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最推しとの出会い 3

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 渡り廊下の窓から燦々と陽が漏れてて、眩しいくらい温かい春の日差し。
 廊下の壁に凭れて外の景色を見てたら、オクタンがおずおず話し始めた。
 
「アート、君…あの…ドラコ、ニス…公爵とは、知り合い…なの…?」
「アルファルドと?いや…?今朝会ったばっかだけど?」

 ホントは誰よりも知ってるけど、アトリクスとアルファルドの出会いとしてはこれが正解だよね。
 それを聞いたオクタンはすっごく驚いてた。

「えっ!?け、今朝って…んと、もしかして…散歩の…とき?」
「あぁ、散歩の途中でたまたまな」
「そ、それで…あんなに…んと、…親しく……?」

 それを聞いて笑いそうになっちゃった。
 あれを見てオクタンは親しみを感じたのかなぁ?
 私が一方的に話し掛けてるだけなのに。

 腕を組みながらオクタンに向かって、ニッと笑顔を向けた。

「仲良くなるのに時間なんて関係ないだろ?」
「や…あ…、そ、そう…なの…?」

 まぁ、オクタンじゃなくても驚くよね。
 廊下の隅で頭抱えてアワアワしてるオクタンて可愛い。

「何か問題でもあるのか?」 
「え…?あ……んと……公爵は、…色々…噂が…あって……」
「噂?」
「あ、アート、君は…んと…知らない…と思う、けど……」

 ごめんね、オクタン。実は知ってるんだ。 

 皇帝陛下から嫌われて放置されてるアルファルドは、貴族社会でも同じ待遇で皆から無視されてる。
 公爵っていう高い身分だけが残って、家門自体の地位は地の底で…領地の経営状態ももの凄く悪い。

 しかも多額の借金だらけで領地民からは見放され、半数以上は出ていったから人口も少ない。だから集まる税も比例して少なくて、そのほとんどを返済に当ててるから財力なんてのも全くない。
 しかもアルファルドに近づくと不幸になるっていう馬鹿みたいな噂が広まってて…本当に孤立無援の状態。

 必死に説明しようとしてるオクタンの話を遮るように名前を呼んだ。

「オクタン」
「…ん?…な、に?」
「俺は何だろうと気にしない」

 笑いながら言うと、オクタンはハッとしたみたいに何か考えるように下を向いた。

 オクタンも貴族の一員なら関わるべきじゃないよね。これで離れて行っちゃうかな。
 わたし的にオクタン気に入ってたから残念だけど。

「んと…、わかっ、たよ…」

 しばらく考えて顔を上げたオクタンはへへっ…と笑ってた。

「…オクタン?」
「そ…だよね。アカデミアでは、…んと…身分、とか…関係、ないから…」

 なんだろう…?自分に言い聞かせてるみたいに聞こえる。
 不思議に思って言葉をかけようとすると、入り口から出てきた誰かがこっちに向かってきてる。

「おいッ、平民!」
「……ハァ…またお前かよ」

 廊下で話してた私達の元に、侯爵子息のリゲルがまた喧嘩売ってくる。
 なんでかちょいちょい喧嘩売ってくるんだよねー…、この子。
 後ろからはアケルナーも着いてきてて、やりにくいことこの上ない。 

 相変わらず美少女みたいに可愛い顔してるのに、敵意むき出しでやってくるんだよね。
 ズンズン進んで私が立って近くまで来ると、踏ん反り返るみたいに腕を組んで睨んでる。

「平民が偉そうな口聞くなっ!お前に近づくなんてますます意味がわからないっ!!」
「…別に、お前にわかってもらおうと思ってないからな」
「なっ!?なんて生意気なヤツ!口の聞き方に気をつけろっ!!はんっ!いいさ…あんな奴に近づいて、今に痛い目見るからな!」
「…お前には関係ないだろ。いちいち俺に構うな」
「お前に構ってるわけじゃない!目障りなだけだっ!!」
 
 キャンキャンまくし立てられて面倒でしょうがない。目障りなら余計に絡まなきゃいいのに。でも意外と憎めないんだよね。
 
「リゲル、もうやめなさい」 

 アケルナーが止めに入る。
 始めは傍観してるんだけど、リゲルの収拾がつかなくなると口を挟んでくるのがアケルナー。
 いや、初めから止めてくれよ。

「なんだよ、アケルナー!止めるなよっ!」
「君の悪い癖ですよ。気に入らないからとその度に喧嘩売るのは良くないです」
「…なんでコイツの味方するんだよっ!!」
「してません」

 えーっと、もういいかな…。

 廊下でやり取りするのはいいけど、周りにいた生徒の注目浴びてるし、もう休み時間無くなるしさ。
 案の定、予鈴の鐘が鳴り響く。はい、これで休憩時間も終わりだよ。

「さっ、戻ろうぜ」
「あ…ん…、んと…う、うん」
「ちょっと待てよ!!」
「さぁ戻りましょう」
 
 まだ言い足りないのかリゲルがまたキャンキャン言ってたけど、そのまま講堂に戻って行った。





 ◇







「エルナト先生~!…あっ、エルナト教授!」

 授業も終わってサークルの申請するためにエルナト先生の部屋を訪れた。
 先生の部屋は教授塔の部分の五階で、まだ若いのにアカデミアでの地位はかなり高い方。
 地位が高ければ高いほど塔の上へと移動する仕組み、最上階はもちろんアヴィオール学長の私室がある。

 ガチャリと扉を開けて現れたエルナト先生は相変わらずの美男子で、扉の外でニコニコ笑ってる私にため息をついてる。

「……アトリクス君。今まで通りで結構です…それで?何か御用ですか?」
「はい!新しいサークルの申請に来ました!」
「サークル?うむ…とりあえずお入り下さい」
「はーい!」

 元気良く返事をして中へと入った。
 二度目の訪問だけど、前はゆっくり観察してる余裕もなかったからな。
 エルナト先生の後について中へと進むと、この前お邪魔した時に座った応接用の椅子の方へ案内される。
 
「そちらへお掛け下さい」
「あっ、用が済んだらすぐに帰りますから!お構いなく」

 当たり前のようにティーセットを取り出してお茶を淹れようとしてくれる先生を慌てて止める。

 こっちを一瞬見たけど、先生は手を止めることなくお茶の準備をして、すでに沸かしてあったお湯を入れてから一式をこっちへ持ってくる。

 いや、長居はしない予定なんだけどな…。
 とりあえずこの前と同じ席に腰掛けた。

「それで…新しいサークルとは?」
「はい。“薬学研究会”を作ろうと思います」
「薬学?…あなたは薬学に明るかったでしたっけ?」
「いえ、全くわかりません」

 テーブルに淹れたての温かいお茶を置かれお礼を言う。
 先生も私の正面に腰を掛けて、自分のお茶を手に取る。

「なぜ薬学なのですか?」
「それはもちろん、ポーションを作ろうと思ってるからです!」
「──!」

 拳を握って力説する私を、エルナト先生はカップ持ったまま驚きの表情で私を凝視してた。


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