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後の祭り編 5
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「読み上げよ」
皇帝陛下の一言で周りがシーンと静まり返ってる。
「はっ、読み上げさせて頂きます!…金、名誉ともにいらない。全て被害にあった国民の救済に当てて欲しい。…この様に書かれております」
これを聞いたらやっぱりに怒るかな。
流石に首が飛ぶ事はないけど、お咎めくらいはあるかなって気持ちで書いた。
実際はもっと短い文書だけど、この従者が気を利かせて良いように読み直してくれたみたい。
またまた周りからどよめきが走る。
それを聞いた陛下は怒るどころか、なぜか笑いだした。
「フハッハッハ~!!目先の欲に囚われず、民衆の救済を選ぶとは天晴だ!!……気に入ったぞ。そなたの様な者こそ英雄に相応しい!」
え…?あれ??
おかしい…いらないから違うことに有効活用してくれって書いただけなのに……。
そして何故か周りから拍手が沸き起こってる。
「ではそなたの望み通り、報奨金は全て救済に回そう。護衛騎士の件はまたの機会を待つとしよう」
よくわからないけど、どうにかなったのかな?
爵位とかもいらなかったけど、それを取り消すのは無理みたい。
まあ護衛騎士とか褒美とか免除できたからいいか。
ようやくホッとして周りにも目を向けることができた。
そういえばこの場にレグルス様もいるはず。
キョロキョロすると玉座の脇の方に殿下がいた。
レグルス様~!!皇子姿も素敵過ぎる~!!もうこれだけで十分ご褒美だね!
レグルス様の皇子姿に感動していた私。
まさか国の英雄が、仮面の下でこんな不謹慎な事考えてるなんて誰も思わないだろうね。
──ハッッ!!!!
ここで私はあることに気付く。
高位貴族が今この場にいるってことは、もしかしてアルファルドもいるってこと!?
帝国の3大公爵の1人。
ドラコニス公爵家の現公爵アルファルド。
私が…私が、この世界で一番会いたかったアルファルド!!
速攻で大臣達と並ぶ公爵達を見る。ポルックス公爵殿下は怪我で来られないみたいで居なかった。
わわっ!アレだ!!いたよ!いたぁーー!!
一番隅の方にいるのがたぶんそうッ!
遠目で見えにくいけど、真っ黒な濡羽色の髪。前髪もかなり伸びてて瞳は全くわからない。
公爵家の家紋が縫われたマントもどこがヨレヨレで、彼自身もまともに食べていないのかかなり小柄で細身だった。
そういえばゲームでもそうだった。
顔色も悪いし、栄養状態も良くないのかな…。
しまったぁー!国民救済じゃなくて、ドラコニス公爵の借金に当ててくれって書くべきだった!!
請求し直そうとしたのに、すでに皇帝陛下は去った後で……。
ガッカリしてもう一度アルファルドの方を見るけど、アルファルドも退室していた。
ハァ……。
私も案内され、その場を後にした。
◇
部屋に戻って、最上階にある私の貴賓室から見える、祝賀会のパーティーを眺めてた。
パーティー会場は沢山の綺羅びやかな貴族で溢れかえってる。
明かりが煌煌と灯って、華やかなドレスのご令嬢や御婦人方が紳士達と楽しげにダンスを踊ってる。
エルナト先生やベカも踊ってるんだろうな。
あそこにアルファルドもいるかな…いや、たぶんアルファルドはもう帰ってるだろうな。
こういう賑やかな集まり嫌いだし。
役目を終えた後もシリウスの格好で眺めてた。
ふと庭園に目を移すと、授与式と同じ格好をしたアルファルドがいた。
庭園のベンチに座り、近くにある広々とした池を眺めている。
「─っ!!」
バンッ!と窓を開け、何も考えずそこから飛び降りた。
数十メートルはあるだろうけど関係ない。
ビューっと風を切る音が耳にうるさく響いてる。
私にはアルファルドしか見えてなくて、地面近くまで降りると風魔法を使い着地の襲撃を和らげた。
風が巻き起こりゆっくりと降下、着地する。
音で気づいたのか、アルファルドが口を開けたまま呆然と私を見てた。
あっ、アルファルドに会えた嬉しさで飛び出してきたけど、そういえば喋れないんだったぁ!
しかもこんな姿で…呪われた人間なんて嫌がられるかな…。
しばらくお互い無言のまま見つめ合ってた。
いや、アルファルドの目は前髪が邪魔で全然見えないけど。向こうも顔がこっち向いてるから見つめあってるよね?
この姿はゲームでも同じ。
ゲームではもっと髪も伸びてて、もう少し背も高かったと思う。
今の私くらいになるのかな?
あと一年半でゲームが開始される。
そしたらアルファルドは……。
今、私がアルファルドにしてあげられることは何もない。
悲しいけどまだ…励ましてあげることも、一緒にいてあげることも出来ない。
「あ……あの……ぼ、僕は、アルファルド・ロー・ドラコニスと申します……」
私が下を向いて感傷に浸ってると、アルファルドが話しかけてきた。
驚いてバッとアルファルドの方を見ると、驚いたみたいに体をビクつかせてた。
「っ!…あ…シリウス卿…この度の功績と…叙爵…おめでとう…ございます……」
恥ずかしそうに、指をモジモジしながら話しだしたアルファルド。
(──!!)
ア、ア、アルファルドが喋った!!
えっ?!あれ?アルファルドってこんなキャラだけ??
ゲームの中だとほとんど喋らなくて、テロップも「……。」ばっかで、いつも一人で裏庭で本読んでて…。
驚きを隠せなかったけど、かろうじて返事の代わりにコクリと頷いた。
シリウスだと受け答えがまるで出来ないから、アルファルドをガッカリさせないか心配だよ…。
あぁ…!!
こんな時喋れたら、アルファルドをめちゃくちゃ褒めてあげられるのにッ!!
こんな不気味な人間に話せてスゴイねとか、お祝いをちゃんと言えるなんて偉いっ!って言ってあげられるのに!!
それにこんな身形じゃなきゃ、近所のおばちゃんみたくよしよしってできるのにさっ!
男になってる私は、アルファルドよりも頭2つ分くらい高い。本当にアルファルドは小柄でかわいい。
近くまで寄るとありあまる感情を抑えきれず、抱きしめようとしたけど駄目だと思い、行き場のない広げた両手でアルファルドの肩を掴んだ。
「あ、…シリウス卿…?」
どうしてもこの健気でか弱い子を慰めてあげたくて。
えっ!?うわっ、ウソ…肩もすごく細い…。
ガリガリだよ……14歳なんてまだまだ成長期なのに。
そういえば借金だらけで、まともな食事出来てないんだった…。
心の中で思いながらアルファルドの様子を見る。
私に触られて嫌がるかなと思ったけど、なぜだか頬を赤く染めているのがわかった。
この世界は空気が汚れてないから、月明かりがとても明るくて表情もよく見える。
もしかして照れてるのかな?か、か、可愛いぃぃ~!!
落ち着け…落ち着くんだ、私!
「貴方を…尊敬…しています。先ほどの…陛下とのやり取りも…ご決断も…大変…素晴らしかったです」
うおぉぁーー!!アルファルドぉぉぉーー!!
心の中で絶叫と悶絶を繰り返す。
急いでアルファルドの肩から手を外して、大声を上げて走り出したい気持ちを血管切れそうなくらい拳をキツく握り締める事でどうにかやり過ごした。
もうダメ!!それ以上喋らないでぇ!!
あまりに興奮しすぎたせいか、ツゥーっと鼻血が出てきた。
くぅ~!こんな肝心な時にぃー!!
でも、情けない姿をアルファルドに見せる訳にいかず、仕方ないけど部屋へ戻ることにした。
懐から紙とペンを取り出し、サラサラと殴り書きする。
それをアルファルドに渡すと、背を向けて最速でダッシュし城の屋根を駆け上がりながら部屋まで戻った。
部屋まで戻ると急いで仮面を外し、置いてあった布巾を鼻にあてる。
ハァ…ハァ…と呼吸を整えて、近くにあったふっかふかの椅子にドカッと腰掛けた。
生のアルファルドは…殺人的にヤバかった……。
変態にも犯罪者にもなりたくないから、しばらく近づかない方がいいな。
次は容赦なく襲っちゃうかもしれない。
椅子の横の小さなテーブルにあった水差しを取って、コップになみなみ注いで一気に水を飲み干した。
身体が冷えたのか、ちょっとは気分が落ち着いた。
ハァ…あんなに純粋な子が、どうして酷い目に合わなきゃいけないんだろう。
興奮が治まると、今度はもやもやした気持ちが沸き起こる。
ゲームのストーリー的に仕方ないんだろうけど。
それだけの為に幼い頃からずっと苦しんで、最後は死ななきゃいけないだなんて…。
立ち上がって窓に近づく。
もう一度窓の外を見ると、庭園にアルファルドの姿は無かった。
「読み上げよ」
皇帝陛下の一言で周りがシーンと静まり返ってる。
「はっ、読み上げさせて頂きます!…金、名誉ともにいらない。全て被害にあった国民の救済に当てて欲しい。…この様に書かれております」
これを聞いたらやっぱりに怒るかな。
流石に首が飛ぶ事はないけど、お咎めくらいはあるかなって気持ちで書いた。
実際はもっと短い文書だけど、この従者が気を利かせて良いように読み直してくれたみたい。
またまた周りからどよめきが走る。
それを聞いた陛下は怒るどころか、なぜか笑いだした。
「フハッハッハ~!!目先の欲に囚われず、民衆の救済を選ぶとは天晴だ!!……気に入ったぞ。そなたの様な者こそ英雄に相応しい!」
え…?あれ??
おかしい…いらないから違うことに有効活用してくれって書いただけなのに……。
そして何故か周りから拍手が沸き起こってる。
「ではそなたの望み通り、報奨金は全て救済に回そう。護衛騎士の件はまたの機会を待つとしよう」
よくわからないけど、どうにかなったのかな?
爵位とかもいらなかったけど、それを取り消すのは無理みたい。
まあ護衛騎士とか褒美とか免除できたからいいか。
ようやくホッとして周りにも目を向けることができた。
そういえばこの場にレグルス様もいるはず。
キョロキョロすると玉座の脇の方に殿下がいた。
レグルス様~!!皇子姿も素敵過ぎる~!!もうこれだけで十分ご褒美だね!
レグルス様の皇子姿に感動していた私。
まさか国の英雄が、仮面の下でこんな不謹慎な事考えてるなんて誰も思わないだろうね。
──ハッッ!!!!
ここで私はあることに気付く。
高位貴族が今この場にいるってことは、もしかしてアルファルドもいるってこと!?
帝国の3大公爵の1人。
ドラコニス公爵家の現公爵アルファルド。
私が…私が、この世界で一番会いたかったアルファルド!!
速攻で大臣達と並ぶ公爵達を見る。ポルックス公爵殿下は怪我で来られないみたいで居なかった。
わわっ!アレだ!!いたよ!いたぁーー!!
一番隅の方にいるのがたぶんそうッ!
遠目で見えにくいけど、真っ黒な濡羽色の髪。前髪もかなり伸びてて瞳は全くわからない。
公爵家の家紋が縫われたマントもどこがヨレヨレで、彼自身もまともに食べていないのかかなり小柄で細身だった。
そういえばゲームでもそうだった。
顔色も悪いし、栄養状態も良くないのかな…。
しまったぁー!国民救済じゃなくて、ドラコニス公爵の借金に当ててくれって書くべきだった!!
請求し直そうとしたのに、すでに皇帝陛下は去った後で……。
ガッカリしてもう一度アルファルドの方を見るけど、アルファルドも退室していた。
ハァ……。
私も案内され、その場を後にした。
◇
部屋に戻って、最上階にある私の貴賓室から見える、祝賀会のパーティーを眺めてた。
パーティー会場は沢山の綺羅びやかな貴族で溢れかえってる。
明かりが煌煌と灯って、華やかなドレスのご令嬢や御婦人方が紳士達と楽しげにダンスを踊ってる。
エルナト先生やベカも踊ってるんだろうな。
あそこにアルファルドもいるかな…いや、たぶんアルファルドはもう帰ってるだろうな。
こういう賑やかな集まり嫌いだし。
役目を終えた後もシリウスの格好で眺めてた。
ふと庭園に目を移すと、授与式と同じ格好をしたアルファルドがいた。
庭園のベンチに座り、近くにある広々とした池を眺めている。
「─っ!!」
バンッ!と窓を開け、何も考えずそこから飛び降りた。
数十メートルはあるだろうけど関係ない。
ビューっと風を切る音が耳にうるさく響いてる。
私にはアルファルドしか見えてなくて、地面近くまで降りると風魔法を使い着地の襲撃を和らげた。
風が巻き起こりゆっくりと降下、着地する。
音で気づいたのか、アルファルドが口を開けたまま呆然と私を見てた。
あっ、アルファルドに会えた嬉しさで飛び出してきたけど、そういえば喋れないんだったぁ!
しかもこんな姿で…呪われた人間なんて嫌がられるかな…。
しばらくお互い無言のまま見つめ合ってた。
いや、アルファルドの目は前髪が邪魔で全然見えないけど。向こうも顔がこっち向いてるから見つめあってるよね?
この姿はゲームでも同じ。
ゲームではもっと髪も伸びてて、もう少し背も高かったと思う。
今の私くらいになるのかな?
あと一年半でゲームが開始される。
そしたらアルファルドは……。
今、私がアルファルドにしてあげられることは何もない。
悲しいけどまだ…励ましてあげることも、一緒にいてあげることも出来ない。
「あ……あの……ぼ、僕は、アルファルド・ロー・ドラコニスと申します……」
私が下を向いて感傷に浸ってると、アルファルドが話しかけてきた。
驚いてバッとアルファルドの方を見ると、驚いたみたいに体をビクつかせてた。
「っ!…あ…シリウス卿…この度の功績と…叙爵…おめでとう…ございます……」
恥ずかしそうに、指をモジモジしながら話しだしたアルファルド。
(──!!)
ア、ア、アルファルドが喋った!!
えっ?!あれ?アルファルドってこんなキャラだけ??
ゲームの中だとほとんど喋らなくて、テロップも「……。」ばっかで、いつも一人で裏庭で本読んでて…。
驚きを隠せなかったけど、かろうじて返事の代わりにコクリと頷いた。
シリウスだと受け答えがまるで出来ないから、アルファルドをガッカリさせないか心配だよ…。
あぁ…!!
こんな時喋れたら、アルファルドをめちゃくちゃ褒めてあげられるのにッ!!
こんな不気味な人間に話せてスゴイねとか、お祝いをちゃんと言えるなんて偉いっ!って言ってあげられるのに!!
それにこんな身形じゃなきゃ、近所のおばちゃんみたくよしよしってできるのにさっ!
男になってる私は、アルファルドよりも頭2つ分くらい高い。本当にアルファルドは小柄でかわいい。
近くまで寄るとありあまる感情を抑えきれず、抱きしめようとしたけど駄目だと思い、行き場のない広げた両手でアルファルドの肩を掴んだ。
「あ、…シリウス卿…?」
どうしてもこの健気でか弱い子を慰めてあげたくて。
えっ!?うわっ、ウソ…肩もすごく細い…。
ガリガリだよ……14歳なんてまだまだ成長期なのに。
そういえば借金だらけで、まともな食事出来てないんだった…。
心の中で思いながらアルファルドの様子を見る。
私に触られて嫌がるかなと思ったけど、なぜだか頬を赤く染めているのがわかった。
この世界は空気が汚れてないから、月明かりがとても明るくて表情もよく見える。
もしかして照れてるのかな?か、か、可愛いぃぃ~!!
落ち着け…落ち着くんだ、私!
「貴方を…尊敬…しています。先ほどの…陛下とのやり取りも…ご決断も…大変…素晴らしかったです」
うおぉぁーー!!アルファルドぉぉぉーー!!
心の中で絶叫と悶絶を繰り返す。
急いでアルファルドの肩から手を外して、大声を上げて走り出したい気持ちを血管切れそうなくらい拳をキツく握り締める事でどうにかやり過ごした。
もうダメ!!それ以上喋らないでぇ!!
あまりに興奮しすぎたせいか、ツゥーっと鼻血が出てきた。
くぅ~!こんな肝心な時にぃー!!
でも、情けない姿をアルファルドに見せる訳にいかず、仕方ないけど部屋へ戻ることにした。
懐から紙とペンを取り出し、サラサラと殴り書きする。
それをアルファルドに渡すと、背を向けて最速でダッシュし城の屋根を駆け上がりながら部屋まで戻った。
部屋まで戻ると急いで仮面を外し、置いてあった布巾を鼻にあてる。
ハァ…ハァ…と呼吸を整えて、近くにあったふっかふかの椅子にドカッと腰掛けた。
生のアルファルドは…殺人的にヤバかった……。
変態にも犯罪者にもなりたくないから、しばらく近づかない方がいいな。
次は容赦なく襲っちゃうかもしれない。
椅子の横の小さなテーブルにあった水差しを取って、コップになみなみ注いで一気に水を飲み干した。
身体が冷えたのか、ちょっとは気分が落ち着いた。
ハァ…あんなに純粋な子が、どうして酷い目に合わなきゃいけないんだろう。
興奮が治まると、今度はもやもやした気持ちが沸き起こる。
ゲームのストーリー的に仕方ないんだろうけど。
それだけの為に幼い頃からずっと苦しんで、最後は死ななきゃいけないだなんて…。
立ち上がって窓に近づく。
もう一度窓の外を見ると、庭園にアルファルドの姿は無かった。
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