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最推しとの出会い 4

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 エルナト先生は驚いた後、今度は疲れたような諦めたような表情を見せてた。

「あなたは……毎回、私を驚かせてくれますね」
「え?そうですか?…普通だと思いますが…」
「…普通の生徒はポーションを作ろうとはしません」
「は、ハハッ……」

 まぁ、そうだよね。
 この世界でのポーションてのはダンジョンで発掘するアイテムであって、本来作れるものじゃないし。

「ふぅ…、あなたの突拍子もない発言に、慣れてきたと思っていましたが…」
「いや~、先生にそう言われると光栄です!」

 ジロッと見られ、ウッと黙ると、先生は静かにお茶を置いた。

「それで…動機はなんですか?」
「動機ですか?」
「はい。理由もなく無作為にサークルの活動を許可出来ません」
「んー…、そうですね。まぁ単純に、ポーションを常備化出来れば、もっと救える命が増えるかなって」

 笑いながら言ったのに、エルナト先生は心配そうな顔つきでこっちを見てた。

「……理由は、わかりました。しかし、サークルとして活動するには定員を集めなくてはなりません」
「えぇ、とりあえず3名ですよね?それはもうクリアしてます」
「……それで、そのお気の毒な生徒は一体どなたですか?」

 気の毒なって…相変わらず容赦ないなぁ。

 お茶を一口啜るとテーブルに置いて、立ち上がると胸ポケットから書いてもらった入部承諾書を先生に渡す。

「これは…チィズル家のオクタンス君と、……ドラコニス…公爵……」
「はい。俺とオクタンとアルファルドの計3名です!」

 驚愕の表情で紙を見てから、また私に視線を移した。
 
「アトリクス君……ドラコニス公爵に近づいて、一体何を企んでいるのですか?」
  
 紙を机に置いて、しっかりと私を見据えて話すエルナト先生はちょっと怖い。

「企みなんてないですよ?前にも言いましたけど、純粋にアルファルドと仲良くなりたいんです。理由なんて特にありません」

 エルナト先生には悪いけど真意まで話すことなんて出来ない。
 色々聞かれても、同じ返答しかしてないし。
 それに当たり前だけど私の行動の意味なんて、誰にもわかるわけないから。

「…あなただけは私にも読めません。まぁ、追々わかるのでしょう」
「ハハッ、どうでしょうね?とりあえずサークルの許可下さい!」

 笑顔でエルナト先生を促した。
 先生も諦めたみたいに優雅にカップを手に持って、お茶を一口飲んだ。
 
「うむ、宜しいでしょう。ただ、もし…、万が一にでも、ポーションの生成に成功した場合、必ず初めに私の所へ報告しに来て下さい!」
「…はい。構いませんが…、何でですか?」

 先生は椅子から前屈みになって、キッと真剣な顔を向けてから私を鋭く見てる。

「成功した場合、世界を揺るがす大事になるからです。未だかつて、様々な研究者がポーション製造を夢見て研究してきましたが…昨今に至っても誰一人その偉業を成し遂げておりません」
「でも、旧世界では当たり前に製造していたんですよね?」
「そんなものはもう何百年も前の話です。ポーション製造の記録書も残っておりませんし、今ではダンジョン産を遺すのみとなっております」

 先生はまた息を吐いて、前屈みになってた姿勢をゆっくりと戻して背凭れに寄りかかってる。

「うーん、俺が成功するかわかりませんが…」
「……そこが恐ろしい所でなのです。何故かあなたが関わると不可能な事が可能に変わってしまうので……」
「いやー、そんな…」

 エルナト先生は疲れたみたいに目を閉じて眉間を揉んでる。

 ちょっと私を買いかぶりすぎだよ、先生。

 当初の目的はアルファルドとの距離を詰めるっていう不純なものだし。あわよくば別のことにも活用できるからね。
 それに自分でサークル作っちゃえば他のやつは絶対入らないだろうし、最低限の人数さえいれば活動は許される。
 冒険者として活動する時にも、薬草探すついでに外にも出れるし一石二鳥!

 よしっ!これから頑張るぞ!!

 エルナト先生からサークルの許可も貰って、明日から活動する予定。
 
 ちなみにどうやってアルファルドがサインしたかっていうと、もうゴリ押しで攻めまくった。







 ◇






「なぁ、アルファルド。一緒にサークルやろうぜ!」
「……」
「お前だってどこかに所属しないといけないだろ?どこでも構わないなら、俺と一緒にやろう!」

 講義も終わった午後。
 この後はサークル活動を決めるため新入生は外に見学に出て、様々なサークルの先輩方から勧誘を受ける。
 帰ろうとするアルファルドの背中を追いかけて私は攻めに攻めまくる。

「アルファルドって本読むの好きだろ?図書館巡りして薬学について研究しようぜ!」

 私が説得してる間も、アルファルドの足が止まることはなくて。
 背も高いし脚も長いせいか、かなりの速度で進んでる。
 たまに通り過ぎる生徒も慌てて脇に避けてた。

「いいだろ?アルファルドってば!!」

 遂に正門まで出て、街に向かう道を進んでもまだまだ着いて行きそうな私に、アルファルドはピタッと止まって振り返った。

「…来るな…」

 振り返ってくれたことに感動。アルファルドって低音で響くみたいな良い声してるなぁ。

「そんなの決まってるだろ?どこまでもついていくさっ」
「………」
「どうするかなんて俺の勝手だろ?」
「…迷惑だ…」
「じゃあこれにサインしてくれればもう付きまとわないぜ?」

 誰もいない道に二人で向かい合いながら紙をアルファルドの前に出す。
 悪徳商法みたいな言い方だけど、サインしてくれるまでは絶対諦めないから。

 しばらく無言の時間が過ぎ、紙を上げてた私の手も疲れて来た頃…。
 ツカツカと私に近づいて、手に持ってた紙をバッと奪った。

「え…?」

 驚いて近くにいたアルファルドを間抜けな顔で凝視した。

「……ペン」
「え!あぁ…」

 胸ポケットに入れてあったペンを慌てて渡すと、アルファルドはサラサラと紙にサインしてく。
 殴り書きみたいに書いて、強引に渡してきた。

「ありがとな!アルファルド!」
「……」
「すっげぇ、嬉しい!」

 どんな形でもアルファルドと一緒のサークルに入れるのがめちゃくちゃ嬉しくて、紙を抱きしめて笑顔でお礼を言った。

「………」
「ハハッ、また明日な!アルファルド」

 ホントは抱きつきたい気分だけど、そんなことしたら完全に引かれるだろうなぁ。

 距離を詰めるにはまだまだ時間が必要だね。
 そのまま手を振ってると、アルファルドは振り返らずに帰って行っちゃった。

 
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