上 下
50 / 392

後の祭り編 2

しおりを挟む
'

 そういえばと思い出して、布団から顔を出した。

「先生…私……魔法が…発現しました……」

 言って良いものかと悩んでたけど、エルナト先生にはちゃんと話したい。
 先生はあんなに私の為に良くしてくれた恩人だから…。

「魔法が…、発現?本当ですか!?…それで、どのような魔法でしたか!?」

 今までの冷静な態度とは一気に変わった。

 やっぱり気になるよね。
 先生はずっとずっと気にしてくれて、何とか私の魔法を引き出そうとしてくれてたから。

「それが……」
「はい!何でしょう!?」

 魔法馬鹿のエルナト先生は、興奮気味で前のめりになりながら待ってる。
 この人って、ホント魔法に対するの探究心半端ないね…。

「私の魔法は……、魔法の…無力化でした…」

「…?魔法の…無力化?」

「はい。放たれた魔法を、全て消してしまう魔法です」

「─!!」

 エルナト先生は口元を押さえたまま、固まってしまった。
 タウリも隣で一緒に聞いてて驚いてる。

「魔法を…全て消す…、魔法?初めて聞きますが、それは……魔法使いにとって、とても恐ろしい力です…」

 あのエルナト先生の驚愕の表情。

 たぶん今、頭をフル回転して必死にこの魔法について考えてるんだろうなぁ。

「……いやはや、本当ですな。ワシみたいな騎士や剣士にとって、魔法使いはかなり厄介な相手ですぞ。その相手から魔法を取り上げてしまえば…赤子も同然ですからな」

 意外と冷静に分析してたタウリの言葉に、私もベッドに横になりながら考えさせられた。

 確かに…。

 力の強いモンスターとかなら魔法が無くても力技でねじ伏せられるけど。
 ただの魔法使いなら、魔法に頼りきりでそれを奪われちゃえば後は簡単だよね…。
 鍛えてる魔法騎士とかじゃない限り、勝負はすぐに着ちゃうからね。

「ミラさん!」
「は、はいっ!?」
「まずは、おめでとうございます」
「はっ?あ…はい、ありがとうございます!」

 少し動かせるようになった体を起こして、さっきみたいにベッドへ座り直した。
 エルナト先生は自分を落ち着かせるように立ち上がって、ベッドの側にある窓から外を見てる。

「……やはり発現していたのですね。あなたの症状が魔力の枯渇状態によく似ていたので、もしや…とは思っておりました。しかし…、恐ろしくも素晴らしい力です」

 あっ、確かに!あのときは発現したばかりなのに、かなり魔法を連発してたと思う。
 そうしないと、どうしようもないくらい危機的状況だったから。
 
「本来なら今すぐ貴方の魔法を確認したいのですが…。今は、魔力が回復するまで待ちましょう。魔力枯渇は非常に危険です」
「…はい。すみません、先生」
「そうですぞ。無理はいけませんぞ!お嬢は自分を蔑ろにしすぎですぞ!今は何も考えず、休むことが優先ですぞ!!」

 ベッドの端に居たタウリも起き上がって、腰に手を当てて私を叱咤してる。
 タウリの言うことは正論だよね。さすがに人生経験豊富な冒険者だよ。
 
「うん。わかったよ、タウリ。とりあえず私の魔法の事はココだけの秘密にしてね」
「わかっておりますぞ。口が裂けてもいいませんぞ!」

 ドンッと胸に拳を当てニカッと笑うタウリに、私も自然と笑った。

「タウリ卿の言うとおりです。とにかく今は休みましょう。ストックしていたポーション類も使ってしまったようですから、貴女の持つ魔力回復力に頼るしかありません」

 私の回復薬が置いてあった棚を見てエルナト先生が話す。
 今回のスタンピードで回収してたポーション類は全部無くなった。

 またダンジョン巡りしないとなぁ…。
 でも今は全然行く気になれないや。

「先生…タウリ…。疲れたから少し休みます」

 言いながら、またもぞもぞベッドに潜り込んだ。
 さすがにまだダメだ。
 色んなことがありすぎてキャパオーバーになってる。

「わかりました。病み上がりなのに長くお暇してしまい申し訳ございませんでした…ゆっくりお休み下さい」
「そうですぞ!今はまだ休息が必要ですからなっ」
「えぇ、また明日…様子を見に参ります」
「すみません…ありがとうございます」

 ベッドから顔を出して帰ってく2人を見送った。
 パタン…と閉まる扉を見てから、静かになった部屋で横になりながら目を閉じた。 

 色んな事が、いっぺんに起こりすぎて……。
 頭がパンクしちゃいそう。
 今は何も考えず、とにかく魔力回復に努めよう。

 スッと目を閉じると体がより重く感じる。すぐに睡魔が訪れて、私は身体が求めるまま眠りについた。
 

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

転生先が羞恥心的な意味で地獄なんだけどっ!!

高福あさひ
恋愛
とある日、自分が乙女ゲームの世界に転生したことを知ってしまったユーフェミア。そこは前世でハマっていたとはいえ、実際に生きるのにはとんでもなく痛々しい設定がモリモリな世界で羞恥心的な意味で地獄だった!!そんな世界で羞恥心さえ我慢すればモブとして平穏無事に生活できると思っていたのだけれど…?※カクヨム様、ムーンライトノベルズ様でも公開しています。不定期更新です。タイトル回収はだいぶ後半になると思います。前半はただのシリアスです。

男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。

カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。 今年のメインイベントは受験、 あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。 だがそんな彼は飛行機が苦手だった。 電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?! あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな? 急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。 さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?! 変なレアスキルや神具、 八百万(やおよろず)の神の加護。 レアチート盛りだくさん?! 半ばあたりシリアス 後半ざまぁ。 訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前 お腹がすいた時に食べたい食べ物など 思いついた名前とかをもじり、 なんとか、名前決めてます。     *** お名前使用してもいいよ💕っていう 心優しい方、教えて下さい🥺 悪役には使わないようにします、たぶん。 ちょっとオネェだったり、 アレ…だったりする程度です😁 すでに、使用オッケーしてくださった心優しい 皆様ありがとうございます😘 読んでくださる方や応援してくださる全てに めっちゃ感謝を込めて💕 ありがとうございます💞

王太子の子を孕まされてました

杏仁豆腐
恋愛
遊び人の王太子に無理やり犯され『私の子を孕んでくれ』と言われ……。しかし王太子には既に婚約者が……侍女だった私がその後執拗な虐めを受けるので、仕返しをしたいと思っています。 ※不定期更新予定です。一話完結型です。苛め、暴力表現、性描写の表現がありますのでR指定しました。宜しくお願い致します。ノリノリの場合は大量更新したいなと思っております。

【完結】アラサー喪女が転生したら悪役令嬢だった件。断罪からはじまる悪役令嬢は、回避不能なヤンデレ様に溺愛を確約されても困ります!

美杉。節約令嬢、書籍化進行中
恋愛
『ルド様……あなたが愛した人は私ですか? それともこの体のアーシエなのですか?』  そんな風に簡単に聞くことが出来たら、どれだけ良かっただろう。  目が覚めた瞬間、私は今置かれた現状に絶望した。  なにせ牢屋に繋がれた金髪縦ロールの令嬢になっていたのだから。  元々は社畜で喪女。挙句にオタクで、恋をすることもないままの死亡エンドだったようで、この世界に転生をしてきてしあったらしい。  ただまったく転生前のこの令嬢の記憶がなく、ただ状況から断罪シーンと私は推測した。  いきなり生き返って死亡エンドはないでしょう。さすがにこれは神様恨みますとばかりに、私はその場で断罪を行おうとする王太子ルドと対峙する。  なんとしても回避したい。そう思い行動をした私は、なぜか回避するどころか王太子であるルドとのヤンデレルートに突入してしまう。  このままヤンデレルートでの死亡エンドなんて絶対に嫌だ。なんとしても、ヤンデレルートを溺愛ルートへ移行させようと模索する。  悪役令嬢は誰なのか。私は誰なのか。  ルドの溺愛が加速するごとに、彼の愛する人が本当は誰なのかと、だんだん苦しくなっていく――

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

【完結】名ばかりの妻を押しつけられた公女は、人生のやり直しを求めます。2度目は絶対に飼殺し妃ルートの回避に全力をつくします。

yukiwa (旧PN 雪花)
恋愛
*タイトル変更しました。(旧題 黄金竜の花嫁~飼殺し妃は遡る~) パウラ・ヘルムダールは、竜の血を継ぐ名門大公家の跡継ぎ公女。 この世を支配する黄金竜オーディに望まれて側室にされるが、その実態は正室の仕事を丸投げされてこなすだけの、名のみの妻だった。 しかもその名のみの妻、側室なのに選抜試験などと御大層なものがあって。生真面目パウラは手を抜くことを知らず、ついつい頑張ってなりたくもなかった側室に見事当選。 もう一人の側室候補エリーヌは、イケメン試験官と恋をしてさっさと選抜試験から引き揚げていた。 「やられた!」と後悔しても、後の祭り。仕方ないからパウラは丸投げされた仕事をこなし、こなして一生を終える。そしてご褒美にやり直しの転生を願った。 「二度と絶対、飼殺しの妃はごめんです」 そうして始まった2度目の人生、なんだか周りが騒がしい。 竜の血を継ぐ4人の青年(後に試験官になる)たちは、なぜだかみんなパウラに甘い。 後半、シリアス風味のハピエン。 3章からルート分岐します。 小説家になろう、カクヨムにも掲載しています。 表紙画像はwaifulabsで作成していただきました。 https://waifulabs.com/

幸せなのでお構いなく!

恋愛
侯爵令嬢ロリーナ=カラーには愛する婚約者グレン=シュタインがいる。だが、彼が愛しているのは天使と呼ばれる儚く美しい王女。 初対面の時からグレンに嫌われているロリーナは、このまま愛の無い結婚をして不幸な生活を送るよりも、最後に思い出を貰って婚約解消をすることにした。 ※なろうさんにも公開中

【完結】身を引いたつもりが逆効果でした

風見ゆうみ
恋愛
6年前に別れの言葉もなく、あたしの前から姿を消した彼と再会したのは、王子の婚約パレードの時だった。 一緒に遊んでいた頃には知らなかったけれど、彼は実は王子だったらしい。しかもあたしの親友と彼の弟も幼い頃に将来の約束をしていたようで・・・・・。 平民と王族ではつりあわない、そう思い、身を引こうとしたのだけど、なぜか逃してくれません! というか、婚約者にされそうです!

処理中です...