上 下
149 / 392

淑女作法部 2

しおりを挟む
'

「これより殿方を愛でる会改め、殿方達を見守る会を始めさせていただきますわ……」

 議長であるモブ令嬢A。
 四角いテーブルを挟み、四方に彼女達は座っている。
 
「では早速、近状報告をしてまいりましょう」

 モブ令嬢Aが上座へと座り、静かに議会が進んでいく。

「はい、議長! レグルス殿下とルリオン様の報告からですわ!」
「えぇ、どうぞ」

 モブ令嬢Aがモブ令嬢Bに話しを促す。
 モブ令嬢Bが席から立ち上がり、テーブルの上の紙を見ながら報告していく。

「最近のレグルス殿下はポラリス様と共にいることが多く、ルリオン様が大変お可哀想で……お二人の邪魔をなさらないよう、わざわざ自らが身を引く形でスッと席を外す様が大変痛々しかったですわ。ルリオン様も近頃はマイア様と仲がよろしいようで……レグルス様との距離よりも近く感じましたわ……」

 モブ令嬢Bはハンカチを取り出し、目元の涙を拭っていく。

「確かにそうですわね……殿下とルリオン様は主従関係ですもの。今後のお二人に期待致しますわ」
「おっしゃるとおりですわ! 引き続き観察しますわ!」
「えぇ、お願い致しますわ。では次の方」

 モブ令嬢Bが座り、次に挙手したのはモブ令嬢C。

「はい。こちらはアケルナー様とリゲル様の報告ですわ」
「えぇ。続けてくださる?」

 モブ令嬢Cが静かに立ち上がる。

「近状では校外実技演習にてリゲル様がアケルナー様への愛を思わず零してしまう場面が見受けられましたわ」
「…それは! えぇ、わたくしもその場におりましたわ!」

 モブ令嬢Cが頷きながら言葉を続ける。

「リゲル様がアトリクス君にキツく当たってらしたのは、アケルナー様を取られたくない一心だったのですわ!あのお言葉を聞いたわたくしは、感動のあまり涙が止まりませんでしたわ!!」

 モブ令嬢Cが語尾を強めて力説する。
 モブ令嬢Aも頷き、ほぅ……と頬を染める。

「わかりますわ……あれは衝撃的でしたもの。お二人の愛を感じさせるとても尊い出来事でしたわね……」
「えぇ、感無量でしたわ。リゲル様の態度は愛情の裏返しだったのですわ! アケルナー様も怒ったリゲル様を宥めつつ、満更でもなさそうなご様子でしたわ……」
 
 モブ令嬢A、Cがその時の状況を思い出し、二人で頬に手を当て目を閉じている。

「はい! 議長!!」

 ここで手を挙げたのはモブ令嬢D。

「ハッ! コホン……次の方、どうぞ……」

 モブ令嬢Aが促すと、モブ令嬢Dが勢いよく立ち上がった。

「最近のアトリクス君とドラコニス公爵の愛が止まりませんわ!!」
「え、えぇ……。あの平民と公爵ですわね……」
「ついに公爵もアトリクス君に陥落されたのか、親しげに名前で呼んでおりますわ! しかも……お二人の戯れと言ったらっ!!」

 モブ令嬢Dが興奮のあまり拳を握りだす。
 モブ令嬢Aが慌てて嗜める。

「お気持ちはわかりますが、ここは淑女作法部ですのよ」

 鼻息まで荒くなりそうなモブ令嬢Dはハッとして、咳払いをする。

「コホン、失礼致しましたわ。最近では公爵の方が積極的に触れ合いを求める場面が多々見受けられますわ! 互いの頬に触れ合う行為もさることながら、重ねられる手にうっとりと瞳を閉じるアトリクス君が大変麗しくて……更に実技演習終了後では、アトリクス君が公爵一筋だと……公爵以外はご興味がないと公言されましたわ!!」

 落ち着きを取り戻したはずのモブ令嬢Dは、話を進めていく内にまたヒートアップしていく。

「それは……わたくしも拝見しておりましたわ。認めたくありませんが、その後のお二人の戯れは目の保養になりましたわ」

 モブ令嬢Aもその場面を思い浮かべたのか、

「えぇ!! あれは大変素晴らしかったですわ! 公爵がアトリクス君を背後から親しげに抱きしめて、嫌がる素振りを見せながらも、頬を染めたアトリクス君がすぐ側から公爵の顔を覗いてっ……あぁ!!」

 モブ令嬢Dは興奮のあまり机に倒れ込む。

「しっかりなさって! わたくし達は淑女ですのよ!」

 机をタンッと叩いてモブ令嬢Aがモブ令嬢Dを叱咤する。

「はぁ、はぁ……失礼致しましたわ……あのお二人が尊過ぎまして……」
「お気持ちはとても良くわかりますわ」
「えぇ、あのお二人は大変距離が近いですものね」 
「その通りですわ! もうどちらともなく互いを求め合い、愛し合ってらっしゃるのがまざまざとわかりますわ!!」

 モブ令嬢Dの考えに、モブ令嬢BCも共感する。

「静粛にっ! 静粛にー!!」

 興奮冷めやらぬモブ令嬢Dをモブ令嬢Aがまたまた叱咤する。

「わたくしとしたことが……取り乱してしまい、申し訳ございませんわ……」
「お気持ちは良くわかりますが、お淑やかに参りましょう」
「えぇ、心得ましたわ!」

 モブ令嬢Dが席に座り、ハンカチを出して額の汗を拭っている。

「今回も大変充実した収穫がございましたわ! 引き続き皆様の報告を楽しみにしております。これにて本日の殿方達を見守る会を終了致しますわ!」
  
 パチパチと盛大な拍手が起こり、日々変化を遂げる淑女作法部は閉幕した。


 ◇ 


 サークル活動中のアトリクスは、急なクシャミと悪寒を覚える。

「っくしゅ! ……ハァ……また誰か噂してるな……」
「あ、んと…、大丈夫?」
「どーせロクでもないことだろ」
「……」
しおりを挟む
感想 21

あなたにおすすめの小説

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

私を幽閉した王子がこちらを気にしているのはなぜですか?

水谷繭
恋愛
婚約者である王太子リュシアンから日々疎まれながら過ごしてきたジスレーヌ。ある日のお茶会で、リュシアンが何者かに毒を盛られ倒れてしまう。 日ごろからジスレーヌをよく思っていなかった令嬢たちは、揃ってジスレーヌが毒を入れるところを見たと証言。令嬢たちの嘘を信じたリュシアンは、ジスレーヌを「裁きの家」というお屋敷に幽閉するよう指示する。 そこは二十年前に魔女と呼ばれた女が幽閉されて死んだ、いわくつきの屋敷だった。何とか幽閉期間を耐えようと怯えながら過ごすジスレーヌ。 一方、ジスレーヌを閉じ込めた張本人の王子はジスレーヌを気にしているようで……。 ◇小説家になろうにも掲載中です! ◆表紙はGilry Drop様からお借りした画像を加工して使用しています

愛する殿下の為に身を引いたのに…なぜかヤンデレ化した殿下に囚われてしまいました

Karamimi
恋愛
公爵令嬢のレティシアは、愛する婚約者で王太子のリアムとの結婚を約1年後に控え、毎日幸せな生活を送っていた。 そんな幸せ絶頂の中、両親が馬車の事故で命を落としてしまう。大好きな両親を失い、悲しみに暮れるレティシアを心配したリアムによって、王宮で生活する事になる。 相変わらず自分を大切にしてくれるリアムによって、少しずつ元気を取り戻していくレティシア。そんな中、たまたま王宮で貴族たちが話をしているのを聞いてしまう。その内容と言うのが、そもそもリアムはレティシアの父からの結婚の申し出を断る事が出来ず、仕方なくレティシアと婚約したという事。 トンプソン公爵がいなくなった今、本来婚約する予定だったガルシア侯爵家の、ミランダとの婚約を考えていると言う事。でも心優しいリアムは、その事をレティシアに言い出せずに悩んでいると言う、レティシアにとって衝撃的な内容だった。 あまりのショックに、フラフラと歩くレティシアの目に飛び込んできたのは、楽しそうにお茶をする、リアムとミランダの姿だった。ミランダの髪を優しく撫でるリアムを見た瞬間、先ほど貴族が話していた事が本当だったと理解する。 ずっと自分を支えてくれたリアム。大好きなリアムの為、身を引く事を決意。それと同時に、国を出る準備を始めるレティシア。 そして1ヶ月後、大好きなリアムの為、自ら王宮を後にしたレティシアだったが… 追記:ヒーローが物凄く気持ち悪いです。 今更ですが、閲覧の際はご注意ください。

【完結】辺境伯令嬢は新聞で婚約破棄を知った

五色ひわ
恋愛
 辺境伯令嬢としてのんびり領地で暮らしてきたアメリアは、カフェで見せられた新聞で自身の婚約破棄を知った。真実を確かめるため、アメリアは3年ぶりに王都へと旅立った。 ※本編34話、番外編『皇太子殿下の苦悩』31+1話、おまけ4話

【完結】アラサー喪女が転生したら悪役令嬢だった件。断罪からはじまる悪役令嬢は、回避不能なヤンデレ様に溺愛を確約されても困ります!

美杉。節約令嬢、書籍化進行中
恋愛
『ルド様……あなたが愛した人は私ですか? それともこの体のアーシエなのですか?』  そんな風に簡単に聞くことが出来たら、どれだけ良かっただろう。  目が覚めた瞬間、私は今置かれた現状に絶望した。  なにせ牢屋に繋がれた金髪縦ロールの令嬢になっていたのだから。  元々は社畜で喪女。挙句にオタクで、恋をすることもないままの死亡エンドだったようで、この世界に転生をしてきてしあったらしい。  ただまったく転生前のこの令嬢の記憶がなく、ただ状況から断罪シーンと私は推測した。  いきなり生き返って死亡エンドはないでしょう。さすがにこれは神様恨みますとばかりに、私はその場で断罪を行おうとする王太子ルドと対峙する。  なんとしても回避したい。そう思い行動をした私は、なぜか回避するどころか王太子であるルドとのヤンデレルートに突入してしまう。  このままヤンデレルートでの死亡エンドなんて絶対に嫌だ。なんとしても、ヤンデレルートを溺愛ルートへ移行させようと模索する。  悪役令嬢は誰なのか。私は誰なのか。  ルドの溺愛が加速するごとに、彼の愛する人が本当は誰なのかと、だんだん苦しくなっていく――

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

私の手からこぼれ落ちるもの

アズやっこ
恋愛
5歳の時、お父様が亡くなった。 優しくて私やお母様を愛してくれたお父様。私達は仲の良い家族だった。 でもそれは偽りだった。 お父様の書斎にあった手記を見た時、お父様の優しさも愛も、それはただの罪滅ぼしだった。 お父様が亡くなり侯爵家は叔父様に奪われた。侯爵家を追い出されたお母様は心を病んだ。 心を病んだお母様を助けたのは私ではなかった。 私の手からこぼれていくもの、そして最後は私もこぼれていく。 こぼれた私を救ってくれる人はいるのかしら… ❈ 作者独自の世界観です。 ❈ 作者独自の設定です。 ❈ ざまぁはありません。

処理中です...