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入学式編 4

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「そういえば聞きまして?本日はいっしゃいませんが、珍しい白髪にオールドローズの瞳のご令嬢のお話…」
「えぇ、最近ヴィルギニス侯爵家に迎えられたご令嬢のことですわね?」

 数メートルほど離れた場所にいた女生徒達の声が耳に入ってきた。
 オクタンと樹の下の隅っこで一緒に食べてて聞こえた会話の内容は、恐らくこのゲームのヒロインの話。
 ん!?もしかしてポラリスのことかな?

 
 そう、ミティストの女主人公ヒロインであるポラリスは、実はこの入学式には来てないんだ。

 天啓が下るのが入学式の前後くらいで、光属性を発現するのもその後だから、少し遅れて編入するのがポラリスの登場シーン。
 だから試験会場にもいなかった。
 しかも入ってきてすぐにアルファルドと出会うし!

 サァー…と木の葉を揺らす風を感じながらちびちびお茶飲んで、とりあえずその辺りで邪魔しないとなーって、考えてまた観察を続けてる。

 長テーブルの中央部には華やかなメンバーが立ちながら話してて、ミティストの制服がより一層映える。

 うわぁ~!あそこにメインキャラ勢ぞろい!!

 主人公こそいないけど、私から数メートルほど離れた場所にレグルス様、ルリオン様…また少し左に離れた場所にマイア、スピカ、アケルナー、リゲル、それにエルナト先生もいる!
 グルッと見渡して、またまたため息をつく。

 はぁ~…幸せすぎ……メインもサブもなんでこんなに美形揃いなんだろう。特にレグルス様はかなりのイケメン。顔だけならミティストで1番好き。
 
 相変わらず樹の下の定位置でお皿片手に目の保養をしてる。
 ミティストのキャラ観察で大満足してる私に、オクタンが下から制服の裾をちょんちょん引っ張ってる。

「ねぇ…アート君」
「んー、なんだ?」
「んと、あっちから…誰か…来るよ…?」

 一旦オクタンに移した視線を、更にオクタンが指さした方向へと向ける。
 さっきまでメインキャラ達と並んでいた人物。 

 あれ?あの目立つ容姿の男2人は…。

「君がアトリクス君?」
「……何か用か?」

 静かに歩いて私がいる樹の下のまで近づいて来た二人は、臙脂色の鋭い眼つきのイケメンはアケルナー。

 顔つきもだけど剣士だから粗暴なイメージなのに、この人口調は丁寧なんだよね。

 そしてその右隣にいるのはリゲル。
 この子、男の子なのに可愛くて愛嬌のある顔をしてる。ベージュ色の緩くウェーブした短髪に耳には赤いピアスをしてて、青色のぱっちりくりくり二重。背もそこまで高くないかな…オクタンより少し高いくらいで美少女顔。
 でも、割と口調が荒いのがリゲルの特徴。
 同じ剣士で二人は昔からの友達。いつも一緒にいて切磋琢磨してる。

「オマエが噂の平民か?」

 早速牽制に来てるのか、リゲルが挑発的な態度を取る。

「噂かどうかは知らないが、たぶんそうだな」
「ケッ、筆記で良い点取ったからって、調子に乗ってんじゃねぇぞ!」

 美少女みたいな可愛い顔してるのに口が悪すぎて、なんだか小型犬みたい。

「別に?調子には乗ってないぞ」
「そのすかした態度が調子に乗ってんだよ!」
「それはお前の言いがかりだろ?」
「平民は平民らしく出しゃばるような真似するなっ」

 私より背が低いのもあってか、キャンキャン吠えてるみたいに見えてしまう。
 うーん…よくわからないけど、嫌われてるみたいだね。リゲルって、こんな偏見持ってる子だったかな?

「ふーん、俺がどうしようとお前に関係ないだろ?」
「なにィ!このヤロウ!」
「もうやめなさい、リゲル」

 ここで登場したのが隣で見てたアケルナー。

「友人が失礼しました。僕はアケルナー・ル・コールサックと言います」
「…俺はアトリクスだ」
「やはり君が、アトリクス君なんですね」
「はあ?…そうだけど?」

 隣でぷんすかしてるリゲルと違って、丁寧口調のアケルナーの方が私てきには苦手でやりにくい。
 これからの事も考えて、関わらないようにちょっと一芝居打つかなー。

「これからよろしくお願いします」
「…あぁ。よろしくな、
「なにをっ!?無礼だぞ!平民っ!!」

 リゲルはうるさいけどこの際気にしない。
 樹に寄りかかってたけど、一歩近づいてアケルナーに手をのばす。

 いきなり呼び捨てなんて、貴族相手に結構無礼な口の聞き方でしかも握手を求めてるんだけど…さて、アケルナーはこれを受け取るかな?それとも自分への侮辱と取るか…。試すような笑顔を向ける。

 アケルナーはジッと私の右手を見つめた後、手を伸ばしてしっかり握手をしてきた。
 いや、これには私の方がビックリした。絶対手を弾かれると思ってたから。

 向こうも握手をしながらニコリと笑うと、私の手を引き寄せて顔を近づけ小声で耳打ちする。

「あの日、君の放った殺気は大変見事だった…」
「─っ!」

 バッと顔を離す。その一言だけ話すとアケルナーは手を離した。

「何してんだよ、アケルナー!もう行くぞ!」
「はい。戻りましょう…では」

 そしてそのまま二人とも元いた場所へと戻っていった。

 心臓がバクバクと早く波打ってる。

 うわー…ヤバっ、私がやったってバレてるし。  
 だから挨拶してきたのか。
 リゲルはともかく、アケルナーは強い相手にとにかく目がないから。
 あの場にいたんだ。ハァ…面倒な相手に目を付けられたな。  

「あ、アート君…大丈夫?」
「……え、あぁ」
「んと…顔色が、悪いよ?何か…言われたの?」
「…いや、何もない」

 トンッと再び樹に寄りかかった。

 普通の魔法使いよりも、感覚が優れてて気配を察知できる剣士とか騎士の方が厄介だな。

 オクタンが心配そうに顔を上げながら私の様子を伺ってる。

 このゲームの貴族っておかしいんじゃないの?なんで平民に興味持ったり近づこうとしたりするの?
 むしろあの悪口言って成敗した下位貴族の方が、私のイメージ的には貴族っぽいんだけど。
 
「せっかくだし、もっと食べようぜ?」
「う、うん」

 不安げなオクタンを安心させるように笑顔で振る舞う。
 ま、気にしたってしょうがないよね。ここは魔法アカデミアだから剣術は関係ない。私は魔法騎士団とか目指さないから専攻も違うしね。


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