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後の祭り編 3

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 それからまた一週間経って、私は何故かエルナト先生、ギルマスのタラゼドと一緒に帝都へ来ていた。

 もちろんシリウスとして…。


 行方不明になろうと夜逃げを目論んでたのに、先読みしてたみたいにエルナト先生とタウリに捕まってしまった。
 あの場でシリウスを連れて行ったのがエルナト先生だとバレてるから、先生はシリウスの容態が思わしくないからって先延ばしにしててくれたみたい。

 タウリはタウリでタラゼドから散々シリウスを連れてこいって急かされてたみたいで…。  

 何だかんだ2人とも私を気遣って休ませてくれた。
 ついでに逃亡したかったけど、さすがにそこまで寛容じゃなかった。
 ま、当たり前なんだけど…。

 とりあえずエルナト先生には私の説明をお願いした。
 帝都の人達は噂でしか私を知らないし、話せないことや呪いの事も説明しなきゃいけないからさ。
 わざわざ紙に書いて色々説明してられないだろうし、何か聞かれても答えられないからね。
 
 エルナト先生もタラゼドも、今回のスタンピードでの功績を讃えられるみたいでちょっとホッとする。
 ベガもいるみたいだけど、私達と一緒に来なかった。

 馬車の中でエルナト先生から色々な説明を受ける。
 皇帝陛下の前に出て爵位やら何やらを賜るなんて大丈夫かな?
 てかさ、私はあの皇帝好きじゃないんだよね…。
 私がシリウスで良かったよ。
 じゃなきゃ嫌さが顔に出てただろうし、仮面がなかったら緊張でおかしくなりそう。

 真向かいに座ってるタラゼドも何故かガチガチに緊張してた。
 その辺りがちょっとタウリと似てて笑っちゃう。
 平気な顔して澄ましてるかと思ったけど、意外や意外。
 
「ようやく帝都に入りました」

 エルナト先生が教えてくれる。

 窓にかかるカーテンを開けて、外を見ると物凄い人が道に立ち、私達を一目見ようと並んでた。
 様々な歓声が聞こえて、驚いてカーテンを閉めた。

「凱旋式ですからね。国の英雄を讃えるため…あとはどんな人物か皆さん興味がありますから」
 
 面白そうに話しているエルナト先生。
 先生もカーテンを開けると笑顔で手を振ってる。
 それだけでキャー!とかワー!とかスゴイ歓声が響いた。

 さ、さすがだよ先生…余裕の対応。
 それが様になるからなおスゴイ。
 
「ポルックス公爵領やムーリフではともかく、他の帝都民は噂でしかシリウスを知りません。噂が噂を呼び…物見遊山の輩が溢れかえっているようですね…」

 ま、そうだよね。
 黒い死神とか呪われた冒険者なんて不吉な二つ名がついてた私が、急に帝国の英雄になんてなったんだから、そりゃ噂にもなるよ。

「疑問なんだが、エルナト卿はなんでシリウスと知り合いなんだ?共通点が全くわからんのだが」

 ガチガチに緊張してたタラゼドが急に話しかけてきた。
 少しは緊張が治まったのか、ただの好奇心かわからないけど。

 そりゃあそうですよねー…。
 私も疑問だよ。
 呪われた冒険者と希少な魔法使いで辺境伯家のご子息。
 どう考えたって共通点なんて何もないもんね。

「シリウスとはタウリ卿を介して知り合いました。シリウスも風属性の魔法使いです。私が魔法を教えてあげた次第です」

 エルナト先生は当たり前みたいに事も無げに説明して、私の方を向いてる。

 私も思わずコクリと頷いた。

「タウリのやつか…そういえばシリウスとタウリは一緒に行動してたなぁ」
「えぇ、タウリ卿が森で彷徨っていたシリウスに、冒険者としてノウハウを教えていたみたいですね。卿は面倒見が良いですから」
「ま、タウリは昔からおせっかいで、いけすかねぇ奴だったからな…」

 タラゼドもタウリの名前が出ると表情が和らいでる。

 先生スゴイよ!なんか辻褄が合ってるし、嘘っぽくないのがまた凄い。
 仮面越しに尊敬の眼差しで先生を見てると、急に馬車が止まった。
 
「さて、着きましたね」

 その言葉を聞いてタラゼドがまたガチガチになってる。
 私も緊張してきた。
 うぅ…こういうの苦手だ…。
 
 馬車を降りると溢れんばかりの歓声と人集り。
 騎士が等間隔で剣を両手で抱えて、ずらりと並んでてニ列になりながら花道を作ってる。

 頭上からは花びらが舞い落ちてめちゃくちゃ歓迎ムード満載。

 先生の後に続いて、目の前に立ちそびえる山のような宮殿に足を進める。
 綺羅びやかな白亜の建物の周りに花々が咲き乱れて、田舎しか見てない私にはあまりにゴージャスで気後れしてる。

 お城の中へと案内されて、各自部屋に通されると専用の着替えが用意されてた。
 私についてた侍従に紙で説明すると、やはり怖いのか怯えた様子で説明してくれた。

「シリウス様に至っては上に羽織る衣装をご用意致しました。その御召し物の上から被って頂いて構いません」

 ビクビクしながら言われた通り着てみる。
 普通ならこの侍従が手伝うところだけど、呪いの説明は受けてるようで近くで見守ってくれてる。

 さすが帝国で支給される服は格が違うなぁ。
 色んな飾りが着いてて、呪われた姿なのにそれなりに見えてる!
 
 シリウスの装束もこの前の戦闘でボロボロになったから新たに新調した。
 見た感じだとそこまで変わらないけど、他のダンジョンで発掘した対魔法対衝撃効果のある服を黒く染めて着てる。

 ついでに闇市で購入したダークアイテムの【愚者の輪】とっていうアイテムを付けた。

 コレは性別を反転する呪いのアイテム。
 だから今の私は本当に呪われてるし、女じゃなくて本物の男になってるんだ!

 姿見の前に立って、きちんと着れているか確認した。
 少しの仕草にも女っぽさが出ないようにしないとね。
 意外と気づかない所で無意識にやってる部分が多いから、男らしい身振りでいかないと不審に思われちゃうからさ。
 
「他の方々の御用意が整い次第お呼びさせて頂きます。何か御座いましたらそちらのベルにてお呼び下さい」
 
 丁寧にお辞儀して侍従は出ていった。

 ふぅ~…ようやく1人になれた。
 
 ずっと使うか使うまいか迷ってたアイテムだけど、私の魔法が無力化するものだってわかってから迷いが消えたんだ。

 この【愚者の輪】は性別反転の呪いアイテム。
 相手の魔力を少しずつ吸収して、魔力が枯渇するまで外れない。
 回復アイテムが少ないこの世界では生死に関わるくらい危険なものなんだよ。
 だからわざわざ購入する客が現れなかった。
 これもゲームにあった装備品の一つ。
 なんだこれってその時は思ってたけど、こんなふうに役に立つなんて考えもしなかったよ。
 

 試しに近くにいた動物で試したら見事輪が外れた。その後にすぐ自分で試した。

 何の苦痛もなく男の姿に変身出来て本当ビックリ。
 身体が変化するときに何かしらの衝撃があるのかと構えてたけど、何事もなく男になることが出来た。

 男になった私は、身長も15センチくらい伸びて肩幅も広くなって声も低く変わった。
 ミザルが成長したらきっとこんなふうになるんだろうな~、って感じ。

 でも一番衝撃だったのは…その…男性の、アレがついてたこと。
 いや…当たり前なんだけど、胸もペタンコになって股の間にアレがあるのを見て私は相当驚いた…。
 想像力に乏しい私には考えが及ばなかったね。

 それから慣れるために腕に輪っかを付けて、男として生活してた。(この【愚者の輪】は嵌めると周りからは見えなくなる)

 ちょっと色々と慣れるまで大変だったけど、何やかんやで男の自分に慣れ始めてきたとこ。
 でも、このアイテムのおかげでシリウスとしてかなり活動しやすくなった。
 シークレットブーツも肩パッドもいらないし。
 だからダボダボにして体型を誤魔化してた装束も、今は体に合わせて動きやすい物に変えたんだ。

 これで正真正銘私は、呪われた男の冒険者になったってわけ!


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