139 / 392
ドラコニス公爵家救済計画 10
しおりを挟むパチッと目を覚ますと、目の前に見慣れた前髪の人物。外も薄っすら明るくてよく見えてる。
んー……、あれ?
しばらく頭が追い付かなくて、ぼけ~……っとしながら濡羽色の黒髪を見てた。
なんで、一緒に寝てるの?確かにソファーで寝たはず……
天井向いて規則正しい寝息を立ててるアルファルドを見ながら考える。
どう考えてもアルファルドが移動させたんだよね。
なんでだろう……アルファルドってやっぱりわからないなぁ。
掛け布団も持参して掛けてたから、そのままほっとけばいいのに。
これは不可抗力だからね、エルナト先生。私はちゃんと対策したよ。
でも嬉しく思ってる自分ももちろんいて、アルファルドが寝てるのを良いことに、横向きになってぴったりくっついてぎゅっと抱きついた。幸いなことにアルファルドはちゃんとガウンを着てた。
はぁ……、幸せー……
アルファルドに抱きついて寝れるなんて、頑張ってきた甲斐があるなぁ。
暖かくてがっしりしてて、人の体温てなんでこんなに気持ち良いんだろう。
こんな時でもないと自分から抱きつけないのがツライな。
友達だから当たり前なんだけどさ。だいぶ接触も増えてきたけど、あくまで友情の範囲だし。
アルファルドから触れてくるのはいいけど、私からはできないし……歯止めが効かなくなりそうだからなぁ。
な~んて考えてたら、アルファルドが急に動いて横向きになった。そのまま腕が私の身体に巻き付いてきて引き寄せられる。
「――!」
お互い横向きで抱き合ってて、アルファルドが力込めて抱きしめるから、私の顔がアルファルドの胸元に押し付けられてる。
寝ぼけてやってるのか、そのまままた頭の上で寝息が聞こえる。
完全に腕の中に閉じ込められた状態。
え……っと、これはどうすればいいの?
おいしい状況なのに何もできない。
でもアルファルドにピタッと寄り添って目を閉じる。
今だけだからいいかな……
この温もりが私のものになるわけじゃないから、せめてこの瞬間だけでも一人占めしたい。
目を閉じながらアルファルドの背中に手を回した。
またウトウトしてきて緩やかな眠気に襲われて、目を閉じたまま私は意識を手放した。
◇
「…アトリクス」
「……ん……」
薄く目を開けたら、目の前に喉仏と鎖骨が綺麗に見えてて、寝ぼけてそれに頭を擦り付けた。
「…まだ寝るのか」
「んー……? う……ん。ねる……」
気持ちいい微睡みを感じて、思ったまま口から言葉が出ちゃってる。
だってふわふわしてるみたいにすごく心地良い。
体が程よく締め付けられてて、寄り添ってる体もまた暖かくて幸せすぎ~……
「…お前…」
すごく無防備にニヤけながら寝てたと思う。
おでこを大きな手で髪と一緒に梳かれるみたいに撫でられると、もう天にも昇る心地。
「ぁ……気持ち…いい…」
「……アト…リクス…」
「ん……もっ…と……」
おねだりしながら薄っすら目を開けたら、あの長い前髪が見えて一気に目が覚めた。
「――っ!!」
一瞬にして身体が強張って、目を開いたまま停止した。
カァーと血が上ってきて、見る間に顔が赤くなってくのがわかる。
うわあ~!! なんてことしてんの私!?
アルファルドに、もっと触ってって催促するなんてっ……、めちゃくちゃ恥ずかし過ぎるぅ~!!
「あ、あ……アルファルド……ごめん……」
「…起きたか?」
「う、うん……その、悪い……寝ぼけてた……」
うぅ……、私ってば危機感無さすぎ……
とっさに視線をアルファルドの首元に向けて、恥ずかしさに悶えた。
「…俺は、気にしてない」
なんでもないみたいに言われるけど、気にしてほしいなあ。
これを当たり前だと思ってほしくないし。こんなの普通の友達のすることじゃないよね。
思いっきり抱きついてた身体も離して、適度な距離を空けてみる。
「いや、ホントごめん。俺、お前と一緒に寝るとダメなんだ。だからソファーで寝てたのに……」
「…嫌なのか」
「違うって。嫌じゃないし……。むしろ逆だ、逆」
「…逆?」
アルファルドって、わざと私に言わそうとしてるの?
ここまで言えばわかると思うんだけど、やっぱりアルファルドは言葉にして言わないとだめなんだよね。
「俺はお前がす、好きなんだぞ……一緒に寝たりしたら危険なんだって」
こんな告白みたいなこも、いまさら言うのが恥ずかしい。
もうアルファルドに何回好きだって言ったかな……まぁ、あくまで友情の範囲だけど。
顔を赤くしながら隣で横になってるアルファルドをチラッと見る。
「…危険? 何がだ?」
よくわかってない感じのアルファルド。首を傾げて私を見てる。危険の意味がわからないみたいだねー。
「え……? いや、……だから……その……」
アルファルドの貞操が……
そこまで思って、バッと飛び起きた。
「…ど……うした?」
「お前今日仕事だろ!? 行かなくていいのか!? もう結構いい時間だぞ!」
壁にかけてある柱時計を見たら、かなり遅い時間になってる。
上半身だけ起き上がって、慌てて寝てるアルファルドに視線を落した。
アルファルドは慌てる様子もなく、横向きで肘ついたまま私の様子を見てる。
「ギルドは朝混むし、割の良い仕事は早めに取られちゃうだろ? 俺のこと気にしないで行ってくれて良かったのに……!」
アルファルドも体を起こして私と同じ目線になる。
「…随分、詳しいな……」
あっ……、何も考えないで言っちゃった。
私も休みの日はなるべくシリウスになって冒険者として活動してるし。
最近は休みがちだけど。
ベッドの上で起き上がったまま、慌てて誤魔化した。
「あー……まぁ、な。行かなくていいのか?」
「…たまにはな。元々今日は、領地へ行こうと思っていた」
「領地……ドラコニス公爵領か……」
ドラコニス公爵領は帝国の南側に位置してる。
領地の広さで言えば帝都よりも広大で、ドラコニス、アンキロス、ポルックスの三大公爵家の中でも一番の面積を誇ってた。
先代のドラコニス公爵時代までは、序列一位の繁栄を築いていたくらい凄かった。
でも、今は……
老人しかいない寂れた領地。この十数年で一気に過疎化が進み、若い世代もほぼいない。
「そっか……お前も色々と忙しいな……」
「…いや。リブラ星夜祭が近いから、その準備に行かないといけない」
「リブラ……? なんだそれ??」
初めて聞くお祭りだ。
そんなイベントあったかな?
帝都での星祭りはあるけど、それとは違うのかな。
不思議そうな顔して見てる私に、アルファルドが説明してくれる。
「…ドラコニス公爵領の都市リブラで行われる祭りで、領地の豊穣と安寧を願うものだ」
「へぇ~……」
話だけ聞くとどこにでもありそうなお祭りだな。
ドラコニス公爵領か……そういえば行ってみたことはなかったなぁ。
なるべくアカデミア入るまでアルファルドと接触するの避けてたし。
なんて考えてたら扉をノックする音が聞こえる。
「…なんだ」
「おはようございます。旦那様、アートさん。そろそろ準備の方をお願い致します」
扉の向こうから声をかけてきたのはベッテルさん。
「…あぁ、今行く」
「ベッテルさん、おはようございます! 遅くなってすみません!」
「いえいえ、とんでもございません。ゆっくりお休みになられていたようで、何よりでございますよ」
結構時間が経ってるし、朝食の時間だってとっくに過ぎてる。ベッテルさんがいなくなると、私は本格的に起き出した。
「ゴメンな、アルファルド。俺このまま帰るから、気にしないで準備してくれ」
慌ててベッドから降りて、脇に置いてある荷物のとこまで歩く。
着てた服を脱ぎながら、素早く制服に着替えて帰る準備完了。
「…急ぎじゃないから気にするな。朝食くらい食べていけ。リタがうるさい」
自分が持ってきた掛け布団とか丸めてまとめてると、アルファルドもベッドから降りて着替えながら声をかけてくれる。
アルファルドの着替えをドキドキしながら横目で見て、襲いたい欲望を抑えながら会話を続けた。
「でも……」
着替え終わったアルファルドが、二の足を踏んでる私に近づいてくる。
「…ほら、行くぞ」
「ん……、うん……」
「…来い」
立ち上がって荷物を背負った私の腕をアルファルドが掴んで連れて行かれた。
なんだか連行されてるみたいな気分。
応援ありがとうございます!
10
お気に入りに追加
311
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる