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ドラコニス公爵家救済計画 17

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 私とアルファルドは丁度良い座り心地の一人がけソファーに並んで座って、テーブル挟んで対面にケイドが腰を掛けた。

「本日はよろしくお願いいたします。わたくしはアルファ商会総頭取を務めております、ケイドと申します」
「俺はサジタリア魔法アカデミアに在学しているアトリクスと申します。こちらは現ドラコニス公爵家の御当主、アルファルド・ロー・ドラコニス公爵です」

 座りながら自分とアルファルドの自己紹介を勧めていく。

「…宜しく頼む……」
「これは、…公爵閣下であられましたか! ご挨拶が遅れ大変失礼いたしました」

 ポソっと呟いたアルファルドに、紹介されたケイドは頭を下げてお詫びを言ってる。

「すみません……時間があまりないので、早速本題に入らせてもらっていいですか?」
「畏まりました。さて……お手紙を拝見させていただいたところ、なんでもポーション作りに成功したとか?」
「…あぁ、そうだ」
「実際にお見せいただいても宜しいですか?」
「えぇ、こちらです」

 私は予め用意しておいたケースを目の前の机の上に出して、中から小瓶に入ったポーションとハイポーションを取り出した。

「……ほう、これは。見た目はダンジョン産のポーションと遜色ありませんね。手に取っても宜しいでしょうか?」
「どうぞ」
 
 机に置いてあったポーションを手に取り、目の前に持ってきたケイドは光に透かして見てる。

「うむ……、品質に問題はなさそうですね。して、効果の程は……」
「この場で試させてもらっても宜しいですか?」
「え、えぇ……」
「では失礼します」

 制服の内ポケットナイフを取り出して、自分の腕を傷付けた。それからポーションを飲んで、完璧に傷が治癒した。
 やっぱり実際に見せるのが一番だよね。論より証拠だよ。

「な、なんということだ!! 驚きました……まさに本物のポーションです!」
「効果は今見ていただいた通り、品質も保証します」
「これは、素晴らしい!! 是非ともうちのアルファ商会で取り扱わせて頂けませんか!?」

 そりゃあ飛びつくよね。ポーションの販売なんて商売人からしたら夢のような話だし。
 にこやかな笑顔で私はケイドに向かって話を進めていく。

「えぇ、願ってもない提案です。ちなみに価格はダンジョン産と同じに設定する予定です」
「ダンジョン産と!? そうしますとかなりの高額品になってしまいますが……」
「今見ていただいた通り……品質、効果ともにダンジョン産と同等です。こちらの価格を下げることにより、ポーションというものの価値を下げたくありません。特に自己顕示欲の強い貴族にとって、安物というのは価値を下げます。ですから、現段階での価格設定はダンジョン産と同じ設定です」
「……なるほど、仰る通りですね」
「あと、この商品はドラコニス公爵家の秘匿として扱われています。ですので、小瓶にはこのように公爵家の家紋を彫らせていただいてます」

 持ってきたポーションは、特殊な薬液に漬けて彫った家紋を浮かび上がらせてる。
 これだと一発でドラコニス公爵家の家紋だってわかるから。

「ドラコニス公爵家の……」

 その言葉を出した途端にケイドの表情が曇ってる。

「公爵閣下を前に大変無礼なのは承知の上でお話しいたします。正直な話、世間でのドラコニス公爵家の評判は良くはありません……果たしてドラコニス公爵家の専売商品だと知って、購入されるお客様がいらっしゃるかどうか……」

 目の前で手を組んで、厳しい言葉を向けるケイド。
 まぁ、当たり前だよね。
 こんなのは想定内だよ。むしろ言わなかったら怒ってる所だから。

「……」

 チラッとアルファルドを見ると殺気は出てないけど、足の上に置いてあった手を握り締めてる。

 ごめんね、アルファルド……
 でも、それも今日までだから。

「ケイドさんが仰ることはわかります。ですが、良く考えてください。未だスタンピードの傷も癒えず、怪我で苦しんでいる人々がたくさんいます。……自分の愛する者、大切な家族や友人……救うこともできず哀しみにくれていたその存在を、完璧に救える回復薬を目の前にして、それがどこの家門かなんて気にする人間がいると思いますか?」
「……それは……」
「スタンピード以降、闇市でさえもポーションの在庫が無い現状……愛しい者を救うためなら、悪魔にでも魂を売る人間だっていてもおかしくない筈です。それが正規で取り扱っている店舗が存在するなら、たとえ何であろうと金に糸目も付けず殺到する人間で溢れかえると思いますよ?」
「――…」

 私の言葉にケイドは黙って考え込んでる。
 まぁ、私なら必ず買うね。
 こんな便利な物ないし、販売に関して心配する必要は全くないと思うよ。
 
 しばらくケイドはソファーで手を組んで、目を瞑って考え込んでた。
 
「このアルファ商会は皇室御用達でもある格式高い商会です。ドラコニス公爵との確執もある程度理解しているつもりです。必ず皇帝陛下にこのことを問われるでしょう……。そうなった場合、我が商会存続の危機にまで発展するかもしれません」

 ふぅー……、と息を吐いてから、目を開いて私達に向き合った。
 
「かなりリスクのある取り引きです。本来ならば私ではなく、アルファ商会の創始者にご相談差し上げて、決断いただきたい所なのですが……」

 相当悩んでる感じのケイド。
 責任感の強い人だから仕方ないね。私がいない間、ずっと商会を守ってきてくれたから。

「それでしたら、悩む必要は全く無いと思います」
「……? 何故ですか?」
「いいですか。先ほども申し上げましたが、ポーションの需要は必ずあるからです。もし、皇室が権力を施行して販売を妨害してきたとしても、民衆がそれを許さないでしょう」
「――」
「このポーションは公爵家でしか作れません。もしまたポーションの供給が止まり、そのせいで大切な人を救うことができなかった……そうなった場合、矛先はどこへ行くと思いますか?」
「――! なるほど……仰る通りです。その場合……全て皇室へと非難が向きますね」
「そうでしょう。我々は販売したいが、それを皇室が止めている……もしくは妨害していると噂でも流せば、皇室とドラコニス公爵家の関係性を知っている貴族、もしくは民衆はすぐ理解するはずですよ」
 
 ニッコリ笑ってケイドに説明する。

 ここで公爵家と皇室の確執が役に立つんだよね。
 いくら皇室が力を誇示して妨害してきても、大衆の声には勝てない。
 無理やり抑えつけるようとすれば、必ず不平不満や綻びが出てくるから。

「いや……納得いたしました。そこまでの考えをお持ちとは驚きました」

「まず商品を売るには、リスクから考えていかなければいけません。それを全てクリアした上で、こうして取引を持ちかけています。利益の出ない話でしたら、初めから持ちかけたりしません」

 キッパリと言い切った。
 ポーションの販売については散々考えてきたし、私の予想だとほぼ利益しか出ない予定だし。

「――貴方はとても良く似ている」
 
 座ってたケイドは私の顔をジッと見て、フッと笑いながら話を続けてる。

「私の尊敬する大恩人にそっくりです。始めは見た目で驚かされましたが、考え方もとても良く似ている。この商会を創り上げた創始者である、あの方に……」
 
 目を細めてアトリクスとミラを比較してるんだろうなぁ。ケイドなら薄々気付いてると思うよ。

「それは大変光栄ですね。もし俺がその人なら、きっとこう言うと思います。……、ってね……」

 笑いながら見据えた眼でケイドを見た。
 念押しして言ってみた。ケイドならこの言葉でわかるはず。
 予想通りケイドは私の言葉にハッとしてる様子。

「……そう……ですか。……確かに仰る通りですね。あの方ならおそらく……、そう言われるのでしょう」

 そう言った後に、今度は穏やかな笑顔を私に向けてくれてる。
 
「では、取引成立と言うことでよろしいですか?」
「えぇ、もちろんです。こちらから宜しくお願いいたします。……公爵閣下、数々のご無礼お詫び申し上げます。どうぞお許しくださいませ」
 
 ケイドが座ったまま、深々と頭を下げてた。
 ずっとやり取りを見てたアルファルドは、ハッとして私を見た。
 私はニコッと笑って頷いた。

「…あ、あぁ、許そう。…これから世話になる」
「有難きお言葉。心より感謝いたします」

 うんうん。良かった、上手くいったね。
 そして売買契約書を交わしていく。これも予め書いてきてあるんだ。

 テーブルの上にその契約書を何枚も並べて、ケイドに読んでもらった後に一つずつ印を押してもらう。

「では、公爵閣下。こちらの魔法誓約書を受理してもらって宜しいですか?」
 
 最後の一枚を良く読んでいたケイドは、その紙にサインと商会の印を押してアルファルドへと渡した。

「…魔法誓約書?」

 紙を渡されたアルファルドは紙を見ながら、訝しげに私に聞いてくる。

「あぁ、それが一番大事な書類だ。ポーションに関する規制や特許事項を事細かく明記してある。とりあえず内容は確認済みだから魔力を流してくれると助かる」

 ニコッと笑って安心させるようにアルファルドに話しかけた。
 ここで渋られても困るからね。

「…ポーションの販売に関して、全てお前に任せてる。いいだろう……」

 アルファルドには珍しくそのまま魔力を流してくれた。
 私のこと、信用してくれてるんだ……!
 胸がジーンとして嬉しくなる。
 アルファルドがここまで心を開いてくれるなんて、今まで頑張ってきた甲斐があるよ。 

 魔力誓約書が消えて、誓約が完了した。
 
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