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薬草採取 2
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なんで?この森はモンスターなんて出ないはず…もしかしてスタンピードの生き残りかな?
私達のいる場所から北に数メートル程。
でもおかしい…さっきまでは気配すら感じなかったのに突然ここに現れた。しかもこの気配…かなり体格の大きいモンスターだ。
「アルファルド、オクタン…その籠しっかり背負ってろよ」
「……」
「え?…んと…どうし…たの?」
北の方角をジッと見てから、二人の背中を押して反対側の南方向へと移動する。
そこまで離れてないからすぐ見つかるかも、木々が邪魔してるせいなのかモンスターが動いてないせいか、まだ本体までは見えてない。
それに、たぶんモンスターもこっちに気付いてないから、チャンスは今しかない。
「こっちだっ!いいから走るぞ!」
「あ、アート、君!?」
「…っ、魔物か…」
「え!?ま、魔物…!?」
オクタンの手を握ると、近くにいたアルファルドにも呼びかける。
アルファルドは何となく気づいたのか、背負った籠の肩紐を両手で握り返して逆方向へ走り始めてる。
だけどそうこうしてるうちに、地響みたいな足音と共にモンスターが姿を現した。
「グオオォォ……」
え…?これって…ベヒモス?
このモンスターもわりと終盤で出てくる筈なのに…。
サイのような姿だけど、体格は倍くらいある。顔の真ん中には鋭くて長い角が生えてて、象みたいな胴体はかなりの迫力がある。コイツは上位種より強い。
魔法は使わないけど、この体格とパワーで迫られたらひとたまりもないよ!
「あ…あ、んと…あれ…な、な、な、何!?」
「マジかよ…なんでここにベヒモスが……」
木々の間からヌッと現れたベヒモス。バキバキッと枝を踏み潰して、細い木を薙ぎ倒しながらこっちへと向かって一歩ずつゆっくり進んで来てる。
「んと…ベヒ?何?…それ…?」
「マズイぞ…オクタン!走れっ!!」
「え!?え!?…アッ──!!」
オクタンの手を掴んで森の斜面を急いで走って下る。
アルファルドは言うまでもなく前を走ってた。
『ファイアボール』
アルファルドが走りながらベヒモスに火属性初級魔法を放って、火の玉がベヒモスの鼻あたりに当たった。
それと同時にアルファルドが私達とは別方向に走ってる。
「アルファルド!」
ベヒモスはそれに怒ってアルファルドの後を追いかけて行った。
ただ、ここで私が手を引いてたオクタンが木の根に躓いて転んでしまう。
「オクタンっ!しっかりしろ!急げ!」
「ん!ハァ…うん」
すぐに起き上がってまた走り出したけど、今度は真ん前を走ってる私とオクタンに標準を合わせて、カーブしながらもの凄い勢いで追いかけてきた!
私はオクタンの手を引いて必死に走るけど、オクタンはかなりツラそうで…また今にも転びそう。
ここに二人がいなかったら、すぐにでも倒しちゃうんだけど!
この状況じゃどう考えても無理。しかも風魔法は補助的なものしか使えないし。この状態じゃオクタンも魔力が練れないな…。
ベヒモスは外皮が堅くて物理攻撃に強い。魔法耐性もまあまああって一番効くのは火属性なんだけど、アルファルドがどのレベルまでの魔法を使えるのかわからないし。
そうしてる間にもずんずんずんずんベヒモスは迫ってきてる!
「はあッ!はあッ!……、あ!アート、く!ぼ、僕…もぅ、ダ…メ…、」
緩やかな下り坂を全力で走ったせいかオクタンの体力が無さすぎるせいか、途中の泥濘みで滑ってオクタンは私の手を離してそのまま派手に転んでしまった。
「オクタンっ!!」
ベヒモスは転んだオクタンに目標を決めたのか、座り込んでるオクタンに向かって頭を下げながら物凄い勢いで突進してくる。
オクタンは座り込んだまま、ベヒモスが迫ってくる恐怖に震えて蒼白になってる。
「グオ!」
「あ、……やだ……」
私も足を止めてすぐさまオクタンに駆け寄って、庇うようにギュッと抱きしめた。
最悪、身体強化で跳ね飛ばされても耐えようかと思って構えてた。
でも予想に反して、私とオクタンが蹲ってる目の前を突然アルファルドが現れて遮った。
「…くそっ!」
「な、アルファルド!?…危ないっ!!」
咄嗟のアルファルドの行動に驚いて、完全に出損ねてしまった。
ウソッ!なんでアルファルドが!?
『メテオインパルス!』
燃え盛る巨大な隕石の塊がベヒモス目掛けて落下してくる。これは皇族のみが使える特殊火属性の最上級魔法。
「グゴオォッ!!」
背中に直撃したおかげでベヒモスは凄い音を立てて横倒しで倒れて、まだ完全に死んでないのかピクピクと体を痙攣させてる。
「…何してる!?逃げるぞ!急ぐんだ!!」
頭が追いつかないで呆然とその光景を見てた私に、アルファルドが必死に叫んでる。
「えっ?!あ、あぁ…オクタン乗れっ!」
「ひ…ぁ…あ…」
腰を抜かしてるオクタンを急いで背負うと、アルファルドと一緒に山の斜面を下って町の入り口まで走って行った。
◇
「ハァ……よし、ここまで来れば……」
「ヒック…アート、君…ごめん。ヒック…ありが…と…」
町の入り口付近で息を整えながら3人で安否の確認してる。
背負ってたオクタンをゆっくりと下に降ろした。
「気にすんな、オクタン!みんな無事で良かったよ…これもアルファルドのおかげだな。ありがとう!」
「……」
「んと…公爵…ありがとう…ございます」
「……」
立って顎の汗を腕で拭ってるアルファルドは、息を整えながら無言で下を向いてた。
んー?もしかして照れてるのかな?
アルファルドが庇って助けてくれたのが嬉しくて、押さえきれない感情と笑顔を向けた。
「アルファルド!お前ってめちゃくちゃすげーじゃん!!俺、惚れ直しちゃったよ!」
「………やめろ」
「ハハッ、でもさ…みんな無事で本当に良かったよ…」
またプイッとそっぽ向いちゃったけど、とにかくホッとした。
未だに腰が抜けてるのか道端に座り込んだオクタンは俯いてまだ体も震えてる。
「ふぅ…、オクタン。ゆっくりでいいからとりあえずアカデミアに戻って報告してくれ。俺は治安隊に通報してくる。まだ完全に倒れてなかったし、あれが町の中までやって来たら危ないからな…」
「あ…、アート、君」
座り込んでるオクタンの横にしゃがんで安心させるように笑顔で話した。
「もう大丈夫だ。魔法アカデミアは皇宮に次いで安全な場所だから、お前は一旦アカデミアへ戻れ」
「ぼ、僕…」
「俺も治安隊に報告したら直ぐにアカデミアへ戻る。だから安心しろ」
座り込んでるオクタンにまた笑顔を向けて説得する。
オクタンは深呼吸してゆっくり立ち上がった。
足はまだガクガク震えてたけど、アカデミアまではそこまで距離はないから大丈夫でしょう。
「アルファルド。お前もオクタンと一緒に戻ってくれ」
「……」
「アルファルドが助けてくれたおかけで皆んな無事で帰れた。ありがとな…アルファルドは命の恩人だ」
しかもさ、わざわざ自分に注意を向けてベヒモスを私達から離そうとしてくれてたから。
アルファルドの優しさがすごく嬉しくて胸が熱くなっちゃうよ。
「……」
「じゃあな」
ニコッと微笑んでから踵を返して再び来た方向へと足を向けた。
目的はもちろんベヒモスを仕留めるため。この二人がいると自分の実力が出せないからね。
「……お前は、戻らないのか……」
「──え?」
思いがけず背後からアルファルドに手首を引かれて呼び止められた。
ビックリしてまた後ろを振り返った。
相変わらず鬱陶しい前髪で表情はわからないけど、普段の様子を知ってるだけに、いつもと違う感じなのがよくわかる。
「…とりあえず、アカデミアに報告すれば…大丈夫だろ……」
「……もしかして、心配してくれてるのか?」
「…っ!……うるさいっ!」
「嘘だろ?……めちゃくちゃ嬉しいっ!」
直ぐ側にいるアルファルドに喜びいっぱいの笑顔を向けたら、手を離してまたそっぽを向いてしまった。
そしてそのまま振り返らずにアカデミアの方までずんずん歩いて行っちゃった。
「あ、んと、アート君…気を、つけてね!…待ってる、から」
「あぁ、すぐ戻る」
少しは落ち着いたのか、アルファルドの後を追いかけるようにオクタンもアカデミアまでゆっくり歩いてく。
手を振って二人の背中を見送った。
よし、…これで思う存分できる。
なんで?この森はモンスターなんて出ないはず…もしかしてスタンピードの生き残りかな?
私達のいる場所から北に数メートル程。
でもおかしい…さっきまでは気配すら感じなかったのに突然ここに現れた。しかもこの気配…かなり体格の大きいモンスターだ。
「アルファルド、オクタン…その籠しっかり背負ってろよ」
「……」
「え?…んと…どうし…たの?」
北の方角をジッと見てから、二人の背中を押して反対側の南方向へと移動する。
そこまで離れてないからすぐ見つかるかも、木々が邪魔してるせいなのかモンスターが動いてないせいか、まだ本体までは見えてない。
それに、たぶんモンスターもこっちに気付いてないから、チャンスは今しかない。
「こっちだっ!いいから走るぞ!」
「あ、アート、君!?」
「…っ、魔物か…」
「え!?ま、魔物…!?」
オクタンの手を握ると、近くにいたアルファルドにも呼びかける。
アルファルドは何となく気づいたのか、背負った籠の肩紐を両手で握り返して逆方向へ走り始めてる。
だけどそうこうしてるうちに、地響みたいな足音と共にモンスターが姿を現した。
「グオオォォ……」
え…?これって…ベヒモス?
このモンスターもわりと終盤で出てくる筈なのに…。
サイのような姿だけど、体格は倍くらいある。顔の真ん中には鋭くて長い角が生えてて、象みたいな胴体はかなりの迫力がある。コイツは上位種より強い。
魔法は使わないけど、この体格とパワーで迫られたらひとたまりもないよ!
「あ…あ、んと…あれ…な、な、な、何!?」
「マジかよ…なんでここにベヒモスが……」
木々の間からヌッと現れたベヒモス。バキバキッと枝を踏み潰して、細い木を薙ぎ倒しながらこっちへと向かって一歩ずつゆっくり進んで来てる。
「んと…ベヒ?何?…それ…?」
「マズイぞ…オクタン!走れっ!!」
「え!?え!?…アッ──!!」
オクタンの手を掴んで森の斜面を急いで走って下る。
アルファルドは言うまでもなく前を走ってた。
『ファイアボール』
アルファルドが走りながらベヒモスに火属性初級魔法を放って、火の玉がベヒモスの鼻あたりに当たった。
それと同時にアルファルドが私達とは別方向に走ってる。
「アルファルド!」
ベヒモスはそれに怒ってアルファルドの後を追いかけて行った。
ただ、ここで私が手を引いてたオクタンが木の根に躓いて転んでしまう。
「オクタンっ!しっかりしろ!急げ!」
「ん!ハァ…うん」
すぐに起き上がってまた走り出したけど、今度は真ん前を走ってる私とオクタンに標準を合わせて、カーブしながらもの凄い勢いで追いかけてきた!
私はオクタンの手を引いて必死に走るけど、オクタンはかなりツラそうで…また今にも転びそう。
ここに二人がいなかったら、すぐにでも倒しちゃうんだけど!
この状況じゃどう考えても無理。しかも風魔法は補助的なものしか使えないし。この状態じゃオクタンも魔力が練れないな…。
ベヒモスは外皮が堅くて物理攻撃に強い。魔法耐性もまあまああって一番効くのは火属性なんだけど、アルファルドがどのレベルまでの魔法を使えるのかわからないし。
そうしてる間にもずんずんずんずんベヒモスは迫ってきてる!
「はあッ!はあッ!……、あ!アート、く!ぼ、僕…もぅ、ダ…メ…、」
緩やかな下り坂を全力で走ったせいかオクタンの体力が無さすぎるせいか、途中の泥濘みで滑ってオクタンは私の手を離してそのまま派手に転んでしまった。
「オクタンっ!!」
ベヒモスは転んだオクタンに目標を決めたのか、座り込んでるオクタンに向かって頭を下げながら物凄い勢いで突進してくる。
オクタンは座り込んだまま、ベヒモスが迫ってくる恐怖に震えて蒼白になってる。
「グオ!」
「あ、……やだ……」
私も足を止めてすぐさまオクタンに駆け寄って、庇うようにギュッと抱きしめた。
最悪、身体強化で跳ね飛ばされても耐えようかと思って構えてた。
でも予想に反して、私とオクタンが蹲ってる目の前を突然アルファルドが現れて遮った。
「…くそっ!」
「な、アルファルド!?…危ないっ!!」
咄嗟のアルファルドの行動に驚いて、完全に出損ねてしまった。
ウソッ!なんでアルファルドが!?
『メテオインパルス!』
燃え盛る巨大な隕石の塊がベヒモス目掛けて落下してくる。これは皇族のみが使える特殊火属性の最上級魔法。
「グゴオォッ!!」
背中に直撃したおかげでベヒモスは凄い音を立てて横倒しで倒れて、まだ完全に死んでないのかピクピクと体を痙攣させてる。
「…何してる!?逃げるぞ!急ぐんだ!!」
頭が追いつかないで呆然とその光景を見てた私に、アルファルドが必死に叫んでる。
「えっ?!あ、あぁ…オクタン乗れっ!」
「ひ…ぁ…あ…」
腰を抜かしてるオクタンを急いで背負うと、アルファルドと一緒に山の斜面を下って町の入り口まで走って行った。
◇
「ハァ……よし、ここまで来れば……」
「ヒック…アート、君…ごめん。ヒック…ありが…と…」
町の入り口付近で息を整えながら3人で安否の確認してる。
背負ってたオクタンをゆっくりと下に降ろした。
「気にすんな、オクタン!みんな無事で良かったよ…これもアルファルドのおかげだな。ありがとう!」
「……」
「んと…公爵…ありがとう…ございます」
「……」
立って顎の汗を腕で拭ってるアルファルドは、息を整えながら無言で下を向いてた。
んー?もしかして照れてるのかな?
アルファルドが庇って助けてくれたのが嬉しくて、押さえきれない感情と笑顔を向けた。
「アルファルド!お前ってめちゃくちゃすげーじゃん!!俺、惚れ直しちゃったよ!」
「………やめろ」
「ハハッ、でもさ…みんな無事で本当に良かったよ…」
またプイッとそっぽ向いちゃったけど、とにかくホッとした。
未だに腰が抜けてるのか道端に座り込んだオクタンは俯いてまだ体も震えてる。
「ふぅ…、オクタン。ゆっくりでいいからとりあえずアカデミアに戻って報告してくれ。俺は治安隊に通報してくる。まだ完全に倒れてなかったし、あれが町の中までやって来たら危ないからな…」
「あ…、アート、君」
座り込んでるオクタンの横にしゃがんで安心させるように笑顔で話した。
「もう大丈夫だ。魔法アカデミアは皇宮に次いで安全な場所だから、お前は一旦アカデミアへ戻れ」
「ぼ、僕…」
「俺も治安隊に報告したら直ぐにアカデミアへ戻る。だから安心しろ」
座り込んでるオクタンにまた笑顔を向けて説得する。
オクタンは深呼吸してゆっくり立ち上がった。
足はまだガクガク震えてたけど、アカデミアまではそこまで距離はないから大丈夫でしょう。
「アルファルド。お前もオクタンと一緒に戻ってくれ」
「……」
「アルファルドが助けてくれたおかけで皆んな無事で帰れた。ありがとな…アルファルドは命の恩人だ」
しかもさ、わざわざ自分に注意を向けてベヒモスを私達から離そうとしてくれてたから。
アルファルドの優しさがすごく嬉しくて胸が熱くなっちゃうよ。
「……」
「じゃあな」
ニコッと微笑んでから踵を返して再び来た方向へと足を向けた。
目的はもちろんベヒモスを仕留めるため。この二人がいると自分の実力が出せないからね。
「……お前は、戻らないのか……」
「──え?」
思いがけず背後からアルファルドに手首を引かれて呼び止められた。
ビックリしてまた後ろを振り返った。
相変わらず鬱陶しい前髪で表情はわからないけど、普段の様子を知ってるだけに、いつもと違う感じなのがよくわかる。
「…とりあえず、アカデミアに報告すれば…大丈夫だろ……」
「……もしかして、心配してくれてるのか?」
「…っ!……うるさいっ!」
「嘘だろ?……めちゃくちゃ嬉しいっ!」
直ぐ側にいるアルファルドに喜びいっぱいの笑顔を向けたら、手を離してまたそっぽを向いてしまった。
そしてそのまま振り返らずにアカデミアの方までずんずん歩いて行っちゃった。
「あ、んと、アート君…気を、つけてね!…待ってる、から」
「あぁ、すぐ戻る」
少しは落ち着いたのか、アルファルドの後を追いかけるようにオクタンもアカデミアまでゆっくり歩いてく。
手を振って二人の背中を見送った。
よし、…これで思う存分できる。
応援ありがとうございます!
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