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新サークル編 3

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 レグルス様は上に立つ者だから、皆から持て囃されてこんなふうに追及されたことはないだろうな。

 その点でも、アルファルドとは全然違う。
 
 帝国にただ一人の皇子だから。 
 周りは媚びへつらって、自分が間違ってても肯定しかされないで生きて来たんだろうね。

 周りの生徒達はシーンとしながら、静かに私達のやり取りを見てる。
 雰囲気が悪くなってきてから、ルリオン様も前の席からこっちに向かって移動して来てた。

「アカデミアで身分は関係ない。だからだ。お前の行動や考えが全て正しい訳じゃない。…もしお前が俺の立場なら、今起きたことを何一つ理不尽だと感じないのか?」

 私が鋭い視線を向けてレグルス様を厳しく問うと、レグルス様はビクッとしてから考え込んでる。

 かなりギリギリのラインでのやり取り。アカデミアじゃなきゃきっと皇族侮辱罪とかで極刑だね。

「貴様ぁ!殿下に向かって無礼にも程があるぞ!!」

 後ろで聞いてたルリオン様もこの発言に激高してる。皇太子殿下が平民相手にこんなこと言われたら、怒って当然だと思う。
 しかもルリオン様って筆記で私に負けたせいもあってか、結構目の敵にされてるんだよね。普段関わろうとはしないんだけどさ。

「そうよ!レグルス殿下に何て口の聞き方をっ!!」
「平民ぶぜいが…身の程をしれっ!!」
「なんて低俗で下劣なのかしら…」
「これだから平民は教養の欠片もない!」

 少し突付いただけで、こんなにも綻びが出てくる。
 私に向けて一斉に周りから非難の嵐が襲いかかってきた。
 結局は権力社会。たとえアカデミアでも平等なんてものは初めから存在してないんだ。

 これは面白いね。さあ、レグルス様はどう出るかな?

 しばらく下向いて考えてたレグルス様は、私が周りから辛辣に責められ始めるとハッと顔を上げた。

「いや、皆やめてくれ!…アトリクス。私が悪かった…謝ろう」

 私同様、周りの貴族子息女達も、レグルス様が謝るのを固唾を飲んで見守っていた。

「殿下が謝る必要は何もございません!!」

 後ろに控えてたルリオン様がフォローするみたいに声をあげた。

 レグルス様はルリオン様を振り返ってから首を横に振って否定してる。

「いや…彼が平民だからと責められた時点で、平等という概念がなくなっていた。それを考えず己の意見を通そうとした私にも非がある」

 やっぱりレグルス様って…さすが男主人公だね。その潔さは称賛するよ。
 ただ周りの生徒達は違うよね。

「信じられないわ!あのレグルス様に謝罪を求めるなんて…」
「クソがっ…下賤の分際で!!」
「レグルス殿下は何てお優しいのかしらっ!」
「あんな奴っ、さっさと出ていけばいい!」

 小声で話してても声がデカ過ぎて全部筒抜けだよ。でも、周りの反応は大体予想通りだね。
 
 私はアルファルド一択だから。誰から何を言われても、何も気にならないし何も感じない。
 ただ…こんな仕返しみたいなことしたって、しょうがないってわかってるんだけど。

 私はレグルス様に向かい左胸に手を添えて、軽く頭を下げて腰を曲げた。

「……レグルス皇太子殿下。ご無礼をお許し頂きたい。数多に煌めく星々の女神アストライアに誓い…今後我が行動を改める事を誓います」

 これは忠誠の証とは少し違うけど、貴族の間では正当な誠意を込めた謝罪の仕方。
 周りも私の突然の謝罪に驚いてる様子だった。罵ってた声や言葉が打って変わって静かになった。

 ちょっと揺さぶり過ぎたかな?この辺が潮時だよね。

「…その誓い、受け取ろう」

 レグルス様が受け取って、これでこの件はおしまい。
 私も顔を上げて視線で周りの反応を確かめる。

 意外そうな顔でこっちを見てる人、睨みつけてる人、馬鹿にしてように笑ってる人…様々だった。

「今後、この件での不服は一切受け付けない!どちらか一方にしわ寄せが発覚した場合、私の全権威を持って制裁を加える」
  
 レグルス様は周りにいる生徒達に向かって、厳しい言葉を向けてる。
 めちゃくちゃ権力使っちゃってるけど、これはもうこれ以上騒ぐなって忠告だね。
 もし私なりモブオ達なりに他の貴族が圧力や権威を振りかざすなら、レグルス様が許さないってことだよ。

 うんうん。周りの反応もそれぞれだけど、わたし的には満足だったかな。腑に落ちないこともあるけどさ。
 いつかはこういった不平不満が来ると思ってたからいい機会だったよ。

 ちょうど良いタイミングで予鈴がなる。

 騒然としてた生徒達も慌ただしく席に付いて、何事もなかったように講義が始まった。

 隣で終始怯えてたオクタンが、小声で私に話してきた。

「あ…あ…アート…君…、んと…だい、大丈夫…?」
「んー…?まぁな」

 私もその場で席に着いて、特にいつもと変わりなく講義を聞いてる。
 心配してくれてるオクタンを横目で見て、少しは落ち着きを取り戻したみたいで安心した。

「アート君…すごいね…んと…あんな、場面で…殿下、に……」
「オクタンも言ってただろう?アカデミアでは身分や地位は関係ないんだ。他の連中もこれで少しはわかっただろう」
「……うん。やっぱり…アート君て…スゴイ」
「ハハッ、そんな大したもんじゃないさ。案ずるより産むが易し、ってな」
「……え?なに?それ…」

 不思議そうに見てるオクタンを横目に、アルファルドは相変わらず無言で窓の外を見てる。

 一見興味無さそうな感じだけど…、私はちゃんと気づいてる。

 モブオ達が私に言いがかりつけてきた辺りから、レグルス様とやり合って謝罪したときまで…。
 滲み出るみたいな殺気をずっと感じてた。
 殺伐とした中、不謹慎だけどその殺気が心地良くて、アルファルドも少しはこのことに対して怒って心配してくれてたのかな…?真意はわからないけどね。

「ありがとな。アルファルド…」

 ニコッとアルファルドの方を向いて笑って言ったら、珍しく私の方を見て何か言いたそうにしてる。

「……お前…」

 一言だけポソッと呟いて、また窓の方に顔をふいっと向けちゃった。

「え?…アルファルド?」

 聞き返しても何の反応もなかった。私は思わず苦笑する。

 やっぱり手強いな。
 でも少しずつだけど何か話そうとしてくれたし、いつかはもっと近づければいいなあ。


 あんなふうにレグルス様を責めたのも、アルファルドの過去と重なったから。

 アルファルドとレグルス様は従兄弟関係なのに、皇帝陛下がアルファルドを嫌いだした途端に冷たく突き放してた。
 親友みたいに仲が良かっただけに、当時両親を亡くして傷心のアルファルドにとっては、更に追い打ちかけるように相当ショックな出来事だった。
 レグルス様も周りから有る事無い事吹き込まれたんだろうけど…アルファルドが苦境に立たされて、周囲から理不尽な理由で責められて追及されてる時でも、庇うことはしなかった。


 結局私も私情を挟んでるから、腹いせみたいでレグルス様には少しだけ悪いことしたかな。
 ただこのことを通して、少しでもアルファルドの事も考え直してほしかった。

 ただの自己満足なんだけどね。

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