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冒険者 火炎龍編 2

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 馬車の御者が台座から降りて、ベクルックス辺境伯邸を呼びにいってる。
 私も馬車から降りて、自然豊かな新鮮な空気を体いっぱいに吸い込んだ。

 丘の下の通ってきた街を見おろすしてると、緩やかな丘に一面の緑と自生している青い可愛らしい花が層になって咲いてて、山々の脇には湖も見えてる。

 国境の砦である塀の一部もここに繋がってて、緊急時にはすぐ駆けつけられるようになってるんだ。

 ん~! いい場所だなー……ムーリフも自然豊かなだったけど、ここも住むには良い環境だなぁ。

 卒業後のことを考えると、今から永住地の候補をあげとかないと。

 討伐とは全く違うことを考えながら景色を眺めてると、屋敷の中からベクルックス辺境伯と思わしき人物が出てきた。

「お初にお目にかかるシリウス准伯爵殿。…シリウス卿とお呼びしてもよろしいか?」

 出てきたのは傭兵みたいな体格で、重そうな大剣を背中に担いだかなりの大男。アルファルドより背が高い。
 焦げ茶色の短髪に熊みたい身体で顔にも身体にもいっぱい傷があって、片目に眼帯をしていた。
 
 コクリと私が頷くと、ベクルックス辺境伯は私を見下ろしながら話す。

それがしはゲンマ・リア・ベクルックスと申す。此度こたびの貴殿の協力心より感謝いたす!」

 左手を胸に当てて、頭を下げるベクルックス辺境伯。

 いや、貴方の方が身分が上だからやめてほしいんだけど。
 後ろにズラリと控えた使用人達も同様に一切に頭を下げている。
 
「やっ、庭先で済まない。屋敷へと案内しよう! 入ってくれ」
 
 ベクルックス辺境伯に促されて、辺境伯邸のお屋敷へと入った。

 立派お屋敷で横長だから廊下も先が見えないくらい長かった。廊下や部屋の壁には至るところにモンスターの剥製が置いてあったり、壁にはかけてあったり……さすが辺境伯邸だなぁ、って感心しながら歩いてく。

 ベクルックス辺境伯のあとについて迎賓室へ入って、応接用のふかふかな一人掛けソファーへと腰掛ける。

 目の前のテーブルにはお茶や目に鮮やかなお菓子やデザートも並べられるけど、シリウスの姿だと何も口にできないから見てるだけなんだよね。

「遠路はるばるこの様な辺境までご足労頂き、かたじけない! 早速だかこの地に突如現れた火炎龍について説明させていただく」

 ベクルックス辺境伯の説明によると、一月くらい前から突然国境に出現して居座ってるみたい。
 大きな山の洞窟にいるらしいんだけど、そこは往路が通ってて、隣国に繋がる馬車道らしく他に迂回路もないみたい。
 しかも、たまに街に降りてきて家屋や人にも危害を加えるし、食べ物も奪っていくからほとほと困ってるんだって。

「国境防衛を担う者として不甲斐ないばかりか、帝国の英雄にまで力添えをお願いする始末……某の不徳の致すところだ」

 フカフカの椅子に座りながら前屈みで両手を握り締めてるベクルックス辺境伯。
 いや、火炎龍なんて普通の人間には始末できないし。
 実際問題、辺境伯家の騎士団を持ってしても無理なら、帝国騎士団呼んでも討伐できないでしょ。
 このベクルックス辺境伯家は魔法より武術に秀でた家門で、右に出る者がいないくらい屈強たから、国境警備に関しては数々の武勇伝がある。

 辺境伯を見てれば良くわかるよ。
 しかも仁義に厚い人で領民からの指示も厚い。今代の当主である現辺境伯は特にそれが強く出てるよね。

 責任感の強い人ほど自分を追い込みやすいから、下手なこと言えないし。

 ま、私は話せないからこういう時に楽だけど。
 私の呪いの事とか、話せない事は紹介状に書いて貰ってるからさ。
 とりあえず時間無いし、さっさと終わらせますか。

『キにするな。いってくる』

 サッと一言だけ書いて辺境伯に渡した。
 座ってたベクルックス辺境伯が立ち上がり、私に向かって頭を深々下げてる。

 ひぇー……やめて!! 辺境伯に頭下げてもらうなんて……勘弁してほしい。

「着いて早々かたじけない!! 恩に着るぞ!」

 ようやく頭を上げたベクルックス辺境伯に向かって頷いて、火炎龍のいる場所だけ教えてもらう。

「ここから西北西に向かって貰うと、切り立った崖が混在する山がある。ここに洞窟があり、ヤツはそこに住み着いている」

 わざわざ地図を出してくれて、辺境伯邸からの方角も教えてくれた。

 テーブルの上の茶菓子を退かして地図を置き、洞窟の場所に✕印をつける。

「奴の炎は驚異的で甚大な被害をもたらす。巨大な風を巻き起こす翼も、鋼のような鱗も、鋭く刺さる爪も……。恥ずかしい話だが、某の妻や家臣も……それにやられ大怪我を負った」

 辺境伯は余程悔やんでいるのか持ってたペンを粉砕しながら折ってしまった。

「お願いだ! 頼む、シリウス卿!! 奴を……火炎龍を打ち倒してくれ……!」

 項垂れて話す辺境伯は切羽詰まった声で、絞り出すよう
に話してる。

 そっか……そりゃ悔しいよね。
 辺境伯がプライドを捨てて私に頭を下げてるんだもの……私も期待に応えないと!

 
『マカせろ』

 また一言だけ紙に書いて、迎賓室のベランダへと出た。   
 そのまま手摺に乗り上げ、一気に跳躍する。

「やっ!? そこからか行かれるかっ!! 気をつけられよ! シリウス卿ぉーー!!」

 私が出たベランダからベクルックス辺境伯が身を乗り出して手を振ってた。
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