冬来りなば、春遠からじ ~親友になった悪役公爵が俺(私)に求愛してくるけど、どうしたらいい…?

ウリ坊

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冒険者 火炎龍編 3

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 飛距離が伸びたおかげで、すぐに火炎龍のいる洞窟までやって来れた。
 上空から確認するけど、その姿は見えなかった。
 
 切り立った山のすぐ下に洞窟があって、その目の前に往路が通ってる。
 隣は大きな川が流れてて、確かに迂回路するのは無理だよね。脇道もないし。

 風魔法を下から発生させて、静かに地面へと着地した。
 洞穴みたいな大きな洞窟へと足を進める。
 
 さてと、やりますか!!

 デュランダルを背中から抜いて、薄暗い洞窟の中へと入っていく。
 相当広い洞窟だけど奥行きはあんまり無くて、火炎龍はすぐに見つかった。

「ギャワ……」

 飛ばれると厄介だからここでケリをつけないとね!

 デュランダルを構えてから風魔法を使って、最高速で火炎龍に向かう。

 まず狙うのは眼!

 鋼のように硬い表皮と鱗が邪魔するけど、デュランダルにはそんなの関係ない。

 ザンッーー!!

「ギュワッ!! ギャワーー!!」

 左眼を潰すと痛みにのたうち回るみたいに火炎龍が狭い洞窟で暴れ出す。
 数メートル後ろに着地してまたデュランダルを構える。すると、長い尻尾が凄まじい勢い振り下ろされて私の身体に直撃する。

「――グッ!!」

 咄嗟に強化かけて構えたけど、洞窟の壁に激突する。岩肌の壁にめり込みパラパラ……と身体の周りの岩が下へ落ちていく。

「クッ! ……ハァ……」

 やっぱりドラゴンは手強い。 

 岩肌から抜けると腰に差してあるポーションを取り出して、仮面をずらして一気に飲んだ。
 すぐ身体が熱くなってきて、体力も全回復する。体中の細かな痛みもスッと引いていく。

 その間に火炎龍は翼を広げようとしてるけど、洞窟内じゃ無理。
 諦めて洞窟いっぱいに口を大きく広げて、喉元に炎の渦を造ってる。
 目の前が暑くなって、洞窟内が一気に明るくなった。

 来るっ! ドラゴンブレス!!

 私はデュランダルを構えて、手元に無力化魔法を流す。
 これは無属性の魔法剣マジックソード
 広範囲に魔法を打ち消すより、この方が魔法効率が良いんだ。ポルックス公爵がやってるの見て覚えた。
 
 無力化魔法を剣に纏わせて、迫りくる高熱のドラゴンブレスに向かって真っ二つに切り裂いた。
 
 私の身体を中心に炎が消え去って、周りの炎は洞窟外へと通り過ぎていった。

 炎を放った後でも、私がその場に立ってると火炎龍は思ってなかったみたいで、一瞬の隙が生まれた。

 間髪入れず今度は足元に入り込んで、後ろ足を斬り落とした。
 
「ギャッ!! ギャワワーー!!」

 青い血を垂れ流しながら、洞窟内をのたうち回る火炎龍。

 バサバサ翼を動かすから、上が崩れて来て土埃や岩石を巻き込みながら洞窟が崩落していく。

 急いで後ろへ飛び退いて、足に強化をかけて一気に洞窟から外へ出た。

 一瞬しか見えなかったけど……洞窟の奥に人の骨があった…。
 たぶん、攫ってきてここでそのまま……

 想像するだけで怒りが湧いてくる。

 身体中に抑えきれない禍々しい殺気を纏わせて、崩落した洞窟から出てきた火炎龍が僅かに頭を下げて怯んでいる。

「ギャ……ギャワ!」
 
 鋭い鈎爪で攻撃してくるけど、強化身体全体にかけてデュランダルを構えて防御しながら弾いていく。

 人を襲うのも、人の命を奪うのも、絶対に許せない!!
 大切な人を奪われた者の哀しみ……その命を持って償いなさい!!

 デュランダルを片手に飛び上がり、背中に着地すると、まず飛べないよう翼の根元を切り裂いた。

「――ギャワッ!!」

 今度は地面に着地して両手に持ち変えると、風魔法を発生させトップスピードで様々な部位を切り刻んでいく。

「ギャ!! ギッ―――!!」

 洞窟内に火炎龍の断末魔が響いてた。



 ◇



「はぁ……はぁ……」

 ハッと気づくと、目の前に絶命した無惨な火炎龍の残骸が横たわっていた。
 匂いもかなりキツくて、死臭が漂って青い血の海が出来上がってた。

 あ、しまった……素材が……

 ドラゴンの素材はかなり貴重で、色々な部位が高値で売れるのに、怒りに任せて戦ってたら見るも悲惨な事になってる。

「ハァ……」

 地面にデュランダルを突き立て、立ったまま仮面を押さえる。ひどくやるせない気持ちが自分の中へと押し寄せる。

 わかってる……やり返したって意味ないって。
 特に前世と違って、この世界ではこんな事で溢れてる……
 
 討伐したのに、虚しさだけが残った。

 洞窟内もバラバラに崩れて、崩落した瓦礫がまだパラパラと音を立てて落ちてきてた。

 デュランダルを地面から抜き去ると、倒れた火炎龍の部位を何個か切り落として袋に詰めてからその場を後にした。



 ◇



「あっ……ああ……しっ、信じられん! この短時間で、あの伝説級の火炎龍を……」

 ベクルックス辺境伯邸へと戻ってきた私は、庭先で辺境伯に倒した火炎龍の角を差し出した。

 ベクルックス辺境伯は角を震える手で受け取りながら、私を驚愕の表情で見ていた。

 青褪めて化け物でも見るみたいな顔。
 人知を超えた力は例え助けられたとしても、やっぱり人に畏怖と恐怖心を与えてしまうよね。
 
「いや……、シリウス卿……すまない! この御恩は生涯忘れることはない!!」

 ベクルックス辺境伯はまた私に深々と頭を下げる。仁義に厚い人だから、余計に引け目を感じるんだろうな。

 私は国から要請されて来てるだけなのに……
 
「貴方が噂に名高いシリウス准伯爵様でございますか?」
 
 穏やかな口調で辺境伯邸から現れたのは、緩く巻いたブロンドを靡かせたとても綺麗な女の人だった。


 ――――あ……


 その人はこの世界では珍しい車椅子の様な乗り物に乗って、後ろから侍女がその乗り物を押していた。

「セリーナ! 平気か!? 外へ出てっ!!」
「ふふっ……、貴方の心配症には困ったものですね」
「いや、しかし……」

 セリーナと呼ばれた女の人は私のほうまで乗り物を押してもらって、手前で止めてもらうと深く頭を下げた。

「この様な見苦しい姿で失礼致しますわ。夫のゲンマと共に心より感謝申し上げます。……私共ベクルックス辺境伯家では、受けた御恩は生涯をかけてお返し致しますわ」

 頭を上げて花のように可憐な微笑みを浮かべるセリーナさんは、儚げで光を受けた朝露のように綺麗だった。

 だけど次の瞬間には顔を真っ青にして、乗っていた椅子の背もたれに寄りかかってしまった。

「セリーナ! セリーナ…無事かっ!」
「はぁ……、っく……え、えぇ。少し……目眩がした、だけです……申し訳……ございません……あなた」

 ベクルックス辺境伯が慌てた様子で急いで側まで駆け寄ってる。
 セリーナさんを軽々抱き上げると、こっちの方が苦しそうな顔で目元にキスをして自分の胸に抱き寄せてた。

 セリーナさんはふぅ……って息をはいて、立っていた私に向かって謝罪してくる。

「シリウス……准伯爵様……。情けない所をお見せして……申し訳ございません。火炎龍との戦いで……不覚にも、足を負傷してしまいまして……」

 自分の動かない足にそっと手を添えて気丈に話してるセリーナさん。
 スカートで全部は見えないけど、巻かれた包帯の一部が見えてて、真っ白な布に赤い血が滲み出てる。

「……医者にも診てもらいましたが、もう私が地に足をつけることは叶わないようでございます。ですので、この様な姿でも……ご容赦くださいませ……」
 
「――」


 庭先で立ったまま、拳をギュッと握りしめる。

 悲しいはずなのに……絶望的なくらい、悲しくて、辛くて、泣きたいはずなのに。
 なんて凛として潔い笑顔なんだろう。
 あの時の私は……受け入れる事も……笑うこともできなかった……

 拳を握ったまま下を向いた。
 腰に差してあった小瓶を取り出して、手に握りしめてこらゆっくり歩いた。

 庭先で辺境伯に抱き抱えられてるセリーナさんの前まで来てから、その拳をセリーナさんの前へ出す。

「シリウス卿? どうされた」
「シリウス……准伯爵様……?」

 セリーナさんは顔色が悪くてまだ辛そうだった。額には冷や汗も薄っすら浮かんでる。

 寝てなきゃいけないくらい怪我の具合が酷いのに……わざわざお礼を言いに出てきてくれたんだ……

 私がさらに拳を前に出すと、セリーナさんは気付いたみたいに口を開いた。

「あ……、もしや……手を出せと?」

 私がコクリと頷くと、セリーナさんは震える両手を私の前へ重ねて出した。

 その手にピンク色の液体が入った小瓶をポトリと落としたら、二人はその小瓶を見て目を見開いてる。

「やっ! これはまさかっ!?」
「あの、この小瓶は??」

 小瓶に気づいたベクルックス辺境伯と、まだ何かわかっていないセリーナさんにくるりと背を向けて、地面を駆けてから風魔法を使って一気に空へと跳躍した。

「なっ! 待たれよっ! シリウス卿ぉーー!!」
 
 ベクルックス辺境伯の声が聞こえたけど、私は構わずにその場を後にした。
 
 もう、これ以上の言葉は重すぎて必要ないよ。
 
 風を切りながら帝都へと向けて空を翔ける。
 もう日も暮れて空は茜色に染まってた。

 過去の自分とあの人を重ねても意味はないけど、せめて愛する人の側で悲しまないように幸せでいてほしい。

 私には叶わなかったから……
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