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校外実技演習 9
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さて、ついにこのイベントがやってきた。
そう…オクタンが大怪我を負う問題の実技演習…。
この日はどんより厚い雲が広がってて、校外実技演習には相応しくない天気。ある意味今日って日には相応しいのかもね。
この日の実技演習は帝都から離れたギェナー山脈の麓に位置するインディという場所に行く予定。
馬車で一時間半かかる道のりがかなり辛い。
馬車の中ではオクタンとアンカ、私とアルファルドの組み合わせで座っている。
私が窓側でアルファルドは扉側。アルファルドは相変わらず本読んでる。
対面にアンカがいてオクタンがその隣。
この二人は最近ちょっと良い雰囲気なんだよ。何気にオクタンがアンカが降りる時にエスコート役かって出たり、演習中も庇うみたいな行動したりでオクタンにも春がきたのかと内心喜んでる。
「あの…アトリクス君に質問なんですが…」
「んー?俺?どうしたんだ?」
窓の外見てボケッとしてたら、急にアンカが話しかけてきた。
「薬研のサークル活動で、オクタンス君が飛躍的に魔力操作が上手くなったと伺ったのですが…どうすれば私も上手く操作することができるのでしょう…」
「んと…アート君、教えてあげて…」
アンカもこのチームに慣れてきたのか、だいぶ普通に話すようになってきた。
馬車の椅子に座った状態でスカートをギュッと掴んでる。
対面に座ってる私はうーん…と考える。
本来ならアカデミアの教授に聞くような質問だけど、私のやり方だと特殊だからなぁ。
アンカは中級魔法から上になかなかいけないらしくて、伸び悩んでるみたいだね。
「そうだなぁ……。アンカは土属性だろ?まず手のひらを出して、その上に拳大くらいの土の塊をイメージして作ってみてくれ」
「拳大ですか…やってみます…」
アンカは右手を出し、手のひらに集中して魔力を練り上げていく。
「これは…かなり、難しい…ですわ……」
大きいものよりも小さいものを創り出す方が魔力操作が緻密で難しいんだよね。
目を閉じて塊をイメージしてるんだろうけど、まだ魔力操作が甘いのかどうしても作り出すことが出来なかった。
「とりあえずさ、毎日練習するといいよ。ただ魔法を使うんじゃなくて、魔力でモノを創り出すイメージでやってみると上手くいくと思うぜ」
アンカが手のひらを見つめて握りながら、私の言った言葉を復唱してる。
「魔力でモノを創り出す……その発想が凄いですわ…」
「あ…アート君、んと…先生みたい…」
「えぇ、アトリクス君ならアカデミアの教授にだってなれますわ」
「ハハッ、冗談だろ?魔法もろくに使えないって笑われちゃうよ」
笑って冗談めかして言ってると、隣で本読んでたアルファルドの手が私の肩を抱くみたいに伸びてくる。
「あ、アルファルド」
「…お前は教授になんてならないだろ?」
横向くとアルファルドもこっち向いてて、肩に置いてある手で引き寄せられてるからまたまた顔が近い。
最近キスばっかしてるから、迫りくる美貌にも少しは慣れてきたけどやっぱりドキドキする。
う…また!距離感っ、距離感がおかしいからさっ!!
もう、真正面で見てるアンカとオクタンも顔を赤めるくらいに近い。人前でイチャイチャするなとは言ったよ。
いや、その台詞自体おかしいんだけどさ…。
アルファルドが気づいているかわからないけど、私ってもう友達でも親友でもなくて、きっと恋人の位置にいるんだろうなぁ…。
ただハッキリそうだって言われてないし、私が親友だって言っても否定もしない。
「あ、あぁ。まぁ…な」
顔だけ少し離して、笑顔で答える。
でもやっぱり近くて…もう、違う話題に切り替えるしかない。
「そういえば、今日は戦術を少し変えようと思うんだ」
「…戦術?」
「うん。いつも攻撃主体がアルファルドだから、今日は配置を変えてオクタンとアンカを全面に出して二人で同時攻撃してもらおうと思ってる」
「んと…僕と、アンカ嬢で?」
隣り合って座ってるオクタンとアンカが二人で顔を見合わせてる。視線が合ってオクタンが顔を赤くして恥ずかしそうに下を向いた。
「えっと、私はどうすれば…」
私の方へと向き直ったアンカはちょっと不安そうに聞いてくる。
「アンカはとにかく防御魔法より攻撃魔法優先で、攻撃範囲内の敵の殲滅を目指してほしい。オクタンは取りこぼした魔物を中心に攻撃魔法を展開してくれ」
「わ、私が、メインですか!?」
「大丈夫、アンカなら出来るさ。オクタンとアルファルドもちゃんとサポートしてくれるから」
私はアンカを安心させるように笑顔を向ける。アンカは恥ずかしそうに頬を染めてパッと下を向いた。
「…?」
不思議そうにアンカを見てると、隣で座ってるアルファルドがまた肩を引き寄せてくる。
「あ、アルファルド?」
「…アトリクス」
「なんだ?」
「…俺の動きは」
なぜか拗ねてるっぽい感じの口調で言われる。
嬉しいんだけど、いちいち距離が近くて落ち着かないなぁ…。
「あっ、ごめんな。アルファルドは今日は後方支援メインで頼む。場合によっては防御魔法を展開してもらうと思う」
「…わかった」
アルファルドはそのまま私の肩に自分の頭を置いて寄りかかってきてる。急な行動に思わずドキッとしちゃうよ!
「っ、…どうした?…眠いのか?」
「……あぁ」
「そっか…まだかかりそうだから、そのまま寝てろよ」
「…あぁ」
アルファルドの頭が自分の顔のすぐそこにあって、乗せられてる重みが何だかくすぐったくてウズウズする。
アルファルドって濡羽色のすごく綺麗な黒髪でちょっとだけ毛先に癖があるけどサラサラしてて…触りたいな…。
無意識に右手を伸ばして指先で、少し伸びてきたアルファルドの横髪の先をサラリと梳いた。
わぁ…やっぱり凄く触り心地がいい。絹みたいに細くて綺麗な髪…。
アルファルドが何も言わないのをいい事に、私はしばらく夢中になってその感触を楽しんでた。
だからアンカやオクタンが見て見ぬふりしてるのにも、アルファルドが寝たフリしてたのにも気づくことはなかった。
さて、ついにこのイベントがやってきた。
そう…オクタンが大怪我を負う問題の実技演習…。
この日はどんより厚い雲が広がってて、校外実技演習には相応しくない天気。ある意味今日って日には相応しいのかもね。
この日の実技演習は帝都から離れたギェナー山脈の麓に位置するインディという場所に行く予定。
馬車で一時間半かかる道のりがかなり辛い。
馬車の中ではオクタンとアンカ、私とアルファルドの組み合わせで座っている。
私が窓側でアルファルドは扉側。アルファルドは相変わらず本読んでる。
対面にアンカがいてオクタンがその隣。
この二人は最近ちょっと良い雰囲気なんだよ。何気にオクタンがアンカが降りる時にエスコート役かって出たり、演習中も庇うみたいな行動したりでオクタンにも春がきたのかと内心喜んでる。
「あの…アトリクス君に質問なんですが…」
「んー?俺?どうしたんだ?」
窓の外見てボケッとしてたら、急にアンカが話しかけてきた。
「薬研のサークル活動で、オクタンス君が飛躍的に魔力操作が上手くなったと伺ったのですが…どうすれば私も上手く操作することができるのでしょう…」
「んと…アート君、教えてあげて…」
アンカもこのチームに慣れてきたのか、だいぶ普通に話すようになってきた。
馬車の椅子に座った状態でスカートをギュッと掴んでる。
対面に座ってる私はうーん…と考える。
本来ならアカデミアの教授に聞くような質問だけど、私のやり方だと特殊だからなぁ。
アンカは中級魔法から上になかなかいけないらしくて、伸び悩んでるみたいだね。
「そうだなぁ……。アンカは土属性だろ?まず手のひらを出して、その上に拳大くらいの土の塊をイメージして作ってみてくれ」
「拳大ですか…やってみます…」
アンカは右手を出し、手のひらに集中して魔力を練り上げていく。
「これは…かなり、難しい…ですわ……」
大きいものよりも小さいものを創り出す方が魔力操作が緻密で難しいんだよね。
目を閉じて塊をイメージしてるんだろうけど、まだ魔力操作が甘いのかどうしても作り出すことが出来なかった。
「とりあえずさ、毎日練習するといいよ。ただ魔法を使うんじゃなくて、魔力でモノを創り出すイメージでやってみると上手くいくと思うぜ」
アンカが手のひらを見つめて握りながら、私の言った言葉を復唱してる。
「魔力でモノを創り出す……その発想が凄いですわ…」
「あ…アート君、んと…先生みたい…」
「えぇ、アトリクス君ならアカデミアの教授にだってなれますわ」
「ハハッ、冗談だろ?魔法もろくに使えないって笑われちゃうよ」
笑って冗談めかして言ってると、隣で本読んでたアルファルドの手が私の肩を抱くみたいに伸びてくる。
「あ、アルファルド」
「…お前は教授になんてならないだろ?」
横向くとアルファルドもこっち向いてて、肩に置いてある手で引き寄せられてるからまたまた顔が近い。
最近キスばっかしてるから、迫りくる美貌にも少しは慣れてきたけどやっぱりドキドキする。
う…また!距離感っ、距離感がおかしいからさっ!!
もう、真正面で見てるアンカとオクタンも顔を赤めるくらいに近い。人前でイチャイチャするなとは言ったよ。
いや、その台詞自体おかしいんだけどさ…。
アルファルドが気づいているかわからないけど、私ってもう友達でも親友でもなくて、きっと恋人の位置にいるんだろうなぁ…。
ただハッキリそうだって言われてないし、私が親友だって言っても否定もしない。
「あ、あぁ。まぁ…な」
顔だけ少し離して、笑顔で答える。
でもやっぱり近くて…もう、違う話題に切り替えるしかない。
「そういえば、今日は戦術を少し変えようと思うんだ」
「…戦術?」
「うん。いつも攻撃主体がアルファルドだから、今日は配置を変えてオクタンとアンカを全面に出して二人で同時攻撃してもらおうと思ってる」
「んと…僕と、アンカ嬢で?」
隣り合って座ってるオクタンとアンカが二人で顔を見合わせてる。視線が合ってオクタンが顔を赤くして恥ずかしそうに下を向いた。
「えっと、私はどうすれば…」
私の方へと向き直ったアンカはちょっと不安そうに聞いてくる。
「アンカはとにかく防御魔法より攻撃魔法優先で、攻撃範囲内の敵の殲滅を目指してほしい。オクタンは取りこぼした魔物を中心に攻撃魔法を展開してくれ」
「わ、私が、メインですか!?」
「大丈夫、アンカなら出来るさ。オクタンとアルファルドもちゃんとサポートしてくれるから」
私はアンカを安心させるように笑顔を向ける。アンカは恥ずかしそうに頬を染めてパッと下を向いた。
「…?」
不思議そうにアンカを見てると、隣で座ってるアルファルドがまた肩を引き寄せてくる。
「あ、アルファルド?」
「…アトリクス」
「なんだ?」
「…俺の動きは」
なぜか拗ねてるっぽい感じの口調で言われる。
嬉しいんだけど、いちいち距離が近くて落ち着かないなぁ…。
「あっ、ごめんな。アルファルドは今日は後方支援メインで頼む。場合によっては防御魔法を展開してもらうと思う」
「…わかった」
アルファルドはそのまま私の肩に自分の頭を置いて寄りかかってきてる。急な行動に思わずドキッとしちゃうよ!
「っ、…どうした?…眠いのか?」
「……あぁ」
「そっか…まだかかりそうだから、そのまま寝てろよ」
「…あぁ」
アルファルドの頭が自分の顔のすぐそこにあって、乗せられてる重みが何だかくすぐったくてウズウズする。
アルファルドって濡羽色のすごく綺麗な黒髪でちょっとだけ毛先に癖があるけどサラサラしてて…触りたいな…。
無意識に右手を伸ばして指先で、少し伸びてきたアルファルドの横髪の先をサラリと梳いた。
わぁ…やっぱり凄く触り心地がいい。絹みたいに細くて綺麗な髪…。
アルファルドが何も言わないのをいい事に、私はしばらく夢中になってその感触を楽しんでた。
だからアンカやオクタンが見て見ぬふりしてるのにも、アルファルドが寝たフリしてたのにも気づくことはなかった。
応援ありがとうございます!
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