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リブラ星夜祭 1

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 それからあっという間に時間が過ぎて、春も終わりに近づいてた。

 そしてアルファルドと約束してたドラコニス公爵領のお祭り、リブラ星夜祭の当日になってる。

 オクタンにバレると大変だから、また外泊許可を何日か貰って公爵邸近くの宿屋に泊まって準備を整えてる。

 この日の為に密かにずっと準備してた。

 色々道具も揃えて、お手入れも欠かさずやって、服もわざわざ注文して……
 
「よしっ、これでオッケーかな?」

 鏡の前で何度も何度も自分の姿を確認する。

 いつもは後ろで一本に縛ってる、腰まで真っ直ぐに伸びた亜麻色の髪も下ろして、華美にならない程度に耳の横で片方だけ髪飾りを付けた。

 お化粧はホントに気持ち程度に抑えて、服も白ベースの淡い感じのふわっとしたワンピースドレスで、腰辺りがきゅっと締まってる物を着てみた。
 まだ少し寒いから長めのブーツと、ちょっと高貴な感じに見える薄い紺色のロングコートを羽織ってる。
 装飾品は右手の指輪以外は付けてない。
 ちなみにこの指輪と髪飾りはアウリガル王国で買ってきた物。どっちにも黒曜石が嵌め込まれてる。
 
 うわぁ~……、久々の女の子。アルファルドがどんな反応するか楽しみー。
 
 女の子に興味なさそうだし……どうなんだろう?
 反応が怖いような……楽しみなような……
 でも、せっかくアルファルドが誘ってくれたから、色々な言い訳でこじつけて女の子で行こうと思ってる。これ以降はどんな理由があっても女には戻らない。これっきりの予定。

 姿見に自分の顔を近づける。

 アトリクスでもミラでも基本の顔はほとんど変わらないんだよね。わりと美人の分類に入ると思うんだけどなぁ。
 ミラの方が女の子な分、優しそうな顔付きかな? 私が見た感じだと大した差はないけど
 身長も15センチくらい縮むから、アルファルドとの身長差は結構あるだろうなぁ……
 胸も結構出てるし、アトリクスの時より身体つきもくびれもハッキリしてる。女の子の身体だよね。
 その前にアルファルドに受け入れてもらえるか疑問だけど。

 はぁ…………、すごく緊張してる。

 早起きして朝からもう何度も鏡の前に立って見返して、落ち着かないけど、そろそろ公爵邸に行かないと。
 スー、ハーと深呼吸してドキドキしてる鼓動を落ち着かせた。
 小さめのバックを肩から掛けて、ダークアイテムとか男物の着替えとか色々入れた手提げの鞄を持っていざ出陣!!


 宿屋を出て公爵邸へと向かう。
 緊張しながらゆっくりと足を進める。

 うぅ……、やっぱりやめとけば良かったかな……
 でも時間もないし、今更アトリクスで行くにも準備なんて全然してないから……

 色々考えて街を歩いていると、通りすがりの男性陣が私を見て振り返ってることに気付いた。

 うーん、逆に新鮮な反応だなぁ……変な感じだけど。
 アトリクスの時だと女の子の視線が多かったからね。

 本来の姿で街に出るのなんて何年振りだろう……女の姿でもちょっと楽しいかな。
 




 ◇




 無駄に広い公爵邸までの荒れた庭園を抜けて、公爵家の扉をノックした。

 うっ……やっぱり緊張する……
 またスーハー深呼吸してると、しばらく扉が開いた。

 当然私がいると思って扉を開けてくれたベッテルさんの反応がまず面白かった。

「ようこそ、いらっしゃ……い……――!!」

 まずここでベッテルさんが硬直してた。

 次に準備してたであろうリタさんが異変に気づいてやってきた。

「どうしたん……だ……――いっ!?」

 ご老人二人は扉を開けたまま、口も目も開いたままで、ついでに時間も止まってしまったみたい。

「おはよう御座います。ベッテルさん、リタさん。今日はお世話になります」

 ニコッと笑って挨拶する。

 女だと声が高くて変な感じ。
 こっちが本当なんだけど、アトリクスに慣れすぎちゃってたまにしかこの姿になってなかったから、すっごく違和感を感じる。

「え……? あの……、アートに似てるけど、どこのお嬢様で御座いましょうか??」

 リタさんが驚いた顔のまま半信半疑で私に質問きてる。その様子がまた可笑しかった。

「いや、アトリクスで合ってます。リタさん」
「あ、あ、あ、あ、アート??! 本当に、アートなのかいっ!!??」
「こ、これは!! なんと! まぁ……」

 ようやく時間が動いたのか、驚きの表情はそのままで私に詰め寄ってくる。

「ハハッ、そうですよ。驚きましたか?」

 二人の反応が面白すぎて、それだけで結構満足しちゃった。

「いや、ちょっ!! どういう事だい?!」
「驚いたなんてものでは……」
「言ったじゃないですか。気合入れてくるから驚かないでって」
「でもさっ! そんなの、まさか……こんな姿で来るなんて思わないよっ!?」
「いやはや……人生で一二を争う驚きでこざいますよ……」

 玄関先でワイワイやってたら、階段から降りてきたアルファルドが騒ぎを聞いてかこっちにやってきた。

「…どうした……?」

 領地のお祭りだからか、きちんと正装したアルファルドの立ち姿はカッコいい。
 髪は相変わらず鬱陶しい前髪のままだけど、背が高いしスタイルはすごく良いからそれだけでも様になる。
 ドラコニス公爵家の家紋の入った濃紺のマントも着けてて、アカデミアの制服とはまた違った良さがある。
 しかも服も同じ白と紺系で、合わせたみたいでちょっと照れるな。

「よろしくな、アルファルド」

「――……」

 ニコッと微笑んでアルファルドを見るけど、やっぱりアルファルドも私を見て硬直してる。
 
「ちょっと、旦那様!! アートだよ!? ねぇ、アートぉ!!」
「えぇえぇ、アートさんです!」

 いや、そりゃあそうだよね。
 私だってアルファルドが女の姿で来たら、天地がひっくり返るくらいビックリするよ。
 
「………あ、……アト……リクス……?」

「おぅ、そうだ。みんな驚いてくれて面白かったぜ?」

 腰に手を当ててニッと笑うと、アルファルドは口元を押さえて後ろによろけてる。

「だ、旦那様!? ちょいと、しっかりしなよっ!!」
「お気を確かにっ……!」

 慌てて駆け寄る二人をよそに、アルファルドは踏み止まってまたまた私の方に顔を向けた。

 ロングコートとワンピースドレスの裾を両手で持ち、頭を下げて久々の貴族式の挨拶をする。

「ドラコニス公爵家の皆様、本日はお招きに預かりまして誠に光栄ですわ」

 頭を下げるとサラサラと肩から髪が落ちてくる。
 
「至らぬ点も多々あるかと存じますが、仮の姿の為……どうぞご容赦くださいませ」

 姿勢を戻すと、こっちを呆然と瞠目しながら見てる三人に向けて優雅に微笑みを向けてみた。

 しばらく膠着状態でお互い見合ってたけど、いい加減痺れを切らして声をかけた。
 
「さて、そろそろ行こうぜ? 早めに出発しないと遅れるぞ?」

 腰に手を当てて気を取り直して催促するけど、アルファルドもリタさんもベッテルさんもまだフリーズしちゃって動かない。

 うーん、面白いけど……やっぱり失敗だったかな……
 いつまで経っても進まないや。

 この後、馬車に乗り込むまでもう少し時間がかかってしまった。
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