冬来りなば、春遠からじ ~親友になった悪役公爵が俺(私)に求愛してくるけど、どうしたらいい…?

ウリ坊

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帝都へ出発編 3

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 パカッパカッっと馬達の闊歩する音が聞こえて、道もデコボコだから馬車もよく揺れてる。
 今は大丈夫だけど、これ前世の自分だったら確実に吐いてるなー…。
 他の人を見ると顔色の悪い人はやっぱりいる。
 でもコレばっかは慣れるしかない。

「へい、毎度ー」

 途中で降りる人もいるから、そこでお金を払ってから降りてる。
 みんながみんな帝都まで行くんじゃないんだな…。
 
 2時間ほど走ると山の中に入って、さらに揺れがひどくなる。
 森と森の合間を走る馬車。
 周りは木しかなくて、暇だから座りながら本を読んでた。途中寄った村で新たに乗ってきた男二人組が、話していた声が聞こえてくる。

「おめぇの村さ、どうだあ?」
「あぁ、ぼちぼちだぁ。まだまだ、家はめちゃくちゃだべ」
「そうかぁ、うぢもだぁ。家は直るがら何とかなるさぁ。命あってのものだあな」
「間違いねぇ。あのどき、あの…黒いやづ…来てなぎゃあ、今ごろ生きてねぇべ」
「んだなぁ。ありがてぇや」

 んん~?黒いヤツってシリウスのことかな?
 聞き取りづらいけど話の内容的にはスタンピードでの話っぽかったし。
 もしかして私が回った村の人達かな。確かにこの辺までは来てたからなぁ。

 思わず本で顔を隠した。

 なんかこうやって嘘偽りのない声聞くのって、嬉しいけどちょっとむず痒い。

 隠しながら、ふふっ…と笑う。 

 少しはシリウスになって良かったって思えた。
 私がやったことって無駄じゃなかったんだ。ようやく実感がでてきたよ。
 
 
 パッパカ、パッパカと緩やかな揺れに、ついつい眠気がやってきた。
 周りでも何人かは寝てて、ご飯食べてる人もいる。
 ウトウトしてきてちょっと仮眠しようと、馬車の荷台に寄りかかって腕を組んで目を閉じた。

 んん?

 僅かな気配に目が覚めた。
 パチッ開けて馬車が進んでる方向を見る。
 進行方向の数km先ににたくさんの人の気配がする。森の茂みに隠れてるみたい。
 これって、もしかして山賊か何かかな?
 何人だろう…1、2、3……、ザッと7.8人くらいかな?

 乗り合い馬車に乗って森で山賊に襲われるテンプレキタァァァーー!!
 なになに~!?もしかしてメインキャラ来ちゃう!?
 どこからかレグルス様とかルリオン様とかが急に現れるパターンかなっ!?

 颯爽と現れる誰かに期待して、ドキドキしながらその時を待った。
 最悪の場合でもここには重そうな鎧着た剣士の冒険者が同乗してるから、どうにかなるでしょ。
 数キロ先に差しかかった時、木の上から山賊が現れた。
 片手に剣やナックルを持ち、ターザンみたいにツタを使って頭上から馬車を襲撃する。

「やれぇ!!お前ら!獲物だぁ!!」

 御頭っぽい片目の眼帯した大男が号令をかけてる。

「ヒャッホー!女もいるぞぉ~」
「奪え奪え~!!全部俺らのもんだーー!!」

 ヒュンヒュン飛び降り、馬車に乗り込んで来る山賊達。

「なっ!!山賊だぞ!!」
「キャアァー!!助けて!!」
「怖いよ~、母ちゃん!!」

 御者も襲われて、馬車が止まった。
 急に止まったせいか荷台がひっくり返って、乗っていた人たちが外に投げ出された。
 
「うわあぁぁー!!」
「ひぃあー!!」
「な、な、なんだべぇ!」
「イデェェ!」
 
 投げ出された人たちは衝撃でパニックになってる。
 私はなんなく着地して、様子を伺っていた。

 誰が現れるの?!早く来てよ~!!

「グッ、山賊めえっ!」

 鎧の冒険者は剣を構えて応戦してる。
 他にもさっきの村人が持ち物を奪われたり、一緒にいた親子連れの母親が男達に襲われ子供が泣き叫んでた。

 なんで?…なんで…誰も来ないの?
 ゲームならこんな時、誰か現れて…。

 目の前の光景にがく然とする。

 違う…ここは現実だ。
 戦ってた冒険者も三人がかりでボコボコにされてて、体を丸めて地面に伏してた。

 ヤダヤダっ!!こんなの、違うっ!!

 一緒に持ってた荷物の中からシリウスの衣装を出して急いで着替えた。
 
 惨事になってる現場に飛び込んで、まず襲われてる女の人から急いで助けた。

「へへっー柔らけえ…」
「おいっ、次は俺だぞ!」
「イヤァッ!やめてー!!」

 服を肌蹴はだけさせ、乳房を揉まれながらも必死に抵抗してた。
 見る間に怒りが沸き起こり、地面一蹴りして背後から回し蹴りを食らわせる。

「ぐぁっ!!」
「なんだ!おまっ!!」

 もう一人いた男も鳩尾を蹴って気絶させた。
 子供を押さえて頬を叩いてた山賊には、腕を掴んでそのまま思い切り地面に叩きつけた。

「ッんが!!」

 衝撃で陥没した地面の上でピクピクした後、泡を吹いて気を失ってた。

 村人と冒険者に暴行してる山賊達にダッシュで近づいて、反撃する間も与えず次々倒してく。
 
「フグッ!!」
「誰だっ!グェッ!!」

 全員倒した後、その場で立ってるのは私だけだった。

「た、助っただか…?」
「あ、おめぇさんは!」

 村人が私を見ると驚いた様子で指を差してる。
 そのまま木の上に飛び上がって、素早く姿を消してその場を去った。

「今のは…シリウスか…」
「うわ~ん…!!」
「ヒック、ヒック……」

 消えたふりしてさっきの茂みまで戻って、木の上で脱いだ服を急いで袋へとしまった。

 呆然としてる人たちに紛れて、私も袋を抱えながら恐る恐る茂みから出て行った。

 その場はひどい有り様で、めちゃくちゃになってた。

「誰か…助けてくれたんですか?」

 シリウスが消えた木の上を見てた村人たちに話しながら近づいた。

「え?あぁ~、今のはホレ、あの黒いやづだぁ」
「また…たすげられたべ…」

 山賊達は全員気絶してて、安全の為荷馬車に積んであったロープでぐるぐる巻きにした。

 幸い死者はいなくて、怪我人は出たけど大事には至らなかった。
 
「かぁちゃんっ!かぁちゃ~ん!!」
「うぅっ…大丈夫…大丈夫だよ…」

 襲われてた親子も泣きながら抱きしめあってる。
 服がボロボロになって上半身が肌蹴た母親と、子供の殴られた頬の痕が痛々しい。

 見てるのも苦しくて、持ってた上着を後ろから母親にかけた。
 ビクッとした後スゴい目で見られたけど…、服をかけたのに気付いたのか気まずそうにお礼を言ってくる。

「…ありがとね…」

 また襲われるかもしれないし、怖かったよね…。
 今の私は男だし、当然の反応だよ…。

 
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