冬来りなば、春遠からじ ~親友になった悪役公爵が俺(私)に求愛してくるけど、どうしたらいい…?

ウリ坊

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ギルド要請 1

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 サジタリア魔法アカデミアの合格発表を7日に控えたある日。
 この日はタウリが宿屋に訪ねて来て、タラゼドから冒険者ギルドまで至急来いとの要請を受けてた。
 
「おじ…シリウス、タラゼドが呼んでおりますぞ!」
「タウリ。今はシリウスじゃなくてアートなんだけど…」
「ややこし過ぎますぞ!とにかく、ギルドまで来てほしいとのことですぞ!」

 この部屋は他の部屋から離れた場所にあるからいいけど、少しでも聞かれてたらその人を消さないといけなくなる。
 そんなことしたくないし、だからこそタウリにも気をつけてって注意してる。

「ハァ…わかったよ。とりあえず行くよ。でも呼び方は気をつけろよッ!」
「わかりましたぞ。わしもお供いたしますぞ」
「…ったく」

 お茶すら入れる暇もなく、タウリに促されるまま着替えて冒険者ギルドまで連れて行かれた。

「久しぶりだな、シリウス。実は帝国お上より要請を受けてお前を呼んだんだ」

 タラゼドは箔が付いてきたのか、雰囲気も変わった気がする。グランドマスターになってから苦労も耐えないんだろうね。

『なんだ』

 シリウスになるのも筆談でのやり取りも結構久しぶりだった。

「実はな…最近、帝都で誘拐事件が起きてるんだ」

 グランドマスター専用の応接室に通されて、タウリと共に椅子に腰掛けた。
 反対側にタラゼドが座ってる。

「誘拐…じゃと?」
「あぁ。しかも狙われているのは、なぜか平民の魔法使いだけなんだ…」

 反対側で座ったタラゼドは両手を組んで顎に当ててる。少しやつれたようにも見えた。

「平民の…魔法使い?…何故じゃ?」
「わからん。すでに現段階で8名が行方不明になっている…」

 そのままタラゼドは顔を両手で覆っている。かなり疲れているようだ。その様子から行き詰まってるのがよく分かる。

「恐らくだが…連れ去られた者は、生きてはいないだろう。だが目的がさっぱりわからん。こっちが教えてほしいくらいだ」
「お主でもわからんのか…」
「あぁ、さっぱりだ。検討もつかん」

 普通ならこんな依頼は帝国の公安部とか、騎士団の仕事のはず。
 それが冒険者ギルドに来てるってことは、帝国はこの件を放棄してるってことだよね。たぶんだけど、行方不明が平民ばかりだからだろうね。

 紙にサラサラと書いて、目の前のタラゼドに見せた。見せた紙を読んで、タラゼドは考え込んでる。

「闇組織か教団なぁ…闇組織も追ってるらしいがどうも違うらしいな。あと、オカルト的な団体もあるが…人を誘拐するような話は聞いたことがない」

 目線をこっちに向けて話すタラゼド。

 こんな話、本編にあったっけ?
 ゲームに関係ないとこで事件として進んでたの?しかも被害者はみんな魔法使い…。
 なんか引っかかるな……。

「例えじゃ…それが事件だとして、冒険者であるシリウスに頼むなどお門違いと言うものじゃっ!」
「……はぁ…、わかってるさ。だが、シリウス…、お前さんなら何か知ってそうな気がしたんだ。俺の勘だがな」

 タウリがせっかく否定してくれたのに、タラゼドが確信を持ったように言われる。

 悪いけど…さすがの私もわからない。

 ゲームのイベントにもそんなものは出てこなかったし、皇太子であるレグルス様も関わってるゲームだからイベントにも関係ないってなると、そんなに重要視しなくていいと思うんだけど。

 タラゼドに向かって首を横に振った。
 わからない意思を告げると、タラゼドはまた顔を覆い隠し深いため息をはいてる。 

 何だろう…、水面下で何かが変わってきてる?私がゲーム内容をめちゃくちゃにしてる反動なの?
 
「シリウス…ひとまず帝都の巡回を頼む。依頼料はちゃんと払う。これは帝国お上からの依頼だ。料金は破格のものとなる。しかもお前はSS級ツインスターだ…ランクに乗じて依頼料はつり上がっていくからな」

 うげっ…、勘弁してほしいなー。
 これからアカデミアに通わなきゃいけないのに、帝都全土の見回りなんて冗談じゃない。

『きょひけんは』

「…あるにはあるが…、ひとまず受けるだけ受けろっ!正直俺も管轄外だと思っている。もし怪しい者でも見つけたら捕まえて連れて来てくれればいい」

 立場上タラゼドも受けざるを得ないみたい。国から命令されたらそりゃあ断われないか。
 確かにこんなの冒険者の仕事じゃないよね。

 深くため息を吐いてから、サラサラと紙に書く。
 
『ワかった』

「良いのか?シリウス」

 タウリが心配そうに聞いてくるけど、コクリと頷いた。
 とりあえずしょうがないよね…受けざるを得ないってやつだよ。
 だから高すぎる地位とかいらなかったんだ!こうなることは目に見えてたし!
 
「すまねえな。帝国側も英雄であるSS級が捜査してるって事実が欲しいみたいでな…」

 なるほどね、国の英雄が動いてるって安心材料が欲しいわけね…誘拐されてるのは平民ばっかだし。
 で、何か不備があればこっちの責任だってなすりつければいいってことか…。本当に反吐が出そう。使い捨てもいいとこだよ。

 憤りを隠せずに、殺気を出しながら立ち上がった。

「待てシリウス!落ち着けっ!」
「そうじゃ、反発してもろくなことにならんぞ!!」

 立ち上がった私を二人が慌てて止めに入る。これから人殺しにでも行くかと思われたみたい。
 自分を落ち着かせる為に、ふぅ…と息を吐いた。

『ツギはない』

 警告のつもりで書いた。
 こんな馬鹿げた依頼はもう受けないってこと。
 座り直した私に安心したのか、タラゼドが出した紙読んでからまた頭を抱えてた。
 
「…ハァ……、わかってるさ……」
「偉くなるのも考えもんじゃのぉ…」
「はっ、こればかりは反論できねぇなっ」

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