冬来りなば、春遠からじ ~親友になった悪役公爵が俺(私)に求愛してくるけど、どうしたらいい…?

ウリ坊

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リブラ星夜祭 4

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 準備中のみんなには悪いけど、私は湖の畔まで足を伸ばしてた。
 
 うわぁ~……、すごく綺麗な湖。
 風もなくて水面みなもも揺れてないから、覗いた自分の顔も鏡みたいに映ってる。
 
 ただ残念なのは、湖の周りに倒木が多いことかな……
 この広さを手入れするのは大変だよね。
 しかも老人ばっかりだから重い木とか持ち上げて運ぶのも一苦労だろうし。

 このくらいならいけるかな?

 両手を胸の前まで広げて、風魔法を発生させた。
 普段一纏めにしてる自分の亜麻色の長い髪も、サラサラと風に吹かれてふわりと舞い上がってる。

 補助魔法も極めたからこのくらいの量なら余裕だね。
 風を倒木の周りに発生させると、ふわりと木々を宙に浮かせた。
 かなり微細な魔力操作が必要になるから、結構神経使うんだよね。  
 湖全体の倒木を持ち上げて、風を操り空中で一箇所に纏めて湖の空いてるスペースにどんどん積み重ねていく。

 ふぅー……、こんなもんかな?  
 うん、随分スッキリしたね! これなら湖の周りも問題なく歩けそう。

「…アトリクスっ!」

 声が聞こえて振り返ると、すぐ脇に建ってる公爵邸の上の窓からアルファルドがこっちを見てた。
 お仕事してるかと思ってたのに、驚いた様子でこっち見てる。 
 建物のすぐ側まで寄って、下からアルファルドのいる上の階を見上げた。

「あ、アルファルド! どうしたの?」
「…今のは……なんだ……?」
「え? 風魔法だけど…?」
「…あれが、風魔法……」

 アルファルドは不思議そうに呟いてる。
 そういえば私って、アルファルドの前で魔法使ったことほとんどないから珍しかったのかな?

「…ちょっと待ってろ! そこから動くなっ」

 急いだみたいに窓から引っ込むと、しばらくして公爵邸からこっちへ急いで向かってきた。

「どーした……、っ!」

 走ってきた勢いのまま私を抱きしめる。

「えぇ?! ちょっと、なに??!」

 いきなり積極的過ぎ!
 また出たよ、アルファルドの謎の接触行動。今度はなんだろう……
 まるで何かから隠すみたいに自分の身体で私を隠して、アルファルドはジッと湖の水面を見てる。

「……大丈夫か……」

 しばらく見てたけど、ホッとしたみたいに腕の力を抜いた。

「アルファルド? 一体なんなの? 急に……」

 親の敵みたいな勢いで湖を睨んでた。
 訳が分からなくてアルファルドに質問するけど、アルファルドは体を離してまた湖を見てる。

「…この湖には、古くからの言い伝えがある……」

 アルファルドの話によると、天女の羽衣みたいな伝説が存在してるらしい。 
 かなり昔、この湖から女神様が現れたんだって。その女神様に恋した領主が女神様を湖に返さないように湖の水を汚したら激怒して、領地に災いを起こしてそのまま消えちゃったらしい。

「…お前も、消えるのかと思った……」

「えーっと、ちょっと待って……! そんなわけないでしょ? 私はただの人間だから…」

「…わかっているが……」
 
 で、要するにアルファルドには私がめ、女神に見えたと……
 あぁー!! なんなの、この羞恥プレイ! 恥ずかしくて仕方ないんだけど! アルファルドが純粋過ぎて、赤面が止まらないよ!
 
 少し触っただけで怯えたようにしてるのに、こういう時だけは積極的に触れてくるし。
 なんでこんな居たたまれない気持ちになるんだろう……

「よく見てて? 私って補助魔法しか使えないけど、結構極めてるから!」

 さっきと同じ要領で近くにあった木の葉を何個も浮かべる。風が舞い上がり、私達の周りを木枯らしみたいにくるくる旋回させた。
 そのまま魔法を解くとハラハラと木の葉が舞い落ちてきてる。

「ねっ? わかった?」
 
 ニコッと笑ってアルファルドを見上げるけど、ジッと私を見たまま動きが停止してる。
 舞い落ちてくる木の葉がアルファルドの髪にも着いて、手を伸ばすけど、ミラの姿だとどうしても届かない。

「アルファルド、ちょっと屈んで」

 止まってたアルファルドは、ハッとしたみたいに動き出して姿勢を低くしてくれた。
 髪についた葉っぱを取ってアルファルドに見せた。

「ほら、ついてたよ。ダーリン」
「…は?」
「だって……、いつまでもアトリクスって言ってるし。アリスって呼んでくれないなら、ダーリンとハニーで呼び合うしかないよね?」
「…い、いや……」

 めちゃくちゃ嫌そうな様子のアルファルド。
 アルファルドがハニーって呼んでる姿を想像して思わず笑っちゃう。
 絶対言わないよね、ハニーだなんてっ。

「…あ……、アリス」
「はい、もう一度!」
「…アリス」
「ハハッ、良く出来ました! その調子でここにいる間はちゃんと呼んでね?」
「…あぁ、わかった」



 公爵邸の窓からこっちの様子を微笑ましく見てたベッテルさんとリタさん。

「旦那様って完全に尻に敷かれるタイプだね」
「その様だね……」

 この二人の会話までは私達には聞こえなかった。
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