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魔法アカデミア入試編 3

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 宿屋に着いて、部屋まで移動すると早速ベッドにぼふっと横たわった。

 疲れた……。

 木目の天井をぼーっと見ながら考える。
 しかも、オクタンがどこで登場したか思い出してしまった。

 オクタンス・ベア・チィズル…水属性の魔法使い。

 見た目によらず強力な水魔法を使う。
 だけど、確か…2学年時の後半ら辺、校外実技演習で突然現れた上位種モンスターに襲われ大怪我。
 命は取り留めたのに、その傷が原因で魔力が練れなくなって…魔法使い生命を断たれる。
 このイベントはよく覚えてる。オクタンスはこの時の唯一の犠牲者だったから。
 この時ポラリスはちょうど演習に参加してなくて、傷の治癒ができなかった。
 上位種モンスターは最終的にレグルス様とルリオン様…アケルナーが先頭に立って倒したけどね。
 
「ハァ……」
 
 がばっと起き上がると、横の机に置いてある水差しをコップに注ぎ一気に飲んだ。
 命が失われるわけじゃないし…私には、関係ない…。
 私は私の目的があって、他のことに気を取られてる場合じゃないんだ。
 そう思うのに…、どこか釈然としなくて胸の中のモヤモヤが晴れることはなかった。







 次の日。

 魔法アカデミアの実技試験。
 正門から構内を通り、ドームくらいある広い空間に案内された。
 ここでは魔法道具やロストアイテムが不正に使われていないか検査する。
 それを検査するゲートのようなアイテムがあって、そこを通ると魔法道具やロストアイテムが反応する。

 私ってまぁ…不正だらけだから、これを隠す為に自分が本来持ってる無力化の魔法をかなり緻密に操作する方法を思いついた。
 それは魔法道具の周りを無力化魔法で保護して、検査をすり抜ける方法。
 何度か練習したけど、これがけっこう難しいんだ。平然を装って無力化魔法を部分操作しないといけないから。
 しかも一歩魔法操作を誤れば、私のつけてるダークアイテムも装備も全部解けてしまう綱渡りみたいな危うさ。

「これより魔法の実技試験を行う!まず受験番号順に並び、魔法道具を使っての不正行為がないか検査する!」

 掛け声と共にざわざわ動き出して、集まってた受験生達も並び出してる。
 私を見てガン飛ばしてる貴族の坊っちゃんもいるけど、笑顔で手を振ってやった。

「ケッ!気持ちわりぃ」
「これだから平民は…頭がおかしいぜ」
 
 一瞥して列に並んでく。
 だったら平民なんて相手にしなきゃいいじゃん。
 エルナト先生の言ってた貴族の教養とかって意味が良くわかるな~。
 私も気にせず列へと並んだ。そして後ろにはオクタンが並んでる。

「よっ、オクタン」
「あ、アート君。んと…いよいよ、実技試験…だね」
「お互い頑張ろうなっ」
「う、うん!」

 手を握り締めてふわっと笑うオクタン。
 あー…やっぱりオクタン可愛い。私って可愛い子に弱いんだよね。 

 次々前に進んで行く中、またモヤモヤと考える。
 昨日は関わるべきじゃないなんて思ったけどでもな~。
 悩んでる間にすぐ順番が来る。

「次、33番!前へ」
「…はい」
 
 よし、ロストアイテムのある右腕に全体を無力化魔法で覆うように魔法をかけていく。
 緻密な魔法操作に身体に汗が流れる。

 その状態のままゆっくりと長四角いゲートの中を通り抜ける。目を閉じて薄い虹色の光が体を通過して、振り返ると何の反応も起こらなかった。

 よっしゃあぁぁっー!!

 心の中で手を握って、ガッツポーズした!

 後でエルナト先生にも報告しないと!先生もかなり心配してたから。受験生が不正してるのに心配もないんだけど、事情を知ってるから許可は得てるし。

「よし、次…」

 何事もないように前へ進んで行くけど、内心はヒヤヒヤだったから。とりあえず何とかなって良かったー…。

 次は属性診断。
 普通だとクルハの葉で行うんだけど、ここでは水晶みたいな魔法道具に手をかざして色と光で判断する。以前の属性判断で私はクルハの葉では反応しなかった…。

 ここでも対策は考えてる。
 みんな赤、青、緑、黄…と翳した手から光を放っていた。眩しい位の光や、照らすほどの光…様々な光が出る中、一際強い色と光を放つ人がいる。

 エウロパ伯爵令嬢の我が友、マイア。
 同じくレグルス様に恋するライバル役の侯爵令嬢スピカ。
 ポラリスに惹かれる剣士で戦闘狂の伯爵子息アケルナー。あとあんまり登場しないアケルナーの友人で侯爵子息のリゲル。そして男爵家のオクタンも。

 うんうん、見たら思い出してきた!何気にサブキャラ達も出てきてる~!!

 わくわくしながら属性診断を見てたら、周りにいたマイアがジッとこっちを見てた。
 筆記試験のときは特に何もなかったのに、今になって私の方を訝しげに見てる。

 んん?何だろう?
 離れた所からジーッと見てるから、マイアの方を向いてニッコリ笑ってみた。

「─!」

 マイアはびっくりしたのかすぐに視線を逸したけど、ルリオン様以外全く眼中にないマイアにしては珍しい。
 それでもチラチラ見てくるマイア。
 私がミラに似てるとかって思ってるのかな…男でもベースの顔はほほ同じだし。
 何か感じるものでもあるのかな?

「次っ、前へ」

 私の番になって、前へ出て水晶に手を翳した。
 ちょっと目立ってただけに他の受験生も周りで結構見てた。
 よし、疾風の腕輪を使って水晶に風魔法を送って…。
 私の魔力には反応しないだろうから風魔法を使うと、水晶はほんの少ーしだけ薄く緑色に光る。

「ん~?これは…風…属性だな…。よし、次」

 属性診断も何とか躱し、次の列へと並ぶ。
 ふぅ~、いい感じで反応してくれた。ここで光ってくれないとまず不合格だからね。

 ただ、見てた他の貴族からは失笑が起きてた。

「はははッ見たか、アレ」
「薄っすらしか光らなかったな」
「あんな僅かな魔力で受験できますの?」
「試験を受ける意味あるのかい?」

 僅かだろうがなんだろうが魔法使えればオッケーなんだよ!いちいちうるさいなー!
 さすがにちょっとムカッときたけど、ここで感情的になるとコイツらと変わらない低俗な人間になってしまうからね。

 深呼吸して心を落ち着かせる。
 ようやく次で試験が終わった。
 ハァ…長かったな…。

 最後は実際に魔法を使う試験。
 これは数メートル離れた場所にカカシみたいな的があって、それに向かって魔法を放つもの。
 ここで使う魔法は自由。自分の持てる最大級の魔法を放つ事が評価へと繋がっていく。
 
『ファイアーボール』
『ウォーターボール』
『フェザーウィンドー』
『サンドストーン』

 このあたりは大体初歩的な攻撃魔法。ほとんどの受験生がこんな感じだった。
 ポーンと火の玉や水の塊が出で的に当たる。
 実はこれ、できるだけでも凄かったりする。
 まだ受験生だからこのくらいでも仕方ないし、これからアカデミアで学んでレベル上げていくんだろうけど…。

 ホントさー…この世界って魔法レベル低すぎなんだよ。使い手が少ないからしょうがないんだけどさ。
 冒険者として様々な魔法使い見てるし、エルナト先生とかレベルの高い魔法使いと一緒に戦ったりしてると鼻で笑っちゃうレベルで困るんだけどさ。
 思いながら列に並んでると、前から歓声が聞こえてくる。
 
『アクアストリーム』

 これは水属性の上級魔法。
 マイアの手から放たれた魔法は、的が水の渦に巻き込まれ根元からバキバキッと折れて破壊されてしまった。

「素晴らしい!受験段階で上級魔法を使えるとは!」

 審査してた試験官も称賛を送ってる。
 周りからの称賛の嵐なんて物ともせずに、マイアは涼しい顔で礼をしてからその場を颯爽と後にした。

 か、か、カッコいい~!!さっすがマイア!!

 マイアはしばらく見ない間にさらに女らしい体つきと完璧な美貌と立ち振る舞いと、あとそれに全く劣らない高貴なオーラが身に付いてた。
 さすが悪役令嬢!今は違うけど…、これはルリオン様なんてイチコロだよ!

 他の男子達も目が釘付けになってるし。
 容姿もそうだけど、魔法の実力もゲーム以上に仕上がってきてるね!

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