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薬草採取 4

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「とにかく俺達は、偶然あの場に居合わせただけで、まさかベヒモスが現れるとは思いませんでした。むしろ危険な目にあった上にアルファルドが倒してくれたんですから感謝してほしいくらいです!…以上」

 何を疑ってるのか知らないけど、報告したんだからいい加減開放してよね!
 態度には出さないけど、アヴィオール学長をキッと見た。
 学長の隣のエルナト先生も、納得したみたいに頷いてる。

「うむ…アトリクス君の言い分も最もですね。数日前から申請許可は得ていましたから、本当に偶然だったのでしょう」
「フォッ、偶然とは必然でもあるからのぉ。全てのものには因果が存在するように、物事にも道理や摂理があるものだのぉ」 

 この学長は何が言いたいの?まるで私達がいたからベヒモスが現れたみたいな言い方してる。
 机で両手を組んでるアヴィオール学長はやっぱり何を考えてるのかわからない。

「……アヴィオール学長、我々は被害者だ。ここに無傷でいることを奇跡だと思って頂きたい。追及すべきは我々ではない筈だ」

 私の隣に立っていたアルファルドが急に口を開いた。
 一斉にアルファルドに注目が集まってる。

 アルファルドのこんな長いセリフなんて初めて聞いたよっ!
 わぁ…アルファルドがこうやって静かにビシッと言う姿ってめちゃくちゃカッコいい!!

「フォッフォッフォッ!やはりこれも摂理の一部なのかのぉ。まぁ良い……君達が無事で何よりだの。しかし、薬草採取はしばらく禁止じゃの。……学内の温室を使いなさい」

 突然の提案に何言われたのか頭がついて来なかった。しばらく間を置いてから返事を返した。

「……はい!ありがとうございます!」

 このアカデミア内の温室にも薬草が沢山の栽培されてるんだけど、ここは立ち入りが制限されてて許可が下りなかったんだ!
 これからは温室使えるなんてかなりラッキーだ。怪我の功名ってやつだね。

「突然の出来事でしたのでお疲れでしょう。今夜はゆっくりお休み下さい。明日の講義も無理せず休学しても構いません」

 エルナト先生が珍しく優しい言葉をかけてる。これはたぶんオクタンに言ってる言葉だな。
 私とアルファルドは何ともないし。
 




 ◇





 学長室から開放されて、ようやく一息ついた。

 アカデミアの正門の入り口に向かう途中、空はすっかり暗くなってた。

「ハァ…疲れた。散々だったな…」
「…んと…」
「オクタン大丈夫か?怖かっただろ?」
「あ、…うん。…でも、アート君が庇って…くれて、…んと…公爵も…助けて…くれたし…」

 おずおずしながらも一、二歩前を歩いてるアルファルドをチラッと見るオクタン。

 アルファルドは相変わらず無言だけど、何となく以前の堅さが少し薄れてきてる気がする。

「僕、んと…魔法も…使えなくて…役に、立たなくて…ごめん…ね」

 歩きながらシュンと項垂れてるオクタン。小さなオクタンが更に小さく見える。
 
「何言ってんだよ、俺だって逃げただけで何もしてねぇし。そんなこといちいち気にすんな」
「でも…、んと…僕…転んで、足を…引っ張って…」

 オクタンは話しながら泣きそうになってる。自分の失敗を悔やんでるのかな。

 歩いてた足をピタッと止めた。

 隣を歩いてたオクタンも驚いたみたいに止まった。

 私は体を横に向けてオクタンと向き合うようにしてから、同じく止まって私を見てるオクタンの両肩をガシッと掴んだ。

「オクタン」
「……え?」
「…誰もお前を責めてない」
「……あ…」

 立ってオクタンに向き合ったまま真剣に…でも、柔らかく表情を作りながら諭すようにオクタンに語りかけた。

「みんな無事だったんだ、それだけで十分だろ?」

 落ち着かせるようになるべくふんわり笑うと、オクタンは耐えきれずに下を向いてグズグズと泣き出してた。

「うっ…うぅ……んっく」

 オクタンは自分の腕で何度も涙を擦りながら、肩を震わせて泣いてる。
 ずっと我慢してたんだよね…。あんな状況じゃ仕方ないよ。

「お前は良くやったよ?あの場で走れただけで十分役にたってるからさっ」

「ひっく、…ふっ、う……あ、がと…アート、く…」 
 
 コクコクと頷きながら泣いてるオクタンの肩に腕を回して再び入口に向かって歩き出した。

 いやホントさ、冒険者の中だって腰抜かして動けなくなるヤツだっていっぱいいるし。

 アルファルドはとっくの昔に帰ったと思ってたのに、少し先の回廊で止まってこっちをジッと見てた。

「アルファルド、今日はありがとなっ!気をつけて帰れよ…あ、俺が送って行こうか?」

「…いらん」

「ハハッ、じゃあな。また明日!」

 相変わらずの対応に苦笑して、手を上げてアルファルドを見送った。

「…………あぁ…、またな」

「へ……?」

 アルファルドはそのまま振り返らないで、正門に向かって歩いて帰って行っちゃった。

 私は、上げた手を下ろすのも忘れて呆然としてた。

 あのアルファルドが、またなって…挨拶した?!
 えっ?…なに!?突然どうしたの??

「あ…、んと、アート君?」
 
 泣き止んだオクタンが不思議そうにこっちを覗いてたけど、私は止まった状態のままアルファルドがいなくなった方向をしばらく見てた。


 ハァ……、アルファルドって、やっぱり手強いや…。

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