上 下
100 / 392

薬草採取 3

しおりを挟む


 治安隊にももちろん報告するけど、周辺警護の騎士なんてたかが知れてる。特に巡回してる治安隊はその辺の傭兵より弱いから。
 そんな奴らに瀕死とはいえベヒモスの始末をさせるなんて無理に決まってる。
 わざわざ帝国騎士団なんて呼ばれた日には面倒でしょうがない。


 また森の入り口まで来てから風魔法を使って地面を蹴った。
 ビューッと高速で景色が通り過ぎていって、すぐさまベヒモスが倒れてた地点まで戻ってきた。

「はぁ、やっぱシブといな…」
「グ、グォ…」

 横倒しになってた筈のベヒモスは、ヨロヨロしながら起き上がってて、フラつきながら町方面に向かおうとしてた。

「悪いけど、そっちへは行かせないよ」

 今日は帯剣してないけど、このくらい弱ってる相手なら武器が無くても全く問題ない。
 アルファルドが放った背中の陥没を目がけて、足に強化を集中させてから飛び上がってから、思いっ切り踵落としを食らわせた。

「グォッッ!!ゴッ──」

 これが決め手になったのか、ベヒモスは再び横倒しになったまま二度と起き上がることはなかった。

 ふぅ……、一件落着。
 さて、治安隊へと報告に行こっかな。それにしても、なんでベヒモスが急に現れたんだろう?
 こんな事件ゲームではなかったのに。……最近そんな出来事が多発してるね。一体何が起ころうとしてるの?
 
 絶命したベヒモスを後にして、治安隊に通報するために山道を歩いた。

 これが、ただの偶然だといいんだけど……。

 私は釈然としないまま町まで向かった。







 ◇








 案の定アカデミアへ戻った後に、他の教授から呼び止められて学長室まで向かう羽目に…。

 向かった目の前にはウォールナットの重そうな扉があって、私はなんとなくイヤな予感がして…どうしても扉を開ける気にならなかった。

 暫く躊躇したあと、覚悟を決めてノックをしてから太い取手に手をかけて扉を開いた。



 中にはオクタンとアルファルドもいて…学長が座ってる机の前に二人とも立ってて、何故かエルナト先生まで学長の脇に控えてた。

 私もゆっくり歩いて前に進んで、アルファルドとオクタンの間が結構空いてたから、とりあえずそこに収まるように真ん中に立った。

「フォッフォッ、良く来たのぉ。君が噂の天才児アトリクス君かの」

 左胸に手を当てて軽く腰を折る。
 この世界ではこれが正式な男性の挨拶の仕方。

「……失礼致します。このような形ですが見参でき光栄です、アヴィオール学長」

 だだっ広い空間のど真ん中に机がポツリとあって、そこに座ってる学長はニコニコ笑ってるけど…、この人も油断しちゃいけないね。
 帝国の賢者って言われるくらい偉大な魔法使いだから。

 このアヴィオール学長って入学式で挨拶したときとまた雰囲気が違うな。
 ゲームでもそうだったけど、やっぱり目が細くて開けてるのか開けてないのかわからない。

「フォッ!君は平民の出なのに実に教育が行き届いておるのぉ。堂々たる立ち振る舞い、秀でた頭脳と類稀な知識、容姿も申し分ないの…周囲ではどこぞのご落胤ではないかと噂すら立っておるくらいだ」
「…ハハッ、何を仰っているのか判りかねます。…俺は真っ当な平民で、亡き両親とも身元は知れています」
「フォッフォッフォッ!ではそういうことにしておくかのぉ」
 
 机の上で肘をついて両手を組んでる学長の表情は意外なほどの柔らかい。

 でもさ、これに騙されちゃいけないんだ。探りを入れられてるから、一瞬足りとも油断できない。

「すでに報告済みかと思いますが…俺たちが無事戻れたのも、そこにいるドラコニス公爵であるアルファルドのおかげです。彼がベヒモスに襲われそうになった俺達を助けてくれました」

 アヴィオール学長をしっかりと見ながら私は説明していく。
 こっちもちゃんと申請して許可証もらってから薬草採取してたし、文句を言われるような筋合いはないからね。

「フォッフォッ、アルファルド君が足止めしたと説明を受けたがのぉ。いきなりベヒモスとは…穏やかじゃないの」

 そんなこと言われてもねぇ…。
 実際モンスターが現れた上にこっちは襲われそうになって散々だったし。

 次に学長の左隣で立ってたエルナト先生も口を開いた。

「先程こちらの二人にも説明を受けましたが、この辺りでベヒモスの生息は今まで確認されておりません。あの森は定期的に巡回していて、魔物の生息自体無いはずなのですが…」

 両脇にいるアルファルドとオクタンの方を見てエルナト先生も疑問を述べてく。
 
「アトリクス君、あの場にいて何か気付いたことはありませんでしたか?」

 今度は真っ直ぐにこっちを見てるエルナト先生は、何か知ってるならこの場できちんと説明しろと目で訴えてる。

 うーん、本当に心当たりはないんだけどなぁ…。
 まぁ、あるとしたら…。

「これは俺の見解ですが…」
「はい。何でしょう?」
「恐らく…あのベヒモスは元々生息していたわけではなく、突然あの場に現れたと思います」
「突然、現れた?それは…一体?」
「理由や原因までは解りません」

 会話が途切れて、周りがシーンと静まった。

 アルファルドは腕を組んでそっぽを向いて、オクタンは下を向いて手をもじもじしてる。
 エルナト先生は顎に手を添えて考え込んでる様子。アヴィオール学長は相変わらず何考えてるかわからなくて、目が見えてるのか謎。

「…一先ず、治安隊には連絡済です。大事に至らないとは思いますが、念の為帝都への侵入に繋がらないよう町の封鎖も呼びかけておきました」
「フォッフォッ、素晴らしく迅速で的確な対応じゃのぉ。随分と手慣れておるわ」
「……このくらい普通です」
「フォッフォッフォ!今年の新入生は癖のある者ばかりで面白いのぉ!」

 何が面白いのかわからないけど、アヴィオール学長はご満悦みたいだね。

 このフォッが3回出る時は興奮してるって書いてあったし。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。

カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。 今年のメインイベントは受験、 あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。 だがそんな彼は飛行機が苦手だった。 電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?! あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな? 急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。 さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?! 変なレアスキルや神具、 八百万(やおよろず)の神の加護。 レアチート盛りだくさん?! 半ばあたりシリアス 後半ざまぁ。 訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前 お腹がすいた時に食べたい食べ物など 思いついた名前とかをもじり、 なんとか、名前決めてます。     *** お名前使用してもいいよ💕っていう 心優しい方、教えて下さい🥺 悪役には使わないようにします、たぶん。 ちょっとオネェだったり、 アレ…だったりする程度です😁 すでに、使用オッケーしてくださった心優しい 皆様ありがとうございます😘 読んでくださる方や応援してくださる全てに めっちゃ感謝を込めて💕 ありがとうございます💞

【完結】アラサー喪女が転生したら悪役令嬢だった件。断罪からはじまる悪役令嬢は、回避不能なヤンデレ様に溺愛を確約されても困ります!

美杉。節約令嬢、書籍化進行中
恋愛
『ルド様……あなたが愛した人は私ですか? それともこの体のアーシエなのですか?』  そんな風に簡単に聞くことが出来たら、どれだけ良かっただろう。  目が覚めた瞬間、私は今置かれた現状に絶望した。  なにせ牢屋に繋がれた金髪縦ロールの令嬢になっていたのだから。  元々は社畜で喪女。挙句にオタクで、恋をすることもないままの死亡エンドだったようで、この世界に転生をしてきてしあったらしい。  ただまったく転生前のこの令嬢の記憶がなく、ただ状況から断罪シーンと私は推測した。  いきなり生き返って死亡エンドはないでしょう。さすがにこれは神様恨みますとばかりに、私はその場で断罪を行おうとする王太子ルドと対峙する。  なんとしても回避したい。そう思い行動をした私は、なぜか回避するどころか王太子であるルドとのヤンデレルートに突入してしまう。  このままヤンデレルートでの死亡エンドなんて絶対に嫌だ。なんとしても、ヤンデレルートを溺愛ルートへ移行させようと模索する。  悪役令嬢は誰なのか。私は誰なのか。  ルドの溺愛が加速するごとに、彼の愛する人が本当は誰なのかと、だんだん苦しくなっていく――

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

【完結】名ばかりの妻を押しつけられた公女は、人生のやり直しを求めます。2度目は絶対に飼殺し妃ルートの回避に全力をつくします。

yukiwa (旧PN 雪花)
恋愛
*タイトル変更しました。(旧題 黄金竜の花嫁~飼殺し妃は遡る~) パウラ・ヘルムダールは、竜の血を継ぐ名門大公家の跡継ぎ公女。 この世を支配する黄金竜オーディに望まれて側室にされるが、その実態は正室の仕事を丸投げされてこなすだけの、名のみの妻だった。 しかもその名のみの妻、側室なのに選抜試験などと御大層なものがあって。生真面目パウラは手を抜くことを知らず、ついつい頑張ってなりたくもなかった側室に見事当選。 もう一人の側室候補エリーヌは、イケメン試験官と恋をしてさっさと選抜試験から引き揚げていた。 「やられた!」と後悔しても、後の祭り。仕方ないからパウラは丸投げされた仕事をこなし、こなして一生を終える。そしてご褒美にやり直しの転生を願った。 「二度と絶対、飼殺しの妃はごめんです」 そうして始まった2度目の人生、なんだか周りが騒がしい。 竜の血を継ぐ4人の青年(後に試験官になる)たちは、なぜだかみんなパウラに甘い。 後半、シリアス風味のハピエン。 3章からルート分岐します。 小説家になろう、カクヨムにも掲載しています。 表紙画像はwaifulabsで作成していただきました。 https://waifulabs.com/

【完結】身を引いたつもりが逆効果でした

風見ゆうみ
恋愛
6年前に別れの言葉もなく、あたしの前から姿を消した彼と再会したのは、王子の婚約パレードの時だった。 一緒に遊んでいた頃には知らなかったけれど、彼は実は王子だったらしい。しかもあたしの親友と彼の弟も幼い頃に将来の約束をしていたようで・・・・・。 平民と王族ではつりあわない、そう思い、身を引こうとしたのだけど、なぜか逃してくれません! というか、婚約者にされそうです!

この度、仮面夫婦の妊婦妻になりまして。

天織 みお
恋愛
「おめでとうございます。奥様はご懐妊されています」 目が覚めたらいきなり知らない老人に言われた私。どうやら私、妊娠していたらしい。 「だが!彼女と子供が出来るような心当たりは一度しかないんだぞ!!」 そして、子供を作ったイケメン王太子様との仲はあまり良くないようで――? そこに私の元婚約者らしい隣国の王太子様とそのお妃様まで新婚旅行でやって来た! っていうか、私ただの女子高生なんですけど、いつの間に結婚していたの?!ファーストキスすらまだなんだけど!! っていうか、ここどこ?! ※完結まで毎日2話更新予定でしたが、3話に変更しました ※他サイトにも掲載中

【R-18】冬来たりなば春遠からじ外伝 〜朝まで愛して……、愛したい!

ウリ坊
恋愛
【冬来りなば、春遠からじ ~親友になった悪役公爵が俺(私)に求愛してくるけど、どうしたらいい…?】のR-18版、大人向けのお話です。(ミラとアルファルドのいちゃラブなやつです) そのため、本編とは分けて連載させてもらっております。ご了承下さいませm(_ _)m (注)本編をお読み頂いている方で、2人のイメージを壊したくない方、性的表現が苦手な方はご遠慮下さいますようお願い申し上げますm(_ _;)m ※ 筆者が読みたいだけで書いたお話です。本編を読んでいない方は二人の関係性や登場人物がわからないようになっております。もし気になった方がいらっしゃいましたら、本編を閲覧していただけますと嬉しいです!(恋愛ファンタジーで長編になってます)

ゲームの序盤に殺されるモブに転生してしまった

白雲八鈴
恋愛
「お前の様な奴が俺に近づくな!身の程を知れ!」 な····なんて、推しが尊いのでしょう。ぐふっ。わが人生に悔いなし! ここは乙女ゲームの世界。学園の七不思議を興味をもった主人公が7人の男子生徒と共に学園の七不思議を調べていたところに学園内で次々と事件が起こっていくのです。 ある女生徒が何者かに襲われることで、本格的に話が始まるゲーム【ラビリンスは人の夢を喰らう】の世界なのです。 その事件の開始の合図かのように襲われる一番目の犠牲者というのが、なんとこの私なのです。 内容的にはホラーゲームなのですが、それよりも私の推しがいる世界で推しを陰ながら愛でることを堪能したいと思います! *ホラーゲームとありますが、全くホラー要素はありません。 *モブ主人のよくあるお話です。さらりと読んでいただけたらと思っております。 *作者の目は節穴のため、誤字脱字は存在します。 *小説家になろう様にも投稿しております。

処理中です...