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ドラコニス公爵家 5
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ベッテルさんが鐘を鳴らして呼んでるダイニングルームへとやって来た。
ここも最低限の燭台しかなくて広いのに部屋全体は薄暗い。
長いダイニングテーブルがあるけど、椅子は上座近くに4つしかなかった。
そこにベッテルさんとは別に一人の女性が立ってた。
「良く来てくれたね。私は給仕係のリタだよ」
こちらも白髪をお団子にしたお婆さんだけど、随分元気そうな感じ。
男勝りな切符のいい母さんみたいな女性だった。
「初めまして!俺はアトリクスって言います。アートって呼んで下さい!よろしくお願いします、リタさん」
「よろしくね!…ねぇ、あんたは平民なんだろ?良くアカデミアへ入れたね」
「これリタ。旦那様のご友人だぞ」
「ハハッ、気にしないで下さいベッテルさん。俺、魔法は全然だけど頭だけはまあ良かったんで、運良くアカデミアへ入学出来ました」
テーブルの上にはシリウスが送った様々な食材で作った料理が並んでた。
どれも美味しそうで、見てたらお腹がぐぅ~と鳴っちゃった。
「おや、ごめんよ。お腹空いただろう?食材だけはシリウス様のおかげで沢山あるから、遠慮なく食べとくれ!」
「…そうだ。話は後にしろ」
ベッテルさんに席に案内されて腰掛けた。
「…星々の神と敬愛すべきシリウス卿に感謝を込めて」
食べる前に三人は両手を握って、アルファルドが唱えてる。
いや、ちょっとかなり恥ずかしい。…もう、穴があったら入りたいくらい。
一応形だけ手を握って、何とかやり過ごしたよ。
「さぁ、召し上がれ」
リタさんやベッテルさんも席に着いて、みんなで食べ始めた。アルファルドは上座、私はその斜め左で、ベッテルさんとリタさんは反対側の席に並んで座ってる。
貴族ではかなり珍しいスタイルだよね。普通は使用人と一緒になんて食べないから。
「いただきます!……んっ!美味いっ~!!」
「ふふっ、美味しいかい?」
一口料理を口に入れて思わず声が出る。口の中が美味しい味でいっぱいになって思わず笑顔になっちゃう。
「めちゃくちゃ美味しい!リタさん料理上手だね!」
「あら~嬉しいねぇ。みんな何も言わないからさぁ、そう言って美味しそうに食べてくれると張り合いがあるよ」
「えっ?そうなの?」
アルファルドの方を見ると確かに黙々と食べてる。
「…食事は静かに取るものだ」
「えぇ、つまんないだろ。そんなの!」
「…それがマナーだ」
アルファルドの言ってることは最もで、貴族は和気あいあいと食事を囲んで食べるなんて庶民みたいなことはしない。
「ここには俺達しかいないし、みんなで食べてるんだからマナーなんてどうでもいいだろ?」
「…良くない」
一応応えてはくれてるけど、アルファルドはやっぱり静かに優雅にナイフとフォークを使い食事を食べてる。
「俺は平民だからそんなの気にしないね。楽しく食べた方が絶対美味しいし!」
「…料理の味と楽しさは関係ない」
アルファルドの言葉に、ふと昔の事が頭を過ぎった。
交通事故のあと、病院から退院して叔父夫婦に引き取られる少し前、誰もいない家で車椅子に座って一人でご飯を食べてる風景。
「…バカだな、関係あるんだよ…一人で食べるご飯なんてさ、ホント味気ないから…」
人の気配も音も何もないリビングで、ただ義務的に口に物を入れて、砂でも飲み込んでるような…そんな感覚だった…。
俯いて少しだけ干渉に浸りながら、私も食べる手を止めた。
つい前世の事を思い出しちゃった…。
「……お前…」
ハッとして顔を上げると、みんなこっちを見てて…何だかしんみりした空気が流れ出したから、無理やり笑顔をつくって話題を変えた。
「いや…ま、とにかくそういうことなんだ。あと、お前じゃなくてアートって呼んでくれ」
「…………またそれか」
「呼んでくれるまでしつこく言うからな」
言い合いをしてると、リタさんが突然挙手をして質問してきた。
「そういえば、旦那様とアートはどうやって仲良くなったんだい?」
その質問に私も共感する。
私はアルファルドと友達だって勝手に思ってるけど、アルファルドって私のことどう思ってるのかな?
「あ、それ。俺も聞きたい!」
私も挙手して上座のアルファルドの方を見た。
「……なぜ、お前もなんだ」
「だって気になるだろ?俺の片思いなんて嫌だし」
「片…どうしてそうなる」
「はいはーい!ちなみに俺はアルファルドとずっと友達になりたくて、毎日口説いてました!それが実って、ようやくこうしてお屋敷まで足を運べるようになりました!」
そこで二人からささやかな拍手が巻き起こった。
「……なっ」
急な事態に驚いたのか、アルファルドの食事の手が止まった。
リタさんなんかエプロンで目頭を拭ってるし。
ベッテルさんも黙々と食べてたけど、同じくナフキンで目元を拭いてた。
「っすん…。ありがとうね、アート。旦那様は訳ありだからさ、なかなか良い友達に巡り合わなくてね。母親代わりの私としては心配してたのさ」
「ドラコニス公爵家に危機が訪れ、周りからの非難も苦境も全てを一身に背負われておりました。わたくし共としましては、隣で支えて下さる方を求めておりました」
「……ベッテル、リタ…やめるんだ」
行儀悪いけどその場に立ち上がって私は宣言する。
「お二人共ご安心下さい!俺が必ずアルファルドを幸せにしてみせますっ!!」
「……おい」
アルファルドは手を止めたまま、宣言してる私を呆れた様子で見てる。
「まぁ本音は、俺がアルファルドの側にいたいだけなんですけどね」
座ってるアルファルドの方を向いて笑顔で話した。
アルファルドはやっぱりふいっとそっぽを向いてしまったけど。
正真正銘の本心だから信じてほしいなぁ。
これを聞いたベッテルさんとリタさんがさらに涙ぐんでる。
「うぅ…良かったね、旦那様。…こんなに思ってもらって…良い人見つけたよ…」
「はい。老い先短いわたくし共も、これで安心致しました…」
「……嫁を貰ったわけでもないのに、安心するのはやめてくれないか」
顔を手で覆って困ってるアルファルドと、涙ぐんでるご老人二人。
良かった。
ちゃんとアルファルドのことを思ってくれてる人が、こんなに近くにいたんだね。
それがわかっただけでも嬉しいや!
その後も笑いながら楽しく食事が続いた。
ベッテルさんが鐘を鳴らして呼んでるダイニングルームへとやって来た。
ここも最低限の燭台しかなくて広いのに部屋全体は薄暗い。
長いダイニングテーブルがあるけど、椅子は上座近くに4つしかなかった。
そこにベッテルさんとは別に一人の女性が立ってた。
「良く来てくれたね。私は給仕係のリタだよ」
こちらも白髪をお団子にしたお婆さんだけど、随分元気そうな感じ。
男勝りな切符のいい母さんみたいな女性だった。
「初めまして!俺はアトリクスって言います。アートって呼んで下さい!よろしくお願いします、リタさん」
「よろしくね!…ねぇ、あんたは平民なんだろ?良くアカデミアへ入れたね」
「これリタ。旦那様のご友人だぞ」
「ハハッ、気にしないで下さいベッテルさん。俺、魔法は全然だけど頭だけはまあ良かったんで、運良くアカデミアへ入学出来ました」
テーブルの上にはシリウスが送った様々な食材で作った料理が並んでた。
どれも美味しそうで、見てたらお腹がぐぅ~と鳴っちゃった。
「おや、ごめんよ。お腹空いただろう?食材だけはシリウス様のおかげで沢山あるから、遠慮なく食べとくれ!」
「…そうだ。話は後にしろ」
ベッテルさんに席に案内されて腰掛けた。
「…星々の神と敬愛すべきシリウス卿に感謝を込めて」
食べる前に三人は両手を握って、アルファルドが唱えてる。
いや、ちょっとかなり恥ずかしい。…もう、穴があったら入りたいくらい。
一応形だけ手を握って、何とかやり過ごしたよ。
「さぁ、召し上がれ」
リタさんやベッテルさんも席に着いて、みんなで食べ始めた。アルファルドは上座、私はその斜め左で、ベッテルさんとリタさんは反対側の席に並んで座ってる。
貴族ではかなり珍しいスタイルだよね。普通は使用人と一緒になんて食べないから。
「いただきます!……んっ!美味いっ~!!」
「ふふっ、美味しいかい?」
一口料理を口に入れて思わず声が出る。口の中が美味しい味でいっぱいになって思わず笑顔になっちゃう。
「めちゃくちゃ美味しい!リタさん料理上手だね!」
「あら~嬉しいねぇ。みんな何も言わないからさぁ、そう言って美味しそうに食べてくれると張り合いがあるよ」
「えっ?そうなの?」
アルファルドの方を見ると確かに黙々と食べてる。
「…食事は静かに取るものだ」
「えぇ、つまんないだろ。そんなの!」
「…それがマナーだ」
アルファルドの言ってることは最もで、貴族は和気あいあいと食事を囲んで食べるなんて庶民みたいなことはしない。
「ここには俺達しかいないし、みんなで食べてるんだからマナーなんてどうでもいいだろ?」
「…良くない」
一応応えてはくれてるけど、アルファルドはやっぱり静かに優雅にナイフとフォークを使い食事を食べてる。
「俺は平民だからそんなの気にしないね。楽しく食べた方が絶対美味しいし!」
「…料理の味と楽しさは関係ない」
アルファルドの言葉に、ふと昔の事が頭を過ぎった。
交通事故のあと、病院から退院して叔父夫婦に引き取られる少し前、誰もいない家で車椅子に座って一人でご飯を食べてる風景。
「…バカだな、関係あるんだよ…一人で食べるご飯なんてさ、ホント味気ないから…」
人の気配も音も何もないリビングで、ただ義務的に口に物を入れて、砂でも飲み込んでるような…そんな感覚だった…。
俯いて少しだけ干渉に浸りながら、私も食べる手を止めた。
つい前世の事を思い出しちゃった…。
「……お前…」
ハッとして顔を上げると、みんなこっちを見てて…何だかしんみりした空気が流れ出したから、無理やり笑顔をつくって話題を変えた。
「いや…ま、とにかくそういうことなんだ。あと、お前じゃなくてアートって呼んでくれ」
「…………またそれか」
「呼んでくれるまでしつこく言うからな」
言い合いをしてると、リタさんが突然挙手をして質問してきた。
「そういえば、旦那様とアートはどうやって仲良くなったんだい?」
その質問に私も共感する。
私はアルファルドと友達だって勝手に思ってるけど、アルファルドって私のことどう思ってるのかな?
「あ、それ。俺も聞きたい!」
私も挙手して上座のアルファルドの方を見た。
「……なぜ、お前もなんだ」
「だって気になるだろ?俺の片思いなんて嫌だし」
「片…どうしてそうなる」
「はいはーい!ちなみに俺はアルファルドとずっと友達になりたくて、毎日口説いてました!それが実って、ようやくこうしてお屋敷まで足を運べるようになりました!」
そこで二人からささやかな拍手が巻き起こった。
「……なっ」
急な事態に驚いたのか、アルファルドの食事の手が止まった。
リタさんなんかエプロンで目頭を拭ってるし。
ベッテルさんも黙々と食べてたけど、同じくナフキンで目元を拭いてた。
「っすん…。ありがとうね、アート。旦那様は訳ありだからさ、なかなか良い友達に巡り合わなくてね。母親代わりの私としては心配してたのさ」
「ドラコニス公爵家に危機が訪れ、周りからの非難も苦境も全てを一身に背負われておりました。わたくし共としましては、隣で支えて下さる方を求めておりました」
「……ベッテル、リタ…やめるんだ」
行儀悪いけどその場に立ち上がって私は宣言する。
「お二人共ご安心下さい!俺が必ずアルファルドを幸せにしてみせますっ!!」
「……おい」
アルファルドは手を止めたまま、宣言してる私を呆れた様子で見てる。
「まぁ本音は、俺がアルファルドの側にいたいだけなんですけどね」
座ってるアルファルドの方を向いて笑顔で話した。
アルファルドはやっぱりふいっとそっぽを向いてしまったけど。
正真正銘の本心だから信じてほしいなぁ。
これを聞いたベッテルさんとリタさんがさらに涙ぐんでる。
「うぅ…良かったね、旦那様。…こんなに思ってもらって…良い人見つけたよ…」
「はい。老い先短いわたくし共も、これで安心致しました…」
「……嫁を貰ったわけでもないのに、安心するのはやめてくれないか」
顔を手で覆って困ってるアルファルドと、涙ぐんでるご老人二人。
良かった。
ちゃんとアルファルドのことを思ってくれてる人が、こんなに近くにいたんだね。
それがわかっただけでも嬉しいや!
その後も笑いながら楽しく食事が続いた。
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