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冒険者編 3

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 エルトナ先生から許可が下りて、ひとまず安心した。断られるかと思ったし。

「あ、タウリ。頼んだものは持ってきてくれた?」
「もちろんですぞ。ほれ、この通り」

 振り返って背中に担いたバトルアックスを見せてくれる。
 
「ありがとうタウリ!今日はそれがないとダメなんだよ」
「…バトルアックスなんぞ、普通の戦闘では屈強な戦士くらいしか使わんのですぞ…」
「うんうん、細かいことは気にしない」

 訝しげなタウリは黙らせて、とりあえず二人には先に出てもらった。
 シリウスへと姿を変えて準備を終えた私は外へと向かう。
 待ち合わせていた町の外では、もうタウリとエルナト先生が荷物を背負って待ってた。
 
 これまでだったらタウリは馬車の横を馬に乗って護衛してくれてたけど、今のタウリはもう私の護衛騎士じゃないし。
 
 私がいなくなって、ドルアーガ子爵家も色々とあったみたい。
 私が家を出た後だからタウリに聞いた話しだけど。
 ララはもの凄く泣いてたって…私を探しに行くって飛び出していって大変だったって…。
 私が居なくなって、当たり前なのに…いきなり失踪したって聞いたら皆が悲しむってわかってたことなのに。
 私の想像力が足りてなかったのか……想像以上に、実際はすごく騒然としてたみたい。

 私の身勝手で、自分の目的のために大切な人達を悲しませるのは本当にツラいけど、こうしないと後になってからみんなを巻き込んでしまうかもしれないから…。
 
 だから今は耐えるしかないんだ。
 



 ちょうど良く訪れた町外れへ行く荷馬車の後ろに乗せてもらった。

「よろしく頼むぞ」
「へえ…。そ、そちらの黒い人は……」

 御者はボソボソ言ってたけど、無視して荷台に乗り込んだ。
 大体の人は私のこの黒い装束姿と仮面に恐れ慄く。
 わざとそうしてるから仕方ないんだけど、まぁいい気分じゃないよね。

 荷馬車は狭いものじゃなくて、荷物を乗せる分広く作られてて、私達三人が乗っても余裕があった。
 私は横に置いてあった木桶に寄りかかってる。
 その対面には厳つい顔で外を気にしているタウリと、かなり揺れているのに持参した本を悠々と読んでいるエルナト先生がいる。
 あっちは大人の男二人だとちょっと狭そう。 

 私ももう14歳。
 あと一年で成人だから、隣に座る男性は誰でもいいわけじゃない。
 この姿なら関係ないのに、この二人は私のことを知ってるからわざわざ離れて座ってくれてる。
 面倒なことに貴族のしきたりみたいなのがあるから、窮屈でも二人で座ってもらうしかないからね。

 オーリオーニスはうちから馬車で3日くらいかかるけど、そんなに優雅な旅はしてられない。
 私の予定だと数時間で終わらせて帰る予定。

 一時間程の走るとまず小さな村が見えてくる。
 いつもならこんな所は寄らないけど、御者には多めにお金を渡してこの町でしばらく待ってもらう。帰りも乗せてもらう予定だからね。
 馬車を降りると、辺りを見渡す。
 町は小さいけど酒場もあるし、それなりに店も立ち並んでる。
 先に降りた二人も荷物を背負い直してる。
 私はそのまま御者に小さな巾着を握らせた。御者は私から手渡されてビクビクしてたが、それでも震えながら受け取ったね。
 御者は中身を確認するとお金に目を輝かせながら、一気に態度をコロッと変えてる。

「良い旅を。この先は魔物が出てくるからお気をつけて」
「帰りも頼むぞ」
「へいっ、お任せを」

 タウリの言葉にすぐさま返事を返した御者。ゲンキンなやつだな。
 町の外れまで進みその先は森へと続く道があるだけ。
 周りに誰もいないことを確認する。
 木の陰に移動し目を閉じて気配を探るが、特に感じるものはないね。
 
 
「お嬢…またあの方法で行くんですかな?」

 二人の前に出るとコクリと頷いた。
 あの方法とは以前ダンジョンで手に入れた【疾風の腕輪】を使う移動法。
 
 【疾風の腕輪】は補助的な風魔法が使えるロストアイテムのこと。
 ちなみに魔力さえあれば使うことができるけど、攻撃魔法や防御魔法は使えない。複数の属性がなかなか発現しないこの世界ではまさに国宝級のレアアイテムなんだよ。
 これと同じで火、水、土属性の各腕輪シリーズが存在する。
 これらも各属性の補助魔法を出すことができるんだ。単純に4つ集めたら四大元素全て使えることになるよね。すごいわ~。ただ魔力消費もすごいから普通はそんなに付けないけどね。
 売ったら相当な価値のある代物だよ。
 
 紙を取り出して、シリウスと呼べって書くとタウリがウッ…と黙り込んでガクリと肩を落とした。

 ちなみにこの紙とペンは私が開発したもので、アルファ商会で売ってる。
 初めてシリウスになった時、インクと筆ペンを持ち運ぶのがものすっごく不便だった。
 だからインク内臓の筆ペンを考えた。

 鉛筆も思い浮かべたけど、材料を見つけることが難しく加工も今の技術だと無理だったから諦めた。
 初めてギルドの受付嬢に見せたとき、自分の容姿よりこっちに食いつかれてビックリしたのを今でもよく覚えてるよ。

 自分の為に考案して作ったものだったけど、これは金になると急いで商品化したら案の定大ヒット。
 ケイドから恐ろしい数の受注が入ったと手紙で報告を受け、慌てて生産する工場を増やしてもらったくらいだもん。
 この時点で私の総資産は、小さな国の国家予算を遥かに上回るくらいまで膨らんでしまった。
 
「タウリ卿、諦めましょう…少し目を瞑っていればすぐに終わりますよ」

 肩を落としたタウリを慰めるように、エルナト先生が背中をポンと叩いて元気づけてる。
 エルナト先生からこのセリフを引き出すまでに、かなり苦労したよ。
 シリウスになると私はもう喋らなくなるからさ。

 両手を二人の前に広げ、片手ずつ手を取りもう片手は私の肩をガッチリ掴んでる。
 こうしていないと振り落とされるから。
 二人がちゃんと捕まっているのを確認すると、足元に力を入れる。
 私の場合、言葉にしなくても思うだけで身体強化が全身に掛けることができるんだ。
 能力スキルは存在しないはずなんだけど、試しにやってみたら何故かできてしまった。

「お手柔らかに頼みますぞ…」

 ボソッっと呟いたタウリの言葉をかき消すように風魔法も使って、自分の足に身体強化を集中させて一気に跳躍し空へと舞い上がった。

「ぐぅうぬ…!」
 
 目を閉じて唸っているタウリと違って、エルナト先生は元々風魔法が使えるし、初めは驚いていたけど私の斬新な魔法の使い方にひたすら関心していた。
 
「このまま真っ直ぐ東方向へ飛んで下さい!」

 私が渡した地図を把握してるから、空から道案内をしてくれてる。
 上空は風の強さと速さが地上とまるで違うから、エルトナ先生も声を張り上げて話してる。
 一度の跳躍で数km移動できるし、追い風に当たれば少しの間だけまるで空を飛んでいるみたいな感覚になるんだ。エルナト先生も途中て風魔法使って手助けしてくれるからすごく助かる。

 高い木の上の枝を更に蹴りながら飛距離をドンドン伸ばしてく。
 
「まだ…まだですかな?!お嬢ぉ~!!」
「もう少しの我慢ですよ、タウリ卿」

 絶叫系のマシーンは絶対乗れないであろうタウリを、反対隣にいるエルナト先生は励ましてる。

 先生ってさ、何故かタウリには優しいんだよねー。

 何度か跳躍を繰り返して、森の景色は一変して岩肌が目立つ岩壁の山々が見え始めた。そして初めの町からものの数十分で目的地に着いた。
 ようやく地に足ついたタウリは地面に座り込んでる。顔色も悪くて、口元を押さえて何度も深呼吸をしている。

 地面もやはり固く岩肌剥き出しの平らな景色が続いている。
 切り立った標高の高い断崖絶壁まで登ったから、これなら周りの景色がよく見えるよ。

「恐らくですが、あの辺りではないのでしょうか?あなたが探している隠しダンジョンというのは…」
 
 同じく辺りを確認していたエルナト先生はある場所を指差した。
 



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