冬来りなば、春遠からじ ~親友になった悪役公爵が俺(私)に求愛してくるけど、どうしたらいい…?

ウリ坊

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入学準備編 2

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 気持ちも新たに外へと繰り出した。

 よしっ、まずは武器屋に行こう!

 剣は常備しとかないと安心出来ないからね。
 宿屋から出て街を歩いてると見覚えのある仮面みたいなものが、店とか家のあちこちに飾ってあった。
 ビックリして近くにいた果物屋のおっちゃんに慌てて聞いた。

「なぁおじさん!あの不気味な飾りはなんだ!?」

 リンゴみたいな果物を並べてたおっちゃんは振り向いて、あぁ、と答える。

「なんだ、知らんのかい?あれはスタンピードの英雄、シリウスの仮面飾りさ。たしか…、アレを飾って置くと魔除けになるんだったかな?」
 
 それを聞いて私は愕然とした。

 いや、シリウスは呪われてるから、魔除けにはならないと思うよ。逆でしょ、逆。
 
「嘘だろ…」

 それから行く場所行く場所、シリウスの仮面ばっか目について、いたたまれない気持ちになる。
 せっかく街まで出てきたのに複雑な気分で歩く羽目に。
 
 通りにあった武器屋にもやっぱり仮面飾りがあって、思わず目を逸らした。
 適当なロングソード選んで、すぐに宿屋まで戻ってきた。

「ふあぁ…なんだか疲れた…」

 これは、慣れるまで時間がかかりそう。
 ここでシリウスになるのは絶対やめよう。

 私は固く心に誓った。






 数日後…。

 
 この日はエルナト先生が会いに来てくれた!

 手紙出して帝都に着いたと知らせといたから。
 エルナト先生も忙しいから時間がなかなか取れなくて、この日は珍しく非番だったみたいで、わざわざ足を運んでくれた。
 宿屋と部屋番号も書いておいたから、コンコンッとノックをして入ってきた。

「先生!お久しぶりです!」

 私を見てエルナト先生はやっぱりビックリしてた。
 それでも扉を閉めて、窓際にいた私をじっくり観察してた。

「…えぇ、お久しぶりです。…本当に、男性になったのですね…」

 片手で口を押さえて信じられないように、何度も何度も私を見てた。

「えぇ、今はアトリクスです!先生もお元気そうで良かった!会えてすごく嬉しいですよ!!」

 ニコニコしてる男の私を見て、ぱちくりしてた。先生がこんなに驚いてた顔してるのも珍しいな~。

「とりあえずそこに掛けて下さい」
「…あぁ…はい、お邪魔致します。……声も低く、背も伸びましたね。顔の印象はそこまで変わらず面影はありますが、骨格も女性の時とは全く違います…」

 一人がけの椅子に座ったエルナト先生はまだ観察し足りないのか、分析比較しながらもじーっと私を見てる。

「ハハッ、そうですね!初めは私…あっ、俺も戸惑いました。でも、今では男性ライフを満喫してます!」
「ふぅ……あなたといると、自分の常識というものを疑いたくなりますよ。何と言いますか…驚かさせることばかりですね」
「へへっ…」

 苦笑してるエルナト先生。
 蜂蜜色の髪も見ない間に少し伸びたくらいで、鼈甲色の瞳も、線の細い身体も変わらない。
 相変わらずの美男子で、今24歳。男になった私と身長差はそんなにないかな?先生がちょっと高いくらい。
 用意してたお茶を出すと、私も反対側へと座る。
 
「それで、アカデミアの準備は出来ていますか?もう近々試験が始まりますよ?」 
「そこは抜かりなく…まあ、平民出身なので目立たないように、そこそこの点数で抑えようかなーっと。実技は補助魔法しか使えないし、結果は目に見えてますから」

 お茶を優雅に啜りながら私の話を聞いていたエルナト先生。

「実技はまぁ仕方ないですね。あなたの実力を見せるわけにはいきませんから」
「はい」
「ですが、筆記に関しては全力でやって下さい」
「え…?な、何でですか??」
「今回の筆記問題は私が作ります」

 真面目な顔して真っ直ぐ私を見てる先生。
 え?言ってもいいの?

「そ、それって…?」
「恐らく…これまでの試験問題の中でも、かなり難易度が高くなることでしょう」

 うわぁ…、さすがエルナト先生…。えげつないね。
 アカデミアで苦労しているのか、なんか背後から負のオーラがあがってる気がする。
 
「初の脱落者も多数出るでしょうね。しかし、最近では教養も低く横柄な貴族が多過ぎて困っているのですよ…魔法を重要視していない愚かな貴族が。ですから、この試験の段階で学力の低い者は魔法学校で苦渋を飲み、もう一度鍛え直してほしいですからね」

 にっこり笑う先生は、やっぱり先生だった。
 こ、怖ぁ……。こんなに笑顔の怖い人いないよ?
 優雅にお茶すすってる姿からは想像できないくらい。
 今回試験受ける生徒が可哀想すぎる。

「それで、俺が全力でやるのとなにか関係あるんですか?」
「それは勿論。あなたは私の唯一の教え子だからです」
「へっ?」
「どれだけ貴方が私の教えを理解し、どこまで挑戦できるのか試してみたいのです」

 テーブル越しに少年みたいな顔してる先生。

 はぁ~、やっぱエルナト先生ってイケメンだなぁ。
 でも、正直目立ちたくないから上位にはなりたくないんだけど。
 あっ、そうだ!

「じゃあ、俺…筆記試験頑張るから、もし首位になれたら、一つお願いを聞いてほしいです!」

 せっかく頑張るし、何かを犠牲にしなきゃいけないなら、ご褒美くらいもらわないとね。
 私もお茶を一口飲み、ニコリとしながら先生の反応を伺う。

「お願いですか?珍しいですね……どういったものですか?」
「それは結果が出てから言います」
「うむ…まぁ、いいでしょう。私に出来ることなら叶えましょう」
「やったー!!先生絶対だからね!」

 先生の約束も取り付けて、これで準備オッケー!
 こうなると筆記が楽しみだな~!


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