上 下
66 / 392

魔法アカデミア入試編 2

しおりを挟む
'

 一人で全然大丈夫って思ってたけど、こうして誰かに話しかけられるのってなんか嬉しいね。

 生徒が全員揃ったのか、いよいよ試験が開始される。
 歴史学、魔法学、数式学…と五教科あって、1日で試験が終わる。それが終わると明日は属性判定と実技試験になる。

 順に試験用紙が配られて、だいたい1教科50分くらいの持ち時間で終了。

「では、試験を開始する。カンニング、不正行為は見つけ次第落第とする。心して掛かるように!では始めっ!!」

 やっぱり意外と厳しくしてる。もっとユルいのかと思ってたのに。
 皆一斉に用紙をめくってカリカリとペンを滑らせる音があちこちに響いてる。

 うわぁ、帝国暦684年この時代の皇帝が初めて行なった法改正により反逆した家門、及び加担した派閥全て答えよ。
 やっぱりエルナト先生ってえげつないわ。普通の問題なら法改正の年は何年かくらいが妥当な問題なのに…。

 これ、わかる人いるのかな?
 用紙に答えをどんどん書いて行くけど、周りの生徒は頭を抱えてる。
 ペンを持つ手が完全に止まってる人も結構いて、ちょっと可哀想になってきた。

 よし、終わり!見直しもしたし…。
 残り時間あと10分位か。
 時計を確認して、手を挙げた。

「33番、どうした?」
「はい、終わったので提出してもいいですか?」
「…お、終わったのか?!……よし、提出して退出しなさい」
 
 用紙と荷持を持つと席を立った。階段を降りて下に向かう途中声も聞こえてくる。

「白紙で出したのか?」
「格好付けやがって、後で恥かけばいいさ」

 私が講堂を出ていくのを見てる視線も多く感じられたけど、振り向かずに扉を閉めた。

「静かにっ!!話してる者はカンニングと見なす!他の者も解けた者から退出して構わない」

 試験官の言葉に場がシーンと静まって、またみんな手を動かし始めた。終了時間が来るまで誰も講堂から出てくる人はいなかったけど。

 それから魔法学、数式学…と同じように進んで、ようやく入試試験が終わる。

「うー…ん!」 

 大きく伸びをして体を伸ばした。一日中机に向かってるのってやっぱり疲れる。

 でも実力は出し切れたし、問題は全部解けた。
 いやでもさー…、めちゃくちゃ難しいものばっかで、ここまで解るならアカデミアに通う必要ないくらい意地悪な問題だよね。
 学長はよくこんな出題で許したね。

「明日、行われる実技試験も同刻に正門で案内を開始します!遅れることのないよう集まるように!」

 試験官の説明が終わって、受験生達がぞろぞろ講堂を出て帰っていく。

 さて私もそろそろ帰ろっ。明日の実技も少し対策しとかないと。
 荷物を持って帰り支度してると、隣から声をかけられた。
 
「あ…んと、アート君…スゴイね。途中で、退出するなんて…」

 声をかけたのは隣の席のオクタンだった。立ち上がったオクタンはやっぱり小さくて、男の私の肩くらいの高さだった
 
「そうか?」

 もじもじしてるオクタンはやっぱり可愛い。
 オクタンも自分の荷物を纏めて脇に抱えてた。出口に向かい歩きながら話した。

「んと、ぼ、僕…半分くらいしか解けなくて…もし、平均点以下ならど、どうしよ……」
「半分書けたなら大丈夫じゃないか?50点以上は取れてるだろ?」
「で、でも…答えが、合ってるか…」

 不安でしょうがない様子のオクタン。こればっかは結果が出ないと慰めようもない。

「ま、大丈夫だろ?実技もあるし。基本、魔法が使えるだけでオクタンは凄いんだからさっ」

 廊下を抜け、さっきの正門の方へ出てきた。
 
「アート君…優しいんだね…」

 しみじみ言われちょっと私も照れくさくなる。オクタンは嬉しかったみたいで、控えめにへへっ…と笑ってる。

 いや~、この子って可愛いな。オクタン…オクタンス……。
 でも、どっかで聞き覚えがあるんだよなぁ……どこだったっけ??

「なぁ、オクタンは貴族なのか?」
「え?…んと、僕は、元々…帝都民じゃなくて…地方から出てきたんだ。本名は…オクタンス・ベア・チィズルで…んと、北部にある…男爵家なんだ」

 チィズル男爵家…。
 確かエルナト先生の授業で出てきた…帝国北部の海沿いにある領地で、造船業で生計を立ててる家門だったような?
 チィズル家じゃなくて、オクタンスて名前に何か引っかかるんだよね…うーん、思い出せそうで思い出せない。

「ふ~ん。俺も地方から出てきてるけど、貴族じゃないんだ。商店を営んでる平民の出さ」
「あ、アート君は…んと…、平民なの?」
「あぁ、そうだ」

 こうやって言えばもう話しかけてこないかな?
 試すつもりはないけど、隠すつもりもないから正直に素性を話した。

 正門を抜けると、オクタンには馬車が待ってた。

「じゃあな、オクタン」
「あっ……」

 馬車の前に立つオクタンに片手を挙げてその場を後にした。
 貴族って平民を人間じゃないみたいに思ってる人もいるし。
 だから、オクタンが私の話を聞いてもう話しかけて来ないかもしれないって思った。

「あ、アート君!んと…ま、また明日、頑張ろうねっ!」

 オクタンが馬車の場所からこっちに向かい声を絞り出してた。
 いきなり背後から掛けられた言葉にびっくりした。

「ハハッ、また明日な」

 笑顔で振り返って手を振ってから、私はその場を後にした。
 

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。

カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。 今年のメインイベントは受験、 あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。 だがそんな彼は飛行機が苦手だった。 電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?! あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな? 急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。 さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?! 変なレアスキルや神具、 八百万(やおよろず)の神の加護。 レアチート盛りだくさん?! 半ばあたりシリアス 後半ざまぁ。 訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前 お腹がすいた時に食べたい食べ物など 思いついた名前とかをもじり、 なんとか、名前決めてます。     *** お名前使用してもいいよ💕っていう 心優しい方、教えて下さい🥺 悪役には使わないようにします、たぶん。 ちょっとオネェだったり、 アレ…だったりする程度です😁 すでに、使用オッケーしてくださった心優しい 皆様ありがとうございます😘 読んでくださる方や応援してくださる全てに めっちゃ感謝を込めて💕 ありがとうございます💞

【完結】アラサー喪女が転生したら悪役令嬢だった件。断罪からはじまる悪役令嬢は、回避不能なヤンデレ様に溺愛を確約されても困ります!

美杉。節約令嬢、書籍化進行中
恋愛
『ルド様……あなたが愛した人は私ですか? それともこの体のアーシエなのですか?』  そんな風に簡単に聞くことが出来たら、どれだけ良かっただろう。  目が覚めた瞬間、私は今置かれた現状に絶望した。  なにせ牢屋に繋がれた金髪縦ロールの令嬢になっていたのだから。  元々は社畜で喪女。挙句にオタクで、恋をすることもないままの死亡エンドだったようで、この世界に転生をしてきてしあったらしい。  ただまったく転生前のこの令嬢の記憶がなく、ただ状況から断罪シーンと私は推測した。  いきなり生き返って死亡エンドはないでしょう。さすがにこれは神様恨みますとばかりに、私はその場で断罪を行おうとする王太子ルドと対峙する。  なんとしても回避したい。そう思い行動をした私は、なぜか回避するどころか王太子であるルドとのヤンデレルートに突入してしまう。  このままヤンデレルートでの死亡エンドなんて絶対に嫌だ。なんとしても、ヤンデレルートを溺愛ルートへ移行させようと模索する。  悪役令嬢は誰なのか。私は誰なのか。  ルドの溺愛が加速するごとに、彼の愛する人が本当は誰なのかと、だんだん苦しくなっていく――

【完結】名ばかりの妻を押しつけられた公女は、人生のやり直しを求めます。2度目は絶対に飼殺し妃ルートの回避に全力をつくします。

yukiwa (旧PN 雪花)
恋愛
*タイトル変更しました。(旧題 黄金竜の花嫁~飼殺し妃は遡る~) パウラ・ヘルムダールは、竜の血を継ぐ名門大公家の跡継ぎ公女。 この世を支配する黄金竜オーディに望まれて側室にされるが、その実態は正室の仕事を丸投げされてこなすだけの、名のみの妻だった。 しかもその名のみの妻、側室なのに選抜試験などと御大層なものがあって。生真面目パウラは手を抜くことを知らず、ついつい頑張ってなりたくもなかった側室に見事当選。 もう一人の側室候補エリーヌは、イケメン試験官と恋をしてさっさと選抜試験から引き揚げていた。 「やられた!」と後悔しても、後の祭り。仕方ないからパウラは丸投げされた仕事をこなし、こなして一生を終える。そしてご褒美にやり直しの転生を願った。 「二度と絶対、飼殺しの妃はごめんです」 そうして始まった2度目の人生、なんだか周りが騒がしい。 竜の血を継ぐ4人の青年(後に試験官になる)たちは、なぜだかみんなパウラに甘い。 後半、シリアス風味のハピエン。 3章からルート分岐します。 小説家になろう、カクヨムにも掲載しています。 表紙画像はwaifulabsで作成していただきました。 https://waifulabs.com/

【完結】身を引いたつもりが逆効果でした

風見ゆうみ
恋愛
6年前に別れの言葉もなく、あたしの前から姿を消した彼と再会したのは、王子の婚約パレードの時だった。 一緒に遊んでいた頃には知らなかったけれど、彼は実は王子だったらしい。しかもあたしの親友と彼の弟も幼い頃に将来の約束をしていたようで・・・・・。 平民と王族ではつりあわない、そう思い、身を引こうとしたのだけど、なぜか逃してくれません! というか、婚約者にされそうです!

この度、仮面夫婦の妊婦妻になりまして。

天織 みお
恋愛
「おめでとうございます。奥様はご懐妊されています」 目が覚めたらいきなり知らない老人に言われた私。どうやら私、妊娠していたらしい。 「だが!彼女と子供が出来るような心当たりは一度しかないんだぞ!!」 そして、子供を作ったイケメン王太子様との仲はあまり良くないようで――? そこに私の元婚約者らしい隣国の王太子様とそのお妃様まで新婚旅行でやって来た! っていうか、私ただの女子高生なんですけど、いつの間に結婚していたの?!ファーストキスすらまだなんだけど!! っていうか、ここどこ?! ※完結まで毎日2話更新予定でしたが、3話に変更しました ※他サイトにも掲載中

【R-18】冬来たりなば春遠からじ外伝 〜朝まで愛して……、愛したい!

ウリ坊
恋愛
【冬来りなば、春遠からじ ~親友になった悪役公爵が俺(私)に求愛してくるけど、どうしたらいい…?】のR-18版、大人向けのお話です。(ミラとアルファルドのいちゃラブなやつです) そのため、本編とは分けて連載させてもらっております。ご了承下さいませm(_ _)m (注)本編をお読み頂いている方で、2人のイメージを壊したくない方、性的表現が苦手な方はご遠慮下さいますようお願い申し上げますm(_ _;)m ※ 筆者が読みたいだけで書いたお話です。本編を読んでいない方は二人の関係性や登場人物がわからないようになっております。もし気になった方がいらっしゃいましたら、本編を閲覧していただけますと嬉しいです!(恋愛ファンタジーで長編になってます)

ゲームの序盤に殺されるモブに転生してしまった

白雲八鈴
恋愛
「お前の様な奴が俺に近づくな!身の程を知れ!」 な····なんて、推しが尊いのでしょう。ぐふっ。わが人生に悔いなし! ここは乙女ゲームの世界。学園の七不思議を興味をもった主人公が7人の男子生徒と共に学園の七不思議を調べていたところに学園内で次々と事件が起こっていくのです。 ある女生徒が何者かに襲われることで、本格的に話が始まるゲーム【ラビリンスは人の夢を喰らう】の世界なのです。 その事件の開始の合図かのように襲われる一番目の犠牲者というのが、なんとこの私なのです。 内容的にはホラーゲームなのですが、それよりも私の推しがいる世界で推しを陰ながら愛でることを堪能したいと思います! *ホラーゲームとありますが、全くホラー要素はありません。 *モブ主人のよくあるお話です。さらりと読んでいただけたらと思っております。 *作者の目は節穴のため、誤字脱字は存在します。 *小説家になろう様にも投稿しております。

幼馴染と一緒にバイトすることになりました。〜再会してまた、君を好きになっていく〜

おみくじ
恋愛
 高校一年生の木下太一(きのしたたいち)は、夏休みの2週間、本屋でアルバイトをすることに。  そこにもう一人アルバイトの女の子が突然やって来た。太一が小学生のとき仲の良かった幼馴染、5年生の夏休み入る前に引っ越しってしまった、水瀬加奈(みなせかな)だった。  突然の再会と急接近。2人のぎこちないアルバイトと、恋がはじまる。

処理中です...