爵家の人々と私。ほんとに厳かに行われてる。

 場所はリブラの迎賓館で、パーティ会場みたいな広い席でテーブルが何個か置いてあって、そこに料理やら飲み物やらが沢山置いてあった。どうやら立食式みたいだね。

 私はアルファルドにエスコートされつつ、中へと入っていく。
 そしてもう、ここからは質問攻めみたいに重役達に囲まれてしまう。

「未だ婚約者を決められずご心配申しておりましたが……まさかこの様に美麗な女性を連れて来られるとは……」
「いや、誠に驚きましたぞ! いつの間にこんな美しい方を婚約者に据えられたのですか?」
「ハッハ! 公爵様も隅に置けませんなっ! 我らに内緒とは人が悪い」
「一体どちらのご令嬢ですか? 帝都には美女が多いと聞きましたが、なるほど納得いたしましたぞ」

 アルファルドは飲み物片手に、私の肩を抱きながら隣に侍らせつつ静かに口を開いてる。
 
「…魔法アカデミアで知り合った。名はアリス」

 興味深々で聞き耳立てる重役達。
 私は隣で聞いててうんうんと頷く。

 こうやって褒められるのは悪くないね。自信無くしてたし、お世辞ってわかってても今は嬉しいよ。
 
「魔法アカデミアという事は貴族のご令嬢なのですな! いやいや、これで公爵家も安泰ですな!」
「で、して、式はいつ頃とり行われるのですか?」
「アリス殿、公爵様をよろしく頼みます!」

 もう、質問攻めすぎて何に答えていいのか訳がわからないよ。
 どれだけアルファルドって心配されてるの?
 確かにアルファルドのあの様子じゃ、心配されても仕方ないのかもしれないけどね。

「皆様、沢山のお言葉ありがとうございます。私が入学式で彼に一目惚れして、最近ようやく受け入れて頂きましたの。式は卒業後の予定ですわ」

 ニコッと笑って肩を抱かれたまま、アルファルドの体にペタッと抱きつく。
 アルファルドがビクッとなるけど、どうにか態度には出さなかった。 
 適当に作った設定をペラペラと話すと、一様に驚いた表情で私に注目してる。

「な、なんと! アリス殿から……」
「まさか……信じられん! 選り好みするようなお立場か…」
「この様な美女に言い寄られて、今までかかるとは……」

 重役のご老人達がじと~っと、今度はアルファルドを見てる。結構酷いこと言ってるし。
 アルファルドもたじたじで返す言葉もないみたい。

「ちょっとお待ちなさいっ!!!」
 
 このタイミングでバンッと扉が乱暴に開いて突然大きな声を上げて乱入してきたのは、多分バカ女って言われてる女の子。

「酷いわ! 公爵様!! あなたはシノアと結婚する約束でしょお!!」

 ピンク色のヒラヒラした舞踏会ドレスを身に纏ったちょっとふくよかな女の子。顔も丸顔で特徴があまりない、目は小さくて鼻も団子っ鼻、お世話にも美人とは言い難い感じの子だった。

 私とアルファルドが立ってる真ん前までドカドカ歩いてきて、重役のご老人達もフンッて感じで押しのけて私を睨みつけてる。

「誰なの、この女っ!? 浮気は大いにしてもらって結構ですけど、結婚した後にしてもらえませんか?! そしたらいくら女を作っても構いませんわっっ!」
 
 一気に周りがシーンと静まって、このシノアって子の声だけが館内に響いてる。
 
 うわぁ……、これはなかなか……
 アルファルドが無理ってのもわかるなぁ。

 持ってた羽根つきの扇子をビシッと私に向けてくる。

「フンッ! 少し顔が良いくらいで、大した事ないわね……」

 アルファルドに抱きついてる私を上から下まで見て、またフンッと鼻息を荒くしてる。

「あんたっ! 妾にしてあげるから、さっさとそこから退きなさい! 公爵夫人の座は私のものよっ!!」

 扇子をバッと入り口まで差して、私に退場しろって促してるねぇ。
 へぇ……、いい度胸してるね?
 私がどこの誰かも知らないで、よく喧嘩売って来れるなぁ。
 ま、でも売られた喧嘩は買わせてもらうよ?

「アルファルド、この方は誰ですか?」
「…こんなヤツ、知らん」

 見上げたアルファルドもドン引きしてるのか、顔が引きつってるし。

「まっ、酷いわ! 貴方みたいな冴えない根暗男と結婚して、公爵家を救ってやろうって言ってるのっ!! 私の優しさがわからないなんてホントッ最悪ね! 公爵家を没落させた大元凶でしょ!? 黙ってるだけで気味が悪いし、爵位くらいしか魅力がない腑抜け男のクセにっ!!」

 この女っ!いい加減にしなさいよ!!

「…アリス?」

 すぐにアルファルドから離れてその女の前まで立った。

「あんた、まだいたの? 出てけって言ってるのが聞こえない?! 未来の公爵夫人に頭を――」
 
 その女の頬に、思いっ切り平手打ちを食らわせる。

「ギャアッ!!」

 バッシーンってかなりいい音が響いて、シノアって子は数メートル先に吹き飛ばされた。

 おぉ~、身体強化使わなくても結構吹き飛ぶもんだね。

「あらっ、ごめんあそばせ? 余りにも小蝿が煩いものでしたから、少々手荒く叩き落させていただきましたわ」

 痛くもない手をぷらぷらさせて、にっこりと微笑んだ。

 アルファルドをはじめ、重役のご老人達とベッテルさんとリタさん、給仕のお母様方もあ然とした顔で一斉に私を見てる。

 真っ赤に腫れた頬に手を当てて、シノアは涙目でこっちを見てる。

「う……うぅ……いたッ……痛いですわ! 信じらない! この女を連れて行きなさいっ! 公爵夫人に手を上げたわっ!! 極刑よぉぉ!!」
「だ、大丈夫か! シノアぁ!! おのれっ! こんの小娘がっ、どこの家門だ!! 名を名乗れ!! この様な無礼は許されんぞ!!」
 
 多分シノアの父親と思われるギラギラして小太り親父が、娘に寄り添い激高してる。
 成り上がりの男爵なのに随分偉そうだなあ。

「はっ、無礼と言うならそちらの方ではなくて? 私はベクルックス辺境伯家の親戚よ。それにアルファルドを愚弄するなんて……皇族侮辱罪に値する発言だわ」

「べ、ベクルックス辺境伯家……」

 私の発言に小太り親父の方は顔が青褪めてる。
 まだこっちの方が立場をわかってるみたいだね。ベクルックス辺境伯家は侯爵家と同等の地位があるし、立場で言えば公爵家にも劣らないんだよね。

 ベクルックス辺境伯……名前お借りしました。
 シリウスに散々お礼をさせろってしつこく手紙送って来てるから、今ここで使わせてもらうね!

「辺境伯が何よ! 私は公爵夫人なのよ! それにコイツが皇族? どこがよ!! 皇帝陛下にも見放されてるのよ!? そんな不気味な嫌われ者の何がいいの!?」

 シノアは相当ばかなのか、まだ妄言みたいなことを言ってアルファルドを酷く罵ってるし。許せないッ……

「彼の魅力がわからないなんて子供ね? 爵位なんて大した価値はないの。彼ほど私を夢中にさせる人はいないわ」
 
「し、信じらんない!! 頭おかしいんじゃない!?」

「それはそっちでしょ。公爵様をここまで侮辱し、虚偽の発言をしているんですもの」

「うっさいわね! こんな落ちぶれた公爵家なんて怖くもなんともないわっ! 早くこの女を捉えて!!」

 倒れながら床で頬を押さえてまだギャーギャー喚いてる。
 ハァ……、本当にうるさい。話も通じないし、相手してると疲れてきちゃうよ。

「あら? まだ煩いのが飛んでるみたい……もっと強く叩き落さないと、静かにならないかしら?」

 腕を組んでニコッと笑って、吹っ飛んだシノアの前までカツカツとゆっくりと歩いていく。

「ヒィッ! こ、こ、来ないでっ!! お父様っ、この女を追い払って!!」
「い、いくら辺境伯家でも、わしの娘に手は出させん!!」

 私に掴み掛かろうと飛び掛かってきた小太り男爵を避けようとしたら、私の前に庇うようにアルファルドが立ち塞がった。

 ん? アルファルド?

「…お前ら……いい加減にしろっ! こいつに手を出す奴は許さん! 八つ裂きにしてやるッ……」

 掴もうとした手をアルファルドが握り締めて、音が出るくらいバキバキと握りしめてる。
 しかもすごく怒ってるのか、アルファルドの体から殺気が滲み出てるし。
 うわあ……、アルファルドがめちゃくちゃカッコいいッ!

「ぎぃあぁーー!!」

 断末魔みたいな悲鳴を上げて、そのまま床に倒れ込んだ男爵。これは確実に折れてるね。

 アルファルドが作り出した火の壁が親子を二人を囲んで、じわじわと狭まってきてる。

「や! 嘘っ……なに!? も、燃えちゃうじゃない!!」
「グァッ! はぁ……く、そ……」

「今すぐ公爵領から出ていけっ! さもなくばこの場で息の根を止める!!」

 アルファルドは片手を上げて炎の渦を出してる。
 
「ヒィィ!!」
「くっ! このっ、覚えてろよー!!」

 片腕と頬を押さえた親子は逃げるように火の壁を潜って、服を燃やしながら出ていった。

 一気に館内が静まり返ってる。

 ふぅー……、やっとどっか行ったし。

「アリス!」

 背に庇ってたアルファルドは振り返って屈みながら、腕を伸ばして迷いもなく私の身体を抱きしめてくれた。

「アルファルド……」

 体を少し離して、間近で私の顔を見ながら心配そうに聞いてくれる。
 
「…怪我はないか?」
「うん。平気だよ!」
「……そうか」

 いや、むしろあっちの方がかなりの被害だと思うよ。

 ホッとしたみたいにまた力を込めて、腕の中に閉じこめてくれる。
 こんなに心配してくれるなんて嬉しすぎる!
 しかも人目も憚らずひたすら抱きしめてくれてるし。

 ちょうどアルファルドの心臓に私の顔が押し当てられてて、早く動いてる音が耳に響いてる。

 アルファルドが心配して、しかも庇ってくれたし……こんなふうに抱きしめてくれるなんて。色々頑張った甲斐があるよ!
 あぁ……もぅ、めちゃくちゃ幸せだ……!

 突如周りから拍手が巻き起こる。

「いや、これは驚きました!! なんと素晴らしく肝の据わった女性だ! 今までの鬱憤も吹き飛びましたぞ!! しかもベクルックス辺境伯家の親族のご令嬢とは……なるほど、流石ですなっ!!」
「奴等は前々から態度が酷く、公爵様にも我等にも嫌がらせの数々をして来ましたが……しかし貴族なので手が出せませんでした……」
「あれほど胸がすくことはありませんぞ! お見事っ!! 見ていて心底スカッとしましたぞ!!」
「公爵様! 見直しました!! さすがはドラコニス公爵家の御当主だ!!」

 その場にいた皆が称賛してくれて、なんだか擽ったい気分。これでアルファルドの心の負担を減らせたかな?

 これにて一件落着だね!
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