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入学式編 3

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「静粛に!これよりサジタリア魔法アカデミアの入学式を開始いたします!」

 ザワザワしてた会場が一気にシーンと静まり返ってる。
 ゆっくりと杖を突きながら側面にある扉から出てきたのはアヴィオール学長先生。 

 魔法アカデミアらしく、まっ白な布地に金糸の刺繍が入ったローブを纏って後ろには生徒のローブと同じく六芒星の刺繍が縫われてる。
 頭には同じ柄のとんがり帽子を被っている白髪の老人だった。
 目が細すぎて開けてるのか閉じてるのかよくわからないのがこの学長の特徴なんだよねー。
 講壇の前に立って、新入生に向けて挨拶をする。

「フォッフォッ、未来ある若人達よ…今日という佳き日を迎えることができ……」

 学長先生の挨拶が長々と続いて、欠伸を噛み殺しながらウトウトしてた。後ろの席だから誰も見てないだろうな。
 しかし、なんでこういう挨拶って無駄に長いんだろう。

「フォッ、さて…長くなってしまったが、これは我々教師からの贈り物だ」

 ようやく長い話しが終わったかと思うと、学長先生が片手を挙げてパチンと指を鳴らす。
 すると一斉に壁にかけてあるキャンドルに炎が灯り、大魔導ホールの全域にそよ風と共に様々な色の花吹雪が舞い降りる。

 うわぁーっと歓声が上がり、新入生達は一斉に上を見上げた。
 これがまさに魔法って感じ!!
 すご~い!これが魔法だよね!綺麗だなぁ~。

 花吹雪が舞い散る中、新入生代表でこの国の皇太子殿下であるレグルス様が呼ばれる。 
 レグルス様の入試順位はもちろん1位!2位がルリオン様と続くんだ。  
 この花吹雪も壇上に上がったレグルス様の為にやったとしか思えないくらいよく似合ってる。
 ゲームと一緒でシュッとした彫りの深い端正なお顔立ち。雪原のような光を放つ銀髪に、気高く高貴なロイヤルパープルの瞳、背もかなり高くてそこにいるだけで圧倒される存在感を放ってる。

 キャー!!レグルス様ぁ!!あぁ、アカデミアの制服着たレグルス様ってもの凄くかっこいい!! 
 まさにゲームのスチルと一緒!感動だよぉー!!

 案の定周りの女子達もレグルス様に熱い視線を送ってる。頬を赤らめたり、口元を押さえて泣いてる子もいるくらい。

「以上、新入生代表の挨拶とする!」

 ハァ…私もこの姿じゃなきゃ、手を合わせて拝みたいくらいだよ。
 周りから溢れんばかりの拍手が巻き起こって、私も後部座席から痛いくらい手を叩いた。

 壇上を降りて向かった先にはルリオン様もいて、二人のツーショットが本当に尊い…。

 カメラ、カメラが欲しい!!アルファ商会で開発したいくらいだけど、今の技術的に考えてまだまだ無理だよねぇ。
 
 悶々と色んな事を考えてて、ふとアルファルドがいないことに気づいた。
 
 会場内をキョロキョロと探す。
 全体を見渡せる後部席にして良かった。探しやすいし、大体のどこに誰がいるのかよくわかる。

「ど、したの?…アート君…」
「いや、何でもない」

 後ろから全体を見通したけど、それらしい人物が見当たらない。
 アルファルドって割と小柄で細身だから、人の影に隠れて見えないのかな?
 多分今はこのオクタンと同じくらいの体型じゃなかったかな?
 ま、もういつでも会えるし、そこまで焦る必要はないか…。
 
「これにて入学式を閉会致します!」

 閉会の言葉が聞こえて、それでもまだキョロキョロしてたら見知った顔も発見した。 

 あっ、エルナト先生もいる!
 
 前列の脇にいる教師達の列にエルナト先生を発見。
 教師は皆学長先生と一緒でまっ白なスタイル。
 それがまたエルナト先生に良く似合ってる!エルナト先生は線が細いから、余計に淡い色がよく似合う。
 何人かの教員が並んでるけど、もう断トツでエルナト先生がイケメンだね。ゲームでも教授といえばエルナト先生だったし…他の教授や副教授も出てたけどさほど印象には残ってないな。
 並んでる女生徒達もエルナト先生見てる子が多いしね。
 
 もう感無量でこのまま死んでも悔いは残りません。
 て、言いたいくらい大満足な入学式だった。



 興奮冷めやらぬ状態のまま、今度は立食パーティーへと移るんだ。
 場所はアカデミアの中庭で、ガーデン式の親睦会みたいな感じ。
 さっき回廊から見えた場所が中庭だったね。ここはかなり広く場所が取られてて、六角形の形になってる。
 
 立食パーティーの場所は様々な色の薔薇が咲き乱れる庭園で、だだっ広い芝生の上に長テーブルがズラッと置かれてる。
 その上に所狭しと沢山の豪華なご馳走が並んでて、新入生達はそれを囲みながら話にもはなを咲かせてる。

 生徒達の中心部にはやっぱりレグルス様とかルリオン様がいて、周りを取り囲むようにご令嬢達が頬を赤く染めながら集まってて。あとの生徒はちらほら他のテーブルとか近くのベンチとかで談笑してて…。
 その周りは教員達が他の生徒と話しながら楽しそうにしてた。

 あー…、やっぱりアルファルドがいない。何だよ、会いたかったのになぁ。
 こういう集まり嫌いだから帰っちゃったのかな?アルファルドがいないならどうでもいいや…。

 回廊から移動してご馳走が並んでる脇にお皿が何枚も積み重なってて、適当に皿に料理を持って中庭の隅っこに生えてる樹の下へと移動した。
 生徒達が談笑してる場所からは結構離れてる。
 そしてなぜかその私の後を追うように、オクタンもお皿に料理を乗せてついてくる。
 
「アート君…んと…ここで、食べるの?」
「あぁ。オクタンもあっちに混ざって来いよ、親睦会だしな。これから2年間一緒なんだし」

 樹の木陰に移動して人混みを避けつつ、静かにメインキャラ達を鑑賞しながらお腹を満たそうとしてた。

 外はよく晴れてて、風も気持ちよく身体をすり抜けて立食パーティーにはもってこいの天気だ。

 そう、ちなみに魔法アカデミアは2年式。
 これから卒業のエンディングまでに様々なイベントが起きる。
 だからオクタンも私といるより将来のことも考えて人脈作りはしといた方がいい。
 オクタンは魔法使い生命を絶たれる運命…尚の事有力貴族に取り入った方が身になると思うんだけど…そんなのわからないんだから仕方ないのかな。

 近くにあった大きな樹に立ったまま背中で寄りかかり、手に持っていたお皿からフォークで料理をつつく。  
 
「アート君は…行かない…の?」
「俺はいいんだよ」
「じゃあ…んと…僕も…、いいや…」
「良くないだろ?俺といたって何もならないぞ」  
「…んと…僕は、いいんだ…」

 私が寄りかかってる樹のすぐ側で同じ立ちながら、もくもくと料理を口に運んでる。
 その姿に不覚にもキュンとしてしまう。

 やっぱり駄目だ…オクタンて意外と手強くて敵わない。

 気弱そうに見えて、突き放してるのに意外と諦めないっていうか頑固っていうか…。  
 私何かしたっけ?雛鳥みたいに懐いてくるし。

 あー…もう可愛いからいいや。完敗だよ。うんうん、可愛いは正義だよね!

 寄りかかってる樹の側から横にいるオクタンに顔を向けて、しょうがないなって感じの笑顔を向ける。

「じゃあ一緒に食べようぜ」 
「…うん!」


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