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冒険者編 8

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 今日はアカデミアが休日で昨日から2日の外泊許可取って、早朝早くに帝都を離れた。
 平原までやってきて近くの森でシリウスの服に着替える。

 この黒装束も久々だなー。
 最近は冒険者活動もほどほどで…、学生生活を満喫してるからなぁ。 

 最後に仮面を被り、一気に視界が悪くなる。 
 アトリクスに慣れすぎてシリウスになるのが億劫になる。
 でもデュランダルも使わないと腕も鈍るし、感覚を維持するために今日は上級モンスターの棲息地まで行く予定。
 
 また平原まで出ると手をプラプラと振ったり準備運動して、足に強化をかける。
 しゃがんでから一気に踏み込み、風魔法を発生させビューッと風を切りながら跳躍する。
 ここから棲息地までは相当かかる。私がトップスピードで連続で飛ばしてもそれだけで半日はかかるかな。

 木々をすり抜け、前屈みで走りながらピョンピョンと岩肌を飛んで駆け上がると小高い山の頂上までやってくる。そこの1番高い木に登り、太い幹を踏み台にまた一気に跳躍と風魔法で移動を繰り返す。
 
 

 そうやって数時間…ようやく見えてきた。

 この棲息地の周辺に街や集落はない。
 ここ自体危険区域に指定されているから誰も近づかないんだ。
 上空から移動して奴らの巣へと移動する。
 
 腰のベルトに嵌めてあるハイポーションを取り出して、仮面をずらし一気にあおる。
 やっぱり回復薬が豊富にあるとすごく便利!惜しみなく使えるし、いちいちダンジョンで発掘しなくてもよくて楽!
 自分用にも回復薬作って常備してるから、シリウスの時には絶対携帯してるし。

 ふぅー…体力も全回復したし、そろそろやりますか。

 ここに棲息してるのはドラゴン、ワイバーン系の竜族。スタンピード前は自分の魔法が発現してなかったから避けてた場所だけど、今の私は違う。

 切り立った岩肌剥き出しの崖。
 上から下にかけて滝が虹を映しながら勢いよく流れてる。下には巨大な川が流れ、そこにいるのが水龍たち。
 
 何匹いるかな?1.2.3…今いるのは5匹。
 
 水龍は体が水色や青色で、やっぱり水属性の魔法を使う。水中戦じゃ勝ち目はないから、陸上で戦わないと。

 よしっ、行くぞ!!

 止まって眺めていた木の枝を蹴り、龍の巣へと見を投じた。












 ◇















「ふぁー…疲れた……」
 
 川の大きな岩の上で座り込み、シリウスの仮面も取ってすでに3本目のハイポーションを飲む。
 
 空はすでに逢魔が刻。青からオレンジへのグラデーションが美しかった。

 結局狩ったのは4匹。一匹は水中に逃げ込んで出てこなかった。
 魔法も何発放ったかな…。
 魔法の無力化以外の攻撃魔法も覚えたいんだけど、何にしろ未知の魔法だから、なんの技があるのか自分でもわからない。
 だからこそレベルを上げて自動的に覚えるかなって淡い期待を抱いてたんだけど…。

 まだまだ駄目かー…これだけドラゴン狩っても覚えないし、ポーションやハイポーション飲んでも半分も回復しないから、私も相当レベル高いのかな…。 

 岩の上に座って川を眺めてたら、強い気配が川底から上がってくる。
 最後に取り逃がした水龍だ。

 ザバッと水中の勢いのまま上空へ飛び出し、物凄い速度で私へと飛びかかる。
 私も周りの岩場も水龍の水しぶきで水浸しになる。

 脇に置いてあったデュランダルを手に取るにも、水で滑って間に合わない。
 防御するみたいに咄嗟に手を上空へと翳した。

暗黒異次元ブラックディメンション

 言葉が勝手に紡ぎ出され無意識に魔法を唱えると、上空にいた水龍に真っ暗なブラックホールみたいな歪んだ空間が現れ、そのまま成す術もなく吸い込まれていく。
 水龍は空中のその歪んだ暗い空間で藻掻いてるけど、抗えないみたいにのたうち回って…そのまま闇へと消えていった……。

「──な、なに……今の……」

 巨大な岩の上に立ちながら呆然とする。

 水龍が消え去って、周りが滝の音と水の流れる音しかしなくて…。

 自分の手を眺めてる、怖くなってその手が震える。

 私のこの力ってなんなの…?
 水龍を一撃で飲み込むほどの魔法なんて、この世界じゃ考えられない…。

 新しい魔法を覚えられたのは嬉しいけど、力が強力すぎて一概に喜べなかった。
 この魔法もかなりの魔力を消費する。
 さっきハイポーションを飲んだのに、およそ3分の1くらいの魔力が減った感覚がある。

 うぅ…なんかさ、もっと使い勝手のいい魔法って覚えないのかなぁ。これじゃあ人前で魔法使えないよ…。
 
 一気に疲れちゃって、近くの岩場に置いてあった野営道具を見ると、さっき水龍が飛びかかってきた水しぶきで自分もろともびしょびしょになってる。
 色々諦めて、もうアカデミアへ戻ろうと荷物を纏めた。

 途中でアトリクスへと着替え、また跳躍と風魔法を併用して最高速で帝都まで戻って来たけど、もうすでに門限が過ぎててアカデミアの門が閉まってた。 
 アカデミアは魔法結界が張ってあるから、簡単に侵入できないんだよね。

 ハァ…嘘でしょ…こんな時間じゃ宿屋も開いてないし。
 そもそも野営すると思ってたからお金も持って来てない、野営道具はさっきの戦闘で水浸しになっちゃって…どうしよう……。

 そんな時、ふとアルファルドの顔が思い浮かんだ…。

 アカデミアの巨大な門の前で空を仰ぐ。
 ダメ元で行ってみようかな……返答がなかったら、本格的に野宿するしかない。

 私はドラコニス公爵邸へと足を進めた。





  ◇





 コンコンと公爵邸への豪奢な扉をノックするけどやっぱり返答はなくて……。
 当たり前か…もう真夜中だし、返って迷惑になっちゃうよね…。

 もう一度ノックしようとしたけど、手だけ扉に付けて叩くのは諦めた。

「─っくしゅん…!」

 寒い…まだ夜中は冷える気温。
 風魔法と移動で半分くらいは乾いたけど、髪とかはまだ濡れてて服も半乾き。
 最悪だな。とりあえずアカデミア近くの木の上にでも登って休もうかな。

 そう思って公爵邸の扉を後にする。

「──アトリクス…?」

 不意に頭上から声が降ってくる。
 公爵邸の前から声の方向を見上げると、バルコニーにアルファルドが立ってこっちを見下ろしてた。

 
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