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ポーション作り 7

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 家を出てしばらく歩いて、街まで足を運んだ。
 
「あ、アート。どこへ行くんですかな?」
「とりあえずガラス工房へと向かう」
「ガラス工房?」
「あぁ…どうしても注文したい物があるんだ」

 ここムーリフは有名なガラス工房が何件かある。
 シリウスのときは入らなかったけど、たまに町に出たときにはガラス越しに店の中を見てた。
 朝早いからか町はそこまで人はいなかった。
 やってるかな?

 土を押し固めた道を歩いて、私の目的であるガラス工房までやって来た。
 たくさんのガラス細工が窓の外からでも綺麗に並んでる。

 一回入りたかったんだよねー。こういうの見るの大好き!
 店の扉に手をかけて引くと鍵はかかってなかった。
 扉を開けるとチリンッと音が鳴り響く。

 中もたくさんのガラス細工やコップにお皿、花瓶とかとにかく色んな物が置いてある。
 
「いらっしゃいませ!何かお探しですか?」

 店の奥の扉から出てきたのは、意外にも女の人だった。
 エプロンに作業着みたいなスボン姿で、少しふっくらした優しそうな感じの人。
 首にはタオルを巻いてる。たぶん20代後半か、30代くらいの人かな?
 
 私がその人に近づいて、ポケットに入れてあった小瓶を取り出した。

「朝早くすみません。実は、コレと同じ物を作ってもらくて来たんです」

 カウンターみたいな台が設置してあって、その上に小瓶を置いた。
 
「コレは、小瓶ですか?」
「えぇ、そうです。それと同じ物を作ることは可能ですか?」
「はいっ、出来ますよ!あ、紹介が遅れました!私はここの店主で、アモネと言います」
 
 アモネさんはペコリと笑顔でお辞儀をしてくれた。
 私もフードを取って、頭を下げて挨拶する。

「俺はアトリクスと言います。アートと呼んで下さい」

 顔を上げて私もニコリと笑うと、アモネさんは頬を赤く染めてる。
 なんかこういう嬉しい反応も懐かしいな~。

「あ…あ、アートさんですか…よろしく、お願いします」
「えぇ、こちらこそよろしくお願いします。早速ですが、かなりの数が必要なので一日に大体どのくらい製造できるのかお聞きしたいんですが?」
 
 アモネさんは手に持ってた小瓶を目の前まで持ってきて、見ながらうーんと考えてた。

「そうですね…ここの尖ってる形状を丸く仕上げていいのなら、そう難しくはないので…たぶん一日に50~60個ほどは作れるかと…」

 私は台の前に立って顎に手を当てる。

 うんうん、なかなかの製造数だね。1日そのくらいで今から常に作り続けて貰えば、間に合うかな…?

「ちなみに、この家紋を瓶の側面に彫ってもらいたいんですが…」

 私はポケットから家紋の書かれた紙を取り出した。
 台の上に置くと、アモネさんがその紙を手にとって驚いた顔をしてる。

「こ、この…家紋は……」
彫ることも考慮すると、数は減りますか?」

 アモネさんは紙を持ったまま固まった。

「え…あぁ…彫り師は別にいますから、数は変わりませんが……」
「では、お願いできますか?」
「あ…いや…うちでは……」

 明らかに家紋を見て態度が変わった。
 仕方ないと思うけど、やっぱり心が痛いな。

「出来上がった物は言い値で買い取ります。数が増えればその分追加で作り続けて頂いて結構です」
「い、言い値…!」
「えぇ、そちら側で決めて頂いて構いません。ただし、ここでこの瓶を作っていることは決して外部に漏らさないよう、内密にお願いします」

 台越しにアモネさんに顔を近づけて小声で話した。
 
「少し…お時間を頂けますか?ちょっと考えてきます…」
「…わかりました。良い返事をお待ちしてます」

 そのままアモネさんは店の扉の中へと消えてった。

「お…アート、大丈夫ですかな…?かなり向こうは渋っておりましたぞ」
「ま、大丈夫だろ?もしダメなら、初めから断ってるはずだからな」

 十分間くらい待って、また奥の扉からアモネさんが出てくる。

「…お待たせしてすみません」
「いえ、それでどうでしょう?」

 アモネさんは不安そうな顔をして私に返答する。

「……そのお話…お、お受けします」
「─!本当ですか!?ありがとうございます!」

 こっちもちょっと不安だっただけに、色よい返事を貰って笑顔でお礼を言った。
 アモネさんはまた顔を赤くして、もじもじと話を切り出す。

「あ、あの…私も周りには秘密にしたいので、受け渡しは裏口でお願いします。その時にお金も渡して貰えれば…」
「えぇ、構いません。ご希望に添うよう努めさせて貰います。その方がこちらも都合が良いので」

 営業スマイルで話す私を、ポーッとした顔でアモネさんが見てる。
 
「一つお聞きしたいんですが、これは何に使うんですか?見たところポーションの小瓶と似てますが?」

 アモネさんに顔を近づけて人差し指を自分の口に当て、片目を瞑ってウインクした。  
 
「…それは秘密です」
「ひゃっ!」

 どうせその内わかることだけど…今はまだまだこれからだし。
 アモネさんが真っ赤な顔でフルフルと震えてる。

 うーん、私も男がかなり板についてきたのかな?こうやって女の人を誑かすこともできるなんて中々だよ。
 
 後ろにいるタウリが、ジト~っとこっちを見てるけど無視。

「では本日より製造をお願いします。また来週纏めて受け取りに参りますので、それまでよろしくお願いしますね」
「は、はい。あの!アートさんが受け取りに来られるんですか?!」

 アモネさんはカウンター越しに赤い顔して、私の手をぎゅっと握ってくる。
 おお…、なかなか大胆だね。

「俺が受け取りに来たい所ですが、何分忙しくて…こちらにいる従者が受け取りに来ますので申し訳ありませんが…」
「…そ、そうですか……」

 あからさまにガッカリした顔されても…タウリが何だか可哀想。

「時間が出来ましたら、俺も足を運ばせてもらいますよ」

 またニコリと微笑むと、アモネさんは握っていた手に力を入れて首を勢いよく振ってた。



 お店から出ると何だか疲れちゃった。
 でも、これでどうにか準備ができたな…。

 フードを被ると、また家へ戻るのに来た道を戻ってる。

「アート…。暫く見ない内に、ずいぶんと軟派な男になられましたなぁ…」

 私のやり取りをずっと見てたタウリが、私にかなり胡散臭い顔を向けてきてる。

「…仕方ないだろ?ああしないと了承してもらえないし…」
「わしからすれば、仕方ないというより…楽しんでやってるように見受けられましたぞ…」

 さすがタウリ、よくわかってるね!
 私ってば絶対男に生まれた方が性に合ってたよね。
 タウリと歩きながら、両手を頭の後ろで組んでふいっと前を向いた。

「くだらないこと言ってないで、そろそろ戻るぞ」
「はぁ…わかりましたぞ」

 いつまでも疑ってるタウリを無視して、私は家へ足を進めた。

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