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アルファルドとポラリス

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「あれ? アルファルドは?」

 朝、講堂に入ってきたのに、いつもの席にアルファルドがいなかった。
 アルファルドは徒歩通学だから、いつも朝早く着いてる。だから私もそれに合わせてなるべく早めに講堂に入るようにしてる。
 オクタンがゆっくりだからどうしても遅くなっちゃうんだけど、置いてくと泣きそうな顔するから結局待っててあげてるんだ。

「あ、んと……、どこだろ?」

 いつもいるはずのアルファルドがいない。
 それだけで私はものすごい不安に駆られた。
 どこで何してようとアルファルドの勝手なんだけど、自分の把握できない何かがアルファルドの身に起こってると思うだけで、居ても立ってもいられなかった。

「ちょっと探してくる。オクタンは座っててくれ」
「ん…うん。んと、心配なの?」
「もちろん! 当たり前だろ?!」

 オクタンへの返事も半ばで、走って講堂から出た。
 まだ人もまばらな朝の学内を走って探してる。
 気配探査をアカデミア全域に拡げて、アルファルドと思わしき人物の気配を急いで探った。

 ん……? いつもの裏庭。
 アルファルドが本読んでる場所に、2つの気配があった!

 うそ……、まさかっ……!!

 私は周りに誰もいないのを確認してから、足を強化して一気にその場から跳躍した。

 木と木の上を飛び移り、ものの数秒で裏庭まで着いた。

 ここは人気のない裏庭。
 木々が沢山並んでいる場所。そこの一角でアルファルドはいつも本を読んでる。

 木の上から降りて白いレンガ道を歩いていくと、いつもの木の下でアルファルドが本を読んでた。
 でも、いつもと違うのは、そこに女の姿があったこと!

 しかもあの目立つ白髪は、ポラリスッ!!

 その光景を目にして、私は強いショックを受けてその場から動けなくなった。

 今まで、一生懸命妨害してきたのに……やっぱりゲームの強制力には抗えないの?
 
 身体が震えて力が入らなくなっちゃった。 

 だめ……このまま、ポラリスの事好きになっちゃうの?
 せっかく仲良くなって、距離も近づいたと思ったのに……、やっぱり私より、ポラリスを選ぶの?

 そこまで考えてハッとした。
 選ぶとか間違ってる。
 私は男で、アルファルドの友達で……、何を言ってるんだろう。
 例えアルファルドがポラリスに恋しても……ゲームみたいに振られても、闇堕ちしないように支えてあげればいいだけなのに……

 ポラリスじゃなくても、他の女の子と一緒にいる姿を見たくないなんて。
 ずいぶん欲張りになっちゃったな。

 そのままいつもみたいに、何事もなく話しかければいいだけなのに、なぜかそれができなかった。

 数メートル先の建物の影で突っ立ったまま、2人がいる方向をただ見てた。

「そちらの本は初めて拝見致しました。ロストマジックに興味がおありなんですか?」
「……」
「ご存知ないかと思いますが私は光属性で、自分の魔法について詳しく知りたいと思っているんです」
「……」

 聞きたくないのに、会話が耳に入ってくる。
 
 そのうち始業開始前の予鈴が鳴った。
 なに話してたか全然頭に入ってこなかったけど、ポラリスは予鈴の音でアルファルドとわかれて講堂まで戻って行った。

 あ……もう、行かなきゃ……
 
 普通の友達なら、こんな場面に遭遇したら笑いながら冷やかしたりしなきゃいけないのかな。
 
「…アトリクス? …どうした……」

 立ってた後ろからアルファルドに話しかけられて、ビクッと身体が跳ねた。

 やだっ……、こんな心の機微を悟られたくない!
 
「よっ、こんなとこにいたのか? 探したぜ」

 振り向いて無理やり笑顔を作って、普通にアルファルドに話しかけた。
 アルファルドを見る限り、普段と変わりなさそう。

「…そうか」

 今の接触でポラリスに惚れちゃったかな。

 長い前髪のせいで表情がわからないから、微妙な変化までは読み取れないよ。
 
「……お前が、女の子と一緒にいるなんて珍しいな……」

 どうしても気になったから思い切って聞いてみた。

「…見てたのか」
「いや……、たまたま目に入って……」
 
 思いっきり見てたけど、そんなの知られたくないし、誤魔化すみたいに俯いた。

「………一緒にいたわけじゃない」

 なぜかすごく不機嫌そうに話してる。一見嫌そうに見えるけど。
 でもさ、アルファルドってそっぽ向いたりして分かりづらい表現するから、もしかしてこれも照れ隠しの一つかもしれない。

「――ああいう子が好みか……」
「…は?」

 俯いてたけどバッと顔を上げて、問い詰めるみたいに直ぐ側にいたアルファルドを見つめた。

「お前は、ああいう子が好みなのか!?」

 こんなの全然冷やかしにもならない。ただのヤキモチだよね……
 でも確認しないとどうしても治まらなかったから。

 立ったままアルファルドを見上げて、答えてくれるのをひたすら待ってた。

「…気になるのか」
「うん!」

 頷いて食い気味に返事を返す私。
 そんなの即答だよ! アルファルドのことなら何でも知っときたい!

 どんな答えが返ってくるか怖くて仕方ないよ。
 眉尻を下げて不安げな瞳で、ジッとアルファルドを見つめた。
 ここでポラリスに興味があるなんて言われたら、立ち直れないかもしれない。
 
「…そんな顔、するな」

 アルファルドの片手が私の頬に伸びてきて、包み込むようにそっと触れてきた。

「っ!」

 びっくりして目を大きく開けたまま固まってしまう。
 
 な、な、な、なに!?
 どうして急に触ってくるの?!
 アルファルドって本当にわからない……私の心を弄んでるとしか思えないんだけど!

 でも、アルファルドが触れてくれた瞬間に、心のモヤモヤが跡形もなく吹き飛んじゃった。 

「…あの女が勝手に話してきただけだ。…好みとか、関係ない」 

 前髪で表情が見えないから、どんな顔してるかわからないけど、声の感じだと普段と変わらないように思う。
 
 あの女って……主人公ヒロインに対してヒドい言い方だな。
 そう思う反面、ポラリスに興味無さそうで凄くホッとしちゃった。
 
 アルファルドって手が大きいし指も長いから、私の顔もすっぽり包まれて温かい。

「そっか、ならいいや……」

 思わずポロッと本音が漏れる。
 何がいいのか自分でもわからないや。

 うれしさで笑みが溢れて、安心したように瞳を閉じて、アルファルドの温かい手の感触を堪能してた。
 
「…アト、リクス……」

 ポツリとした呟きに、うっとりと閉じてた目をゆっくり開けてアルファルドの方を見た。

「ん……? どうした?」

 立って私の頬に触れたまま、アルファルドが何か言いたそうに口を開いたのに、また閉じて考えてるみたいだった。

「……いや。…早く行かないと、遅れるぞ」
「あっ、そうだった。やべぇ! 急ごっ!」

 アルファルドから離れて急いで講堂へと向かった。
 後ろからアルファルドもゆっくりとついてきてる。

 とりあえず、ポラリスにはまだまだ恋する感じじゃないのかな?
 それがわかっただけでも一安心だった。
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