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ギルド要請 5
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「……シリウス。良く…見つけたな」
あれから一番にタラゼドの元へ行って、状況を報告した。
ただ、なんで魔物が人間を拐ったのか…その謎だけは解けなかった。
タラゼドと共に向かった魔法学校。治安隊も加わって、現場へと辿り着いた一同は騒然としてた。
地面の下へ移動して、私に倒された蜘蛛のような巨大な魔物と、白い糸に巻き取られた数体の人間のようなモノが出でくる。
「う……ヒデぇ…」
一言いったタラゼドはそれ以降話すことはなかった。
黙々と遺体が運び出されて…、ミイラみたいに糸でぐるぐる巻きにされてた人達はやっぱり平民の魔法使い達だった。
私は紙に状況を書いて、これまであった一連の出来事を説明した。
一人生存が確認されて、まだ息のあったラムはすぐさま診療所へと運ばれた。
手首や首元の脈を計ってラムの容態を診てもらうけど、町医者の表情は思わしくなかった。
「脈も弱くて、呼吸も浅い。魔力枯渇に加え、体も酷く衰弱している…今夜が峠でしょう……」
診療所の真っ白なベッドに運ばれたラムは虫の息だった。
スタンピードの時の悲惨な有様がフラッシュバックする。土気色の顔で今にも死んでしまいそうッ…。
やだッ……もう…、目の前で誰かが死ぬのは…イヤだッ!!
拳をキツく握り締めて、居ても立っても居られなくて、診療所を飛び出した。
「─!おいっ、シリウス!どこ行んだっ!?」
止めようとするタラゼドなんて気にしないで、外へ出ると足を強化して、しゃがんでから思い切り踏ん張ってから一気に空へと跳躍した。
ギュンッと風を切る音が激しく響いて、周りの景色が追いつかないくらい速く速く走る。
ハイポーションはスタンピードの時の使い切って、それから色々あって後回しにしてたから補助してなかった。
そのことがこんなに悔やまれるなんてッ!!
平和ボケしてた自分を何度も責めた。
勢いのまま、最高速度で回復薬のあるダンジョンまで向かった。
◇
どのくらいで診療所へ戻ったのか覚えてない。
無我夢中で、空が薄っすら明るいからそれでも1.2時間はかかったと思う。
魔物の返り血もそのままで、汚れたままだったけど着替えてる時間なんてない。
バンッと扉を勢いよく開けて、ラムが寝てるベッドの場所まで走った。
「っ!!あ…あなたは…シリウスさん……」
中にいた町医者はだいぶ驚いてたけど、気にしてなんていられない。
息を乱しながら手に持っていたハイポーションを見せると、町医者は表情を暗くしてラムに視線を落とした。
「…つい、先程…この子は、息を引き取りました…」
「─!!」
その言葉を聞いて、目の前が一気に真っ白になった。
持ち上げてた手の力が抜けて、ハイポーションがポロッと床に落下する。
カーンッと音を鳴らしてコロコロと転がった。
「…タラゼドさんもさっき来たんですが…、報告に為、またギルドまで戻りました…」
町医者の言葉なんて耳に入ってこない。
う…そ……、間に合わなかった……。
ショックがかなり強くて、そのまま茫然と下を向いて項垂れてた。
「もし…それが間に合っていたとしても…助かっていたかはわかりません」
私の気持ちを汲み取ったのか、ポツポツと話しだした。
「ですが…貴方にそこまでして頂いたこの子は…きっと幸せですよ」
ラムの両手を胸の上で組み直している町医者。
どうして…幸せ?…なんで?…だってもう……ラムは、生き返らない……死んでしまったら、それで終わりなのに……。
立ち上がった町医者は、床に転がったハイポーションを拾って私に渡した。
渡されたまま、ピンク色の液体をじっと眺める。
それからベッドに横たわったラムを見た。
昨日…あんなに無邪気に夢を語って、笑いながら冒険者になるって言ってたのに…こんなこと…。
無意味になったハイポーションの瓶を握って、自分の不甲斐なさとラムの無念さに打ちひしがれてた。
そんな心の葛藤を読み取るみたいに、背後から声をかけられる。
「どうしても…平民というだけで命が軽んじられてしまう……だが、貴方はこんな姿になってまで必死にこの子を助けようとしてくれた……それだけでこの子は救われたんです」
そう言って一礼して町医者は出ていった。
シーン…と静まり返る室内。
どんな慰めを言われても、今の私の心には響かなかった。
町医者もいなくなって、一人ラムの眠るベッドの前へ立つ。
眠ってるみたいに見えるのに、顔色がひどくて唇も紫色で…もう二度と目を覚ますことはない。
あんなモンスターにいきなり地面へ引き摺られて襲われて…、怖かったよね……妹の為にって、必死で飛び出したのに……。
しばらくずっと、どのくらいかわからないその状態のまま、ラムの亡骸の前で立ち尽くしてた。
それからそっとラムに近づいて、手にハイポーションを握らせた。
こんなもの……もう…なんの意味もない…。
そして私もそのまま部屋を後にした。
「……シリウス。良く…見つけたな」
あれから一番にタラゼドの元へ行って、状況を報告した。
ただ、なんで魔物が人間を拐ったのか…その謎だけは解けなかった。
タラゼドと共に向かった魔法学校。治安隊も加わって、現場へと辿り着いた一同は騒然としてた。
地面の下へ移動して、私に倒された蜘蛛のような巨大な魔物と、白い糸に巻き取られた数体の人間のようなモノが出でくる。
「う……ヒデぇ…」
一言いったタラゼドはそれ以降話すことはなかった。
黙々と遺体が運び出されて…、ミイラみたいに糸でぐるぐる巻きにされてた人達はやっぱり平民の魔法使い達だった。
私は紙に状況を書いて、これまであった一連の出来事を説明した。
一人生存が確認されて、まだ息のあったラムはすぐさま診療所へと運ばれた。
手首や首元の脈を計ってラムの容態を診てもらうけど、町医者の表情は思わしくなかった。
「脈も弱くて、呼吸も浅い。魔力枯渇に加え、体も酷く衰弱している…今夜が峠でしょう……」
診療所の真っ白なベッドに運ばれたラムは虫の息だった。
スタンピードの時の悲惨な有様がフラッシュバックする。土気色の顔で今にも死んでしまいそうッ…。
やだッ……もう…、目の前で誰かが死ぬのは…イヤだッ!!
拳をキツく握り締めて、居ても立っても居られなくて、診療所を飛び出した。
「─!おいっ、シリウス!どこ行んだっ!?」
止めようとするタラゼドなんて気にしないで、外へ出ると足を強化して、しゃがんでから思い切り踏ん張ってから一気に空へと跳躍した。
ギュンッと風を切る音が激しく響いて、周りの景色が追いつかないくらい速く速く走る。
ハイポーションはスタンピードの時の使い切って、それから色々あって後回しにしてたから補助してなかった。
そのことがこんなに悔やまれるなんてッ!!
平和ボケしてた自分を何度も責めた。
勢いのまま、最高速度で回復薬のあるダンジョンまで向かった。
◇
どのくらいで診療所へ戻ったのか覚えてない。
無我夢中で、空が薄っすら明るいからそれでも1.2時間はかかったと思う。
魔物の返り血もそのままで、汚れたままだったけど着替えてる時間なんてない。
バンッと扉を勢いよく開けて、ラムが寝てるベッドの場所まで走った。
「っ!!あ…あなたは…シリウスさん……」
中にいた町医者はだいぶ驚いてたけど、気にしてなんていられない。
息を乱しながら手に持っていたハイポーションを見せると、町医者は表情を暗くしてラムに視線を落とした。
「…つい、先程…この子は、息を引き取りました…」
「─!!」
その言葉を聞いて、目の前が一気に真っ白になった。
持ち上げてた手の力が抜けて、ハイポーションがポロッと床に落下する。
カーンッと音を鳴らしてコロコロと転がった。
「…タラゼドさんもさっき来たんですが…、報告に為、またギルドまで戻りました…」
町医者の言葉なんて耳に入ってこない。
う…そ……、間に合わなかった……。
ショックがかなり強くて、そのまま茫然と下を向いて項垂れてた。
「もし…それが間に合っていたとしても…助かっていたかはわかりません」
私の気持ちを汲み取ったのか、ポツポツと話しだした。
「ですが…貴方にそこまでして頂いたこの子は…きっと幸せですよ」
ラムの両手を胸の上で組み直している町医者。
どうして…幸せ?…なんで?…だってもう……ラムは、生き返らない……死んでしまったら、それで終わりなのに……。
立ち上がった町医者は、床に転がったハイポーションを拾って私に渡した。
渡されたまま、ピンク色の液体をじっと眺める。
それからベッドに横たわったラムを見た。
昨日…あんなに無邪気に夢を語って、笑いながら冒険者になるって言ってたのに…こんなこと…。
無意味になったハイポーションの瓶を握って、自分の不甲斐なさとラムの無念さに打ちひしがれてた。
そんな心の葛藤を読み取るみたいに、背後から声をかけられる。
「どうしても…平民というだけで命が軽んじられてしまう……だが、貴方はこんな姿になってまで必死にこの子を助けようとしてくれた……それだけでこの子は救われたんです」
そう言って一礼して町医者は出ていった。
シーン…と静まり返る室内。
どんな慰めを言われても、今の私の心には響かなかった。
町医者もいなくなって、一人ラムの眠るベッドの前へ立つ。
眠ってるみたいに見えるのに、顔色がひどくて唇も紫色で…もう二度と目を覚ますことはない。
あんなモンスターにいきなり地面へ引き摺られて襲われて…、怖かったよね……妹の為にって、必死で飛び出したのに……。
しばらくずっと、どのくらいかわからないその状態のまま、ラムの亡骸の前で立ち尽くしてた。
それからそっとラムに近づいて、手にハイポーションを握らせた。
こんなもの……もう…なんの意味もない…。
そして私もそのまま部屋を後にした。
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